MY PARK STORY | 100人の公園論:アンダーグラウンドの存在。かっこいい大人と出会える場としての公園 -Episode3 本間貴裕氏(SANU Founder/Brand Director)
魅力的な生き方をしている人は、"自分にとっての公園(MY PARK)"と呼べるような居場所を持っているのではないか?という仮説のもと、人生と公園の関係性を、多種多様な100人との対談を通して深掘りするMY PARK STORY。
今回は、⼈と⾃然の共⽣をテーマにしたライフスタイルブランド「SANU」のFounder / Brand Directorの本間貴裕さんのMY PARKに迫ります。
想いを持って事業に取り組む起業家であり、サーフィンとスノーボードをライフワークに都内も自転車で移動するアクティブなアウトドアパーソンである37歳が感じている今の空気感やこの先の未来。自分自身が全力で体験し、感じたことをビジネスに込めていくそのスタイルの原点とは?
日本橋兜町にあるK5のスイートルームをお借りして、話を聞いた。
※音声版はこちらからお聴きいただけます。
20代での起業から30代へ。新たな起業にかける想い
渡辺:今日はよろしくお願いします。
最初にこれまでの人生を少し教えてもらえますか?
本間:小学校から大学までテニスをやっていたのですが、どこにでもいるような普通の子でした。高校の教師になってテニス部の顧問になればずっとテニスをやっていられると思って、大学は教育学部に行きました。父は税理士事務所で働き、母は当時は介護ヘルパーをやっていて、いわゆる一般的な家庭で育ちました。
二十歳の時に、司馬遼太郎の「龍馬がゆく」という本に出会って夢中で読み耽りました。フィクションではあるんですが、「自由」を求めて歴史をこれだけ動かした日本人が実在したのを知った時に、「あれ、自分は一体なにやってるんだろう?」と思ってしまった。それをきっかけに福島を離れてオーストラリアに行きました。
1年間休学をしてバックパッカーとして色々なところに行き、様々な人に出会えた。帰国してあの旅の空気感を伝えたいなと思ったのだけど、当時日本にゲストハウスとかホステルってまだあまりなかったので、じゃあ自分でやろうと。
大学を卒業して、1年間、個人事業で鯛焼き屋をやって1,000万円貯めました。そのお金を使って世界や日本を回ってどんなゲストハウスが永く運営していけるかを仲間4人と市場調査してゲストハウスを立ち上げたのですが、その後すぐに東北の震災があり、NPO法人を立ち上げて3月17日から6月中旬まで石巻にキャンプを張って活動していました。震災が落ち着いてきて外国人も戻ってきたので次のNuiを作り、そこから約2年おきに増やして、10年目にK5をプロデュースして、ホテルを作って運営することから次に進もうと思って、Backpackers’ Japanの代表を辞めて今のSANUを起こした...というのがザッと本間貴裕の人生パッケージです。
本間:SANUは、Live with nature.をコンセプトに、人が自然ともっとうまく暮らすライフスタイルを提案したいと思っています。昔は、人も里山に入って食糧を得るけどその分メンテナンスして返すような暮らしができていたけれど、今の資本主義の中でそれができなくなってきてしまった。事業を通して情報としてではなく、体験として提供したいと思って、首都圏から2時間前後で行ける美しい自然の中にオリジナルのキャビンを置いて、月額5.5万円から使うことができるセカンドホーム事業を運営しています。
渡辺:最初のBackpacker's Japanは3.11の震災、今回のSANUはコロナ(COVID-19)と、偶然ではあるけれど人々の意識が変わるタイミングで事業をスタートしているんですね。セカンドハウス事業に限らず自然回帰の流れがありますが、僕がSANUをいいなと思うのは、都会も否定していないところ。両方の良いところ取りでもなく、それぞれの良さを理解したそのバランス感覚が本当の意味でナチュラルだなという気がします。
本間:双方向性だと思うんですよね。東京をアップデートすることも、セカンドハウスをアップデートすることもできるので、いわゆる緑化だけでなく、どちらも進めていったら良いと思ってます。究極的には、東京の街路樹をきれいに感じるかどうか、風が吹いた時に気持ちいいと感じるかどうか、と、その人自身がどう感じるかなんですよね。事業でそこにアプローチするのは大変なので、この先、50歳か60歳ぐらいになったら学校をやってそういったことも伝えられたらと思っています。
三谷:「感じ方を学ぶ」という機会は大人になるとなかなかないですよね。
本間:これからの時代はそれしかないと思います。フィジカルにやらないといけないことはロボットが、作業的にやらないといけないことはAIがやるようになるので、人間は「感じる」ことが役割になる。社会の歯車として作業をする時代から、感じてこれがいいと発信する、いわゆるアーティストと呼ばれる人の数が爆発的に増えると思っています。
「人と人のつながり」と「自然」、 この2つ軸はきっとこれからも変わらない。
三谷:これまでの事業に共通している想いはありますか?
本間:一つは、人と人のつながりです。Backpacker's Japanは「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を。」という理念でやっていて、オーストラリアの時に体験した人種、年齢、職業、性別、所得、思想、そんなものが吹き飛ぶぐらいダイバーシティがある空間って、それだけで正義だと思ったんです。空が美しいとか海がきれいというのと同じで、ダイバーシティがある状態自体が正義だなと。なぜなら、それを見て人は感動するから。みんながワイワイと仲良くしている風景ってそれだけで人が感動するから、それは正解なんだと思ったんです。今でもそれは信じているので、つながるはずではなかったものがつながる瞬間は追い続けたいと思っています。
もう一つは、自然です。NuiやこのK5もデザインは全部自然に紐づいていて、K5は「Returning to nature(自然に帰る)」がデザインコンセプトなんですが、東京証券取引所のすぐ裏の元銀行のビルで、この先何十年ここにあり続けた時に、東京の経済やテクノロジーの発展よりも、東京が緑に帰っていく景色を見たいと思って、それの起点になる場所にしたいなと。このカーテンは海や空をイメージしていて、窓を開けたときの風のそよぎや朝の光を感じれるようにしたり、メンテナンスが大変でも生きた植物をたくさん入れました。理想としては植物の根がはみ出して、建物が全部覆われ、このビルが朽ち果てていく...。もちろんそうはならないけれど、デザインを通して自然の力を感じるのにはどうしたら良いかを実験しています。
渡辺:ジブリの「天空の城ラピュタ」みたいですね。
本間:そうですね。Nuiも人と人がつながるってどういう場所かと考えた時に、名刺交換から始まる会議室ではなく、湖畔でバーベキューしながらビールを持っていたら、第一声は挨拶と自分の名前になるはずだと。人と人が会話するのは自然の中で、会議室は役割と役割の会話だと思ったので、自然の中で飲んでるような雰囲気のBarを作りました。
「人と人のつながり」と「自然」、この二つの軸はきっとこれからも変わらないと思います。この二つをすごく大きな課題解決として捉えると、ダイバーシティは戦争に、自然は地球環境問題につながるので、我々世代が抱えている一番大きな問題であり、一番美しい解決でもある。この皮肉的で、かつロマンもあるこの2つに自分はアクセスしていきたいと思ってます。
体ごと突っ込まないと仕事ができない人間。だから食らった時の回復方法も持っておく。
渡辺:境界線って明るい部分もあるし、逆の暗い側面もあるからこそ多様性が生まれると思っています。まちの境界線にある公園も明るいハッピーな場所というイメージがあるけれど、同時に本来は未知や怪しさやちょっとした危険も必要だと思っていて、キレイすぎる整地された公園が本当に人と人のつながりになっているかというと、そうではないなと。
本間:たしかにそうですね。
渡辺:それって人にも通じるなと思っていて、人も明るさと暗さどちらも持っていて良いと思うのですが、本間さんは、最近よく話す明るい前向きな話と、最近は口に出さなくなった話題ってありますか?
本間:それを聞いて思うのは、事業を大きくするとか、社会に対して何か発信するとか、人の役立つってすごく光的な行為だけど、それが膨らめば膨らむほど自分の中にそれを受け止める影の部分が必要だなと思っています。影って暗いという意味ではなく穏やかという意味でもあって、自分の中でそれは海なんじゃないかと。俺が海に持つイメージって「赦し(ゆるし)」なんです。時に激しく時に穏やかに自分を包んでくれる場所で、社会で活躍する自分がA面だとすると、海にはB面の自分がいるような。
渡辺:その赦しは、普段のプレッシャーから解放されるためか、落ち込んだ気持ちがあって行くのか、どういう感覚ですか?
本間:ただのリラックスというだけでなく、普段のONの状態の自分を、役割から解放するような感じですかね。
三谷:本来の自分に帰るような感覚ですか?
本間:そうですね。仕事をしている時も本来の自分ですが、SANUはBackpacker's Japanの時よりも規模も大きくしようとしているし、自分たちで発信力も持とうと思っているので、そのエネルギーを自分でちゃんとコントロールしないとと思っています。そのONとOFFのバランスが崩れると自分にすごく負荷がかかると思っていて。背負うものが大きくなるほど自分の中でちゃんと循環させてあげる必要があって、最近の課題ですね。まだうまくできていると思っていなくて、もっと穏やかな状態でいられる気がしています。
渡辺:同じコワーキングスペースを借りているので、遠目にONの時の本間貴裕を見かけるのですが、いつもメチャクチャ集中してるなと感じます。深いところまで入り込んで、仕事に感情を揺さぶられているようにも見える。これだけ仕事をONの状態でやる人なので、バランスを取ろうとしているのは自分をよくわかっているんだろうなという気がしました。
本間:よくも悪くも、体から突っ込まないと仕事ができない人間なんです。作業的に仕事ができない人間。だから役割として、体ごと突っ込んでいって、感じて、良いか悪いかをその場で判断するとか、良いと思ったものを表現していくことだと思ってます。大袈裟にいうと、勝負している感じがある。それが自分の強みで、デザインがすごくできるわけでも、計算ができるわけでも、経営的な思考がすごく優れているわけでもなくて、チャンスだなとかこのタイミングだなというのを距離を縮めて見るのが得意なんです。だからゲストハウス作るってなったらまずは150ヶ所行ってみようってなるし、SANUやるんだったら自分が山も海も突っ込みまくってその良さを噛み砕いてコンセプトに落としてブランドとして発信するという感じなので、まずは体ごと突っ込むんですよね。だから食らった時の回復方法は持っておかないと。笑。
会津若松、福島、オーストラリア。まちの器の大きさが与えた影響。
渡辺:それって小さい頃だったり何が影響してると思います?
本間:会津に生まれた、っていうのはあるかもですね。会津って城下町で、「ならぬことはならぬ(ものです)」っていう什の掟というのがあって、まちの至る所に書いてあるんですよ。武士の子のような感じで、会津男児だからな、と言われて育ってきたので、ちゃんと生きなきゃ、という感覚はありますね。
三谷:私の会津若松のイメージって、もっと堅実なイメージだったのですが、本間さんは突破力の人で、真逆に感じられたのですが。
本間:俺の中では突破する方が堅実なんですよ。外から見ると、勢いの人とかヤンチャに見られるんですが、会社としても個人としても成功確率を上げるには距離を詰めていった方がいいんですよね。ゲストハウスを作る時に、ゲストハウスの作り方という本を読むよりも、作った経験のある10人に話を聞いた方が絶対有益な情報が得られると思う。だから自分なりに堅実なんです。K5つくった時もデザインを依頼したスウェーデンのCKRも会いに行った時の印象がすごく良かったのでこの人たちだったらかっこいいものができると思ったんですよね。
本間:あと、まちで言うと会津もそうですが、通っていた大学があった福島が影響を与えていると思います。音楽好きが集まるクラブがあってその影響で聴くようになった音楽があったり、大好きなカレー屋があって、そこのオーナーのMさんが改造したSRの400ccのバイクに乗っていて、夜はDJをやっていて、まあ、カッコいいわけです。自分で事業やる人ってこんなにかっこいいんだと思って、自分でやりたいと思い始めたのも福島市の影響が大きかった気がしますね。
渡辺:いま住んでいる近所に小さな商店街があって、そこに古くからある文房具屋をおじいさんが1人でやっていたんだけど、その息子さんが文房具を寄せて店の半分でスケートボードを売り始めたんですよ。そうしたらどんどん若い人が集まって、決して大きなスペースでもないのに、それだけでまちの風景が変わったんですよね。人によってはヤンチャな奴らが増えたなと見ているかもしれないけれど、小学生ぐらいから大人までそこでコミュニケーションをとっている景色は面白いなと思ってて。
本間:スケートする奴らがいる街って刺激がある気がするんですよね。きれいすぎる街に何も生まれない、と思っているから、ルールに従うばかりの街だとおもしろくない。アンダーグラウンドがあるというのが、街としての器な気がしていて福島にはそれがあったんですよね。東京に比べたらすごく小さいけれど、大学生から見てもかっこいいと思える大人たちが活動していたというのがすごく大きくて。オーストラリアもそういう意味での器は広かったですね。
立ち飲みのBarが自分にとって"パーク的"である理由
三谷:私たちがつくりたいと思っているのも、ダイバーシティがあって、人と出会えて、知らないうちに交流が生まれたり、偶然の出会いがある場所を考えているんですが、本間さんにとっていわゆる公園ではなく、そういう"パーク的"な場所ってありますか?
本間:やっぱりBarですね。日本の落ち着いたBarと違って、オーストラリアのBar(Pub)ってスタンディングで、色んな人と話して、ビリヤードして、ライブとかもやっていたから音楽を聞いて。だから僕らのゲストハウスはスタンディングのBarを1階に作ったんですよね。
渡辺:たしかにスタンディングだと移動が生まれるから変化が出やすい。
本間:新しい人と出会う時の条件って、出会えるけど逃げられるというのがすごい大事だと思っていて。座っていて席を変えると変に思われるけど、スタンディングだったら話したい人と話して、そうでなかったら移動してもおかしくはない。回遊性、流動性が担保されているというのが俺の中ではパーク的ですね。
三谷:なるほど。つながりたい時につながれる感じですね。
本間:旅中の空気感はそれが最大限尊重される気がして、心地良かったんですよね。寂しければBarに行って誰かと話したり、ゲストハウスで誰かと友達になればいいし、1人になりたければドミトリーのカーテンを引けば自分のプライベート空間だったので。大学にいた時よりも心地よかったんですよね。特定の人といなきゃいけないのではない感じが。
渡辺:社会に出てから、刺激的だったり自分を成長させたりした場所ってありますか?
本間:そういう意味でいうと、ホテルがやっぱり好きで、誰かの想いの元にデザインされた空間って自分の思考を変えてくれる気がしています。家だとループしてしまう思考がK5の中で考えたら全然違うことを思いつくとか。だから外で泊まるのが好きで、結構泊まり歩いてます。ホテルは自分のインスピレーションのために大事な場所ですね。
渡辺:それはキャンプとはまた違うもの?
本間:違いますね。いいホテルはドキドキするというか、何か書きたいとか、そういう気持ちが起こるんですよ。いいホテルというのはグレードではなくて、ちゃんと誰かに愛されているホテル。オーナーでもスタッフでも誰でもいいのですが、ちゃんとホテル自体が愛されていると、いい空気感になるんですよね。ばあちゃんがやっている定食屋みたいなもので、出す料理が何であれ、そこをおばあちゃんがちゃんと守っていたらそこはインスピレーションが沸く場所になる。
インスピレーションって人の何かに呼応して自分の何かが顔を出す瞬間だから、自分ひとりだと難しくて、関係性の中で生まれる時に、相対するものがいいものであればインスピレーションも良いものになるはず。それが対人よりも、対空間の方がやりやすいと思ってます。
SANUが目指す空間。植生は究極のデザイン。
三谷:SANUではどんな空間をつくりたいと思っていますか?
本間:シンプルな空間がよくて、美しい自然の中に置くので自然が主役で空間がサブだと思っています。あと、自分の中で好きな特徴は、部屋に花瓶とハサミが置いてあるんですよ。そのハサミを持って外を散歩して花を積んできて欲しい。
シンプルな空間にその地域ごとの花や枝を飾ると、部屋がその地域になって、しかも季節でそれが変わる。デザインというものをすごく考えた時に行き着いたのが植生だったんです。その地の植物がデザインだなと。
渡辺:たしかに究極だよね。
本間:デザインって機能なので、機能が集約されて形になったものがデザインと言われているから、高山植物と低山植物、熱帯と温帯も違うし、植物はデザインの最たるものだなと。白い壁にその地域の植物を一輪置いたら、多分その地域のデザインになるんですよ。ハイビスカスを置いたらハワイになるみたいに。植物にはそれぐらいの力があると思っていて、すごいシンプルな空間に植物をポッと置いてあげると、デザインって完成するんじゃないかなというのが次のSANUでやりたいことです。
三谷:なるほど。すごい納得しちゃいました。美しいですしね。
本間:しかも、それを自分で摘んでこれるって、実は超贅沢なんじゃないかなって。
渡辺:それってミニマムの借景かもですね。
本間:そう。Live with natureってスノーボードするとか、大きな波でサーフィンするとかもそうだけど、それ以上に一輪の花に感動することの方がLive with natureなのかなと思います。
渡辺:そろそろ時間ですね。もう少し踏み込んで聞いてみたい感じはあるけれど、今日は面白かったです。Facebookの友達の数が多いとか表面的にはすごく社交的で明るい人物だけど、じつはベースは根暗なのかなと思ったし、ヤンチャな部分と今話していた一輪の花について語るような繊細さと、その幅のグラデーションが本間さんの魅力だなと思いました。まだまだ意外な面がいっぱいあるんだろうな。
本間:ありがとうございます。いつもは事業の質問が多くて、光光光という感じなので、こういう掘るみたいなのはすごく楽しかったです。
※本対談は2021年に行われました。
※本編(音声版含む)で語られていることは個人の見解であり、事実とは異なることがあります。また所属する会社、組織を代表するものではありません。
(Text by Hideaki Watanabe)