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INTERVIEW | 石黒篤史(OUWN)「NEWPARKの強くて柔軟なブランディング」
NEWPARKのブランディングを行うcreative studio OUWN。
SNSでシェアされたOUWNが制作したポスターを見て連絡したことからプロジェクトが始まった。コロナ渦で最初の顔合わせからずっとオンラインで進んでいったが、この日ようやくオフィスに伺えた。サプライズで用意してくれていたアートワークが掛けられた部屋で石黒さんに話を聞いた。
石黒篤史(Creative director / Art director)
高校では理系コースに進むもイラストレーターの姉の影響もあり、進路変更して美術の道へ。在学中よりデザイン事務所で働き始め、後にひょんな事からアートディレクターの野田凪のアシスタントを経験。その後、佐野研二郎主宰のMR_DESIGNを経て、2013年にOUWN設立。企業のブランディングや広告制作を行うのと並行して、アートプロジェクト[People and Thought.]にてデザインの枠組みを超えた展示・作品製作も精力的に行っている。
NEWPARK×OUWNのはじまり
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渡辺:石黒さんにロゴだけでもつくって欲しいなという気持ちでOUWNのWebサイトから突然連絡したのですが、結果的に名刺やアートワークまでつくっていただいて今日はこんな素敵な空間でインタビューできています。最初に連絡があった時はどう思われましたか?
石黒:いったいなんだろう?という印象はありましたね。笑。Webサイトのコンタクトから仕事の依頼が来ることはもちろんあるのですが、法人ではなく個人のような書き方だったので。ただ、これまでもうまくマッチングしたケースもあったので悪い印象はなかったです。
渡辺:自分で言うのもなんですが、この手の連絡って少し怪しいし、お金の匂いもしないじゃないですか。
石黒:そうですね。でも3つ決めていることがあって、ちゃんと予算がある案件、クリエイティブがチャレンジできる案件、この人だからやりたい、のどれかひとつでも当てはまっていたら検討して、2つ揃っていたら絶対やりたいと思っています。今回だと公園というテーマで何かクリエイティブな挑戦ができるかなと思いました。
渡辺:石黒さんとは全く面識がなかったんですが、知り合いがシェアしていたCOVID-19のポスターを見た時にすごく素敵だなと思って、サイトを訪れたらそれとも全然トーンが違う実績があった。でも、なんとなくプロフィールページの石黒さんの雰囲気と、バリエーションは多くても統一されたクリエイティブがすごくつながって、ロゴだけで終わらないこれからの広がりを予感して連絡したんです。
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日本医療従事者支援プロジェクト
緊急事態宣言解除後、COVID19を再認識・再意識をするために制作したポスター
石黒:確かに一つだけという仕事は少ないかもですね。ロゴだけつくることよりもトータルで考えることが多いと思います。
渡辺:すごくアート的なアプローチもあったし、進研ゼミのしまじろうの仕事もキャラクターは既存のものですが、背景のテクスチャーとか細部をこだわっているのが伝わって、子供向けだからって子供っぽくしないというか大人が見て素敵だなと思う雰囲気を残しているように見えました。
石黒:そうですね。知的さって重要だなと思っていて、スヌーピーってかわいい絵なのにすごく知的じゃないですか。その辺りを狙って考えていますね。テクスチャーとかも地味に夜中に描いてます。笑。
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ベネッセコーポレーション(2019)
こどもチャレンジのバースデーカードの1シーン。ここどもチャレンジで誕生日に届くバースデーカードどは全て石黒さんがアートディレクション・デザインを担当している
NEWPARKのクリエイティブができるまで
渡辺:クリエイティブへのこだわりを何か言語化していたりしますか?
石黒:デザインだけで言えば、「強さ」は大事にしています。可愛さだったり繊細さとかもありますが、全体を通して強さはどの案件に対しても必要だと思っていますね。目を引くとか、気になって意識が向くとか。NEWPARKもロゴが動いているとか、キャラクターが気になるなど引っ掛かりのポイントがあるとビジュアルに強さが出てくると考えています。
渡辺:今回、ロゴは何案でしたっけ?結構、数を出していただきましたよね?
石黒:そうですね。出しちゃうんですよね。1案や2案というのは無いようにしていて、3案以上は良いのができれば提案するようにしています。
渡辺:提案の前段部分の説明が印象的で引き込まれました。僕らが思っても見なかった側面として、光と影の話があって、公園って決して明るいだけの場所ではないのでは?という指摘は結構ドキッとしました。一緒に提案を聞いていて三谷さんどう思いました?
三谷:最初にこちらがお渡しした文章から考えられたと思うんですが、何からスタートして広げていったのかが気になりました。
石黒:改まって話すのはちょっと恥ずかしいですが、今回はロゴを考えるのとコンセプトを同時並行で進めました。オリエンの時に単に「楽しい公園を作りたい」ではなく過去のトラウマの話とかもあったので、楽しいだけでなくネガティブな要素も伝えたいんだなというのは感じていました。だから単純な明るいロゴではなくもう少しコンセプトワークが入ったものが良いと思って。渡辺さんの雰囲気や服装などからもイメージを膨らましていきましたね。
渡辺:僕ってどんな雰囲気でした?
石黒:そうですね。服にもこだわりがありそうとか、食でも美味しいお店を知っていそう・食べていそうとかも含めて、しっかりと良質なものを判断する、したいという基準がしっかりとある方なのかなと。
渡辺:笑。確かにご飯食べるの好きです。
三谷:提案いただいた後に、「すごく良いロゴを提案してもらったね」と2人で話していて、最初の001の案はパッと見の渡辺の印象に近くて、でも002、003と後の方にいくにつれて本当の姿に近づいているなと。今回の活動を始めるにあたっての原体験があって、私も同じような原体験を持っているので一緒に活動しているのですが、そういうエモーショナルな部分を含めると選んだロゴがピッタリ来るね、と話していました。
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光と影を表現したロゴの001案。
渡辺:提案の順番も絶妙だったんだよね。
三谷:そうそう、絶妙でした。
石黒:なるほど。そう言っていただけるとうれしいです。確かに001案はコンセプトとしては良いですが強すぎるかなと僕も思ったんですよね。だから003か004が個人的にも良いと思っていて、正直伏線でもありました。
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抽象的な図形の組み合わせをアイコンとした003案。
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最終的に選ばれたロゴ004案。NEWPARKの文字や背景のグレー地が自由に可変できる。
渡辺:僕らもこの2つがいいねとなりました。003の抽象的な組み合わせもすてきだなと思ったのですが、最終的に選んだロゴは、ある程度のルールはあるけれど「NEW」の部分の配置や大きさが自由に変化していけるという柔軟さを持っていて、NEWPARKのコンセプトとも重なりました。
今日ここに来て驚いたのが用意いただいたこのアートワークはロゴのガイドラインに載っていないぐらいに変化してますよね!つくった本人が違反しちゃってるんですが、このぐにゃっとした感じは見た人の脳を活性化するような強さがありますね。これを水の流れと感じる人もいるでしょうし、受け手によって変化する柔軟性がすごく良いなと思いました。
キャラクターも提案いただいたのですが、それはどうしてですか?
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コンシェルジュ的な役割も担える100体ほどのキャラクター
石黒:ロゴって本当に根幹の部分なので、すごく難しくてロゴのみの検証からその後の立ち位置なども考えると、施策なども必然的に出てしまうんですよね。今回はロゴができた上でコンシェルジュ的な役割も担えるキャラクターが生まれました。NEWPARKの考える公園が今ある公園ではなくもっと概念的で、大人っぽい公園を狙っているけどアプローチするのは子供というのもあったので、ロゴだけだと難しくて伝わらない部分をキャラクターによって敷居を下げたいという意図がありました。
渡辺:確かにまだプロダクトや目に見えるサービスもない段階なのでそのままだと伝わりづらいですよね。僕らもそれは思っていて。
石黒:これすごいラフ段階の最初のアイデア出しを持ってきたのですが。
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アイデアを考えている段階でのラフデザイン
渡辺・三谷:おーいくつか最終の原型みたいなものがありますね。
石黒:最初はボーイスカウト的なイメージからエンブレムが頭に浮かびました。NEWPARKがつくる公園ごとにエンブレムがあって、それを集めていくとか面白いかなと。でもちょっと違うなと途中で思ったんですよね。エンブレムだと意味が出過ぎてしまうのでキャラクターの方が相性が良いかなと思ってやめました。
あと、これは街並みアイコンです。
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ラフデザイン。街並みをアイコンに落としてみたり。
石黒:具体的にこれを何かに使おうというよりも、何かのアイデアの種になるかと思って、思考の過程として大量に作ったものです。それからこれは名刺のアイデア出しですね。
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ラフ段階の名刺デザイン
渡辺:名前の上にグラフィックが被っているのとか結構攻めていましたよね。今はここから進んで名前面は名刺として、裏面はショップカードのような機能を持ったパークカードとして配れるように複数のグラフィックで作りたいなと思っています。
三谷:わーすごい!私は初見ですけど、これだけパターンを変えているのに印象は統一されたままなのがすごいですね。
石黒:普段はあんまりこんなラフを見せつけるみたいなことはしないんですけどね。笑。
渡辺:確かに。今日はわざわざ見せていただいてありがとうございます。
秋葉原のようなミックスカルチャーの公園
渡辺:石黒さんは公園と聞いてすぐに思い浮かぶ場所はありますか?
石黒:家が近いので代々木公園ですね。ご飯食べに行ったり、コーヒー買った帰りに通ったりとよく行きます。
渡辺:公園に行く目的って色々あると思うのですが、例えばリフレッシュしに行く人もいれば、癒しだったり、もしくは充電して元気になるために行く人もいると思うのですが、石黒さんはどんな目的で行きますか?
石黒:公園って今持っている感情を何倍かにするイメージがあって、すごい悲しい気持ちで行くと悲しさが倍増するんですよね。仕事に集中したい時は、深い思考に入れたりとか。だから落ち込んでいる時は自然と足が向かないですが、ポジティブな気持ちを二乗三乗にしたい時に公園に行っている気がします。あと代々木公園のような大きな公園は色々な人がいたりとエンタメ感があるのも好きですね。
渡辺:確かに大きな公園って、街中では通り過ぎてしまうのに対して人が滞在するし、カフェやレストラン以上に人の多様性があるのがおもしろい。それぞれが思い思いのことをしているのが見えるからエンタメ感がありますよね。
あと、自然公園でなければ公園も人工物なのですが、基本的には自然寄りの場所ですよね。だから本来的な人間の自然(ナチュラルな状態)に近い場所のはずなんですが、僕らが住む都市って最初は非日常だったのが日常になり、逆に公園を非日常的な場所に感じてしまうその逆転が公園のおもしろさだなと思っています。都市と自然との間の境界線というか際な場所な気がして。
石黒:最近だとMIYASHITA PARKとか公園自体も多様化していてミックスカルチャーのようになってきていますよね。オーガニックなものに最先端の渋谷を踏襲した要素が入っていたり。秋葉原ぐらい色々なものが一つの場所の中に集まっている気がします。
三谷:確かに公園ってまちのカルチャーをつくる存在になっている気がしますよね。周辺のまちの人の行動が公園にも入ってくるし、公園がそういう人を集めることでまちのカルチャーが新しくなっていく面もある。
石黒:NEWPARKのロゴのNEWの背景はグレーにしているのですが、最初キラキラのシルバーにしようかと考えていて、ミラーのようにしたかったんですよね。公園ってその地区の鏡のような存在で、街をよく表しているしている気がして。あと立ち話ができるような場所は公園じゃなくても公園っぽいですよね。スタンディングでビールを飲めるようなカウンターに「NEWPARK」と書いてあるだけで公園っぽくなる。
三谷:確かにそうですね。机だけでも人が向かい合ってそこで自由に振る舞ってよい感じが出ると公園っぽくなる。
渡辺:下町の家先でお母さんたちが井戸端会議しているのも公園的な場所になっているのかもですね。
NEWPARKのこれから
渡辺:今後のNEWPARKに期待することはありますか?
石黒:まずは公園のようなワイワイと賑わっている場所、または、そういう日が作れたらひとつ目のゴールなのかなと思います。そこにタペストリーやカードなどが使われていたらうれしいので、まずはひとつ形を見てみたいという気持ちですね。その写真を1枚撮るだけで、NEWPARKの想いが急に真実味を帯びると思っています。
渡辺:そうですね。石黒さんから早くWebを作りましょうよと言ってもらっていますが、その一枚の写真が撮れると広がりを作れる予感がしています。
石黒:僕からも聞きたかったのですが、今後このロゴをどう使っていきたいですか?
渡辺:僕はこのロゴの「可変」というコンセプトがとにかく気に入っているんです。公園って何が一番公園っぽく見えるか、もしくは公園でしたいことを究極にシンプルにした場合それは何かという話に以前なった時に、地面に座ることなんじゃないかと。芝生や土に座る気持ち良さ。その居心地をもっと良くする体験をNEWPARKで提供できなかと思っていて、例えばオリジナルのレジャーシートを作りたいと思っています。そのシートもロゴのコンセプトを踏襲して可変になっていて、使う人数や使い方の数だけ変わるのですが、使っている様子を周りから見るとさりげなく統一された風景として見えたらおもしろいかなと思ってます。
石黒:おもしろいですね。シートの分だけ人の気持ちも可変し笑いが増えるなど夢もありますし、色々と作っていきたいですね。
渡辺:多くのレジャーシートはビニールなので、環境にも配慮しながら作りたいと思って色々と素材を調べています。三谷さんはどうですか?
三谷:ロゴの話とは少しずれますが、石黒さんが公園と感情の関係について話されていたように、人の感情に影響する公園を仕掛けていけたらすごくおもしろいなと思っています。
石黒:そうですね。その辺りをまずは面で見える形で伝えていきたいですね。今後の展開が楽しみです。面白いプロジェクトになると思いますし、どんどん可変させて行きましょう!
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(Written by Hide WATANABE)