MY PARK STORY | 100人の公園論: ブランディングやマーケティングよりも大切なこと。自分が楽しんだ先にあるみんなの公園 - 江本真亜耶氏(wineshop lulu オーナー)
魅力的な生き方をしている人は、"自分にとっての公園(MY PARK)"と呼べるような居場所を持っているのではないか?という仮説のもと、人生と公園の関係性を、多種多様な100人との対談を通して深掘りするMY PARK STORY。
目黒区の学芸大学駅から少し離れた場所にあるwineshop “lulu”。いわゆる角打ちと呼ばれる空間に15時のオープンから様々な人が集まる。さらっと一杯だけ飲んで出ていく人、スタッフとワイン談義に花を咲かせている飲食店関係者、奥のセラーから数本のワインを選んで自宅に買って帰る年配の紳士。どの人も皆とても感じが良い。この店のオーナーを務めるのが、江本真亜耶さん。10年近いワイン業界での経験があるが、商社や卸売などいずれも裏方として働いてきた。その彼女がなぜ店という場を持つことにしたのか。そして、生産者や地域とのつながりの中で実現していきたいこととは?オープン1周年を控えた11月の天気の良い日に話を聞いた。
"好き"が見えていた自分。選んだ仕事。そこに感じた違和感。
渡辺:今日は飲みながらお話を聞いてみようということで、ワインを注いでいただきました。これはどんなワインですか?
江本:ロゼの微発泡ですね。
フランスのジュラという生産地なんですけど、ぶどうは色々な場所から買って作っていて、2021年にぶどうを植えたのでこれから自分のぶどうでも作り始めると思います。私と同じ歳のまだ若い生産者で、ワイン作り自体は長いのですが、畑はまだ始めたばかりなんですよ。土地がなかなか買えなくて、ぶどう作りまでできなかったそうですが、多分来年ぐらいから栽培したぶどうで作ったワインを出荷できると思います。
渡辺:ありがとうございます。それでは、これまでの人生の振り返りからお話を伺えますか?
江本:私は、千葉県の九十九里近郊で育ちました。田舎だったし、お酒は飲む親でしたがワインを飲まなかったので、ワインに触れる機会はあまりありませんでした。畑があって、山に囲まれていたので、自然に触れる機会は多かったですね。祖父母が近くに住んでいて、所有している山に筍を取りに入ったりとか、畑の手伝いをしたりとか。野山を駆け回っている田舎の女の子、という感じでした。
その一方で、海外の文化だったり、外の世界には興味がありました。いつかは外に出てみたいと思っていたので、英語は頑張って勉強していましたね。
大学に入ってから、学校のプロジェクトでニュージーランドにボランティアに行ったのですが、それが初めてのちゃんとした海外体験です。環境系のプロジェクトで、外来種を抜いて新たに植樹をすることで、海側に土地を増やしながら、住宅地への砂の侵入を防ぐ防砂林をつくる試みでした。海外は行ってみたらすごく肌に合って楽しかったので留学も考えたのですが、在学中はダンスサークルの活動に集中していたので行きませんでした。でも、卒業旅行に友達と1ヶ月かけてバックパッカーで11カ国を回ったのは、貴重な経験になりました。
卒業してワインの会社に入ったのですが、そこからですね、自分のキャリアがスタートしたのは。
渡辺:就職活動はどんな観点でしましたか?
江本:自分の好きなことを仕事にしたいと思って進めました。英語が使えて、海外の文化とつながることができる仕事ということで、旅行会社も受けましたが、最終的にワインの商社を選びました。当時、ワインにすごく興味があったかというとそうとは言えないのですが、その魅力には何となく気づいていて、ただの飲み物ではないなと感じていました。食との相乗効果があるから色々と楽しみ方があるし、生産地によってその背景が全然違ったりするので、もっと文化的な部分につながっている何かを掘り下げてみたかったんですよね。
渡辺:なるほどなるほど。
江本:と思っていたのですが、会社に入ってみたらあまり楽しくなくて。笑
渡辺:えっ、それは何でですかね。あまり学びがある環境ではなかったとか?
江本:学びはあってソムリエの資格も取ったのですが、売り方がいま扱っているワインとは違ったんですよね。もう少しブランディングとか名前の価値で売るようなところが強かった。いま扱っているワインは、本質的に良いものという視点で作られていて、ブランドとして使える名前なんて使わなくてもいいという逆の立場にいる人たちの商品なんです。今はすごく腑に落ちていて楽しいのですが、その時はちょっと違うなと思ってしまって。
渡辺:当時は、セールスとかマーケティングを重視した売り方をする生産者で、今はどちらかと言うと職人気質の人たちと話しながら、お店を通して広められているという感覚ですかね。
江本:そうですね。お客さんとの会話も、このワインは認証持っているの?とか、あなたはソムリエ持っているの?から話が始まるし、若いから信用されていなかったのかもしれないけれど、なんかつまらない感じがしてしまったんですよ。今だから言える話だけど。笑
渡辺:時代的なところもあったのかもしれないですね。元々のワインのカルチャー自体はそうでなかったと思いますが、嗜好品ということもあって徐々にクローズドな方向に行ってしまったのか、敷居が高い印象がありますよね。僕は今もワインを頼むときに、「ワイン詳しくないんですけど、」と言ってからでないと好みを伝えられないような気がしてしまって。
江本:そうですよね。わかります。そういう方にこそお店に来てほしいですね。
オーストラリアで見つけた理想の暮らしと仕事。
結局、その会社は2年弱で辞めて、ITの営業を挟んだのですが、やっぱりワインの仕事をしたいと思って、オーストラリアに留学をしました。その経験が今の仕事に一番つながっています。バロッサヴァレーのワイナリーに住み込みで働いたのですが、そこの考えが、「ぶどうが美味しければ、手を加えなくてもワインは美味しくなる」というもので、それがすごく腑に落ちて。本当に丁寧にぶどうを栽培していて、全然商売っ気がないけれど、すごく向き合っていて、美味しいものを作り上げているのを目の当たりにしたときに、こういうワインだったら自分もずっと飲んでいきたいし、広めていきたいと思って、日本に帰ってそういう仕事をしようと決心しました。
しかも、そういう生産者は人間として魅力的で、個性豊かな人が多いけれど、本質的で、自然と共存していて、私が将来描いている理想像を体現しているような人たちだったんですよ。もうシンプルにこういう人たちと一緒にいると楽しいし、色々と見てみたいし、拾っていきたいと思って固まった感じがしましたね。
渡辺:学生時代の環境系のボランティアは自然という文脈だったし、好きだった海外や小さい頃の農作業からワイナリーにもつながったり、江本さんの好きのピースが集まったのが生産者さんのその感じだったのかなと思いますが、その総量として好きと思ったのか、いつかは自分が生産者をやりたいという将来像からなのか、どちらが近いですか?
江本:どちらもですね。順番としてはピースが合わさってこれだと思ったのがきっかけですけど、話を聞いて知識として理解はできるけど、それを本当に体感した人でないと理解できない部分ってやっぱりあるじゃないですか。それを理解したいし、どんなものができるか実際に挑戦してみたいという気持ちはあります。
渡辺:お客さんに説明するときに、作っていないことで説明しきれないエリアがあって、そこを埋めていくような感じですね。
江本:でも、農業をやりたいというのはあります。人生を大枠で見たときに、若いうちは色んなところを飛び回って挑戦したいけれど、落ち着いてきて家族を持ってからは、農業をやってゆっくり暮らしたいと思っています。
パリで気づいたワインを美味しく感じる店の秘訣。
渡辺:店をやることになって、お店ってひとつの表現の場だったりすると思うのですが、こういう生産者のこういうワインとか、こういうお店にしたいの「こういう」を言語化すると、どんな感じになりますか?
江本:こういうワインは、一言で言うと、”人間味が溢れるワイン”。
ワインってぶどうそのままというけれど、人の手が加わっていて、それは科学的な意味ではなく、ぶどうの成長やワインになるまでの過程を人が助けることによって作られる。無理させずに良い状態にするのは人の力ありきだと思いますが、それによって同じぶどうでも全然変わってきます。ちょっと皮を漬け込む時間が違ったり、セラーの環境だったり、音楽を聴かせる人もいたりとか。
ワインは栽培と醸造の2軸ありますが、私が一番多く扱っているのは両方やっている人で、自分で育てて、その結果こういうワインが作れるという過程がわかっている人たち。できるだけ自然なつくりで、だけど個性があるワインというのが面白いと思っています。培養酵母とか使えば味は作れるけれど、そうでない方法で作ることに本気で取り組んでいる人のワインは、美味しいだけじゃない何かおもしろさがあって、それをみんなに知ってほしいし、自分も楽しいと思って飲んでいきたいですね。
お店については、ワインって先ほど話したみたいにひとつ壁を感じるじゃないですか。その壁を無くしたいというのが目的のひとつにあって、気軽にワインを飲めて、自分の好みを知ることができて、買うことができる。気軽にワインが楽しいと思える場所にしたいです。オーストラリアに行ったときに、この店みたいな"角打ち"という気軽にワインが飲めて買える店を多く見ました。私は日本ではあまり行ったことがなかったので、色々な話を聞きながらそこで飲んで、気に入ったワインは買って帰って家で楽しむというサイクルがすごくいいなと思って。日本にもそういう場所がもっとあったらというのと、自分のバックグラウンドとしても、レストランや飲食店をやるというよりも、ワインのことを伝えられる場所をやりたいと思って、スタンディングの角打ちという形態にしました。
渡辺:店の内装は、パリにある店を参考にされたんですよね?
江本:この店を始める前に1ヶ月半ヨーロッパを回っていて、その時に行ったパリのお店でワインを飲んだらとても美味しく感じられて。もちろんワインも食事も美味しかったのですが、分解したら土壁で、石があって木があって、ワインを取り囲む環境に近いのが影響しているのかなと思ってこの店もそうしました。
渡辺:確かに空間の影響ってありますよね。一番ミニマムな空間ってグラスだと思うのですが、グラスでも全然ワインの感じ方って変わるし、もうちょっと広がると部屋の様子だったり、そこにいる人の雰囲気が加わって、その全てで味になっている気がします。レストランで飲んで美味しかったワインを家に買って帰ったら、ちょっと味わいが違っていて、あの味に近づけるためにグラスを変えてみたりとか、家は家の飲み方で楽しかったりと、ワインって味だけじゃなくて環境と一緒に飲んでいる感じがあるのかもしれませんね。
江本:そうですね。そういう部分がワインにはあると思います。
渡辺:お店にはいろんなお客さんが来ると思うのですが、人の部分はどうですか?
江本:それがこの場所でやってよかったと思う一番の理由ですね。近所の方が来ることが多いのですが、みんな本当に人が良いんですよ。ワインを楽しんでくれているし、優しくて、心が広くて。知らない方同士しかいなくても会話を始めているのを見る度に、ここがそういう場になれていることがうれしいなと思っています。
渡辺:お客さんとの具体的なエピソードを少し教えてもらえますか?
江本:よく来ていただく70代のご近所の方がいるのですが、これまでいわゆる高級ワインしか飲んで来られてない方なんです。ロマネ・コンティとかボルドーの何級のシャトーとか。その方がここでボジョレーヌーヴォーに使うガメイという品種のぶどうがあるのですが、それを飲んで、「美味しいじゃん、これ!」と言ってくださって。「ガメイなんて今まで飲んで来なかったけれど、こんな美味しいものもあるんだね」と言って飲むようになってくれたのはうれしかったですね。あとは、常連の料理家の方とは、ここで一緒にイベントをやることになったり。お客様同士でも仕事が生まれたり、そういうきっかけがここで生まれているのも、うれしいです。
渡辺:まだオープンして1年ぐらいなのに、そういう場になっているのはすごいですね。
江本:路面店の気軽さとか、この場所自体のポテンシャルもあると思います。私自身もこれまでにない出会いがあって、音楽家の方がいらっしゃってその方のコンサートに行ってみたりと、自分にとってもすごく楽しくプラスになる場所ですね。
自分が気持ち良いと思える環境を周りの人と一緒につくる。それが誰かの楽しい場所になる。
渡辺:少し予定外とおっしゃってましたが、雇用もされたんですよね?
江本:そうですね。社員として来てもらっています。この店自体は1人でできるように作ったので、回すこと自体はできるのですが、やっぱりそれだと痒いところに手が届かないんですよ。2人いると気持ちの余裕ができるので、お客さんとのコミュニケーションとかできることが増えましたね。あと、私は業界内ではずっと下っ端だと思っていたのですが、「もう中堅だね」と言われることも増えてきて、私が先輩にしてもらったように、下の世代を育てていきたいし、応援していきたい。社員の子が、今とても頑張っていて、ワインスクールに通ったり、ワイン会に行ったりしていて、それがすごくうれしいし、業界としてもそういう人を育てていきたいです。
渡辺:半年での社員雇用も、未経験から店舗を路面の1階に出したこともそうですが、江本さんって人よりも半歩ぐらい決断が早い気がします。すごいなと思うのですが、採算だったりビジネス的なリスクの計算ってどうされていますか?
江本:正直、なんの根拠もないのに行けるだろう、という勢い的なところはありますね。簡単な計算はしていますが、自分が苦しくなって、いいムードでなくなったらお客さんも楽しめないと思うんですよ。それが一番マイナスだと思っていて。多少、利益を減らしたとしても、楽しい関係を継続する方が大切だと思っているので、私は自分や周りの人が気持ち良くやれる環境を作りたい。それが結果的に何事にもプラスになると思っています。実際、ワインを学びたいと思って来てくれた子が社員になって、良い学びをここで得て、最近、他の場所でもイベントを始めたりと、彼女の成長にも繋がっていると思います。私自身が1人で何かを頑張るのが得意じゃなくて、誰かと一緒に頑張ったり、周りの人に”一緒にいることでプラスになった”と言われて満足を感じるタイプなので、それも理由にあるのかもですね。
渡辺:自分のため、という以上に、周りの環境をすごく意識して決断しているんですね。
江本:色々と話をしてきて、あまり話したことがない内容ばかりなので、自分でもそういう人間だったんだな、と思いながら今話しているんですけどね、笑。
渡辺:自分で決断ができて、やりたいことも見えていて、一見、1人で突っ走って行くタイプに見えるけど、じつは周りの人間関係がとても広くて。それはスタッフや友人という近い人もそうですが、生産者さんだったりいわゆるステークホルダーと言われる人たちと一緒にビジネスをして、一緒に生きているのが面白いなと思って聞いていました。
江本:周りのお陰でしょうね。自分の周りでそうやって成功している人をいっぱい見ているから不安にならなかったのだと思います。私の旦那もそうなのですが、27歳の時にお店を始めるって聞いて客観的に見て「本当に大丈夫?」と思っていたのですが、ちゃんと成功したし、そういう人が周りに多いので自然に影響を受けていたのだと思いますね。私は昔から人に恵まれてきたので、自分も周りに影響を与えられる人になっていきたいです。
luluがデザインするワインとの出会い方。体験を提供することで、まちにワインを広げていく。
渡辺:お店をこれからこうしていきたいとか、地域の中でどういう立ち位置になりたいというイメージはありますか?
江本:今のところ思ったよりもいいスピードで良い状態になってきていますが、これからはもう少し来てくれた人が新しいことを発見できる場にしたいと思っています。例えば生産者さんが来てくれてイベントをやったりとか、もっとワインについての発信の場を増やしていきたいです。
地域の中では、学芸大学って、幡ヶ谷や代々木上原のようなまちと比べてワインのお店が多くなくて、周りの人にワインにフォーカスしたお店を出したことは大きいと言っていただくことも多くて。このお店が出来たから、このまちでワインが少し盛り上がった、と言われるようになれたらいいですね。周りのお店との交流も積極的にしているのですが、お店が終わってから行った先の飲食店の方が来てくれて、試飲をして、ワインを置くようになってくれたりしているんですよ。
渡辺:もともとワインを全く置いてなかったお店が置き始めたってことですか?
江本:そうです。一般のお客さんだけでなく、飲食店の方もワインを知れる場になっているのがうれしいですね。今後もっと広がっていったら、お店をここからご紹介したり、ワインを軸に地域が盛り上がるのであれば色々とやっていきたいですね。
渡辺:そういうお店同士のつながりがあったら、お客さんも楽しいでしょうね。楽しさと言えば、luluのワインボトルには雰囲気のある手書きのタグがかかっています。店内を色々なものを削ぎ落としてシンプルな空間にしているから、そういったちょっとしたアクセントが楽しさにつながっているのかなと思うのですが、江本さんのバックグラウンドに、デザインを学んだとか仕事にしていたことがないのに、タグもそうですし、先ほどの人のつなげ方だったり、広い意味でデザインをされているように感じます。
江本:昔からデザインは好きでした。インテリアデザイナーが小さな夢だった時期もあって、部屋の模様替えを良くしていたり、自分の好きな空間を作るのが好きでしたね。特に祖母の家が好きで、自然の中にあるお洒落な空間ってあるじゃないですか?デザイナーが作ったわけではないけれど、その人の個性が出ているような。祖母の家はたくさんの花や野菜に囲まれていて、それに同調するような木の家具があり、自分で作ったり、組み合わせて配置したりしていて。私は都心のインテリアよりも少し田舎のインテリアが今も好きです。海外でもパリよりも郊外の少し古めかしいお店が好みで、そういう空間にちょっとしたものを足していくのが好きなんですよね。
渡辺:原体験として、そのおばあちゃんの家があるんですかね。よく行っていましたか?
江本:はい、今でもよく行きますよ。お花がとても似合う家なんですよね。
渡辺:ここもお花をよく飾っていますね。
江本:今日はお花屋さんがお休みだったので少ないのですが、いつも花は飾るようにしています。東京にいるから余計その心の豊かさみたいなものを大事にしているのかもしれない。そうでないと忙しさに支配されてしまいそうな気がして、そこのバランスが保てるように工夫していますね。
店が提供するのは居心地の良い環境。出会いや発見、人のつながりはお客様自身がつくれる。
渡辺:この対談はMY PARKというテーマで話を聞いていて、"私の馴染みの愛着のある自分の場所"というニュアンスなのですが、江本さんのMY PARKと、luluが誰かのそういう場所になれるとしたら、どんなことをしていきたいですか?
江本:私にとって、自分が気兼ねなく親しみを持って行くことができる場所って、職業柄もありますけど、ワインバーとかワインショップ。そこに行くといい出会いがあって、楽しくて、発見もあって、自分にとっていい影響がある。どこか決まった店はないのですが、ふと行きたくなる店があります。luluがその一つになれるとしたら、常にこちら側がいい状態でいて、お客様同士がつながりたい場合はつなげるし、1人でいたい時はゆっくりできる、その空気づくりを日々気をつけていきたいですね。ここは駅から少し距離もあって目的があってくる場所ですが、お店をつくるときにそこも気をつけました。誰でも簡単に来れる場所だと、店の色も出ないし、来る人もあまりにもバラバラなので、荒れてしまうかなとも思って。ビールを出してほしいという声もいただきますが、コンセプトとしてワインだけ、食事もあまり出さないようにしていて、これまで通りコンセプトはブラさずに、お客様が居やすい環境の方は色々とやっていきたいですね。
渡辺:先ほどのおばあちゃんの家、それからワイン、江本さんの好きな要素が混ざり合ってこの場所なのか、それとも違う場所なのか、luluがそういう場所になっていく気がしました。
江本:居心地のいい空間にはしたいですね。新しい発見とか楽しいって、私がどうこうというよりも、お客様同士でもつくれると思っていて、みんなが来たいと思う雰囲気づくりと、ちょっとした手助けができれば良いと思ってます。
ワイン屋ですけれど、ここにはそれ以上の価値があると思っているので、いい場所にしていきたいです。皆さんが皆さんでつながってくれて、たまにここで出会ってそのまま違う店に行ったり、仕事が生まれたり、ここで会いたかった人に会えたという人もいたり。昔、お店をやっていた方が、なぜかここに来ると当時のお客さんにたくさん会える、とおっしゃっていて。いろんな方が来てくれていますが、近しい価値観なのか、どこかつながるところがある方たちが来てくれていて、それが私にとっても居心地がいいし、そこはキープしていきたいですね。
渡辺:ここのお客さんにインタビューをしていって、その共通のキーワードを調べてみたくなりました。最後にluluの店名の由来を聞いてもいいですか?
江本:じつは私が飼っていた犬の名前なんです、笑。私も好きなluluというワインがあって、その名前を付けたの?とよく聞かれるのですが、そうではなくて。luluってドイツ語で、すごく大切な宝物、といった意味があって、おばあちゃんのあだ名だったり、小さな大事な空間に使ったりするというのを聞いて犬の名前にしました。お店を始めるタイミングで、フランスの生産者が来たときに、店名の話をしていたら、luluってフランス語のlumière=光という単語の短縮系だから大切な子供の名前につけたりするんだよって聞いて、このお店も光を大事にしていて、外から見たときに人が来たいなと思えるような空間にしていたのですごくいいなと思って。名前自体には意味を持たないけれど自分にとって大切な言葉にしたかったんです。あとは呼びやすいことですね。みんなに「lulu行こうよ!」と言ってもらえるように。
渡辺:自分の大切なものとか、かわいいと思うものを具体的ではなくて概念的にluluと呼ぶというのはすごくいいですね。このお店の雰囲気にピッタリだし、MY PARKとも共通するところがあると思いました。
江本:このお店を始める前にフランスに行ったときに、luluの生産者に会いに行ったのですが、店名の話をしたら帰りにluluを持たせてくれて、この名前にしてよかったなと。
渡辺:同じ名前で海外にも展開できちゃうかもしれないですね。luluのこれからを楽しみにしています。今日はありがとうございました。
店名:wineshop lulu
営業時間:15:00~22:00(火~土曜 )/ 12:00~18:00(日曜)
住所:東京都目黒区鷹番3-18-3 ヒルズK102
休日:月曜日
Instagram:@wineshop_lulu
(Text by Hideaki Watanabe)