それでも明日はシャンデリアと新聞紙が降る
・ポッドキャストを一緒にやっているmikamiくんが、ミッシェル・ガン・エレファントに関するファンタジックな思い出をインスタ日記に書いていた。
・そんな映画みたいなことが本当におこることがあるのか、と羨ましく思った。
・僕もミッシェル・ガン・エレファントは大好きなので、色々思い出がある。
・一つ思い出したので書き残しておきたい。
・19歳だったと思う。まだ実家にいた頃だ。
・当時一緒にバンドをやっていたYくんからミッシェルを教えてもらったのが始めだったと思う。
・その頃は初期パンクが好きで、それしか要らないと思い込み、それまで買い込んでいたブリットポップやグランジ系のCDを全部処分して、ラインナップが全部パンクになっていた頃だった。
・その中でもTHE JAMが好きだった。
・ポール・ウェラーのようにパンク寄りに若い時期を過ごし、そしてモッズ寄りな大人になりたいと心から願っていた。
・そんなある日、Yくんが「JAMみたいな日本のバンドがいる」と言って車の中でかけたのがミッシェル・ガン・エレファントだった。
・セカンドの『cult grass stars』だったと思う。
・カセットデッキで再生されたことも相まり、それはそれはソリッドな音楽で、一発で好きになった。
・それからしばらく経って、Yくんが大阪までミッシェルを見に行こう、と誘ってくれた。
・4枚目の『ギヤ・ブルーズ』のツアー。
・2つ返事でOKし、岡山県の田舎街から高速バスに乗り、大阪城ホールへライブを見に行った。
・それはそれは楽しかった。
・あのでかい会場で、シンプルなバンドセットで、ここまで迫力があるのかと驚いた。
・Yくんのおかげで席も真正面の前の方だった。
・気づいたらダイブしてステージ前まで流れていった。
・セキュリティのスタッフの方は優しく受け止めてくれて、退場させられることもなく、また同じすスタンディングのエリアに戻っていって、またダイブしていた。
・その繰り返しは滑り台で遊ぶ幼児のようだった。
・まあとにかく楽しく、ライブは終わり21時も過ぎた頃。
・そういえば、ぼくらは家に帰るところまでは計画していなかった。
・宿を取るようなお金もない。
・大阪だし、まあなんとかどこかで時間を潰して朝一の高速バスで帰ろうということになった。
・しかし、もう25年も前なので、ネットカフェなどのように気軽に安全に夜を過ごせる場所はなかなかなかった。
・仕方ないので、大阪駅の地下に通じる階段を降りたところで夜を明かすことにした。
・地下街は閉まっているので、階段を降りた入り口の手前で座り込んで寝た。
・よく覚えてないけど、寒くない季節だったのだろう。なんとかなった。
・そして朝。5時くらいだろうか。
・『ドサッ』
・寝ていた僕は、大きな物音で目を覚ました。
・『ドサッ、ドサッ』
・なんだろうか、サンドバッグのような異様に重たい音だ。
・ふと階段の上の方を見上げると、ものすごい量の新聞の束が真横に落ちてきた。
・あぶねえ!
・当たったら確実に重傷を負うボリュームだ。
・Yくんを起こし、影になるところまで避難した。
・その新聞の束は、業者さんが駅の売店用に届けたものだろう。
・慣例としてこうやって投げ落としておくのだろう。
・勝手に居座っていたこちらが悪いが、うっかり死ぬところだった。
ーーー
・それでも明日は、シャンデリアが降る。
・これは、ミッシェルガンエレファントの曲の歌詞の一節。
・それでも毎日、新聞紙の束が降る。
・これは昔の大阪駅の風景。
・mikamiくんのようにファンタジックな思い出でないのは悔やまれるものの。
・悪くない青春の1ページだ。
(end)