新入生レビュー企画② 宮田眞砂 『セント・アグネスの純真』
あらすじ
交通事故で母親を亡くした中学2年の少女・神里万梨愛は、ミッションスクールの聖花女学院に転入し、寄宿舎セント・アグネスで暮らすことになる。セント・アグネスには、同じ部屋に住むルームメイト同士で仮初めの姉妹になるルールがあり、万梨愛のルームメイトは「奇跡の白雪」とあだ名される高等部の白丘雪乃だった。誰に対しても心を開こうとしない万梨愛であったが、雪乃とともに謎を解いていく中で二人は絆を深めていく。
全体レビュー
百合×日常の謎という意外と今まで読んだことのなかったジャンルの一作。寄宿舎付きの女学校や疑似姉妹制度、心を閉ざした主人公など、王道すぎる設定が並ぶが、うまく料理されている。
ミステリーとしては、作中でも言及されているチェスタトンのブラウン神父シリーズを意識した4編の連作短編集となっている。ホワイダニットに重点を置いた作品が多く、「日常の謎」としても王道といえるだろう。全編を通して疑似姉妹制度が物語のスパイスにもなり、謎解きのカギにもなっている。チェスタトン流の逆転の論理もうまく働いており、満足できるクオリティの高さである。
各話レビュー
第一話:夜中に動く聖像の謎。途中に挟まる推理からも、探偵役である雪乃の優しさと博識さが伺える。あまりフェアではない気がするが、ブラウン神父だって大してフェアではなかった。
第二話:2通の手紙の入れ替わり。一番「日常の謎」らしい謎だが、いささか薄味にも感じる。その分百合成分が濃いのでOK。
第三話:テディベアバラバラ事件。解体の理由というものは古来からミステリーの一典型であるけれど、ここではきちんとテディベアだからこその答えが導き出されている。個人的にミステリーとしては4編の中で最も優れていると思う。
第四話:50年前の少女失踪事件の謎。学園の見取り図が出てきたり、過去の回想記を読み解いたりと、いかにもミステリーらしい仕掛けが多い。(その割には小技に終始している気もするが)
全体レビュー(再)
個人的に『セント・アグネスの純真』がミステリとしてそれほど傑出しているとは思っていない(第三話は一読の価値があると思うが)。それでもやはり、万梨愛の成長と少女たちの絆、青春小説と百合小説としての魅力が、この作品を輝かせている。間違いなく「日常の謎」の良作である。
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