新入生レビュー企画⑥早見一真『イノセント・デイズ』

日々月猫通りやnoteの連載で様々な企画を発信し、多数のレビューを執筆している新月お茶の会。この企画は、新入生の活動への参加ハードルを下げるため、まずは自分の好きな・書きやすい作品でレビューを一本書いてみようという企画である。6回目となる今回は、早見一真による『イノセント・デイズ』のレビューとなっている。

あらすじ:結婚し平穏な生活を送っていた一家が放火され、若い妻と2人の子供が犠牲になった。そこで浮かび上がった犯人は被害者一家の父の元彼女である田中幸乃。彼女は17歳のホステスの母の元生まれ、中学時代に強盗致傷の犯罪に手を染め、少年院に入れられていたという。出所後に更生をし、顔面を整形して新たな人生を歩んでいたものの最愛の人との別れに耐えられずストーカー行為を繰り返していた。いわゆる、「いかにもな」犯人の生い立ち。世論はこれを「整形シンデレラ放火殺人事件」と称し、注目を集めていたのであった。

書評:書店の店頭で見ることも多くドラマ化もされたイヤミスとしてとても有名な長編小説。この物語は主人公田中幸乃本人の視点ではなく、他の人から見た幸乃の姿が様々な人の視点を通して描かれている。殺人を犯してしまう環境ってこうやってつくられるんだろうなと言わんばかりの重く暗い過去。しかし、途中途中違和感を覚えることになる。幸乃の性格からは予想のできない殺人事件、そして元カレとの生活の実態、中学時代の犯罪の真実…。
そのすべてがメディアの提示する犯人像と相反する。まるで犯人は別人なのではないかとすら思えるように。どうしてこんな犯罪を犯すことになってしまったのか。そのように豹変してしまったきっかけはなんだったのか。 しかし非情にも時間は待ってはくれず死刑執行のときだけが着々と近づいていく。そんななか、たったひとりだけ幸乃の無実を信じる男がいた。

「あなたは自分の正義を信じ抜くことができますか」
これこそが本書のテーマなのではないかと私は考える。
あまりにも重い過去、全ての合致する証言、死刑執行を望む世論、そしてなによりも罪を否定しない田中幸乃本人の存在。幸乃が犯人なことに違和感を感じていた周りの人物も徐々に手を引いていく。それでもなお、無実を信じ再審を求める人の存在がここにはあった。私はここまで決意の強い人物を感じることは初めてであった。

そして激動のラスト。これこそは実際に読んでみて確かめて欲しい。この結末は、信じ抜いた男の努力と田中幸乃の意志によって作られたものである。たとえそれがどのような形だったとしても。
この本はミステリーとしても大変魅力的であると感じたが、それ以上にこの本からは潜在的に行っているかもしれない思い込みへの恐怖やそれに拮抗することのできる堅固な意志の存在を感じ取ることができたと思う。

それにこの本は実際の事件をモデルにしているんだからより一層興味深い。
まさかそんなことはないとは思いますけどねぇ。
意外とあったりするのかもしれませんねぇ。


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