新入生レビュー企画① 早坂吝『VR浮遊館の謎』
早坂吝『VR浮遊館の謎』
評者:水谷渓
人工知能探偵の相似とその助手である輔は、世界初のフルダイブVRゲーム機を用いた謎解きゲームに挑戦することになる。そのゲームはあらゆるものが浮遊している館で七人の参加者にそれぞれ一つずつ固有の魔法が与えられ、その魔法で他の参加者と戦いながら館に異変を起こしている犯人を当てるというものだった。ゲームの中盤、参加者の一人が身体中の骨を折られた死体となって発見される。それは「骨折りジャック」として巷を騒がせていた殺人鬼の凶行と酷似しており……
探偵AIのリアル・ディープランニングシリーズの4作目として刊行された本作は、フルダイブ型のVRゲームの中で物語が進行していく。そこでは魔法が使えるという設定なのだが、その魔法の効果がなかなか面白い。スタンダードなものとしては火球を放つ火の魔法、生物を石化する土の魔法などがあるが、特に面白いのは夢の魔法である。この魔法は対象に向けて呪文を唱えるとその対象の魔法と自身が持つ夢の魔法を交換するというものだ。これにより夢の魔法は参加者の間を転々としていくことになり、その行方を追うことが推理の鍵となる。万物が浮遊するVR空間の中という設定にこの魔法のシステムが加わることによって、本作は特殊設定ミステリとして難しく、そして何より面白くなっていると言えるだろう。
本作の一番の魅力はやはり解決編にあると言えるだろう。VRゲーム自体の用意された謎と、「骨折りジャック」という殺人鬼がなぜこのVR空間に出現したのかという謎、この二重の謎を主人公は相似の手助けを借りながら解き明かしていくことになる。真実として明かされるものが二転三転していった上で最終的に明かされる解答は、まさに驚天動地のものとなっており必見だ。
ここまで本作の魅力を語ってきたが、最後にこの作品について少し気になったことを述べておこう。この作品、ひいてはこの作者についても言えることであるが、要素を詰め込みすぎた結果やや強引に推理を進めてしまう節があるのだ。特に結末の部分には多くの読者がツッコミを入れたくなるのではないだろうか。とはいえ、私はこの作者が大好きである。肝心な部分ではロジックを通した上で、ここまでの要素や展開を詰め込める作者は唯一無二だと感じるからだ。この作品もその例に漏れず、特殊な設定や登場人物を存分に生かしており、解決編も含めて遊び心満載の大変魅力的な作品になっている。興味を持った方は、ぜひこのシリーズの他の作品も合わせて読んでいただきたい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?