中止を恥じることはない。日本の実力の反映 私権制限が嫌なら命を守るためにも断念を
🔻開催ありきの五輪
乖離する国民との意識
これほどまでに開催国の市民に祝福されないスポーツの祭典が過去あっただろうか。開幕まで2カ月を切った東京五輪・パラリンピック。新型コロナウイルスの変異株の猛威に晒され、医療の逼迫を目の当たりにすれば、「それでも五輪を開催するのか」という、メディアの世論調査で示される冷酷な数字は当然だ。第3波を抑え込む間もなく、第4波が到来しながら、効果的な手が打てない菅政権。頼みのワクチン接種も、各国に比べ周回遅れの最低水準。国民の不満は爆発寸前だ。
4月下旬に「短期集中型」と称して発令した3回目の緊急事態宣言は失敗に終わり、延長と対象地域の拡大を余儀なくされた。危機感が一向に伝わらない菅義偉首相に対する視線は、日増しに強まり、内閣支持率は再び下落。野党が明確に反対を唱え、経済人も「五輪開催は自殺行為だ」(楽天グループの三木谷浩史会長兼社長)と批判の声を上げる。国家イベントの「祝祭」は、国論が真っ二つに割れる不幸な事態に陥り、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、また東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」(1月の首相施政方針演説)も空しく響く。
5月10日の衆参両院の予算委員会でのやり取りは、この国のトップリーダーの対話力欠如と、衆院選を睨んだ野党の魂胆が露呈した。
野党「東京五輪・パラリンピックの開催と感染症対策の両立は不可能と言ってもいい」
菅首相「安心、安全な大会の実現に全力を尽くすのが私の責務だ」
野党「感染ステージが3や4でも開催するのか」
首相「選手が安心して参加できるようにし、同時に国民の命と健康を守っていく。これが基本的な考え方だ」
野党「水際対策への反省もなく、五輪だけうまくいくというのは幻想だ」
首相「国民の命と健康を守る」
野党「中止を判断しないのか」
首相「選手や大会関係者が安心して参加できるようにし、国民の命と健康を守る」
野党「優先すべきは国民だ。五輪選手団へのワクチン無償提供に国民は納得するか」
首相「既存のワクチン供給(計画)には影響を与えない。高齢者らへのワクチン接種に支障が生じないよう早急に対応を検討したい」