相互不信を増殖させ続ける未曽有のコロナ禍 人類社会の長く続く深い傷になりかねない

誰も人類のことなど考えていない
なぜ俺たちが考えなきゃいけないんだ

 新型コロナワクチンをめぐり、先進国間で争奪戦の様相を呈している。国力による格差も大きい。大国が途上国への供給で勢力拡大を図る構図も鼻白む。ブラジルからの報道では、接種のフリだけする「空打ち」によってワクチンを横流ししている疑惑も浮上した。未曽有のコロナ禍は相互不信を増殖させ続ける。

 たとえ感染症としてのコロナ禍は収束しても、過程で露呈した「グローバル」「国際協調」の心もとなさは長く尾を引くだろう。

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は「村が燃えている時、少数の人々が自分の家だけは守ろうと消火器を買い占めても意味はない。全員が一斉に消火器を使えば消せるのに」と訴えるが、「自国ファースト」や「背に腹は」の傾きはなかなか改まらない。

 「誰も人類のことなど考えていない。政府も考えていないのに、なぜ俺たちが考えなきゃいけないんだ」とうそぶいたのは、1949年のイギリス映画「第三の男」(キャロル・リード監督)の主人公ハリー・ライムだった。

 戦後間もない、英・米・仏・ソ分割占領下のオーストリア・ウィーンの闇社会に生きるハリー。当時極めて貴重な抗生物質ペニシリンを水で量を増して横流しし、暴利をむさぼっていた。この粗悪なペニシリンのために、多くの幼子らが死亡したり廃人になったりしたが、ハリーは意に介しない。そしてその非道を責める旧友に笑みをもって言うのだ。

ここから先は

1,944字
この記事のみ ¥ 200