大災害の後は社会が変わる 「コロナ以前」vs「コロナ以後」
ペストはルネサンスを起こし
コレラはアフターヌーンティを生んだ
大災害は隠蔽されていた社会の矛盾を明らかにし、しばしば時代の転機となる。新型コロナのパンデミックも、五輪メダル数に浮かれている間に爆発的感染拡大を引き起こしてしまったが、いずれは収束し、その後は毎年ワクチン接種をするインフルエンザ並みになるのではないか。だが、コロナをめぐる騒動が炙り出す時代の問題点を見逃してはいけないだろう。
14世紀ヨーロッパでのペストの大流行はルネサンスの引き金になった。猛威を振るう黒死病に無力な教会は力を失い、行き詰まっていた封建社会が終焉に向かう。「死」と向き合った欧州の人々は次第にサイエンスや文化に目覚め、1世紀後、ルネサンスが花開く。
イギリスのアフターヌーンティも19世紀のコレラの大流行が生んだ。生水がコレラ菌を媒介するため避けられ、熱湯で入れる紅茶が飲まれるようになる。それが定着して優雅なアフターヌーンティの習慣となった。
約100年前のスペインかぜは第1次大戦終結のきっかけになっている。大戦でヨーロッパに派遣されたアメリカ兵がウイルスを伝播したスペインかぜは3000万人以上の死者を出した。大戦による死者は1000万人である。士気を低下させたスペインかぜは大戦終結に大きな影響があった。
日本でも奈良時代に天然痘が大流行。仏教に救いを求めた聖武天皇が東大寺の大仏を建立した。天然痘は墾田永年私財法の引き金にもなった。墾田永年私財法は、開墾した土地の私有を認める法律である。これによって貴族や豪族が荘園を所有する荘園制が誕生した。
明治のペスト流行はネコの台頭をもたらしている。いまやペットの横綱格のネコだが、明治以前は野良ネコが主で愛玩動物の地位にはなかった。ところが明治30年代に死者数千名というペストが日本で流行する。その際、北里柴三郎はペスト菌を媒介するネズミ退治のために家でネコを飼うことを推奨した。それが家ネコを世に広めるきっかけである。