第13 回 三浦哲郎『忍ぶ川』
🔸平凡だが感動的な愛情物語
恋愛小説の古典ともいうべきもの
三浦哲郎の代表作『忍ぶ川』ほど平凡だが感動的な愛情物語は少ない。恋愛小説の古典といってもいいと思う。
冒頭は主人公である私が恋人の志乃を深川に案内するところから始まる。私は早稲田大学に学ぶ大学生、志乃は大学に近い小さな料亭「忍ぶ川」で働く仲居だった。「忍ぶ川」は学生の身で簡単に行ける店ではなかったが、寮の仲間の送別会の席の後、数人で繰り出すことになる。私は水を運んできた志乃に「あしたもくる」と強がりをいい、そんなことが10日ほど続いて付き合いが始まった。