「英雄誕生」ゼレンスキーの言葉とリアリズム“百戦錬磨”大英帝国の末裔BPの引き際国民一人ひとりが大統領になった

ドラマを地で行った大統領
戦時リーダーの資質とは

 大いなる悲劇の中、世界は1人の英雄の誕生を目の当たりにした。ウクライナ大統領、ウォロディミル・ゼレンスキーである。

 彼の“前職”はコメディアンだった。舞台でズボンをずり落とすコントを演じたり、子熊の「パリントン」の声優も勤めていた。が、何と言っても、大ブレークしたのはTVドラマ「人民の奉仕者」の主役を演じてから。

 平凡な教師があれよあれよと言う間に大統領に選出され、汚職に塗れた国を立て直すという物語である。ゼレンスキーはドラマを地で行ったのだ。ちなみにゼレンスキーが創った政党の名はずばり「人民の奉仕者」党。

 当然ながら、まさかゼレンスキーが当選するとは、政治の玄人は誰も思わなかった。2019年、対立候補は現職のポロシェンコ大統領だった。親EU、親NATOであり、菓子メーカーを経営する資本家ながら、14年のロシアのクリミア分離、東部ウクライナ2州への侵攻に当たって、対ロシア戦を戦った実績がある。だから選挙戦でぶちまくった。

 「いくら才能あるタレントでも、ゼレンスキーには経験がない。弱い国家指導者はロシアという侵略者とは戦えない。プーチンから1発食らったら、とても立ってはいられないからだ」(シュピーゲル誌3月18日付)。

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