美女だらけの郵便局とトリニダード・トバゴ
急な坂道を登り切った所にある近所の郵便局へ、運動をかねて歩いて行くことにした。
久し振りに歩く坂道の左右には、新しい家が増え建設中の家もあった。空き地には『売地』の看板が立ち、初めて通る道のようだった。登り坂を一気に歩くと疲れてしまいそうで、足ではなく腰を動かすイメージで急がずに歩いた。すると意外と早く、楽に目的地に着いた。
前日、スマホに『郵便局の口座から引き落としがありました』と不信なメールが届いたので確認のために、ATMで通帳の記帳をすることにした。しかし、何も怪しい引き落としは記録されていなかった。安心して窓口へ行き、値上がりして85円になった年賀状を10枚だけ買った。世の中は、年賀状仕舞いが増えているらしい。我が家も同じような考えだが、返信用として少し準備することにした。
お釣り150円と年賀状を受け取りながら、郵便局の雰囲気が以前と違うと思った。珍しく私以外にお客さんは1人もいなかった。
窓口に女性が4人いて、奥の机では男性が1人で事務をしていた。何だかその男性が寂しそうに見えた。
「女性の方が多いですね」と私が驚くと、立っていた中年女性の職員さんが「美女がいます」と言いながら、右手で頭の側面から首筋を撫で身体を若干しならせ色気を演出された。そして一言「冗談ですよ」と楽しそうだった。
「美女だらけですね」と私は笑った。
私が帰ろうとして自動ドアから出ると、若い女性が1人で玄関を掃いていた。全部で女性が5人だ、と更に驚いた。全員マスク着用だったが、おそらく20代から60代の美女たちだとお見受けした。
私が40代の頃2年間パート勤めをした郵便局だったので、当時と比べて随分女性が活躍する職場になっていると、時代の変化を感じた。
テクテク下り坂を帰りながら、当時の懐かしいエピソードを思い出した。
私は、郵便窓口で郵便物の受付と切手や葉書販売の仕事に携わっていた。ある日、浅黒い小柄な外国人の女性が、海外に出す封書を窓口に出した。宛先は『Trinidad』と書いてあった。私が「トリニダードですか?
トバゴは付かないのですか?」と尋ねると、彼女は「Oh!and Tobago」と言ってそれを追記した。鹿児島の某大学で教師として活躍する女性だった。
私がトリニダード・トバゴの国名を口にするのは中学生以来のことで、長い時を経て地理の勉強が役立ったと本気で思った。
夕飯時に、その出来事を3人の子供たちに話した。
「こんな勉強をして何になるの。と思うことがあるかも知れないけど、無駄な勉強は無いからね、今日、お母さんは実感したよ」と自慢げに言うと「凄い確率だね」と高校生の長男が冷静に分析した。
「アハハ、そうだね」と私は笑った。
完