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姉弟
お正月ぶりに娘がウチに帰ってきた。
「お母さん、なにか着るもの貸して~」
「ジャージでいい?」
「ありがとう」
娘はさっさと着替えて、以前のように寛いでいる。
ご飯を食べながら弾丸のようにお喋りをして、他の3人はふむふむとその話を聞き…昨年半ばまでは普通にあった光景が、束の間ではあったけど自然に戻ってきていた。
「お母さん、このジャージどこで買ったの?すごく楽で着やすい」
「それネットでめちゃくちゃ安かったの。よかったらあげるよ?」
ふふふ、と娘が笑ったので、なに?と聞いたら、
「〇〇(息子)に『このジャージめちゃ楽』って言ったら、『かぁちゃん絶対にあげるって言うから聞いてみたら?』って言われたの。そしたら、ほんとにお母さん『あげる』って言ってくれたから」と笑った。
息子は優しいのだけど、ドライに感じることも多い。「人は人、自分は自分」を徹底する子で、誰のことも思いやる娘とは優しさの方向性が違う。
でも姉のことは無条件に大好きなので「かぁちゃん絶対に『あげる』って言うよ」というようなアシストも姉にならするし、帰ってくるとわかれば、食器棚の奥から姉のお茶碗と湯飲みを出して洗っておいたりもする。
娘も弟のことが大好きなので、その日も夜遅くまでゲームをしながら、ずっと楽しそうに話していた。
娘と息子が仲良くしているのはとても嬉しいことだ。
兄弟は他人の始まりというけれど、娘が結婚しても、ふたりの距離は大きく変わらない。
いいか悪いかはともかく、ふたりにとってはお互いがこの世の中で一番気の置けない相手なのだ。
何でも話し合えるし、口にしなくてもわかってもらえる。
友だちにはない、夫婦にもない、絶妙な距離感がふたりの間にはあって、親からするとホッと安心する気持ちも大きい。
「お母さんのチョコだけ数が多いから男子には内緒でね」と言いながら娘がチョコをくれた。
でも、息子にチョコを渡すときにも小声で何か言っていたので、きっとスペシャルなチョコなのだ。息子はめったに見せない満面の笑顔だった。
次の日「うわー、帰りたくないよ~」と言いながら娘は帰っていった。
息子に「チョコ、トレードしようよ」と言ったら、息子は「ちゃおに食べられちゃったからもうないよ」と言った。
「そういうところがちゃおらしいね」と言うと、息子はニコニコして肯いた。
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