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ホームシック
先日、娘が引っ越していった。
娘はウチでは一番広い部屋を占有していた。
にもかかわらず、そこに収まりきらないものがリビングにも進出していた。家族のだれもがほんとに片付くの?と思っていた。
ところが、置いていくだろうと予想していた、オタクにありがちな大量のグッズ、これまた道楽である洋服も(少しは処分していたけど)きちんと箱に入れ、ほんの少しのぬいぐるみを残してちゃんと新居に運び込んだ。
がらんとした娘の部屋には今、置いていったベッドと、ぬいぐるみと、姿見が打ち捨てられたようにあるだけだ。
引っ越した当日の夜「寂しいよう」と早速LINEを送ってきた。
「〇〇さん(お相手)がいるでしょ。今日めちゃニコニコしてたから、きっと一緒に暮らせるのが嬉しいんだと思うよ」と返した。
お相手は、何回かお会いして、いつも口数少なく物静かで、あまり感情を表に出さない人だなという印象だったけど、引っ越しの日は愛想が良くとても嬉しそうだった。
それは娘にとって大変ありがたいことなのだけれど、当の娘は早くもホームシックになっているのだった。
「ちゃうねん、ここと実家では取れる栄養が違うんよ」
ん~わからなくもないが、だからといって引っ越し早々母親とLINEしている娘を見て、お相手もいい気はしないだろう。
娘は次の朝もLINEを送ってきた。
「昨夜寂しくてべそべそ泣いていたら『そのうち慣れるよ』って慰められた」
どこまでも優しく、娘の何もかもを承知で結婚してくれたお相手だけれど、それでも娘はまだ何もかも委ねられる気持ちではないのかもしれない。
大した甘やかしように映るだろうけれど、私もそんなにすっぱりと手を離せるものではないな、と感じている。
私は18歳の時に実家を出た。
中学生のころにはもう「早く実家を出たい」と考えていた。
晴れて引っ越した日には解放感でいっぱいで、その後もホームシックになることはなかった。
独りって、自由って、なんて素晴らしいんだろう、という思いしかなかった。
縁があって結婚したし子供にも恵まれたけれど、今はもう一度独り暮らししたいと思っている。
同じ空間に誰もいない生活がしたい。
なので、「誰かひとがいないと寂しくて仕方ない」という娘の気持ちはさっぱりわからない。
それでも、娘のLINEはだんだん間遠になってきた。
「初めてふたりでご飯を作ったら、カレーが10人分くらいできた」
自炊はしないと言っていたけど、いろいろチャレンジしているんだね。
きちんと話し合いができるふたりなので、何も心配していない。
私は独りの時間が少し増えて素直に嬉しい。
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