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ベン図の重なり

夏休みの宿題は7月中に終わらせてしまうような性格なので、仕事も早い。
たんに、自分のところで停滞している状況に耐えられないので、爆速で次に投げることだけに注力していて、つまりクォリティは二の次なのだが、仕事が早い人のところには次々に仕事がやってくる。
それは私の領分じゃない、という仕事も来る。
「私の領分じゃない」とやんわり断ることもあるし、「私の領分じゃない」と言いながらやってしまうこともあるし、黙って請け負うこともある。
ポリシーは何もなく、単に全体を見て請け負った方が早く回ると思えば黙ってやるし、少し余裕がありそうなら断る。

という愚痴が、業者さんとのやり取りで思わず口をついて出た。
「それもいしいさんにお願いしていいんですか?」と聞かれたので、「いや、私の仕事じゃないです、本来。でも私がやるのが早いからやります」と正直に答え、業者さんの苦笑を引き出した。

これは老害の繰り言だけれど、みんな自分の領分を昔に比べて狭く設定しすぎでは?と感じる。必要最低限しかやらないし、そこから1ミリもはみ出さない。
ベン図の重なりには絶対に手を出さないどころか、ベン図が絶対に重ならないように、そこに異常に気を遣う。
仕事は誰かの責任においてするものなので、安易に手を出したり、一度出した手を引っ込めたりするのはよくない。
自分の領分を守り、自分の領分の範囲で責任を持つのが良い。
でも、どうしてもどこにも属さない業務が出てしまう。

ウチの仕事は、タイルのマス目のようにきれいに業務が区切れるわけではない。ここまではウチの島、そこから先をまっすぐな線で仕切れるような仕事ではない。
みんながみんな自分の領分の仕事しかしないと、どこにも属さない仕事が取りこぼされる。だから、本来の業務から少しずつはみ出して、いつもベン図が重なっているほうがいいのに、とこれも業者さん相手だから老害の繰り言が止まらない。

「ま、そんなもんですよね、損をしたくないんですよ。人より多く仕事をしたって誰も評価してくれないし、給料が上がるわけでもないし、見て見ぬふりが一番いいんですよ」
「あ~、じゃぁさっきやるって言ったあれはナシで。〇〇さんにお願いしてください、そっちのほうが近いんだもの」
「いや~、待ってください、いしいさんがやってくれると早いから」
「それじゃ私が損するでしょ、損したくない笑」

実際には、私はできるだけ損にならないように、業績評価面談みたいな場では「これだけのことをやりましたっ」とアピールするし、たぶんアピールしなくとも、私がそういう誰にとっても得にならない仕事を拾っていることはボスもわかっているから、それなりに評価を得てけっきょくのところ私は損をしない。

でも、こういう属人的な仕事の仕方しかできない組織が一番ダメなわけで、そこから脱するためには、やっぱり組織のベン図を少しずつ広げて重ねておかねば、と業者さんに押し切られながら思った。





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