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基礎練習
娘は絵を描くことが好きで、それを仕事にもしているのだけど、
「最近スランプで~」と話し始めた。
「正面とか後ろ姿は描けるけど、上から見下ろしたり、下から見上げる構図が壊滅的にダメ」と言う。
娘の言う「壊滅的にダメ」は一般人からすれば「どこが?」というレベルだけど、音楽然り芸術という分野においては満足という言葉がないので、どこまでいってもダメなものはダメなんだろう。
私は絵を描くこと自体が壊滅的にダメだけど、真上や真下からの構図は実際難しそうだと想像がつく。
「前も似たようなこと言って集中的に習っていたことあったよねぇ」と私。
拳を突き出された絵を描いたとき、
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「腕に立体感がない」と相当悩んでいた。
私が持っていた人体解剖図の本を貸したり、球体関節モデル人形を買ったり本を買ったりいろいろしたけど、けっきょく講師についてデッサンを一から学びなおしたのだった。
「ピアノってさ、ハノンっていうメカニックな基礎練習があるんだけど、先生もそれ今もやってるんだって。Twitterでいろんな音楽家をフォローしてるけど、ヴァイオリンもフルートもトランペットも、どんな楽器の人も、プロで活躍しているような人もみな一様に『スケール練習が一番大事』って言うよね。1000人いたら1001人が言うよ。けっきょく基礎なんだよねぇ」
「やっぱり~」
「本当にごく一握りの人だけが、曲を弾きながら練習できるらしいけど、凡人は地道に基礎練習するしかない」
「好きな絵だけを描いていてもうまくならないんだよなぁ、わかっちゃいるけどさぁ」
「だよねぇ。好きな曲の練習はいくらでもできる。でも、表現するためのスキルって好きな曲の練習では身につかないんだな、って最近分かってきた」
「ぐわー!耳が痛すぎる」
「言うて私も全然してないけどさ」
そう、描きたい絵だけ描いていても、弾きたい曲だけ弾いていても上達しない。誰もが言うように、地道な基礎練習の積み重ねがあってこそなのだ。
先日、忘れな草を初めて全部通して弾くことができて、先生に「弾いてみた率直な感想はどうですか」と聞かれ、そういう答えは求められていないだろうなと思いつつ「弾きたい曲の練習は全く苦になりません」と答えた。
でも、本当にそう。
私はBEYERの曲も好きだけど、難しいとたまに不貞腐れてやめちゃう。
忘れな草のほうは全然へこたれない。
いつまででも練習できるし、アイデアが無限に湧いて出る。
でも、こういうふうに弾きたい、というためのテクニックが私にはまだない。
基礎は一朝一夕には身につかない。
そのことを日々痛烈に実感している。
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