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心の体力

最近、映画館に足が向かない。

最近?
いや、たぶんここ数年くらい。
「ヒトラーのための虐殺会議」
を映画館で見たのがもう1年以上前。
その前は「SING」でさらに1年前。
月に2本以上は映画館で見ていた頃がウソのようだ。

映画館に足が向かないのは、不用意に心を削られたくないからだ。
映画というのは心を削られてなんぼのものだと思うが、最近はそれがすごくしんどい。
心を揺さぶられたり、傷ついたり、凹んだりしたくない。
それを映画館の大きなスクリーンで、大音量で受けたくない。

変な話だけど、殺人の場面はむしろ平気だ。
その前段階の、虐待や暴力、怒鳴り合いの場面が駄目だ。
それが子どもだったりしたら、嫌な気持ちにしかならない。
そういう場面は得てして嫌な気持ちにさせる意図があるものだけど、生々しく描写されるのを見せつけられたくない。

では逆に、ハッピーな、心温まる、ホッとするような映画がいいかというとそれも違う。
そもそもハートフルな映画は埒外で、ほとんど見たことがない。

映画では胸糞悪くなりたいのだ、基本的に。
バッドエンドが大好きなのだ。
ミストとか、縞模様のパジャマの少年とか、セブンとか。
あ、ダンサーインザダークはちょっと勘弁してほしいけど。
後味悪い映画を好んで見てきたといってもいい。

なのに、最近、そういう映画をしんどく感じる。
仮に救いのある終わり方だったとしても、途中感情が振り回される予感があるだけで、もう見にいけない。
感情が動かない映画などあるわけがなく、けっきょく映画館に足が向かない。

そういえば、美術館にも行ってない。
こちらは、物理的な距離の問題と、時間をかけて、混んでいる場所にわざわざ出向く、と考えるだけでげんなりしてしまう。
一日3軒くらいの美術館のはしごがあたり前だった私の体力はいずこ。

そう、体力がないの、心の体力。
清濁何でも貪欲に吸収しようとか、感情が思い切りぐちゃぐちゃになった後の一種のカタルシスを味わいたいとか、そんな心の体力が、まったくない。

疲れてるというのとも違う。
歳のせいなのか。
なんというか、今はしばらく穏やかに凪いでいたい、という感じ。

興味惹かれる映画はたくさんあるけど。
足が向かない。


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