北風と太陽
「いしいさん、こういうの買いたいんですけど、いいですか?」
「あ~いいですよ~。好きなの買ってください」
「いくつか候補出しますね」
「ん~面倒だから、いいと思ったら買って。事後報告でいいです」
私が自由に動かせるお金はそんなに多くないけど、使い方は決まっている。
より安全なもの。
より便利になるもの。
より楽になるもの。
そうであれば、ざっくりと〇円以内なら私の承諾なしに買っていい、ということにしている。
今回は特殊なものだったので聞いてきてくれたけど、初めて買うものであっても、今よりみんなのためになるものなら自由に買っていい、と言ってある。それがたとえお菓子でも。
ウチの職場は遅々としてIT化が進まない。
ボスの頭が古い、かつ自分の頭が一番新しいと錯覚しているおかげで、古いもの、古いやり方がいつまでも幅を利かす。
メールのccに誰を入れた入れないで面倒が勃発するので、slackを導入してほしいとプレゼンしたことがあるが、いつもの「自分が知らないものは悪いもの」という謎論理で却下されてしまった。
たぶん、知らないから不安、という以上に、自分の知らないところでやり取りが発生するのが嫌なんだろう。
メールだって、LINEだって、いくらでもボスの知らないところで悪口が交わされているのに、メーリングリストがあれば死角なしという根拠のない自信はどこから来るのか。
それを知るにはアマゾンの奥地に行くしかない。
部下が勝手に買って無駄になったら嫌だから、全部自分で確認してから指示を出す、というリーダーもいる。
ボスと同じで全部自分が知っておかなければ気が済まないタイプ。
もちろん、そのほうが全体を掌握できていいだろう。
私がそれをしないのは、一にも二にも面倒くさいからだが、みんなを無条件に信頼している、ということもある。
一応私が決裁している体なので使途不明にはならないが、実際には私は使い道を詳しく確認しないし、確認してないことをみんなも薄々気づいているので、私的流用しようと思えばできる。
なので、悪いことを考える人がいるかもしれない前提で動くべきなんだろうけど、そんなせこい人はいないんじゃないかな、という信頼と楽観がある。
実際、新しい人が入ってきたこの半年で、いろいろなものを買い、全て省力化につながっていると感じる。
へぇ、こんな便利なものがあるんだねぇ、と感心することも多い。
もちろん、これ必要なかったな、というものもないわけではない。
でも、買った人にはそこに問題意識があったわけなので、買ってどうしたかったのか、何を目指していたのか、聞いたらいいだけだ。
場合によっては、買い替えることもある。
その人の働きやすさは担保したいし、多少の無駄が出ても、部署のためになる、ひいては全体のためになる、という視点があれば、それでいい。
こんなに自由にしていても、案外無駄遣いされないものだ。
なので、品物よりもお金の使い方を指示したほうが楽なのだ。