ざっくり学ぶ「協奏曲」早わかり!
序章・協奏曲とは?
「協奏曲」…「キョウソウキョク」と読みます。英語では「コンチェルト」と言われています。ピアノやヴァイオリンなどの「独奏楽器」とオーケストラが一緒に演奏するスタイルの楽曲のことです。
ヴィヴァルディやバッハ、ヘンデルなどバロック時代から、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、ドヴォルザーク、ラフマニノフなど現代に至るまで多くの作曲家が協奏曲を作ってきました。
たくさんの作品があるので、いろいろな協奏曲がオーケストラの演奏会で取り上げられます。
「ソリストとオーケストラが協奏(協力、協調)して作り上げる楽曲」が「協奏曲」。しかし、時には「ソリストとオーケストラのガチンコ対決」のような様相を呈する…そんな時もあります。でもそれはごく稀なことです。ガチンコでがっぷり四つに組む場合もあれば、ソリストに主導権がある場合や逆にオーケストラがコントロールしているように感じる演奏があることもあります。とはいえ基本的にはソリストとオーケストラが協力して作り上げられるのが協奏曲です。
オーケストラの演奏会の一般的なセットリスト(座組)は、まず短めのオーケストラ作品を演奏して、その後協奏曲、休憩を挟み後半に交響曲などの管弦楽作品を演奏するカタチがおおいのですが、それを料理のコースに倣えば前菜やスープが短めのオーケストラ作品、メインの魚料理が協奏曲、そしてメインの肉料理が交響曲などにあたります。時に交響曲を真ん中にやり協奏曲を後半に演奏する場合もあります。そのような時というのは、その協奏曲が長さや内容ともにボリュームがある場合や、ソリストが超人気看板メニューになっているコンサートなどです。しかしそれはあまり多いパターンではありません。
第2章・協奏曲のエリアには「4つのカテゴリ」がある!
協奏曲のエリアの話をするまえに、協奏曲の一般的な形式を知りましょう。これも決まった型があるようでないものですので、さまざまな形式があります。ここでは最も一般的な協奏曲の形式パターンを知りましょう。
まず、曲は3楽章形式のことが多いです。そして形式上の色々な都合で第1楽章が1番長いことが多く、曲の半分以上は1楽章…という曲もあります。
第2楽章、大体は「緩徐楽章(かんじょがくしょう)」というゆっくりとした美しい楽章です。
そして第3楽章はフィナーレに相応しいアップテンポな曲想が多いです。第3楽章は「ロンド形式」という形式で曲が書かれることが多いのですが、このロンド形式とはA主題のあとにB主題が登場し、またA主題が登場、その後にはC主題…のようにA主題や他の主題が何回も再登場するのが特徴です。「リング(輪っか)」のような形式となっているのがロンド形式。その効果は「繰り返されること」に由来する心理的な高揚感を促すことといえます。
このような形式でできている協奏曲ですが、大まかに分類すると次の4つのエリアカテゴリに分類されます。それらのエリアが様々に組み合わさっていることを知ると、よりシンプルに楽しく、もしかしたら飽きることなく鑑賞できるかもしれません。
カテゴリ1「ソリストのみで演奏する部分」
文字通りソリストだけで演奏する部分。その楽器の音色やソリストの技量や音楽を楽しめます。特に長大で技術的にも難しい部分が協奏曲には必ずあります。それを「カデンツァ」といい、協奏曲の聴きどころのひとつです。
カテゴリ2「オーケストラだけで演奏する部分」
こちらはカテゴリ1とは逆に、ソリストは演奏せずにオーケストラだけが演奏する部分。曲の冒頭やカデンツァ明けの部分、曲の最終部分などにこのようなエリアがおかれます。この先に演奏する交響曲を楽しむ耳慣らしとして、またオーケストラのサウンドや各パートの音楽を楽しむことができる部分です。
カテゴリ3「ソロが主体となりオーケストラがそれに寄り添う部分」
この部分はソロがメインの動きをする中で、オーケストラが和音を添えたり、対旋律で彩りを添える部分で「オーケストラ伴奏型」エリアです。協奏曲の楽しみを最も味わえるのがこの部分と言えるかもしれません。
カテゴリ4「オーケストラ(全体もしくはパート)が主体となり演奏する部分」
こちらは独奏楽器がオーケストラのメロディーに和音やアルペジオ(分散和音)などで「裏方」に回る部分です。オーケストラの作品の中には編成にピアノが入っていることがあります。このピアノパートのことを「オケ中」のピアノと呼びますが、ソリストにその「オケ中」を担当させるという贅沢な部分。言わば「ソリスト伴奏型」エリアです。クラシック音楽に少し詳しくなった人はこのような希少な部分に注目したりします。
この4つのエリアの組み合わせにより協奏曲は作られています。
第3章・ボク的、協奏曲の注目ポイント
協奏曲の形式やエリアの特徴についてこれまでおはなししてきました。それを踏まえてボクが協奏曲を鑑賞するときに特に注目してほしい「ボク目線のオススメポイント」をお伝えしましょう。
1・カデンツァ
何と言っても最大の聞きどころは「カデンツァ」。ソリストの超絶技巧が楽しめます。ベートーヴェンあたりまでの作品では、楽譜には「カデンツァ」とだけ書かれていて、カデンツァの最後の部分だけが書かれています。
ロマン派以降の作品では作曲家の手によるカデンツァがちゃんとスコアに書かれていて、例えばラフマニノフのピアノ協奏曲第3番では2種類のカデンツァが書かれ、それぞれ「大カデンツァ」「小カデンツァ」といわれています。
カデンツァ部分の楽しみについてはもちろんソリストの演奏を味わうことなのですが、そのほかのお楽しみポイントを挙げてみることにします。
注目ポイント1・「カデンツァ時のオーケストラメンバーや指揮者の動きや表情」に注目!
カデンツァのときは、オーケストラは休みになっています。カデンツァを演奏しているときのオーケストラの様子を見るのは密かに楽しいです。演奏に耳や目を向けている人が大半ですが、カデンツァ時でもソリストやオーケストラを注意深く見守っている人もいます。時折、目をつぶっている人がいますが決して寝ているわけではないです。静かに瞑想して音楽に没頭しているのです。そのような中で特に注目したい人物は2人・・・それはオーケストラのリーダーであるコンサートマスターやソリストとオーケストラの仲介者たる指揮者です。
一応ボクは指揮者ですが、カデンツァの部分をいわば「特等席」で聞くことができる場所にいます。ピアニストやヴァイオリニストの美しい音色に耳を傾け夢心地・・・そのような印象を持たれるかもしれません。半分くらいは当たっているのですが、実はカデンツァの間、指揮者(もしかしたら僕だけ?)はまったく気の抜けない緊張感でいっぱいなのです。
このカデンツァ、結構長いのです。そしてその後にはオーケストラが演奏する部分がやってきます。そのオーケストラの「キュー出し」は指揮者の任務の中でも大切なもの。上手くいかなかったら演奏は台無し、オーケストラからの信頼もガタ落ち・・・考えただけでも胃が痛くなりそうです。しかもその「カデンツァ明け」の部分の指揮がとても難しかったり、一回聞いたり楽譜を見たりするだけではどうにもできない部分が多いのです。そういうのも軽々こなす天才指揮者もいますが、僕は残念ながらそういうタイプではありませんので、とにかくあの手この手でその「カデンツァ明け」の攻略に時間を費やします。
カデンツァの間は基本的に指揮者はソリストの演奏に合わせて「指揮をする」ことはありません。指揮棒を下ろしてソリストのカデンツァに耳を傾けています。そしてオーケストラが入る数小節前に指揮棒を構え「カデンツァ終わり!そろそろオケの出番!」といった感じでオーケストラにそれを示します。このタイミングがなかなか難しい・・・早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけないのです。その絶妙な「用意!」のタイミングは、カデンツァの把握と経験から成し遂げられるものです。早すぎても「あれ、もう少しあるのにな・・・」となり、オーケストラの前で恥ずかしい思いをしますし、逆に遅すぎても「こいつ、曲知ってるのか?」ということになりかねません。指揮者、というか僕にとっては本当にドキドキする時間帯です。
そんな時、頼りになるのが百戦錬磨のオーケストラのリーダー、コンサートマスターです。コンサートマスターも指揮者同様(いや、それ以上かもしれません)に曲を把握し、ソリストの動きやオーケストラの各パートの動きを熟知しています。また曲によっては当日の指揮者よりも遥か多く協奏曲を演奏してきていることが多いので「この辺でオケのでの準備をしよう」と思ったところでオケを見渡し、楽器を構えます。大体の場合はそれを確認してオーケストラも演奏の準備をすることが多いです。本当は全てを指揮者の手柄にしたいところですが・・・それだけコンサートマスターというのはオーケストラの中で重要なポジションなのです。名誉のために言いますが、大体はその「構えのタイミング」は指揮者とコンサートマスターで一致していることが殆どです。たまに・・・指揮者がすごく早く構えてしまったり、逆に直前になって構える・・・みたいなこともありますが、それはライブ演奏ならではの「ご愛嬌」ということで・・・。
また、ソロの途中で、オーケストラの音を1発「ジャン!」とか「ポン!」と入れたり、和音の伸ばしのタイミング出しや終わりの切りの動作をすることがあります。そのような部分は特に難しいと感じます。そのような曲を指揮するときには何日、いや何ヶ月も前から脳内で対策をしたり、また心配したりしてしまいます。だからこそ、そのような部分がピタリとハマるとものすごく気持ちがいいです。この場合もコンサートマスターが安心のサポートしてくれますし、親切なソリストさんはその合図をわかりやすく指揮者とオケに出してくれます。このような親切や助け合いで協奏曲の演奏は成り立っているのです。
このような「オトの助け合い」が協奏曲であり、オーケストラなどの合奏、アンサンブルなのです。
注目ポイント2・イントロ部分のソリストに注目!
協奏曲の序奏、つまり「イントロ」にはいくつかのパータンがあります。そのパターンをまずはご紹介。
・オーケストラだけ演奏型
・ソリストだけ演奏型
・一緒に演奏型
大きく分けてこの3つに分類されます。この中の「一緒に演奏型」には多彩なヴァリエーションがあります。オーケストラが1発「ジャーン」とやったたらソロだけになったりするパターンも結構あります。ベートーヴェンのベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第5番「皇帝」》やシューマン《ピアノ協奏曲》、グリーグの《ピアノ協奏曲》などがそれにあたります。「ソリストだけ演奏型」にはベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第4番》やラブマニノフの《ピアノ協奏曲第2番》などがあります。
ベートーヴェン以前、たとえばモーツァルトやハイドン、そしてべートーヴェン以降の作曲家でも、例えばブラームスなどの協奏曲には「オーケストラだけ演奏型」のイントロが多いです。ドヴォルザークの《チェロ協奏曲》もこのパターンに当たります。このパターンでは演奏が始まるまで結構な時間がある曲が多いです。指揮者の僕はオーケストラを指揮することで手一杯ですが、自分の演奏が始まるまでのソリストの表情や振る舞いも人それぞれで、その人の性格や人柄のようなものを窺えることが多いです。この「出番待ち」の時間帯のソリストに注目するのも協奏曲の一味違った楽しみ方だと思います。
ある人は嬉しそうにオーケストラを眺めています。またある人は落ち着きなく、何度も何度もハンカチで手汗を拭いています。本当に緊張しているのがわかる方もいますし、逆にものすごくリラックスしている人も。あまり遭遇しませんが、客席を眺めたりしているソリストもいますが、流石にお客さんに話しかけたり、スマホをいじったりする人にはまだ出会っていません。
終章・さぁ、協奏曲を観に(聴きに)行こう!
ここまできたら、もうみなさんは協奏曲について大体を知ったといっても過言ではありません。あとは実際にコンサートホールの客席で、今までのことを思い出しながら鑑賞するだけです。「でも・・・どの演奏会に行けばいいのかわからない」という方!ここは新日本フィルのnote班ですよ!!新日本フィルは今シーズンも定期演奏会や「すみだクラシックへの扉」などの主催公演をはじめとして多くのコンサートで協奏曲を取り上げます。
ここで今シーズンの協奏曲ラインナップを、定期演奏会を中心にご紹介します。興味のある協奏曲を選び、ぜひ会場でお楽しみください。公演の詳細は新日本フィル公式サイトで最新情報をチェック!
ベートーヴェン;ピアノ協奏曲第1番(3月21日、22日・すみだクラシックへの扉#21)
ベートーヴェン初期の傑作をパリ生まれ、ウィーンで学んだアンヌ・ケフェレックのピアノで聴けるコンサート。彼女はアカデミー賞を受賞した映画「アマデウス」の中でピアノ協奏曲を演奏しています。上岡前監督とNJPの安定したサポートの中に、新たな発見があるかも?
チャイコフスキー;ピアノ協奏曲第1番(4月12日、13日・すみだクラシックへの扉#22)
ホルンが演奏するイントロは、きっと一度は聴いたことがあるはずです。演奏頻度でも1、2を争うチャイコフスキーのピアノ協奏曲を人気のピアニスト角野隼斗の独奏で。佐渡監督との「アパッショナートな」ぶつかり合いに期待が高まります。冒頭は「オーケストラだけ演奏型」ですが、すぐに独奏ピアノが登場します。ピアノ協奏曲では珍しい「オーケストラが主体となって独奏楽器が伴奏」のスタートスタイル。贅沢かつ革新的なチャイコフスキーのピアノ使用は聴きどころのひとつです。
ガーシュウィン;ラプソディー・イン・ブルー(6月21日、22日・すみだクラシックへの扉#24)
こちらはやや風合いが異なる協奏曲ですが、これも頻繁にオーケストラで演奏される「ピアノ協奏曲」です。ジャズやポップスの要素をふんだんに盛り込んだガーシュウィンの有名曲。小曽根真のイマジネーションとセンス溢れる演奏が今から楽しみ。冒頭のクラリネットのソロも聞きどころの一つ。曲の開始から目が離せません。
ドヴォルザーク;チェロ協奏曲(9月27日、28日・すみだクラシックへの扉#25)
チェロ協奏曲といえばこの曲。日本のクラシックファンの中では「ドヴォコン」と呼ばれています。郷愁誘うドヴォルザークの旋律の数々を、人気、実力とともにトップクラスのチェリスト宮田大の独奏で。久石譲がどのようなオーケストラのサウンドデザインでそれに彩りを添えるのか楽しみなコンサート。
メンデルスゾーン;ヴァイオリン協奏曲(11月29日、30日・すみだクラシックへの扉#27)
「ドヴォコン」がチェロ協奏曲の代表選手ならば、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」はヴァイオリン協奏曲の4番打者、ホームラン王といえる存在です。この曲は日本のクラシック音楽ファンには「メンコン」という愛称で親しまれています。この作品の冒頭は「一緒に演奏型」であり、カテゴリ的には「ソロが主体となりオーケストラが寄り添う」エリアからスタートします。哀愁漂う旋律が一気に聴き手を夢の世界に誘います。
アルチュニアン;トランペット協奏曲(2025年1月28日、2月1日・すみだクラシックへの扉#28)
「楽器の王」の別名(諸説あり)がある金管楽器トランペット。オーケストラでも大活躍ですが、トランペットにも多くの協奏曲があります、20世紀を代表するトランペット協奏曲といえばこのアルチュニアンの「トランペット協奏曲」です。トランペット奏者にとってのマスターピースで、各種コンクールやオーディションで必ず課題となる作品です。作曲家のアルチュニアンはアルメニアの作曲家、血気盛んで勢いのある旋律が魅力です。NJP首席トランペット奏者の山川永太郎が、このトランペット協奏曲のマスターピースをお届けします。佐渡監督とNJPとの共同作業(もしくは化学反応)に期待が高まります。
上記の作品、今年デビューから20年を迎えるボクも全て指揮をしたことがあります。どの作品もたくさんの思い出(多幸感から絶望感、アクシデントまで)がありますが、その思い出については改めて「オトの楽園」で綴りたいと思います。
一言だけ・・・どの作品も指揮していて幸せな作品ですが「カデンツァ明け」や「長いソロ明け」はどれも難しい作品です。次やるときはもっと上手にやれるかな?
(文・岡田友弘)