映画『ザ・フレンチ・ディスパッチ』
〝ウェス・アンダーソン〟という名前すら知らなかった僕が、なんとなく観に行った映画『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が、あまりにも難解だったので情報整理のために、あらすじを纏めてみた。
どうも曽川慎司(そがわしんじ)と申します。41歳です。広島の広告代理店に勤める傍ら、プライベートで広島の広告クリエーティブを盛り上げるためのイベントを企画・主催しています。2020年7月に第1弾、21年4月に第2弾、そして今年、22年の4月に第3弾を予定しています。
毎回、イベントのフライヤーを馴染みのイラストレーターさんに発注しているのだが、第3弾のアートワークを、フランスや東欧(チェコ ・ポーランド・ハンガリー)あたりの古びたポスターみたいな雰囲気にしたいなと思っていたところ、タイミングよくTwitterのタイムライン に流れてきたのが、映画『ザ・フレンチ・ディスパッチ』のメインビジュアルでした。
ひと目見て、こんな感じ!と唸りました。
早速、イラストレーターさんにも共有して、フランスや東欧のイラストで描かれた古びたポスターに加え『ザ・フレンチ・ディスパッチ』のアートワークも参考にしてもらいながら、あとはイラストレーターさん感性を信頼してお任せにしている。絶対に『ザ・フレンチ・ディスパッチ』みたいなビジュアルにしたい!という注文ではなく、なんとなくの参考として情報共有しました!的なノリだったので、わざわざ、映画『ザ・フレンチ・ディスパッチ』を観に行くまでもなかったのですが、気になると、とことん調べないと気が済まない性分なので、色々調べるうちに沼にハマりつつあります。
これが〝ウェス・アンダーソン〟沼ですか。
鮮やかな色彩で、左右対象の構図を、絵本のように可愛くて、どこかノスタルジックな独創的な世界観が存在する。
独創的な構図や色彩を持つ映画
そう聞いて、僕が最初に思いついたのが、フィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキの『街のあかり』や、小津安二郎作品を思い浮かべた。
映画監督ウェス・アンダーソンの作品は、「緻密な色使い」「細部にまでこだわった衣装や小物」など、小津安二郎やカウリスマキにも通ずる所があるなと思い、彼の作品を観てみたくなり、 映画『ザ・フレンチ・ディスパッチ』を観に行く前に、2014年に公開されたウェス・アンダーソン監督作品『グランド・ブダペスト・ホテル』を予習としてアマプラで視聴。
素晴らしいアートディレクションである。
確かに素晴らしいんだけど『グランド・ブダペスト・ホテル』を観た感想としては、小津安二郎やカウリスマキのような、哀愁とユーモアに溢れた作品と言うよりは、とことん「構図」や「色使い」にこだわったアート作品のような感覚を覚えました。
ウェス・アンダーソンという映画監督は、広告業界で例えるなら、フィルムディレクターよりも、アートディレクターとしてアサインして、コピーライターと一緒に企画した方が名作が生まれるんじゃないか!そんな期待をしてしまうほど、アートワークへのこだわりは、多くのウェス・アンダーソンのファンが支持する通り、独創的な構図や色彩感覚は唯一無二の「孤高の存在」である事に異論はない。
ただ「構図」や「色使い」に圧倒的なこだわりを感じる一方で、肝心の「物語」を観ていて「あれ・・?なんか取り残されてる?」って感覚を覚えました。
広告業界の話にまた戻すと、ウェス・アンダーソンはAmerican Express、PRADA、H&Mなど広告のお仕事も数多く手掛けている。そんな中、興味深い記事を発見した。映画『フレンチ・ディスパッチ』の制作を担った、ウェス監督を含む重要人物のインタビューで出ていた話題を引用したい。
インタビューで語られている、ブラッド・ピットを起用した日本のテレビCMというのは、ソフトバンクのCMの事なのかな。映像がこちら↓
France Gallの「Poupée de cire, poupée de son」という楽曲が使用されています。ウェス監督が出来栄えに自信を持っていた「Aline」を使ったほうのCMは日本では一度も放送も公開もされなかった。とのこと。海外ではオンエアされたんだろうか?「Aline」バージョンも気になる。と思ったらありました!さすがYouTube
日本人だなぁって思いましたww
クライアントからすれば、折角ブラピ起用してるのに誰だかわかんない映像を出されると、確かに「不評」と言いたくなる気持ちもよくわかる。「わかる」「わからない」を求め過ぎてしまう日本の広告主と代理店の関係性もあるのだろう。
僕もつい先ほど
「わからない」を許さない日本人だった!
「わかる」「わからない」で区別していく文化も、悪いとは思わないが、程々に楽しむ余裕は残しておきたい。ということで前置きに2700文字も使ってしまいましたが本題に入ろうと思います。
映画『ザ・フレンチ・ディスパッチ』鑑賞
これぞウェス・アンダーソンの風景!
正直な所、情報量が多過ぎて一度の鑑賞では頭に入ってこなかった。「わからない」けど世界観が好き!で鑑賞するのもアリなのだが、あまりにも「わからない」ので情報を整理して「わかる」ように纏めて行きたいと思う。それからもう一度観に行こうと思います。
さぁ・・何がわからない?俺
とにかく全部わからん。が取り急ぎ原題の翻訳から紐解いて行きたいと思う。映画『ザ・フレンチ・ディスパッチ』の原題は『The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun』です。
"The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun"を次の2つに区切って考察も交えながら翻訳をしてみた。
The French Dispatch
the Liberty, Kansas Evening Sun
〝The French Dispatch〟
〝Dispatch〟を直訳すると〝発送する〟〝急派する〟〝特派する〟という意味の単語ならしい。目的を持ってメッセージを送る。"French dispatch" は「フランスから送る」という意味になる。映画のあらすじから考察すると"French dispatch"は「フランスからニュースを送る」といったところだろうか?
〝the Liberty, Kansas Evening Sun〟
〝Liberty, Kansas〟は「米国カンザス州のリバティ市」〝Evening Sun〟は考察に頼るが、新聞の名称を表す単語だろう。
考察と翻訳から察するに〝Evening Sun〟というアメリカに拠点を置く新聞社の、地方版(Liberty, Kansas)の別冊として売られる〝The French Dispatch〟という「雑誌」の事かな?と読み取ることができる。さらにあらすじを加えると、物語の舞台は米国新聞社〝Evening Sun〟の仏支局『フレンチ・ディスパッチ』の編集部。フランスの文化や芸術をアメリカ向けに発信する人気雑誌〝The French Dispatch〟の記者たちの唯一無二の記事を、雑誌の目次のように章立てて映像化したウェス・アンダーソン監督作品
編集長はこのおっさん。ビル・マーレイ演じる〝アーサー・ハウイッツァー・Jr〟カンザス州リバティ生まれで故郷の地図が背景に敷かれたグラフィックが目立つ!
この辺のアートディレクションは流石ですね。〝泣かない〟がモットーだが実は人情派の名物編集長。ところが、仕事中に急死してしまう。『フレンチ・ディスパッチ』は彼の遺言によって廃刊を向かえることに。編集長の追悼&最終号に掲載されるのは1つのレポートと3つのストーリー。
「雑誌を書く記者」と「雑誌を読む読者」という関係性を、映画『フレンチ・ディスパッチ』では映像で表現しています。
記者が書いた記事をナレーションで読み上げながら、雑誌記事を思わせる視覚的な効果で実際に雑誌を読んでいるような気分にさせてくれる。まさしく「雑誌を書く記者」=映画制作者と「雑誌を読む読者」=観客の関係を作っている。それぞれの執筆者がナレーターとなって、記事のストーリーがスクリーン上に展開される。
1つのレポートと3つのストーリー。
【REPORT1】
幕開けは、編集長が愛した街であり、編集部が位置する街でもある、アンニュイ・シュル・ブラーゼを、向こうみずな記者〝エルブサン・サゼラック〟が自転車で一巡りして紹介。石造りの建物が並ぶ絵画的な風景のアンニュイの街だが、裏通りはネズミとネコと売春婦だらけの怪しい地区に自転車レポーターが迫る。
先述の通り記者の書いた記事が延々とナレーション読みされて字幕になるので
「ずっと字幕を追いながら休む暇もない」
映画『フレンチ・ディスパッチ』が難解だと言われる所以に、視覚的な情報を入れながら、膨大な量の字幕を追うので「わからない」に繋がるのである。日本向けにパッケージ化させる時には、吹き替え版を是非出して欲しい。英語がわからない僕にも、吹き替えだと聴覚が使える分だいぶマシになると思います。
【STORY1】アート
美術界の表も裏も知り尽くした批評家〝J.K.L.ベレンセン〟による記事
「確固たる〝コンクリートの〟名作」、確固たるという文字に〝コンクリートの〟というルビが入る。その真意とは?
【STORY1】アート
裕福な生まれの〝モーゼス・ローゼンターラー〟は殺人で50年の刑に服していた。服役11年目に突然絵筆をとり、看守の〝シモーヌ〟をモデルに絵を描き始める。服役中の凶悪犯と数奇な過去を持つ看守の関係性とは?情報量が多くて肝心の二人の関係性が全く頭に入ってこなかった。もう一回観たい。
【STORY1】アート
服役者の作品展示会で殺人犯ローゼンターラーの絵に、いち早く目を付けた美術商〝ジュリアン・カダージオ〟の手腕によりローゼンターラーは瞬く間に、美術界のスターの座をつかむのだが、ある時から一つの作品にかかりきりとなる。何年も待たされる画商カダージオ。果たして作品は描き上がるのか?
「確固たる名作」という題名の記事。〝確固たる〟という文字に〝コンクリートの〟というルビが入る。刑務所の強固なコンクリートと〝確固たる〟が掛かっていて巧いなと感心した。
【STORY2】青春
#宣言書の改訂
ジャーナリスト魂を貫く〝ルシンダ・クレメンツ〟による記事。
学生運動に身を投じる若きヒーローの情熱と恋、その思いがけない結末を描く。
【STORY2】青春
#宣言書の改訂
アンニュイの街から、学生運動が勃発。リーダーの〝ゼフィレッリ・B〟は、両親の友人のルシンダに宣言書の校正を頼む。一方、ルシンダは学生の記事を書くために、ゼフィレッリを取材する。
【STORY2】青春
#宣言書の改訂
ゼフィレッリの運動の発端は、兵役から脱走した友人のミッチ=ミッチの逮捕だった。彼は「若き理想主義者運動」を立ち上げ、大学側と国を相手に大規模なストを煽動する。やがてゼフィレッリは、気の強い会計係のジュリエットと恋に落ちる。青春の激しさと甘さを謳歌していたが、ある夜、海賊電波塔で放送を開始しようとした時、劇的な事態に巻き込まれる。
【STORY3】サスペンスとグルメ
#警察署長の食事室
食を愛する、祖国を追われた孤独な記者〝ローバック・ライト〟による記事。
ローバックはアンニュイ警察署長のお抱え天才シェフ〝ネスカフィエ〟を取材する筈だったが、ディナーの席についた時、事件は起こる。
【STORY3】サスペンスとグルメ
#警察署長の食事室
美食家のアンニュイ警察署長。ある夜、記者ローバックたちとディナーに招いて、席についた時、署長の一人息子のジジが誘拐されたのだ。犯人は3日前に逮捕されたギャング組織の悪徳会計士アバカスの釈放か処刑しなければ、息子を56すと宣言する。
【STORY3】サスペンスとグルメ
#警察署長の食事室
署長は犯人に、空腹の息子のためにシェフを食料と共に送らせてくれと頼む。署長の命を受けたお抱えシェフ〝ネスカフィエ〟がアジトに乗り込み、誘拐犯とジジのために一世一代のディナーを振舞う。
これらのストーリーが、ウェス・アンダーソン監督の手によって完璧に構成され、細部の細部にまで映画の神が宿る魅惑の映像で語られる。