ラストダンスはみんなに
倫太郎は最後のホストクラブの勤務の夜だった。
いつものようにNO.1のサポートヘルプに入った倫太郎は、最後の最後にあの大物占い師、Hさんの横に座った。
そしてHさんがお会計をしている間に話した。
『今まで本当にお世話になりました。僕は今日でこの店を辞めることになったので最後にご挨拶出来て本当によかったです。』
Hさんは驚く顔をしながら、真っ直ぐ倫太郎の目を見て言った。
『お前はよく頑張ったな。 必ずこの頑張りが外の世界で役に立つと思う。本当に今までありがとう。頑張りなさいよ』
倫太郎はびっくりした。
あの大物占い師はいつもホストを呼んでは怒鳴りつけていたからだ。
『お前は本当にバカだな』
『しっかりサービスしろ!!馬鹿野郎』
メディアとは全く違う顔を持つHさんに、NO1のヘルプに付くのを全員嫌がっていた。
それだけ彼女の罵詈雑言で、何十人のヘルプホストが走ってトイレで泣いていたのをみたのだ。
それだけ、酷いことを言い続けたHは、それはそれは上顧客だった。
そしてNO1との奪い合いを他テーブルと繰り広げて、お会計が800万など当たり前で、徐に紙袋をドーンとテーブルに置き
『ほら!!会計だよ!!』と言って、目の前でホストたちに一枚ずつお札を数えさせていた。
その時のHの顔は、勝ち誇ったような薄ら笑みを浮かべながら、並々入ったブランデーを飲んでいた。
あの姿は今でも倫太郎の脳裏によぎると、寒気が走っていた。
それがだ。
最後の言葉を言った時に『お前みたいな馬鹿な奴はとっとと辞めた方がよかった』なんて言われる言葉を待っていたからだ。
それがしっかり目を見て『よく頑張った。ありがとう』と言われて、不覚にも涙がこぼれてしまった。
『あ、ありがとうございます。』
『頑張りなさいよ』
本当に嬉しかった。
頑張って最後までNO.1のヘルプについてよかったんだと思った。
そしてこれから先は何でも出来るって確信した。
なんてったって日本一の占い師から頑張れって言われたら、絶対に成功するやろうと思っていたからだ。
倫太郎の最後の夜はこんな華々しい終わり方をした。
最後の最後に知子さんと東京でご飯に行った。
『倫太郎くんこれからどうするの?』
『一回実家に戻って親孝行でもしてから考えようかと思ってる』
『知子さんは?』
『私は倫太郎くんがくれたあのホテルがどこまで出来るかわからないけど、バリに移って頑張ろうと思ってる。 本当に倫太郎くんには何から何までお世話になってしまって、感謝しかない。本当にありがとう』
『知子さん。 もう誰かに頼るの辞めて自分でもしっかり出来るんだから自分を信じて頑張ってください。』
知子さんはちょっと心細そうに笑ってた。その顔は泣き顔にも見えたし、微笑みにも見えた。
自分の人生を生きる。
女性のことをこんな風に見たことがなかったし、自分の人生観を180度変えてくれた色んな女性。
経験してよかったのか? あのまま新橋の場末の喫茶店で働き続けてたら今頃どうなってたんだろうか?
これからどうしようかな。
そんな時にまた倫太郎は私に会いに来た。
『あんたどうするの?』
『もうお金も全部使い切ったから、とりあえず大阪戻ってトラックでも乗って
お金貯めて、大学院でも入り直そうかと思ってるねん』
『ええ??また大学行くの?』
『いっぱい考えて、俺教員の免許でも取ろうかと思ってるんよ』
『おーーーーすごいな。なんでも出来るわ。あんたやったら』
『俺もそう思う。それにしてもHさんに言われて泣いてしもた。』
『私があんたやったら号泣してるで!!』
あはははは!!!
二人で大笑いした。
そうして倫太郎は次の人生の準備を始めに大阪に戻った。