【公開記念連載コラム】<『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?>(7)「山村浩二さんゲスト 特別試写会レポート」
ニューディアー配給で9月12日公開の『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』。公開までいよいよ1週間となった本作について、不定期コラムとして作品紹介をしています。
第七弾は、9月2日にアンスティチュ・フランセ東京で開催された本作の特別試写会で行われたトークの模様をレポートします。ゲストはアニメーション作家の山村浩二さん。聞き手はニューディアーの土居伸彰が務め、作品をめぐって濃密な対話が展開されました。
過去のコラムはこちら「【公開記念コラム】『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はどんな作品?」
トークが始まりまず山村さんは、この作品を配給したことを「勇気のある」ことだと語ります。その理由として監督があまり知られていないことと、日本におけるケベック文化の認知の低さを挙げ、配給の決め手がなんだったのかを土居に問いかけます。
それに対し土居は、「過去にそれほど知られていなかった作家が長編作品を作り、世界の映画祭でそれが評価されるという最近の傾向がある」と述べ、そのことはニューディアーがこれまで配給してきた『父を探して』や『手をなくした少女』との共通点でもあることを指摘します。
土居は、『新しい街』がそれらの作品と同じく、突如として登場した作家が作り上げた「見たことのないものを見たとき」の驚きと「それを作り得た作家の勇気」を感じさせるものであり、その勇気に報いるために劇場公開を決断したのだと説明しました。
次に話題になったのは「言葉」の重要な役割についてでした。山村さんは本作が言葉から発想されたものなのではないかと推測します。実際、本作はメインキャラクター3人のモノローグを書くところから脚本の執筆が始まりました。監督自身、本作の構造を「モノローグの集積」であると述べています。
言葉の重要性はセリフだけではなく映像の水準にも表れており、まるでイメージで韻を踏んでいくかのような演出がみられることを山村さんは指摘し、作画についても、そのじっくりとした動きを評価します。土居によると監督は、この丁寧なアニメートによって「実在感」の表現を目指したそうです。
作品のテーマとしての曖昧さや多義性も話題になりました。メインキャラクターである(元)夫婦は共に言葉に関わる仕事をしており、中盤にはとても印象深い朗読シーンがあります。そのシーンの直後に発せられる「歯痒さを叫んでるみたいだ」というセリフに、山村さんは本作のテーマが過去と未来の間で逡巡する停滞感であると推察します。一方で土居は、本作の魅力を、「見れば見るほどいろんなことが伝わってくる」ような「あいまいな多義性」にあると述べます。
トークも終盤に差し掛かったところ、土居が改めてアニメーションと言葉の関係性について問いを投げかけます。それに対して山村さんは「アニメーションを作ろうとする人はむしろ言語から遠いタイプで、言葉ではなくビジュアルで表現しようとする傾向がある」と話します。
山村さんは自身の20代や30代のころを思い出し、自分もまたビジュアル偏重の考え方をしていたことを振り返りつつ、それが最近変わってきたと述べています。
折しも山村さんは、日仏合作による長編アニメーション「幾多の北(A Dozen Norths)」の製作を発表したばかり。2021年の完成を目指している本作も「言葉が重要となっています」と話し、ゆえに若いころだったら、『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』の魅力がわからなかったかもしれないとも語っています。本作は、言葉を重視していく傾向にある近年のアニメーション表現の変化にいち早く反応したものでもあるのです。
山村さんは本作において、登場人物たちが目線をなかなか合わせないことに注目します。それぞれが自らに縛られてしまうこの物語で、キャラクターたちが目を見て他者に向き合うことはごくわずかなのです。
しかしだからといって、『新しい街』は自閉的なものではありません。本作はむしろ、自らと向き合うことを通じて、静かに変化が起こりうるということを描くからです。土居は、個人と集団がつながりあったり、シーンごとに揺れ動く主要な登場人物たちの気持ちに、そういった点を見出します。
昨今のアニメーション・シーンの話題から、言葉や動きといった本質的なトピックまで意見交換が行われたトークは予定の時間に切り上げられ、試写会は終了しました。『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』はいよいよ9/12(土)よりシアター・イメージフォーラムを皮切りに、出町座、テアトル梅田、上田映劇、横浜シネマリン、名古屋シネマテーク、金沢シネモンド、神戸アートビレッジセンター他にて全国順次公開となります。
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