シン・仮面ライダー感想
アクション最高!デザイン最高!レイアウト最高!私はこの映画がすき。
でも、どうしてかな……遠いの。(血の轍15集より)
シン・仮面ライダーをまさかの公開初週に見に行きました。映画の感想を適宜書いていこうと思い立ちながら結局「シン」シリーズしか書いていない…熱心な庵野さんのファンにしか見えないですが、複雑な感想になりそうです。
先に書いておきたいのが「面白い」「つまらない」の2択でいえば確実に「面白い」なんです。ただ、なにかハマりきらない「遠さ」みたいなのが一番の感想なんです。最近、楽しんでいる人もいるんだから作品の批判は良くないみたいな論調があり、庵野さんといえば熱心なファンも多いので「つまらない」と言い切らずに忖度した表現にしているように感じるかもしれないですが、本当に「面白い」と言い切れるくらい好きでした。だけど何かが遠いというのが強く残ったのが印象的でした。
もう一つ書いておくと2023年に最近に見た映画が「ブルージャイアント」と「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の2本で、この2本とも個人的にホームラン級の傑作が続いたのでその反動で期待値が高まっていたというのもあるかもしれないです。(批判的な内容よりもブルージャイアントやエブエブにしろ褒めちぎる感想を先に書くべきかもですが…まぁ素人の適当駄文なんて好き勝手やるべきです。ブルージャイアントもエブエブもいいぞ)。
あとネタバレ書くので注意。
・映像は最高!
面白い、と言い切れるのはいかんせん映像がカッコよく、むちゃくちゃテンポがいいんですよ。いきなり始まるカースタント、大型トラックから逃げる仮面ライダーと緑川ルリ子、下級構成員を文字通り粉砕する戦闘、いきなりのゴア表現で本当に驚きました。序盤の展開はクモオーグとの戦闘まで行きつく暇もないほどテンポが速く、オオっ!となっていた。アクションシーンに関してはその後のコウモリ、ハチ、第2バッタ、避けて書きますがラスボスあたりと、それぞれテイストが異なっていてバリエーションあるな~と感心しきりでした。全体的にアニメっぽさがでているので嫌いな人はいるかもですが、ハチオーグのキレのある殺陣は特に印象深かったです。それと序盤のクモ、後半のライダーズはカースタントと絡めていて、なかなか見たことのない映像になっているなと感じました。
アクションシーン以外のいわゆるドラマパートでも絵作り、レイアウトはいわゆる実相寺アングルなどを多様しておりこれまた好き嫌いがあるかもですが、自分としてはやっぱりいい絵だなぁと感心することが多かったと思います。夕日、線路上、ドアの上からアングルなど適当に思い出してもいいところがでてきますね。ここらへんはやっぱり庵野さんうまいな〜といった感じでした。
新規に起こされた怪人もとい上級構成員のデザイン、仮面ライダーのコートや緑川ルリ子の衣装など本当に文句なしに素敵なんですよ。まだ非公開になっているキャラも含め、デザインは抜群なんです。さらにいえば大画面で見る浜辺美波はやっぱり美人だなと改めて思わされました。
映像に関しては文字で表すのは難しいですが本当に素晴らしい出来だったのは間違いないです。「面白い」と言い切れるのはこの点です。
・詰め込まれた石ノ森章太郎LOVE
個人的に一番思い入れのある仮面ライダーは漫画の石ノ森章太郎版の仮面ライダーになるんですよ。コンビニ版で読んであのもの悲しさは本当に好きだったんですよ、コブラ男とメドウサのラストの背中姿とかむっちゃ好きなんですよ。あの悲しみというか哀愁が本当にたまらないんですよ。
シン仮面ライダーでも漫画版をかなり取り入れられて、というか他の石ノ森章太郎作品からのオマージュというか設定が入れ込まれていて、ここら辺もファンにはたまらないところじゃないでしょうか。自分が気づいた部分もありますが、他の人の感想などみると事細かに入れられていて本当に小ネタをいれこんでくるなぁと思いました。ロボット刑事とかみんな知ってるんすかね。
仮面ライダーの傷跡設定など自分の顔をみるシーンは本当に素晴らしいです。
・「でも、どうしてかな……遠いの。」
シン・仮面ライダーと血の轍は全く関係がありません。映画を見た後の感覚がこのセリフのような気がしただけです。
エブエブでは無茶苦茶感動したんですよ。あちらも下ネタなどアカデミー賞受賞作と言われると賛否が分かれる映画かもしれないですが、野放しで絶賛できるんです。
シン・仮面ライダーでは正直この野放し感が無いのも事実でこの差はなんなのかと考えてみたんですよ。
恐らくはシン・仮面ライダーでは共感できる登場人物がいなかったのが大きいと思うんですよ。
エブエブではそれまで知らなかったキー・ホイ・クァンにむちゃくちゃ感情移入して途中から泣きっぱなしだったし、見終わったあとのインタビュー記事読んでそれまでのいきさつを知ってまた泣き、アカデミー賞受賞スピーチで泣くという、3回泣くくらい、これは俺のための映画だ!くらいになってたんですよ。そこらへんはベタに共感性に由来しているのかなと思うんです。
それに対しシン・仮面ライダーは登場人物の感情があまり入ってこなかったというのは、思い返しても記憶にあまりなかったりするので多分あまり表現するところが無かったんでしょう。仮面ライダーの醜い傷跡の演出も好きなんですがこのような感情を想起させているかといわれるとあまり思い当たらないのです。(びっくりさせる!驚き!という部分では抜群にあったとは思うんですが、なんでこんなことになってしまったんだ…というような悲しみや怒りみたいなのはあまり感じられなかったように思います。)
敵味方含め全体的に心情背景や動機の描写が少なかったから感情移入できるキャラがいなかったのでしょう。(書こうとするといろいろあるのですがそもそもショッカーが悪いことしていないような感じで「ショッカー許せん!」みたいな感覚になりにくかったり、本郷猛がショッカーと戦う動機がいまいち思い出せなかったり…父親の事件での世の中の理不尽さを失くしたいとかなんだろうけど理解できていない)
なんとなくの遠さはこの共感性のなさから来るものでしょう。思い返せば好きだったシン・ゴジラは特別な力のない市井の人々が強力してゴジラと戦うという部分がとても好きだったんだと思います。その戦い方が自衛隊のように直接的な武力を行使したり、もちうる専門的な知識や権力を使って対処したり、はたまた平泉成のようにただ頭を下げて微動だにしない、といったような様々な方法で戦っており、その中のいずれかと自分と重なる部分があったからこそ多くの人に共感されたのではないでしょうか。
シン・仮面ライダーは一般人の描写が少なく、特別な力を持った人間が、特別な力を持った敵と対峙し、ショッカー基地という特別な空間内で事件が終わる。原作だと緑川ルリ子や立花あたりが一般人役になっていたと思いますが今回はコンバットスタイルな感じになったので感情移入しやすい一般人、弱い立場の人間がいなかったのでしょう。ライダーとルリ子の間に子役をいれるとかショッカーに翻弄される市民とかいたら見え方も変わったかもしれないです。
・本当にやりたいことを好きなだけつめこんだ?
共感性の無さという所をつらつら書きましたが、さらに言えばそんなこと制作陣も理解している上でばっさり切ったように感じられるのです。共感性を高めるためにはそれぞれのキャラクターのバックグラウンドをもっと丁寧に描く必要があります。先にちょっと書きましたが今回ショッカーがそんなに悪事を働いていないように感じられるのです。TV版では一般人を誘拐して牢屋に詰め込んで実験台にしたり爆弾つめたりとやりたい放題のショッカーがシンではハチさんの町の人を操っているくらいしかなかったように思います。
ここで問題なのはそれぞれのバックグラウンドを描くには時間が足りない。さらに予算も足りないとなったんじゃないでしょうか。そのためテンポ重視で一気に詰め込んでいくのが最適、という判断なのだろうと思いました。
一般人を描写しようとしてもコロナ禍の撮影でエキストラを使用した大規模撮影なども難しかったのかもしれないです。こちらも予算が余計にかかるのでハチさんの所のみと減らしたのかもしれないです。
いろいろな感想を見ていると庵野さんがやりたいことつめこんだというものがあるのですがそれも個人的にはやや疑問に感じます。圧倒的に火薬成分が足りていないと個人的には感じました。
怪人が泡になって消えるのは原作からある設定を使っていると思いますが、一般人からすると倒された怪人は爆発する印象のほうが強いと思うんです。怪人だけじゃなく爆発をかいくぐって走り抜けるサイクロン号の映像などやはり仮面ライダーと爆発はもっとセットとしてあるように思っていました。爆発シーンは最初の小屋のみ、たしかハチさんのところでCGの爆発があったくらいでとにかく火薬が足りていないのです。大衆エンタメ作品であればとにもかくにも爆発してもよかったんじゃないでしょうか?爆発シーンを増やしてほしかったのですがこれも予算の都合があったのでしょうか。
と、いろいろ書きましたがなんだか予算足りなかったのかなぁという印象がこの文章を書いていている内にまとまってきました。
さらに言えば物語のオチに関してもあれで良かったのか?というのを思っています。原作版の1号と2号の入れ替わりをオマージュした爽やかなエンディングでしたが、あれほど原作版をリスペクトしながら、なぜもっとやるせない終わり方にしなかったのか。漫画版キカイダーのラストとか絶対好きでしょ?やってもよかったんじゃない?と個人的には思っているんですが、全国ロードショーの公開規模でそんなやるせない終わり方されても困るという製作委員会からのお達しがあったんじゃないかとも勝手に思っているんですよ。現在ですら賛否が分かれるみたいな状態がさらにもう一段階否定派が増えることしなくても…と。ショッカーを壊滅させたけど世の中なんにも変わらなかった的なほうが石ノ森章太郎版好きな人は間違いなく好きなはずだと勝手に盲信しており、これだけのリスペクトがある人があの前向きなラストにしたのも、やや日和ったんじゃないかなぁと勝手に思うのです。クリントイーストウッドのようななんとも言えない終わり方が個人的に好きというのもあるんですが、この公開規模だと避けたのではないかと思えます。
本当に好きなことを好きなだけやれたと言えるのかといえば、予算などの制約を鑑みると疑問に思えることが多いのです。
・どうする東映?
そもそも論ですがシン仮面ライダーって3部作ぐらいやるのかな?と思っていたんですがそんなこと無いんですかね?
ヒーロー物として浮かぶのはMCU、DCにしろダークナイトシリーズにしろトリロジーでやるのが多いじゃないですか。シン・仮面ライダーでは一応、続編があっても大丈夫!となっていましたが、もっとガッツリ、次もやるぜ!って感じがないので売れ行きを見て…という感じなのでしょうか。正直マーベル映画よろしくクレジット明けにショッカー首領(今回だとKになるのかな)と新しいオーグがでて来て2024年公開予定!ご期待ください!くらいやってほしかったと勝手に思いました。
アメコミヒーローものの多くはヴィランって1人、サブっぽいひといれて2人くらいが一般的だと思いますが、シン・仮面ライダーでは5人以上?と多いですよね。キャラの描写不足が共感性の無さになっていると思いますが、どうしても多人数だと薄まってしまうのでキャラ描写より戦闘シーンに力を入れたのかなとも思います。もし最初からトリロジーということなら一辺に5人も出さずにそれぞれのヴィランも詳細に描けたのではと思うのです。
トリロジー設定を考えていると妄想だけが無駄にひろがる…
東映さんは続編やる気あるんすかね?東映の波しぶきロゴ単体で見るの10年以上ぶりな気もするし、ワンピースとかヒットしているけど実写のヒットのさせかたわからないといった記事も読んだんですけど、シン・仮面ライダーで難しかったらアクション邦画って今後しばらく出ない気がするんですよ。ヒットしたので実写版るろうに剣心はあるけど…自分もなかなか邦画を見に行くことがないので偉そうなこと言えないですが、アクション系を避けると地味目なドラマや恋愛物以外難しくなっちゃうんじゃないかな。恋愛でヒットするというと、昔でいうとセカチューとか恋空とかあったけど、そこらへん「君の名は」以降アニメにまとめて取られてしまったので今だとヒットは難しいのかな?アニメにおける抽象さが広すぎて実写系恋愛物をまとめて取られてしまったので、スタントアクションこそが実写ならではの価値のあるものになるのかなとも思うんです。マッドマックス怒りのデスロードのようなカースタント+アクションスタントものこそ実写でやる価値があるかなと勝手に思っています。
アクション系はハリウッドと比較されがちなので難しいのもわかるのですが、それこそエブエブやRRRのヒットで新しいアクションの形が求められているのがあると思うんです。ただエブエブは比較的低予算と言われていますが、恐らくシン・仮面ライダーの数倍予算がある感じだと思うんです。
今回のシン・仮面ライダーがどれだけの収益になるのか分からないですが、続編やるのであれば確実に予算を増やしてほしいです。ただ仮面ライダーは海外での販路が厳しそうで予算が見込めないのも分かるのが辛いところ…
・いろいろ書いたけど面白いよ
もやもやした部分を文章にして発散できたのか、結局言いたいのは面白かったよ、ということです。ゴア表現もよかったし、血反吐吐きながら戦うライダーかっこいいし、コート着てるライダーかっこいいし、バイクアクションも好きだよ、改造後の傷跡顔もっと見たかったけど。庵野さんの演出好きな人であれば損はしないかな。あのアニメっぽいアクションが合わないっていう人だと厳しい評価になるのも理解できるし、逆に今回主に書いた共感性とか人間ドラマなんていらねーぜ!っていう人はもっと評価が高くなるでしょうね。
続編やってくれるのであれば見に行きたいです。爆発増やしてくれ!
最後にサソリオーグをまさしく怪演した俳優さんが個人的MVPでした。あの役よく引き受けた…
思い出したこと箇条書き
・序盤の仮面ライダーの力が制御できない描写がベルセルクの狂戦士の鎧着ているガッツをずっと思い出していた。
・辛いという字に一文字たして幸せとかなんで急に金八みたいなこというの…
・浜辺美波まじまじと見るの初めてだけど可愛い
・サイクロン号も可愛い
・ハチさんドS設定だろうからムチ持たせて横の相棒みたいなひとを叩いて欲しかった。ドMの西野七瀬ファンも喜ぶだろうし。実写パトレイバーでお風呂シーン撮った押井さんは偉大。
・ラスボス戦イナズマンリスペクト?ただ暗いのも地味に映ってしまうから低評価になりやすい?森山未來さんのダンス経験を生かしたアクションは好きなんだけど、外で飛び跳ねるアクションと比較すると地味目に見えてしまう。やっぱり最後爆発してほしかった。
・プラーナ便利道具
・マスクの中にルリ子はいないの?
・若いころのイチローさんが見取り図の森山さんになんかずっと見えてた。
・色々な人の感想を見て「Not for me」な作品という言い方があるということを知った。このNot for meという言い回しが適切なのかも
以下、一晩寝かせて思ったこと
・感情移入をしなかった、という点で思い返すとルリ子の残されたメッセージを見ているシーンで感情が揺らいでいなかったのを思い出した。恐らくあそこが感情移入装置だったんだろうけど個人的にはライダーの悲しみが入って来なかった。孤独→ルリ子との信頼を築く→ルリ子喪失でまた孤独になったみたいな流れがあったんだろうけど、ライダーが泣いているシーンを見てもあまり響かなかったというのが正直なところ。
・ルリ子が刺されるシーンで「あーっ!」とはなったけどマフラー似合ってるとか言い出したの聞き間違いかと思うくらいだった。その後の映像でやっぱり言ってたんだとなったんだけど、いつの間にそんなに仲良くなったんだのが置いてけぼりになったかもしれない。
・ライダー2号の洗脳を解くシーンでボロボロ泣いている一文字もいい芝居だけどどんな悲しいことあったのかなと想像する余力がなかった。
・マスクの下の表情を想像させる的なことをしたかったからあえて感情を出させなかったと思うんだけど、想像させる導線みたいなのが足りなかったのかなとも思う。いわゆるクレショフ効果みたいなのをやっていたのかもしれないがなんか響かなかった。
・想像する余地のある演出は好きなはずなんだけど、今回響かなかったのはシンシリーズ特有の意味があるようで無い、情報量の多い設定でパンクさせるような演出が嫌いではないのですが、よくわからんと情報をシャットダウンしてしまうことが個人的にあり、そこと合わせて大事な情報もシャットダウンしたかもしれない。プラーナの設定とか魂でいいの?とかハビタット計画とかまぁ聞いていても魂を抜いて融合するくらいしか把握してない。
・戦闘シーンも増しましだったのでそこも合わせてエネルギーを使い果たしていたのかも。想像する余地もそれぞれのキャラクターに裏設定みたいなのがあるのはわかるけど、想像するエネルギーが残されていなかったかも。鑑賞後に脳がパンクしている感覚があったのを記憶している。
・庵野さんの日常シーンって見方が難しいっていうのもあるかもしれない。普通に作っているんだろうけど何かあるのでは?と構えてしまう自分がいたのを憶えている。ここらへんで普通に抜けていたら見え方も変わってきそう。