中毒性あふれる街・高知とSDGs
高知と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。「坂本龍馬」「よさこい祭」「ひろめ市場」などなど、オープンで豪快で活気に満ちているというイメージでしょうか。私も、高知が大好きで、コロナ禍の隙を見計らって、高知県地域通訳案内士という資格を取ってしまいました。また、来年2月に予定されている次なる高知出張に、早くも心躍らせているところです。
高知の魅力については、すでにいろんな方が発信しているかと思うのですが、きょうはSDGsの観点より高知を見ていきたいと思います。
災害とともに生きる:津波避難タワーと海岸段丘
高知には、常に災害にさらされてきたという歴史もありますよね。南海トラフによる被害想定では、土佐清水市と黒潮町で全国最大の34mの高さが想定され、他の沿岸自治体でも10m以上の津波が押し寄せるとみられています。
そんな高知の幹線道路を運転していて、頻繁に見かけるのが「津波避難タワー」。ことし8月のニュースでは、県内に126基のタワーがあるとされています。また、高齢者が昇りやすいように、手すりとスロープ付きの避難タワーも。そこには、「命を大切に」というメッセージがあるように思います。
もう一つ、世界ジオパークにも認定されている高知県東部の室戸。海岸線からすぐのところに土地が隆起したり、海面が沈んだりしてできる海岸段丘でも有名です。そして、段丘の上の平面ではサツマイモやナスなどの農産物の生産が盛ん。台風や地震によってすぐに沈む海岸沿いではなく、高いところで作物を育てるというのも、持続的な農業の可能性を追った高知の特徴のような気がします。
孤独な高知の広い視野
四国に住んでいると「四国県民性ギャグ」なるものを聞く機会があります。例えば、「1万円が手に入ったらどうするか」。詳細はネットで調べてもらえたらと思うのですが、徳島、香川、愛媛、高知の順に、急にお金が入ってきたらどのような行動をとるかをそれっぽく言ったものです。そして、だいたい高知がオチとして使われます…。
そして、20年位前、「道州制」(都道府県を廃止し、ブロック単で行政単位を再編成する)の議論が活発だったころ、実際に各県のスタンスはこう表されていました。
徳島:関西と一緒になる
香川:四国州となり、その州都となる
愛媛:中国・四国州となり、四国州の拠点となる
高知:独立(または米国と組む)
というわけで、四国山地の高い山々に囲まれ、四国という島の中でもいさかさか孤独なポジションを歩む高知。その中で生まれた大スターが坂本龍馬ではないでしょうか。彼が船の中で後藤象二郎に示した「船中八策」では、大政奉還,公議政体,法典制定,海軍拡張,親兵設置,幣制改革などなど、倒幕の後にどのように持続的な国家・社会を作るかを示したものとも言えますよね。また、日本初の株式会社と呼ばれる「亀山社中」も、自己資金のみに頼らず、出資と経営を分離するという面で、事業の持続性を考えたものになっています。
龍馬といえば、姉との関係とか、薩長の仲介をしたとかが強調されがちですが、閉ざされた空間で育ったゆえに、外のことを一生懸命に学び、実現に移した人といっては言いすぎでしょうか。。。
自由は土佐の山間より
もう一つ、歴史の文脈で忘れてはならないのが、「自由民権運動」です。個人的には、坂本龍馬よりも自由民権運動の方が高知の歴史にとって重要ではないかと感じているほど。
「板垣死すとも自由は死せず」の板垣退助。フランス留学の経験からルソーの「社会契約論」を翻訳し、日本に漸進的な立憲主義の必要性を説いた中江兆民。独学で政治経済を学び、兆民の翻訳したルソーを筆写し、最終的には大日本帝国憲法の草案を創った植木枝盛。すごくキャラが豊富だし、「自由は土佐の山間より」との言葉がとても良いですよね。
あと、私の個人的な推しは、日本で初めての女性の参政権確立に中心的な役割を担った民権ばあさんこと楠瀬喜多さん。この人の話も含め、自由民権運動についてはいずれ別稿で書こうと思います。
皿鉢料理と女性活躍
せっかく民権ばあさんの話が出たので、グルメの話も少し、高知名物料理といえば何でしょうか。有名どころではカツオのたたき、ウツボのたたきやクジラ料理など海の幸が思い浮かびますよね。
高知には刺身をはじめ、揚げ物、煮物、揚げ物、寿司、甘味まで、大皿に豪快に(大雑把に)盛った皿鉢料理というものがあります。
この皿鉢料理が生まれた理由、それは、宴会時に女性がお酒を楽しむためのものという話があります。冠婚葬祭や親せきの集まりなどを家でやっていた時代、料理の支度は女性が担うことが多いですが、宴会の開始と同時に女性もきちんと席について、酒を飲みたいもの。皿鉢料理は、いちいち料理を上げ下げする必要がなく、一度準備してしまえばそのまま宴会になだれ込むことができる画期的な料理なのです(おせち料理にも近いものがあるかも)。
私の実家の話をして恐縮ですが、家で葬式をやるとき、近所の人が割烹着を着て家に集まってきて、お葬式までは精進料理を作り、お葬式の後は精進落としを準備していました。男性に交じって食事をとることはありません。
女性と男性が同時に宴会するために開発された皿鉢料理。ある意味、イノベーティブな一品といっても差し支えないのでは。
「人熱々料理」とは何ぞや
ここまで書いてきて思ったけど、高知がSDGsをいつの間にか体現していたのはその通り。だけど、それ以上に、高知は人が生き生きしていることが何よりの魅力なのではないか。高知県の観光のキャッチコピーで「人熱々料理」というのがあるけど、素材や料理のおいしさに加え、提供する人が本当に魅力的で好きになってしまいます。
また、300年以上続くとされる高知に日曜市も、野菜や果物、総菜を売る人たち(生産者である場合が多い)のチャーミングなこと。なかなか野菜を買って帰ることはできないが、ゆずドリンクとかはついつい買いたくなってしまう。SDGsとか難しいこと言わずに、高知に行ったら人とのふれあいを楽しむべし。高知の知らない飲み屋行って、隣の人と盛り上がれるような「一人飲み上級者」になってみたいものです。
あぁ、書けば書くほど高知行きたくなってきた。