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初めての"生"オーバーツーリズム

先日、山梨県に旅行に行ってきました。
少し奮発しての石和温泉への宿泊もよかったし、地元のワイナリー&ブルワリー訪問もよし。とても満足いく旅となりました(そして、私は山梨の魅力をあまり知らなかったことに気付かされた…)。
で、山梨といえば、「富士山ローソン問題」にみられるオーバーツーリズム問題。

インバウンドに携わってきた私にとっても、どうにも無視できない問題です。


"This is 日本"がワンフレームで撮れる場所

今回の山梨旅行で唯一訪れた「観光地らしい観光地」が新倉富士浅間神社。海外の方が、見たいであろう日本の象徴の3点セットを一つのフレームに収められる稀有な場所です。その3つとは、桜、富士山、五重塔。私が全国通訳案内士の勉強をしていた時も、この神社からの風景がいろんな本やWebページに載っていました。そして、五重塔も、法隆寺のような渋い配色ではなく、朱塗り。これは、外国人でなくても写真を撮りたくなりますよね。

ん?五重塔?

ここまで書いていて、疑問が一つ。
確かに、五重塔は日本を象徴する建物だけど、ここは「新倉富士浅間神社」のはず。なにゆえ神社に五重塔なのか…?と思って調べてみると、どうやらここは「忠霊塔」とのこと。戦没者を慰霊するための建物だそうです。
私が同行した友人たちに対し、したり顔で「五重塔というのは、ブッダの遺骨を納めた仏塔で、インドなどのストゥーパが日本では五重塔・三重塔となった」と説明していたのですが、よく考えたら神社でした💦
忠霊塔といえば、神社の忠魂碑(石碑)や石造りのモニュメントはよくみかけますが、五重塔スタイルとは思いもよりませんでした。そこで調べてみると、この忠霊塔、大阪・四天王寺の五重塔がモデルとなったそう。
神仏習合、おそるべしや。


住宅街と極めて隣接

話をオーバーツーリズムに戻します。
この新倉富士浅間神社、周辺の道は狭く、しかも、周囲は住宅街。洗濯物を干しているのがまるわかりなくらいに近いです。
無料駐車場もあるのですが、車が対向するのがスレスレになるような狭い道をバスを含む車が向かうわけです。休日ともなると、当然のごとく無料駐車場は満杯。近隣の人が有料で家の庭などに停めさせています(私たちが停めた場所は、80歳になりなんとする見た目のおばあちゃんが誘導してくれました)。
住民にとっては、観光地化する前は静かで平穏な場所だったに違いありません。それが、日本人・外国人問わず大勢の人が押し寄せる場所となってしまいました。確かに、駐車場を貸し出すことで、微々たる小遣い程度に金銭を得ている方もいますが、観光地とはいえ、家の周りを多くの人が(まして、言葉が通じない人が)歩いているのは、不安も大きいのではないかと思料します。

地元にお金が落ちない問題

上記のリンクの中で、富士吉田市は「対策費が膨らむ」「抜本的な対策は難しい」としており、それはその通りだと思います。そして、ますます深刻化するオーバーツーリズムに対し、地元にはどのくらいのお金が落ちているのでしょうか。
仮に無料駐車場に駐車し、参拝もせず展望台目指して歩き、展望台から美しい富士山と五重塔(と桜)の写真を撮影し、駐車場に帰ってきて車で出発。。。地元へはお金が落ちませんよね。
富士吉田には富士急ハイランドなどの大型観光施設もあります。しかし、都内から2時間以内でアクセスでき、食事と無料の観光を楽しむだけで都内に戻るのでは、国が目指す「インバウンドへの地方誘客」はなかなか難しいのではないでしょうか。

外部不経済の新事例としてのオーバーツーリズム

ミクロ経済学の教科書に出てくる「外部不経済」。自由競争による市場取引が市場外においてネガティブな影響を及ぼすことを指します。教科書では環境問題(公害や地球温暖化)などが例として挙がりますよね。昨年、初めて熊本県水俣市に行きましたが、水俣病の事例などは企業が経済活動を最大化し、国も最大限の後押しをしたことから、立ち止まるべきタイミングでも立ち止まれず、被害が拡大してしまった事例ともいえると思います。
今回の山梨旅行を通じ、オーバーツーリズムの典型的な外部不経済の例として教科書に載ってもいいのではないかと感じました。好奇心を持つ(または、映える写真を撮ってSNSにアップし、承認されたい)外国人が訪れ、国もインバウンドを新たな産業として積極的に奨励する中、地元の人の生活が脅威を受ける…。形は違えど、構造は水俣に近いものがあるかもしれません。

出国税値上げ、その後の戦略は

先日、こんなニュースを見ました。

海外に出国する人(日本人も外国人も)に対して一律に課されている出国税(国際観光旅客税)を現状の3~5倍に値上げしようという考えです。そして、これまでは使途が訪日誘客プロモーションや観光地整備に限られていたものを、オーバーツーリズム対策に使おうというものです。
国がオーバーツーリズム対策に本腰を取り組むように見えるこの措置、アウトバウンドの日本人も対象になっているという点で、公平課税の観点から問題がないとは言えません。しかし、オーバーツーリズム問題の解決が急がれる中で、一定の理解はできるものだと思います。
しかし、問題は予算が増えたとて、どのように解決に持っていくかです。もちろん、北海道・美瑛のように、木の伐採により観光客が来なくするという手もなくはないのですが、それはあくまで最終手段。

富士吉田の場合、例えば、神社と相談し、短期的には「入場料を取る」「現在の無料駐車場を"プレミアム駐車場"の立ち位置とし、1時間1,500円などの強気の料金設定をする」など、有料化により警備員の費用などの財源にすることが考えられます。そして、長期的には、少し離れた場所だとしても「駐車場の整備とシャトルバスの運行(当然、有料化)」「歩行者専用通路の設置」などのハードの対策が必要なのではないでしょうか。
国が「観光立国」を掲げて20年近くが立ち、確かにインバウンドは国にとって重要な産業に成長しました。しかし、住民の生活あっての観光であり産業。なかなか難しいかもしれませんが、生活と観光がゼロサムではなくウィンウィンになれる日が来ることを祈りたいと思います。


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