指宿白水館での一期一会。
鹿児島は指宿にある老舗旅館、白水館。
会長の下竹原啓高さんが先日逝去した。
総合商社を早期リタイアして指宿へ。
白水館の社長になった異例な経歴の方だ。
一期一会は、人生の宝となる時がある。
下竹原さんとの出会いは、私にとって正に宝だ。
8年前、親族一同の旅行で白水館に宿泊した。
親戚の1人が下竹原さんと顔馴染みなこともあり、迷いなく白水館に決まったのだ。
顔馴染みと言うからには、何か特別な計らいでもあるんじゃろうと、よこしまな私たちの期待を遥かに上回る、それは手厚いおもてなしだった。
部屋のアップグレードや、サプライズのルームサービス。
でも何より最高の計らいは、夕食の席に下竹原さんがふらりと現れたことだろう。焼酎を片手に。
豪快な笑い声。貫禄のある佇まい。
恐縮する程の細やかな気遣いがありながら、堂々として迎合しない。
エネルギッシュで、まるで生命力が塊になって動いているようだ。
そんな人の話が面白くない訳がない。
白水館の切り盛りについて、元禄温泉の秘話、伝承館の美術品のこと。
指宿で実現したい夢のプロジェクトのこと。
三菱商事を早期リタイアして白水館の社長を継いだ話。
ロシアで暮らしたこと。
示唆に富み興味深く、気付けばあっという間の1時間だった。
白水館に来る数ヶ月前、会社の勉強会で稲盛和夫氏の講和を聞いたが、私にはいささか崇高過ぎた。
一方、下竹原さんの話は泥の付いたタワシで心をゴシゴシしてくる感じ。焼酎片手に。
「丸い物を四角と言える勇気が必要な時もある」
「手に入れたい物があるなら、執着することだ」
おっと、そろそろお暇しなくてはと立ち上がる。
人懐っこい笑顔でこう言った。
「思考を止めないことですね」
当時、なかなか子供を授からず悩んでいた私に、何か考え方のヒントを示してくれた気がした。
この半年後に妊娠したのも、粋な計らいなのか。
もう一度お会いしたかった。
生きてる限り、思考を止めません。
※写真はフォトギャラリーからお借りしたイメージです