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Shakespeare 『ペリクリーズ』第2幕第3場

第3場
ペンタポリス 王宮の大広間

 (サイモニディーズ、セイザ、長官、ペリクリーズ、
貴族達、貴婦人達は槍の試合場から従者達と共に登場)

サイモニディーズ
 騎士の方々 この場にて 歓迎の 言葉など 述べるのは
 余計なことと 思います
 戦における それぞれの 勲功(くんこう)記す 書物への
 賛辞の言葉 贈るなど 諸侯としても 望みでは ないだろう
 場違いと 謗(そし)りを受けるに 違いない
 価値あるものは 自(おの)ずから 現れる
 どうか陽気な 気分になって もらいたい
 陽気な気分は 宴会に そぐうもの
 皆さまは 王侯で 私の客だ
セイザ
 〈ペリクリーズに〉でも あなたこそ 私の騎士で
 主賓です
 ここにある 勝利の花輪 あなたにと お贈りし
 私のことを 今日という日の 「幸福の華」と 呼びましょう
ペリクリーズ
 このことは 功績と 言うよりは 運が良かった だけのこと
サイモニディーズ
 どう言おうとも 今日の勝利は あなたのものだ
 ここにいる 者達で 妬(ねた)んだり する者は いないはず
 芸術の 世界に於(お)いて
 ある者は 並みのレベルの 芸術家となる
 その中で 偉才を放つ アーティストに
 成長する者 いるのです
 あなたはその アーティストです
 さあ 宴の女王 おまえだよ セイザ この席に 着きなさい
 長官よ 式のことは 任せたからな
騎士達
 陛下に招かれ 光栄に 存じます
サイモニディーズ
 今日の良き日に 集(つど)ってもらい 感謝する
 私も名誉 重んじる
 名誉を特に 軽んじる者 天上の神々に 軽んじられる
長官
 〈ペリクリーズに〉どうか あなたは あそこの席へ
ペリクリーズ
 私より 相応しい方 いらっしゃるはず
騎士1
 ご遠慮は 要りません 我々は 紳士です
 心でも 見た目でも 優れた者を 妬んだり
 劣った者を 見下したりは しないのですよ
ペリクリーズ
 騎士として 礼儀正しく なさるのですね
サイモニディーズ
 さあ そこに お座りを
ペリクリーズ
 〈傍白〉ああ ジュピターよ 人の心を 司る神
 ここにいる 王女を思うと ごちそうさえも 喉を通らぬ
セイザ
 〈傍白〉ああ ジューノ よ 婚姻を 司る神
 あの騎士が 主食となって
 ここに置かれた ごちそうも 味なく見える
 〈声に出し〉きっとあの方 勇敢な 紳士だわ
サイモニディーズ
 いや ただの 田舎紳士だ
 やったこと 他の騎士が したことと 同じ程度だ
 1、2本 槍を圧(へ)し折った だけのこと
 取るに足らない 事柄だ
セイザ
 私には 他(ほか)のガラスと 比較したなら
 ダイヤモンドに 見えますわ
ペリクリーズ
 〈傍白〉僕の目に あの王は
 父上の 生き写しに 見えるのだがな…
 父上も 玉座の傍に 星のように 王侯貴族を 侍(はべ)らせて
 栄光に 包まれて いらっしゃったな
 その姿 太陽で 弱い光の 星たちは
 自らの 冠(かんむり)を脱ぎ
 父上の ご威光に 平服した ものだった
 ところがだ 今その息子 この僕は 夜の蛍だ
 暗くなったら 目に見える 明るくなれば 何も見えない
 考えて みたならば 「時」というもの 人間の 王さまだ
 人間を 生み出して 人間を 殺すのだ
 人間に 「時」は勝手に 与えはするが
 人間が 求めるものを 与えはしない
サイモニディーズ
 騎士諸君 愉快な時を お過ごしですか?
騎士達
 陛下と共に 過ごさせて 頂いて
 楽しまぬ者 いるわけが ありません
サイモニディーズ
 さあ 並々と 杯に 注がれた ワインを飲んで
 君達に 乾杯だ
 君達も 愛する人に 乾杯すれば それでいい 乾杯!
騎士達
 陛下に乾杯! ありがとう ございます
サイモニディーズ
 いや ちょっと待て
 あそこに座り 黙ってる騎士 憂鬱そうだ
 我が宮廷の もてなしが 満足できぬ 顔付きだ
 そう思わぬか? セイザ
セイザ
 それが私に 何か関係 あるのです?
サイモニディーズ
 さあ よく聞きなさい
 王たる者は 天上の 神々のよう 振る舞うべきだ
 神々を 崇(あが)める者が 来たならば
 神々は 惜しみなく 与えられる
 そうしない 王などは 騒音ばかり 立てている ハエや蚊と
 同類に 扱われ 殺されたなら 持て囃(はや)される
 あの騎士も ここに来て 良かったと 思えるように
 私が彼に 乾杯すると 言って来てくれ
セイザ
 でも お父さま 見知らぬ騎士に
 そのような 大胆なこと できません
 男性は 女性からの プレゼントさえ
 不躾(ぶしつけ)と お思いに なりますね
 私からの 申し出に 反感を 持たれるのかも しれません
サイモニディーズ
 何だって⁈ 言われた通り しないなら
 わしの気分を 害することに なるのだからな
セイザ
 〈傍白〉ああ 神よ! 私には これほども
 幸せな 役目は他に きっとないわね
サイモニディーズ
 そして彼には 尋ねるのだぞ
 どこから来たか? 家柄や 名前もな
セイザ
 王である 私の父が あなたのために
 乾杯したいと 申しています
ペリクリーズ
 ありがとう ございます
セイザ
 このワイン あなたの命の 血液と なりますように
ペリクリーズ
 王とあなたに お礼を申し
 忠誠を お誓いし 返杯させて もらいます
セイザ
 父からは あなたの故郷
 名前 家柄 伺うように 言われています
ペリクリーズ
 タイアの生まれで 名はペリクリーズ
 文武両道の 教育を受け 世界へと
 冒険の 旅に出た その後で
 荒海で 船は壊れて 船上の 人の命が 奪われて
 難破の後は 潮に流され 打ち上げられたの この国でした
セイザ
 〈サイモニディーズに〉あの方は お父さまに お礼申され
 タイアの生まれで ペリクリーズと 仰いました
 不運にも 海で船が 難破して 船も人も 失って
 この国の 海辺に一人 流れ着いた ようでした
サイモニディーズ
 そうだったのか 彼の不運に 言葉が出ない
 憂鬱な 心の内を 少し明るく してやろう
 さて 諸侯 粗末な料理に これ以上
 引き止めるのは 申し訳ない  他の趣向を 考えましょう
 幸いに あなた方 鎧を着けて いらっしゃる
 それで今 兵士のダンスを 踊るのは いかがであろう?
 武器の音など 女性の耳に 無粋だなどと 
   言わないで もらいたい
 貴婦人は ベッドの中でも 腕の中でも
 騎士が お好きな ようだから (騎士達は踊る)
 お頼みし それで良かった なかなか上手い 踊りであった
 さあ みんな 踊りたい 女性がここに いらっしゃる
 噂では タイアの騎士は 貴婦人方を 踊らせるのが  得意らしいな
 それにまた 彼の踊りも 匠の技と 聞いている
ペリクリーズ
 練習を 積んでいる者 きっとその 通りでしょうね
サイモニディーズ
 ご自分は そうではないと 控え目な 言い方ですな
 (騎士達と貴婦人方は踊る)
 さあ この辺で 手を離し 輪を解いて
 ありがとう 騎士諸君 それにみんなも
 見事なまでの 踊りっぷりだ
 〈ペリクリーズに〉でも あなたのが 最高でした
 小姓達 灯りを持って 騎士達を 各自の部屋に 案内いたせ
 〈ペリクリーズに〉あなたの部屋は 私の隣に しておいたから
ペリクリーズ
 どうぞ陛下の お指図のままに…
サイモニディーズ
 諸侯のみんな 愛を語るに もう時刻 遅過ぎる
 あなた方の 目的が それなのは 分かっておるが
 今日のところは それぞれの 寝室に お入り下さい
 明日には ベストを尽くし 成功なさる ことでしょう
 (一同退場)

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