社会を明るくする運動に参加した話

 中3のころ、私は「社会を明るくする運動」というボランティア活動に参加したことがある。

「社会を明るくする運動」とは、法務省が主体となって取り組んでいる運動のこと。犯罪の防止や、犯罪を犯した人の更正を主軸としている。

 参加することになった経緯はこうだ。

 担任の先生が朝のホームルームで、「日曜日にイオン前でやる、〈社会を明るくする運動〉に参加すると500円分の図書カードがもらえる」と言っていたからだ。

 それを聞いていた友達(仮にSとしておこう)が、「一緒に参加しよう」と誘ってきたのだ。

 私も「500円分の図書カード」という言葉に惹かれたのと、「内申書の空欄」を埋めるため、参加を決意した。

「内申書の空欄」とは、3年間委員会活動や部活の功績が無いため、空白となっている活動欄のことだ。空欄があると、高校の推薦や併願を受けるとき、いろいろとマズい。担任の先生は、「浅野くんは内申書のことを心配する必要はない」と笑顔で話していた。だが、心配する私を気遣って言った可能性もあるので、実際どんなことが書かれているか、わからない。だからといって諦めたくない。今からでも挽回できるのなら、挽回したい。言い換えれば、「点数稼ぎのための悪あがき」だったのだ。

 私は押し付けられた風紀委員の仕事をしながら、当日までの1週間を過ごした。


 当日。私とSは、集合場所である地元のイオン入り口前に行った。

 参加者は小学校中学年から高学年の子どもたちと、部活や生徒会の活動で参加していると思わしき、ミリタリーグリーンのズボンと半袖ワイシャツを着た高校生の合わせて15人。中学生は私とSだけだ。

 段ボール箱の前に立っていたオレンジのジャケットを着たオジサンが、集合の合図をかけた。見たところ、朝街中の横断歩道で黄色い旗を持っているオジサンだろう。

「団扇を数個取って、それを目の前を通る人に配ってください」

 私とSはオジサンの指示通り、団扇を手に取って並ぶ。

 イオンの入り口の前を通る人は冷淡で、だれも団扇を持っていってくれない。対して右脇にいた小学生が配る団扇は、必ず誰かが持っていってくれる。子どもの力とは恐ろしいものだ。

 持っていった人はたったの数人。蒸し暑い中必死で声を出していたのに、なんと悲しいことか。

 終わったあと、500円分の図書カードと余った団扇一つを貰い、濡れたハンカチで汗を拭きながら、トボトボとした足取りで家へ帰った。

 沈みゆく夕日は、紅く哀しげな光を放って西の空へ沈む。 


 翌日。私とSは担任の先生から400字の原稿用紙を2枚もらった。「社会を明るくする運動」に参加した感想を書いて欲しいということだ。

 私は400字詰めの原稿用紙2枚に、「異常犯罪が近ごろ増えている」という事実と、犯罪を犯す人の境遇の同情について書いた。だが、「異常犯罪が近ごろ増えている」部分について担任の先生から、「過激だから直して欲しい」と指摘された。犯罪を犯す人の境遇の同情については、目くじらを立てられることはなかったが。

 私は、「事実を指摘した」だけなのに、なぜ訂正しなければいけないのだ? と内心腹が立ったが、怒るのもバカバカしいので、直しを嫌々ながらも引き受けた。


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