日本酒の「特定名称酒」って何だろう?(下)
前回までで、「清酒」(日本酒)の定義、また、「清酒」(日本酒)の特定名称酒のうち、「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」についてまとめました。
今回は、「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」以外の特定名称酒、そして、特定名称酒全般について考えてみます。
「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」以外の特定名称酒
特定名称酒の「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」に、「極上」「優良」「高級」等の品質が優れている印象を与える用語は用いることはできないが、要件を満たせば、次の通りの用語を使える、とされています。(「清酒の製法品質表示基準」)
「純米吟醸酒」:「吟醸酒」のうち、米、米こうじ及び水のみを原料として製造したもの。
「大吟醸酒」: 「吟醸酒」のうち、精米歩合50%以下の白米を原料として製造し、固有の香味及び色沢が特に良好なもの。
「純米大吟醸酒」:大吟醸酒と純米酒の両方の要件を満たしたもの。
「特別純米酒」「特別本醸造酒」:純米酒又は本醸造酒のうち、香味及び色沢が特に良好であり、かつ、その旨を使用原材料、製造方法その他の客観的事項をもって当該清酒の容器又は包装に説明表示するもの。(精米歩合をもって説明表示する場合は、精米歩合が60%以下の場合に限る。)
これで、8種類の特定名称酒が揃いました。
1. 吟醸酒
(精米歩合:60%以下・醸造アルコール添加:有)
2. 大吟醸酒
(精米歩合:50%以下・醸造アルコール添加:有)
3. 純米酒
(精米歩合:規定なし・醸造アルコール添加:無)
4. 純米酒大吟醸酒
(精米歩合:50%以下・醸造アルコール添加:無)
5. 純米吟醸酒
(精米歩合:60%以下・醸造アルコール添加:無)
6. 特別純米酒
(精米歩合:60%または特別な醸造方法・醸造アルコール添加:無)
7. 本醸造酒
(精米歩合:70%以下・醸造アルコール添加:有)
8. 特別本醸造酒
(精米歩合:60%以下または特別な醸造方法・醸造アルコール添加:有)
参考サイト:
清酒の製法品質表示基準を定める件
「清酒の製法品質基準」の概要
「特別純米酒」や「特別本醸造酒」の「特別」とは?
ところで、「特別純米酒」「特別本醸造酒」の「特別」って分かりにくいですよね?
少なくとも、私は、「特別」を理解するのに少々時間がかかりました。
「特別」とは、上述のとおり、香味及び色沢が特に良好であり、かつ、その旨を使用原材料、製造方法その他の客観的事項をもって当該清酒の容器又は包装に説明表示するもの(精米歩合をもって説明表示する場合は、精米歩合が60%以下の場合に限る。)、です。
実は、「特別」には、これ以外に具体的な基準がなく、各酒蔵に任されています。
例えば次のような場合、「特別純米酒」または「特別本醸造酒」となっています。
● 精米歩合60%以下の場合(規定あり)
● 酒造好適米100%使用している場合
● 大吟醸並みの造り(低温長期発酵)の場合
● 無農薬の酒米を使用している場合
● 木槽(きぶね)しぼりの場合
● その他、その酒蔵の他の日本酒と比べて、違いがある場合(ただし、「最高級の清酒(日本酒)」という意味ではない)
なお、木槽しぼりとは、「新酒を搾るために、木で出来た旧式の搾り機を使用するやり方のこと」です。(美川酒造場(福井県福井市)サイトより)
木槽しぼりの詳細については、こちらから。
ちなみに、米、米こうじ、水が原料で、精米歩合が60%以下の清酒(日本酒)は、「特別純米酒」、または、「純米吟醸酒」のどちらでも使えます。
純米酒らしいふっくらとした味わいがコンセプトの場合は「特別純米酒」、華やかな甘い吟醸香がコンセプトの場合は「純米吟醸酒」、となっていることが多いようです。
参考サイトなど:
日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会(SSI)(2018) 「新訂 日本酒の基」 NPO法人FBO(料飲専門家団体連合会)
「酒みづき:特別純米酒・特別本醸造酒とは?特別な醸造方法の日本酒を味わおう」沢の鶴株式会社(2019年7月1日)
「清酒」(日本酒)と「特定名称酒」のまとめ
「清酒」(日本酒)とは、「酒類」(アルコール度数1度以上の飲料)の中の「醸造酒類」のひとつで、アルコール度数が1%未満22度未満、米と米こうじと水が使用されていて、こしたもの。
「清酒」(日本酒)は、こうじ米の使用割合が15%以上で、3等以上の原料米を使用し、次の特定名称酒の要件を満たせば、特定名称を表示できます。
醸造アルコール添加「有」のものは、その使用量は白米の重量の10%以下でなければなりません。
1. 吟醸酒
(精米歩合:60%以下・醸造アルコール添加:有)
2. 大吟醸酒
(精米歩合:50%以下・醸造アルコール添加:有)
3. 純米酒
(精米歩合:規定なし・醸造アルコール添加:無)
4. 純米酒大吟醸酒
(精米歩合:50%以下・醸造アルコール添加:無)
5. 純米吟醸酒
(精米歩合:60%以下・醸造アルコール添加:無)
6. 特別純米酒
(精米歩合:60%または特別な醸造方法・醸造アルコール添加:無)
7. 本醸造酒
(精米歩合:70%以下・醸造アルコール添加:有)
8. 特別本醸造酒
(精米歩合:60%以下または特別な醸造方法・醸造アルコール添加:有)
「純米酒」「本醸造酒」は、香味及び色沢が良好なもの、「特別純米酒」「特別本醸造酒」は、香味及び色沢が特に良好なもの、そして、「吟醸酒」「大吟醸酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」は、固有の香味及び色沢が特に良好なものでなければなりません。
特定名称酒でない清酒(日本酒)は、普通酒です。
したがって、日本酒は、特定名称酒8種類に普通酒を加えて、9種類に分類できます。
特定名称酒について改めて調べてみての感想
「吟醸酒」、「純米酒」、「本醸造酒」を表示する要件のひとつに、「香味及び色沢が良好なもの」(異味異臭がなく清酒固有の香味及び色沢があるもの)があること、また、「特別純米酒」などと表示するには、「香味及び色沢が特に良好なもの」とさらに厳しい要件があることは、知りませんでした。
ただ、「香味及び色沢が良好なもの」や「香味及び色沢が特に良好なもの」には、これ以上具体的な説明はなかったです。
古酒・熟成酒は、色・香り・味が個性的なものが多いですが、特定名称の表示があるものについては、「香味や色沢が(特に)良好なもの」「異味異臭がなく清酒固有の香味及び色沢があるもの」の要件は満たしているんだな、と思っています。
ただ、今のままだと、明確ではないように思います。
また、特定名称酒は、高品質・高付加価値商品の清酒(日本酒)を示すものとなっていますが、最近は、特定名称酒の要件が揃っていなくても、手間がかかる造りで高品質の清酒(日本酒)、また、要件が揃っていても、あえて特定名称を表示していない清酒(日本酒)もあります。
このような現状を鑑みると、特定名称酒の要件を満たす清酒(日本酒)のみが高級品とは言えなくなってきているため、特定名称酒の要件を変更する、とか、特定名称酒ではなくても高級品があることを世の中に発信していくことが大事だと思います。
例えば、古酒・熟成酒だと、造りは普通酒でも高級品があります。
ちなみに、特定名称酒が最初に定められた当時(平成元年制定)は、「純米酒」の要件のひとつだった、「精米歩合70%以下」が、その後削除されました。
その背景として、「(特定名称酒が定められてから)既に14年が経過しており、この間、醸造設備の開発、製造技術の進歩等により、例えば、純米酒の製法品質の要件である精米歩合70%以下の要件に該当しない白米、米こうじ及び水を原料として製造した清酒(いわゆる「米だけの酒」)であっても、純米酒の品質に匹敵するものが製造できるようになりました。」(「清酒の製法品質表示基準」の概要)とあります。
今後も、時代とともに特定名称酒の要件は見直されて行くのかもしれません。
少し堅い話が続きましたが、古酒・熟成酒について考えていくにあたって、知っておくべきことだと思ったので、時間を使いました。
以上を鑑みつつ、次回は、古酒・熟成酒の飲み比べです!
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