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CEOとCFOって仲が悪い方がうまくいく??! ~創薬ベンチャーの CFO3人が語ったCFOの仕事と役割~ 

こんにちは、久しぶりの投稿になります。

先日、BioJapanにて「日本の創薬ベンチャーが世界で戦うために必要なCFOとは?」と題しまして、プライム市場への昇格や新規上場を果たされた上場創薬ベンチャー(Nexera Pharma, Chordia Therapeutics, Heartseed)の3名のCFOを交えてパネルディスカッションを開催させていただきましたので、本日はその内容をコラムとして、共有したいと思います。

当日は以下の3点をテーマにディスカッションを行いました。

  • CFOとは?

  • 社長・投資家との付き合い方とは?

  • 日本の創薬ベンチャーが世界で戦うためのCFO

インターネット業界のCFOにはいろいろスポットライトが当たっていますが、創薬ベンチャーのCFOの方の生の声が聴ける機会はこれまでほとんどなかったと思います。貴重な機会ですので、少し長いですが、ぜひ、ご一読ください!


2024年10月10日 Bio Japanセミナー講演@パシフィコ横浜
「日本の創薬ベンチャーが世界で戦うために必要なCFOとは?」

登壇者
パネリスト:株式会社Nexera Pharma / 野村広之進執行役副社長CFO
      Chordia Therapeutics株式会社 / 久米健太郎CFO
      Heartseed株式会社 / 高野六月取締役CFO
コーディネーター :栗原哲也

協賛: 新生キャピタルパートナーズ株式会社

(栗原)
近年CXOなど色々な役職がある中、やはりCEOとCFOが要となっており、今回はCFOというテーマで上場バイオベンチャーのCFO 3名に参加いただきました。経歴やバックグラウンドは三者三様というところで、それぞれどういったことをされているか、いい比較にもなるかと思います。早速自己紹介から、野村さんお願いします。

(野村)
株式会社ネクセラファーマでCFOをしております、野村と申します。私は薬学部がバックグラウンドで研究者を志して大学院のマスターまで行きましたが、その後なぜか三菱総研というシンクタンクに入社し、5年ほどヘルスケアの政策立案やコンサルティングといった経験を積ませていただきました。
その後は、みずほ証券という証券会社で、日本のバイオベンチャーが投資家さんに見向きしてもらえないという今につながる問題に直面しました。個人投資家さんは短期、あるいは長期で投資いただける方もいますが、大手の機関投資家はなかなか安定的に株を持ってもらえないという課題があります。みずほ証券は、成否はさておき、果敢にそこに挑みまして、機関投資家に向けたバイオ専任アナリストとして5年ほど働かせていただきました。そのときに経産省の伊藤レポートバイオ版に携わらせていただき、その後にネクセラファーマに入社しました。
ネクセラファーマって聞くと知りませんという方が多いのが少し残念なのですが、名前を変えただけでして、今年の3月までそーせいグループという社名で、こちらの方が名前としては知られているかなと思います。上場してもう20年以上経つのでバイオベンチャーとそろそろ言いにくくなってきていますが、老舗のバイオベンチャーでございます。
今日は直近で上場された非常にフレッシュなお二方と同席させて貰い緊張しておりますが、私の観点からは、昨年プライム市場に指定替えをいたしまして、今は指定替えという制度がないので、新規上場にはなるのですが、直近の上場というよりはそういったところの経験を交えてお話しできればと思います。

(久米)
ChordiaTherapeutics株式会社のCFOをしております久米と申します。今年の6月に上場しまして、実は昨年の8月にも上場承認を得たのですが、野村さんのお話にもありましたが、なかなか機関投資家の方に見向きをしてもらえないという中でいろいろと工夫をして再度上場した次第です。
私のキャリアですが、薬学とか理系の経験は全くなく、経営に携わる仕事、お金に携わることが重要なんじゃないかという思いで一番初めに金融機関に入り、その中でも中小企業に対してお金を用意する日本政策金融公庫の中小企業事業というところに入りました。金融機関にいた時には2年ほど役所に出向していました。安倍政権に変わったタイミングで、骨太の方針を作る、その中の知財のパートという話の取りまとめをやり、それ以外にはCSRなどのレポートをやっていました。金融の外を経験したときに、金融だけじゃなくてもう少し事業側をやらないと物事を進められないなと思いまして、その後はA・T・カーニーというコンサルティング会社に入りました。
最初はファイナンシャルプラクティスという金融業界を中心にコンサルティングをやっていたのですが、徐々にオペレーションプラクティスとして業務プロセスを中心に行い、その後、ご縁があった武田薬品工業に転職した次第です。
武田薬品でどういうことをやったかっていうと、一番初めにコーポレートファイナンス部門に入りまして、クリストフ・ウェーバー社長が進めているグローバル化の中で、グローバルでバラバラだった購買機能を中央集権化するという統一する仕事をやっていました。その過程の中でR&Dトランスフォーメーションというところにどっぷり入り、弊社を含めた武田薬品発バイオベンチャー企業を作り、武田薬品工業として支援する仕事に従事しているうちに、Chordiaの当時の投資家さんからお声がけがあって入社したといったところです。
紆余曲折がありましたが、最初の社会人になったときのお金にまつわることが一番重要なんじゃないかという思いは、一周回って今同じ立場にいるので、徐々に実現できているのかなと思っている次第です。

(高野)
Heartseed株式会社という会社でCFOをしております高野と申します。証券コードは219Aでございます、よろしくお願いいたします。
Heartseedという会社を先にご説明申し上げますと、iPS細胞を心臓の筋肉(心筋細胞)へと分化させ、99%以上の非常に純度の高いものに純化し、それを心臓の筋肉の中、直接左心室の壁に注射し、重症心不全の患者さんを治療するという治療法を作っております。今年の7月に上場しましたが、上場後1週間で8月のマーケットクラッシュが起きてしまい、早速市場の洗礼を浴びることもありました。今は少し持ち直してなんとかやっております。直近はメディアでも多くご紹介いただいていて、バンキシャやCNNなどの番組でご紹介いただいていますので、ご興味あれば見ていただければと思います。
次に私自身ですが、複雑なキャリアとなっております。全体感としては、多様な立場でフロント/ミドル/バックオフィス全てを経験し、事業面では、製品販売や事業の新規組成、ジョイントベンチャー設立、会社経営や撤退、投資先売却、リストラクションなど、前向き後ろ向き問わず仕事を経験しました。
最初は三井物産という総合商社に入社しました。原油タンカーの販売や、中国での研修や拠点の再構築を経験し、中国から戻ってきて企業投資部に配属され投資事業に携わりました。米国のMitsui Global InvestmentというVCの運営側に入り、そこで年間数百件、Pre-Clinicalぐらいの案件を見ていたのですが、そこでなんとなく投資や創薬ベンチャーっていうものがわかってそっちに行きたいなと思い、三井物産を辞め、ベルギーのPromethera Biosciences(現Cellaïon)という重度肝臓疾患向けの再生医療をおこなっている会社に行きました。
東京支店長になったのですが、入社時残りのキャッシュは4ヶ月という状態で、1ヶ月後には当時のCFOが交代となり自分が引き受ける事となり、そこからIPO準備を含み、短期と中期と長期の異なる時間軸の資金調達を同時に回しつつ、日本拠点立ち上げを進めました。その後ちょうど武漢株が出てきたぐらいの2020年4月から数か月、新型コロナウイルスの対策側にもおりました。そして現在の弊社、といったキャリアでございます。

(栗原)
ありがとうございました。では本題に入ります。CFOとはChief Financial Officerの略で最高財務責任者のことを指しますが、お金を管理するというところでは守りの姿勢も重要な一方で、積極的に財務状況を見据えながら企業戦略を練っていくという、攻めの一面も併せ持つ重要な役割だと思います。お三方がそれぞれどんな仕事をやられているか、一言いただければと思います。

(野村)
弊社は日本で上場しているのですがやや特殊でして、社員の半分がイギリス、半分が日本におり、日英半々みたいなことをやっています。その中で1つ特徴的なのは、適切なアカウンティング、ファイナンスといった、プライム上場企業として適切な財務諸表を作っていくという役割のところに、チーフアカウンティングオフィサーという者がイギリスにおります。そのためCFOと名乗ってはいますが、アカウンティングを中心としたファイナンス、財務経理みたいなところは、社内的には私にレポートしておらず、逆にそこは手を離れているというような形なので、一般に言われるところのCFOとは少し色が違うのかなというところがあります。
おそらく社長のクリストファー、会長の田村の頭の中に、同じ人の中で攻めと守りの両方ができるというのは難しいというのがありまして。そのため私はCFOの中でもどちらかというと攻めだけの担当で、投資家とのコミュニケーション、IR、資金調達といったことをやっています。
今年の1月からは事業開発のようなこともやっており、直近で言うと塩野義製薬さんと国内のディールを発表させていただきましたが、直近3ヶ月の7割ぐらいの時間はこれに取られているような状況でした。ベンチャーあるあるで、十分なチームがいる時といない時と、それほど人が潤沢ではないというのもあると思いますけれども。
そのように、IRに力を入れている時期もあれば、事業開発の時、資金調達の時もあります。所管があまり決まってないような問題を拾いに行くとかもしますので、幅広い形で業務を回しているというような状況です。

(久米)
弊社は6月に上場したばかりで、従業員数20名強の会社と小さい会社ですので何でもやらなきゃいけない立場ではあります。例えば一日にどのような仕事をやっているのかというと、最初にIRに対して株主さんから頂いたIRへのメールチェックを行い、対応すべきものはその場で対応するか判断をして回答するというところから一日が始まっています。資金調達のようなことは常に動くわけではないので、それ以外の日々の業務のベースはであるのは予実管理です。予算を立てて、それをどういうふうに直しているのか、研究開発部門とのこういったものが遅れる、進む、どういった発注が行われたかというようなやり取りはほぼ毎日発生していて、そちらを押さえることは日々発生しています。
また、野村さんと違うところは、決算対応や決算発表会といった場面でかなり時間を割かなきゃいけないところです。有価証券報告書、事業報告などのドキュメンテーションをドラフトし、そのうえで関係部門や専門家に見てもらうという流れです。今回上場して忙しいなと感じたのが、決算終了から45日というタイトな期限の中でいろんな書類を作らなきゃいけないことで、現在はこちらを体制としてどう構築するかということに今は力を注いでいます。特に弊社は明日が決算発表なので、ここ一か月はそればかり、そこに頭が集中していた感じです。

Chordia Therapeutics株式会社 / 久米健太郎CFO

(高野)
私は野村さんと少し近くて、弊社も攻めのファイナンスに携わるCFOと、管理担当取締役であるCAOと役割が分かれております。 私の部隊は戦略ファイナンス・IR室で、私ともう1名の2名のチームなのですが、バランスシートの右側、要はお金を取ってくるところの専任のような形です。取ってはくるのですが、結構細かい予算とかも管理部と交渉しないと、下りないというような形で、資金や予実管理は厳しくされております。
仕事の内容というところでは、上場後の世界はこれから経験して参りますが、未上場の時はやはり資金調達は大事です。事業は試行錯誤ができてもファイナンスだけは100%の成功確率が求められる、一発勝負です。しっかり準備をして、絶対にこのタイミングで集めきるっていう強い意志を持って、厳しいマクロ環境であっても結果を出すことが要請されます。
CFOの仕事に関する自分なりの定義は、「事業活動に直接干渉できない中で与えられた状態からスタートして何とかする」「絶対に会社がダウンサイドリスクに陥らないように複線型でシナリオを準備し経営する」ということになります。そういった意味では、私は文系学部卒ですがプロダクトの説明もできないといけないので学会も行きますし、総合格闘技的能力といいますか、そういうものを大事にして仕事をしています。

(栗原)
ありがとうございました。久米さんと高野さんにご質問なのですが、久米さんの会社は6月に、高野さんの会社は7月に上場されたというところで、上場前と上場後でやることが変わったかとか、マインドのところで何か変わったかとか、そういうのがあればぜひ教えてください。

(久米)
上場前後で結構変わりました。上場前は株主さんが全部見えているので、この株主さんだったらどう言うだろうなと、おおよそ戦略を考えて一人一人説得することで運営できていました。時にはオブザーバーである株主さんとは、こまめに連絡を取らなくてはいけないという手間もありましたが、結果として意思疎通は円滑だったと思います。
上場してからは、新しく入ってくる投資家さんがどういった方でどう言っているか、ダイレクトにはわからなくなりました。色々な投資家の意見を貰っていると正反対のことを言われることもあり、相手が所有する株式数も見えない部分もあるので誰にどう向いたらいいのかってところが日々悩ましいところだと感じています。
一方で、機関投資家さん、個人投資家さんと一括りにできなくて、機関投資家さんの中でも長期的にもっと成長させた方がいいという人もいれば、短期を見た方がいいという人もいる。そんな中で当社の社長と話しているのは、我々は中長期的にこういう形でこういったバリューを出すと、という主張はブレないということ。一人一人の意見を聞いていくのではなく、我々のやるということについてきてくれる株主の方についてきてもらうように戦略と執行をブラッシュアップしていくことが重要ではと大きく舵を変えつつあるところが、この上場後3-4か月で一番変わったところです。

(高野)
まさに市場に翻弄されているところですが、株式はどうしても相対取引ですので、株価によって含み益を抱える株主様、含み損を抱える株主様、両方いらっしゃるはずです。そこを我々チームとしてはすごく意識をしていて、中長期でしっかり結果を出して企業価値を向上させていかないといけない、ということを常に意識して仕事をしています。
マインドという意味では、社内で株価の話をしてくれる社員がちょっと出てきました。弊社は慶應義塾大学発のバイオベンチャーですので、研究員の6割程度は研究室からそのまま移籍をしており、研究以外の会社の評価というものが伝わりにくいと感じておりました。メディアの露出も増えて自分たちのやっていることが少しずつ外の世界に繋がっているという事を分かって貰える、それが実際にある意味の評価に繋がっている、というのはIR担当者としては嬉しくもあり、逆に短期的な目線に行き過ぎないようにしなければならないと思ってはおります。

(栗原)
ありがとうございます。野村さんの会社はさらに成長して昨年の3月にグロース市場からプライム市場に移られましたが、そこでの違いがあれば教えてください。

株式会社Nexera Pharma / 野村広之進執行役副社長CFO

(野村)
念願かなってといいますか、実は2015年ぐらいからずっと検討してきたプロジェクトでした。ご存知のとおり、プライム市場に行くとなると安定的な利益が出ている、基本過去2年は黒字でないといけないなど色々な制約があるため、何度も挫折がありなんとかそれらを乗り越えたのが2023年でした。
投資家さんの割合が如実に変わりました。我々はグロース上場時にもIRは頑張っていた方だとは思うのですが、マザーズやグロース市場では機関投資家さんの割合はせいぜい25%くらいで、これがプライムに行くと1日ですぐ50%ぐらいに上がりました。インデックスに入る日の前後でも大きく変わりまして、TOPIXに入ったことの効果でおそらく50%になり、また見えないところでおそらくTOPIXのETFを国も含めて買ってくれており、全体としては6~70%になっていると分析しております。さっきの議論のとおり機関投資家でも短期の方もいれば個人で長期の方もいるのですが、一旦単純化して機関投資家=安定株主とすると、それが半分以上になったということなので、大きく変わったかなと思います。
先ほどの話と関連するところでは、株主の声を聞いて経営していると、デスパレートといいますか、色々なことを言う方がいます。久米さんの話を聞いていて、自分たちの軸があってそれについてきてくれる人を探そうという方針は弊社も一緒なのですが、私がIRとして少し気にしているのは、やはり相手によって伝え方は変えないと伝わるものも伝わらないので、自分には10個の顔があるつもりで、勿論軸は変わらないのだけれど、伝え方は人によって分けるということが必要だと個人的には思っています。そこはプライム前でも後でも同じような状況です。
また、高野さんのお話と関連して、会社がプライムになって大きくなってくるってことを考えると、社内的に株価に対してセンシティビティが低くなってくると言いますか、例えば小さい会社だとみんなストックオプション持っているとか多いと思うのですが、大きくなるとどうしてもそこがなくなってきてしまって、現場の研究者なんかは「俺は研究がやりたい、株価なんか知るか」といった感じになってしまう。その点に関して、株主と目線を合わせてやっていこうっていう体制作りをしたというのがありまして、弊社では量の差こそあれ、全社員にRSU(譲渡制限付株式ユニット)を、プライム上場の期を前後から付与しています。おそらくこれをやっているのは日本でも数社かなと思うのですが、弊社の場合、割合は変わりますが正社員には全員何らかのRSUがあります。

(栗原)
ありがとうございます。なかなか見ていてもわからない話というのが出てきて、私もとても勉強になります。もう少し深掘りしたいところではありますが、次のテーマに行きたいと思います。社長、投資家との付き合い方というところで、上場前後やプライムに行かれたタイミングでお付き合いする属性の方々も変わられたかと思いますが、そういったところも踏まえて、まずは社長との付き合い方についてお伺いしたいと思います。

(高野)
弊社の福田惠一という社長は慶應義塾大学医学部の循環器内科の教授、再生医学の教授を長年勤めていまして、現在は慶應義塾大学の名誉教授です。心筋再生、心不全の領域において、国際学会を自分で組成できるようなアカデミアネットワークを持つ、グローバルでトップの研究者でもあるので、そういったサイエンスのパワーをどうエクイティストーリーに盛り込むか、会社の武器に使っていくのかというところが、CFOとして一番大事なところでした。
弊社の社長はおそらく他社のサイエンスベースの方と比べてもよくビジネスをわかっている人です。「ものづくり・人づくり」を大事にしている社長でして、多くの方の協力を得るための方法論や心持ちを常に意識しております。ただそうは言っても、投資家さんと実際話をしていく中で、やはり相手目線・相手基準での説明やロジックの補強をした方が良い、というところはありました。
ですので、例えば機関投資家のロードショーの最中の面談で、相手目線・相手基準での説明が欠いているときは、隣でメモを書いて渡したり、あるキーワードにおいても説明するロジック・順番・タイミングなどを地道に社長に説明をして、社長の言葉で迫力をもって説明してもらえるように腐心していました。とにかく一歩一歩、地道に進めていると少しずつ相手の目線がわかってくるので、特にサイエンスベースの方が社長でCFOが黒子で支えるケースでは大事なのかなとは思っております。

(久米)
弊社の社長の三宅さんは、元々は武田薬品の同僚で、抗がん薬の日本の研究部門のヘッドをやっていました。私が入ったのはChordiaを作って3年後になるので、2度の資金調達をやった後でした。三宅さんの場合は、もともと研究所の所長として研究者かつ事業部を全部見ていたので、ビジネス感覚もありました。なので、実際、未上場時の投資家コミュニケーションでは、私よりも上手かなって正直思ったこともあります。特に今の未上場のVCさんだと研究者出身の方がいらっしゃって、研究のこともしっかりわかっているので、そういった方かつビジネスっていうところでは三宅さんに任せておいていいかなと、その時の私の役割はコーポレートの体制を作るということに大きくフォーカスしていました。
上場が近づいていくうちに変わっていったのが、日本の機関投資家さんや一般の機関投資家さんはそこまでサイエンスがわかる方がいないので、三宅さんの方でコミュニケーションをどうするかわからないということがあって、そこからは私がストーリーに関しては方向性を作って、そこにサイエンスのTIPSを入れる、言いたいことを入れる、というやり方に変わっていきました。徐々に今、高野さんの仰っているところと近いところに来ているっていうのが状況です。
もう1つ社長との関わりでいうと、社長を止めることができるのは誰なのか?というストッパーの役割として、CFOがいると思っています。それは会社によって違うと思いますが、私は何かを進めるってことはできないのですが、お金をしっかり管理しているので、これをやったらいけないというところは私が持って、CEOが独走しないようにする。そのためにCFOがいて、そのうえに監査等委員がいる、という体制をとっています。ストッパーなので社長と対等ではないと思っていなくて、斜め下としてお目付け役みたいな形、言い方変えるとお金を絶対止めるので嫌われ者にはなるのですが、必要なファンクションなのかなとは思っています。

(野村)
よくわかります。私もおそらく社長に嫌なこと言わなきゃいけない立場で、それを他の執行役からも期待されているようなポジションの気がしています。弊社の社長はクリストファー・カーギルと言いまして、先ほど申し上げたとおり、社員がイギリスに150人、日本に150人おり、彼は日本も見ていますがイギリスにいることが半分強ぐらいです。そのため少しコミュニケーションが取り難いようなことや、言語化・定量化できないけれどこう思う、など色んな意見が日本の執行役から上がってきます。それをうまく社長に伝えて、怒られる時は怒られるし、押し通すときは押し通すというような、そういう助言をする立場にいるのではないかとは思います。
一方で日本の事業ってことに関して言いますと、彼がイギリスいることを前提にすると、日々の業務とか人事とかで当然いろんなことが起こります、その時に、まだ完璧にしっかりした体制ではないというか、ベンチャーっぽいところも残っていますので、間に落ちそうなボールを他の人と協力して、できるだけ大事に至らないように拾いに行くっていうのが役割だと思っています。
また、会長の田村が今75歳くらいで、若い世代にどんどんトランジット、渡していきたいということがあり、私も社長も今40歳ぐらいと同年代でして、ここは公私問わず非常に密にコミュニケーションしながらやっています。先日はバーで3時ぐらいまで飲んでいたのですが、ずっと仕事の話をしていて、マスターが呆れてもう帰ってくれと言われたことがあったくらい、事業の話を密にできる間柄かなというようには思っています。

筆者

(栗原)
ありがとうございます。次に対投資家について伺います。投資家と申しましても、未上場の頃はVCが中心でしょうし、上場した後は個人投資家、機関投資家とのお付き合いも必要になるかと思います。実は私は高野さんと久米さんとは投資家側のベンチャーキャピタルとしてやり取りをしていました。そういったところでそれぞれどうお付き合いをしているかっていうところをお伺いできればと思います。

(野村)
機関投資家さんとのコミュニケーションは比較的スムーズで、一定のやり方もあると思います。これもさっき言ったように、投資家さんによって月次のパフォーマンスが求められる投資家さんもいれば、10年投資する気の投資家さんもいる。ポートフォリオの関係で、本当は買いたくないけど、どこかバイオで一社買わなきゃいけないとか、それぞれ投資家の都合があるので、そういったことを考えて、向こうの文脈に合うように情報を提供するというのがコミュニケーションだと思います。
個人投資家さんとは僕もこの会社に入るまでは付き合いがなくて、結構迷ったのですが、最近は多分攻めた方がいいと思っています。攻めるというのは、具体的に個人投資家さんに向けてIRで弊社がやっていることがありまして、会社に届く個人投資家さんからのメールの内容ってアグレッシブなものもあるので、個人投資家さんへの情報発信は会社の言いたいことを一方的に言うけど向こうからフィードバックを受けないみたいな形が一般的にも多いと思うのですが、一昨年にウェブで誰でも参加可能、40-50分自由に質疑応答ができるセッションというのを1回やってみたところ、参加者300名ほどでしたがとても建設的な議論になりました。
株価の方はそれほど反応しなかったのですが、それからずっと参加してくれたり、応援のメッセージを送ってくれたりというような関係性が発生していて、こうやって透明性高くやっていく方が答えてくれる人はくれるので、まだ試行錯誤中ですが今のところはいい取り組みだと思っています。

(久米)
未上場のことで言えば、VCさんの場合はやはり顔が見えていて、それぞれどういったことをやってほしいのか、どういう規定があるのか、そこに関して定期的に情報を入れてやり取りをして、双方向のコミュニケーションをしっかりやった上で、基本的には全員に一致してもらう方向に持っていくよう、かなり議論を尽くしたと思います。なので、その時の感覚で上場してしまった時に、誰もそういう双方向の相手がいないよね、どうしようと戸惑った部分があります。その中で、個人投資家とも話をした方がいいとの発送で、今年の8月に日経新聞社主催の個人投資家IRフェアに出ました。私は2日間丸々参加して、社長も土曜日の1日参加しました。
双方向のコミュニケーションということで、個人投資家に対し1対1で社長になんでも言っていいよというようなことをやった中で言うと、野村さんの言うようにみなさん、建設的なコメントをもらったので、個人投資家さんとの双方向のコミュニケーションは我々としては大事にしていきたいと思っています。そのために今年参加したようなフェアには、年間1回か2回出ても良いかと思っています、それだけではなく社長説明する機会を積極的に提供してファンを作っていきたいと思っています。
機関投資家さんとのお付き合いについてですが、ロードショーとか上場前に一発、話をすることはあるのですが、継続的にどのようなことを思っているかまで至らず、自分の会社はこうであるって話を伝えることに大きく時間を割いてしまっていたので、上場した後、今後はどういうことを期待している、どうなってほしいと思っているのかというような、投資家さんの注目するツボを知る的な話は、野村さんの話から学びを得たなと思ったところです。


Heartseed株式会社 / 高野六月取締役CFO

(高野)
少し逸れますが、久米さんが仰っていた個人投資家フェアには、私も勉強したいと思っていて一般人として参加しました。Chordia Therapeuticsさんは、唯一バイオベンチャーで出展されていて、考えていらっしゃることが他の会社さんと違うなと思った次第です。
本題の投資家との付き合い方ですが、直近お話をお伺いした、日本の大手製薬企業でグローバルIRのトップだった方から、「自分たちと個人投資家さんの間に相当大きな情報ギャップがある」とご助言頂きました。
CFOの仕事で大事なものの1つは、投資家や外部関係者とのインフォメーョンギャップをコントロールすることだと思っています。特に未上場の場合には、VCさんが買う側、自分たちは買って貰える側なので当然ギャップがあって、先方はたくさん案件の比較ができますが、我々は自分たちのことはわかるけれども他社のことはなかなかわかっていないです。お互いにギャップがあって、これが程よく解消してくると、パワーバランスが中立になり、その目線で価格が合うと資金調達ラウンドが成立する、みたいなところをイメージし、やっていました。
一方で個人投資家さんとの間っていうのはまた別のものがあって、こちらがある意味多く持ちすぎているというような状況にもなっています。そこでやはりできるだけわかりやすく伝えないといけないなと思い、そういった意味でIRフェアにも勉強しに行っておりました。また直近ですが、心不全学会に付属している学会長主催の市民公開講座が開かれていたのですが、学会長が「右の拳を握って左胸にあててください、これがちょうど心臓の大きさです」と説明していました。できるだけ分かりやすく伝えるというのはまた異なる知見やノウハウですので、積み上げるために工夫や模索をしている段階におります。

(栗原)
ありがとうございます。最後はセッションのタイトルでもある日本の創薬ベンチャーが世界で戦うために、CFOとして何ができるかというところがテーマです。やはり現状を見ると、米国のバイオテックと比べると日本のバイオテックの規模は少し小さい。これは資金調達ができてないとか、あるいはグローバル展開がまだまだとか、開発が日本でしか行われていないとか、いろいろな要素があるかと思いますが、その中でCFOとして何かできること、こうしたらいいというようなことがあれば、お伺いできればと思います。

(高野)
まずCFOの戦い方っていうところですね。医薬品のビジネスシーズはローカルな研究開発成果ですが、競争はグローバル市場で繰り広げられるということで、日本の市場は小さく、そもそも世界を目指さないといけないというところがまず前提にあります。チームとしても当然海外で戦えないといけないです。
私のバックグラウンドは文系学部生で少数民族の研究をしておりましたが、当然今は論文を読みますし、他社で公開されているプレゼンは年間数百件見ますし、海外の競合環境もちろんチェックをします。治験戦略などについても、治験データの中身を確認しつつ、社長含め経営陣と議論します。サイエンスの議論を英語で求められたら当然その瞬間に打ち返せる必要もあり、瞬発力も必要なところです。それをできないと、社外の方たちに対して自分たちの会社の良さを伝えられないと思っています。自分自身のCFOとしての力量については、グローバルスタンダードと照らし合わせて、常に相当な危機感を持っています。
次に次世代のCFOに向けてとなりますが、相手目線・相手基準を磨けた点で、実際今CFOの仕事に役立っていると感じる経験がありまして、ご紹介させてください。それは三井物産時代に中国に語学研修で1年間勉強をさせてもらった際のことで、半年ぐらい経ってから土日に現地大学院のEMBA研修班というコースに行かせてもらいました。それは自分で開拓をしたコースで、人事部から資金を出して貰う代わり、人事部の正式な中国語人材育成研修になるように自分自身がパイロットプログラムになるという企画で、同級生300人の中で外国人は私1人でした。もちろんすべての授業はフルスピードの中国語でしたし、現地の同級生の中にも、日中関係だけをとっても多様な考え方・立場の方がおり、そういう中でスーパーマイノリティになってみると、自分たちの立場は実はそう絶対的ではないというのがよくわかります。そういうところに柱が立てられる人材というのが、自分が今持っている「総合格闘技ができるCFO」の定義につながっていまして、海外に行ってもどこに行っても、どんな状況でも仕事ができる人なのだろうと、それを目指すべきじゃないかなって気づいた経験です。ですので、将来バイオベンチャーの領域でCFOを目指すような方がいらっしゃれば、ぜひ、自分の領域外で旗を立てるというところを意識していただけると、この業界としてもっと強くなっていくんじゃないかなと思っております。

(久米)
日本の創薬ベンチャーが世界で戦って勝とうと思ったら、一兆円企業になるような会社が一社あると日本全体が上がっていく、戦いやすくなると思います。ただそれを待っていても仕方がないので、では自分がどうするかっていう話で言うと、やはりストーリーをどういうふうに語るかってところがCFOの仕事だと思っています。社長の思いをストーリーに仕立ててあげる、聞く人に合わせて変えてあげるっていうようなことをCFOとしてしっかりやるべきところだと思っているし、世界で戦っていくためには相手のバックグランドを含めて相手がどういう風なキャリアを生んだのか、親しくしている人は誰なのか、そこまでしっかり把握しながらストーリーをつくことっていうのが重要だと思います。
そこで足りないところと思うのは、私も武田薬品でアメリカの方々とやり取りをしていて、インナーサークルってやっぱりあって、そういった知人からのリファレンスは重要です。日本の就職とかでもリファレンスをとるってことが増えてきたと思います。アメリカで何か投資の話をする時も、やはりリファレンスがあると思うので、いかにそのインナーサークルに入るかという取り組みをしっかりとやる。そのためにJPモルガンカンファレンスといったところがあるのでそういった場所で情報交換をして輪に入っていく。証券会社のカンファレンス、それこそ先程いったJPモルガンやバンクオブアメリカなど関係者が集まる場に入って、一度つながったネットワークを維持し、その活動をやり続けてネットワークを持つっていうところが、世界で戦うには重要だと思います。私もそこまでできてなくて、もっと頑張らなきゃなと思うところです。

(野村)
久米さんと同じで、日本で成功しているバイオ、つまり米国のように突き抜けて製薬企業を超えるようになっている会社は無いです。ですので、このテーマに答えようとすると、そんなことできている人、今のところ誰もいないから成功モデルはありません、これからみんなで頑張ろうねということかと思います。もう少し建設的に言えば、あまり他社や事例にとらわれずに、日本なりの成功モデルを作ろうとみんなが頑張って、成功モデルが出てくれば、結果的にこれが成功だったんだねって、後からわかるみたいなステージじゃないかなと思います。
弊社がやっていることは、会長の田村の方針でもありますが、社長が日本人ならCFOは海外、逆なら逆、という体制です。うちはたまたま恵まれていて、イギリスの会社を最初に買収して、日本が小さかったとこから始まって、今日本の別の会社を買収して、ちょうど日英が釣り合う規模になったのですが、コミュニティとかネットワークを作るとか、いろんなものに参加するとか、日本からだけだと、できる人もいるのでしょうけど、どうしても限界がある気がしていますが、そこはやりやすい体制になっています。
取締役会も英語で当然行われていて、執行役レベルでも半分は非日本人。社長とCFOを日本人と非日本人で分けるって、田村が今まだ覚えているかわからないですが、少なくとも僕の入社の際の口説き文句は、だからお前も将来CFOやるんだぞ、みたいな感じでした。結局そうしていかないとグローバルで戦えないと我々は思ってやっています。
ただ申し上げたとおり、そんな弊社も成功と呼べるにはまだまだこれからですし、成功例がないから日本なりのいくつか成功モデル・パターンがあると思います。ビジネスモデルによってもやり方が違うと思います。我々みたいに二拠点でやってグロール化しようとしている会社であれば、マネジメントも相応にグローバル化するというのは重要なんじゃないかなと、少し逸れますが思います。

(栗原)
ありがとうございます。時間となってしまいましたのでここまでで終了とさせていただきます。最後に我々の方から書籍(https://www.amazon.co.jp/dp/4910739270/)のご紹介で、こちらではバイオベンチャーの仕組みなどより詳しく解説しておりますので、是非ご覧いただけたらと思います。本日はご来場いただきありがとうございました。

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