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【医療AI研究者の解説付き】Google技術を活用した医療AIの最新35事例①

こんにちは、New牛(にゅうぎゅう)です。

昨年末に、「321 real-world gen AI use cases from the world's leading organizations」というブログがGoogle Cloudから公開されていました。GoogleのAI Agentとgen AIを本番環境に導入した(社会実装した)事例の紹介です。

本シリーズ記事では、このなかのヘルスケアに関連する35事例をピックアップし、医療AIの研究開発者である筆者が解説コメントをそれぞれ記載しました。今回は第一弾として35事例中12個を解説します。コメント内容は事例の解説、対象としている臨床課題、使用技術の解説などです。

医療やAIについてよく知らない人でも分かるように噛み砕いて説明しましたので、読み物として読んでいただけると嬉しいです。


執筆:New牛(医療AIの研究開発者、修士)
レビュー:Mow牛(医療AIの研究開発者、博士)


ヘルスケア系の事例紹介

1.Apollo Hospitals

Apollo Hospitals(インド) はGoogle Healthと提携し、結核および乳がんのスクリーニングモデルを構築しました。これにより、非常に限られた数の放射線科医でより多くのリスク患者をカバーし、数年間で300万件のスクリーニングを実現しました。

[1] より引用し翻訳

上記YouTubeでは、インドの結核患者の多さとAIソリューションによる効果(年間患者数が130万人から40万人への減少見込み)、そして胸部X線画像の活用について紹介されていました。

◇ 胸部X線画像の手軽さ

胸部X線画像では、気管や肺、心臓、乳房、胃、骨に関する診断や診断補助が可能です。胸部X線撮影装置はCTと比べて比較的小型で導入しやすく、今回の事例のように貧困地域を含めた広範な普及を目指すのに適したモダリティです。

◇ 過剰診断の懸念

しかし、過剰なスクリーニング検査過剰診断の可能性も懸念されます。過剰診断は、「病理学的には正しくがんと診断されたものの、放置しても当該個人が他因死するまでに症状を呈さないがんを検診で発見すること」を指します[2]。米国のデュークがん研究所の研究によると、マンモグラフィ検診で検出された乳がんの約7例に1例(15.4%)が過剰診断と推定されています[3]。無症状患者へのスクリーニングや、必要以上の検査実施により、医療費が増大したり、治療効果が不明確な処置を行ったりする可能性があります。これは患者や社会全体に不利益をもたらす可能性があり、医療業界でも指摘されている問題です。今回のインドの事例では詳細は不明ですが、症状のある患者を主に対象とし、AIソリューションで真に治療が必要な患者をスクリーニングできているのであれば、問題はないでしょう。

[2] 過剰診断 ―疫学から見たこれまでの知見―, https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/labo/JCJTC/S1/2.pdf, 2025/01/11アクセス
[3] 米国では乳がんの7人に1人が過剰診断の可能性, 2022年3月24日, https://www.cancerit.jp/gann-kiji-itiran/nyuugann/post-71584.html, 2025/01/11アクセス

「スクリーニング後の対応」体制の整備が気になるところです。スクリーニング後には確定診断と治療が必要です。結核の場合、胸部X線での病変発見に加え、痰の検査と血液検査を組み合わせて確定診断を行います。村のクリニックで採取した検体をどこかの検査施設へ輸送しているのでしょうか?
また、年間130万人もの診断・治療には、病院の受診体制や薬の供給体制も考慮が必要です。受診者の大幅な増加により病院のリソース不足や薬不足が起きる可能性があります。これは逆に、現地でのビジネスチャンスとも言えるかもしれません。

2.Auransa

Auransa(臨床段階の新興バイオ医薬品企業)は、独自のAIプラットフォームを開発し、差別化された新薬のパイプラインを構築しています。

[1] より引用し翻訳

企業のサイトによると、同社はヒトの疾患データを活用し、生物学的アプローチで新しい治療法(主にがんを対象とした化学療法)を発見する技術を持っています。バイオインフォマティクス分野、あるいはin silico創薬の企業といえるでしょう。

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