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MSP、福井へ!|明治大学シェイクスピアプロジェクト密着取材

ネビュラエンタープライズ・おちらしさんスタッフの福永です。
U25世代に向けて、舞台芸術に関する情報を発信するユニコ・プロジェクト(通称:ユニコ)

今年も「明治大学シェイクスピアプロジェクト」、通称MSPの活動を取材させていただいています。

▼前回の記事はこちら▼

今回は、MSPとしても初となる、北陸・福井県での公演について、どのような公演だったのか、どうして福井だったのかなど、詳細にレポートしたいと思います。

9月14日。敬老の日を含む3連休の初日。そろそろ涼しくなってもいいはずの時期でしたが、新幹線の開通で賑わう北国の街は厳しい猛暑の快晴でした。JR福井駅に降り立った目的はもちろん、MSPのリーディング公演『沙翁之明治 明治之沙翁』を観に行くためです。

この公演のお話を最初に伺ったのは、去年のこと。明治大学の連合父母会が50周年を迎え、その記念事業として企画されていました。
当初は石川県七尾市の能登演劇堂での上演を予定していましたが、今年1月に発生した能登半島地震のため、劇場が使用できないことに。一度は中止になるかとも思われましたが、それでもどうしても開催したいという強い希望もあって場所を福井に変更し、無事に開催できることになりました。福井県は、明治大学の創始者の一人・矢代操氏の出身地で、明治大学とゆかりのある地として選ばれたのだそうです。

北陸新幹線の開業に合わせ、新しくなったばかりの福井駅舎すぐ目の前にある、綺麗でオシャレな建物の1階「ULO」が今回の会場です。普段はカフェやレストランをメインに営業していますが、グランドピアノが置いてあり、少し高さのある舞台スペースもあります。おそらく食事をしながら観ることのできる小規模のコンサートなどが、普段から行われているのでしょう。場内のどこからでも見やすいステージとなっていました。

会場に着くと、最終確認の真っ最中。特に照明などはつかないので、立ち位置や動きの段取りの確認、マイクのチェックなどをメインに進めているようでした。MSPコーディネーターで、今回は講演も行う井上優先生自らが、どんどんと指示を出して、テキパキと進行していきます。

プロデューサーの阿部ひなたさんによると、この日は朝早くに福井駅に到着し、まずは矢代操氏の出身地・鯖江市へご挨拶に赴いてから、福井市に戻って14時ごろに小屋入り、17時の開演に向けて16時過ぎから稽古がスタートしたのだそうです。
本公演やラボ公演ではお馴染みのプロスタッフ・舞台監督の村信保さんや、2023年度のプロデューサー・宮嵜明里さん、2022年度のプロデューサー・金子真紘さんもツアーマネージメントというクレジットで福井入りしていました。経験の多い3~4年生を中心に、総勢30名弱のメンバーが参加しており、この企画への力の入れ具合が伺えます。

一通りの確認を終えると、メンバ―全員で輪になり、恒例の気合い入れを。
そして17時、オンタイムで『沙翁之明治 明治之沙翁』が開演しました。

開演すると、最初に井上先生から、企画のここまでの経緯などが語られました。
次に阿部プロデューサーのご挨拶です。本番前は「原稿は書いたのに話すことを覚えていない」と不安そうでしたが、開けてみればとても落ち着いた、立派なスピーチを披露していました。

第21回MSPプロデューサー・阿部ひなたさん

今回の企画はリーディング公演だけでなく、文学部教授でシェイクスピアの研究者である井上先生の講演とセットになっています。坪内逍遥訳の『自由太刀余波鋭鉾(じゆうのたちなごりのきれあじ)(ジュリアス・シーザー)』と宇田川文海訳の『汝所好(すきずき)(お気に召すまま)』から、それぞれ抜粋したシーンをリーディングするのですが、明治時代に文語体で書かれた戯曲は、そのまま上演してもなかなか理解が難しいのです。そこで現代語訳や、どういう背景で書かれたものなのかを井上先生が解説してくださいます。全体にコミカルな演出もついていて、観客を飽きさせない工夫が随所に施されていました。

今回の上演でこの2つの戯曲が選ばれた理由も、井上先生の講演の中で語られていました。
まず『自由太刀余波鋭鉾(じゆうのたちなごりのきれあじ)(ジュリアス・シーザー)』は、今年2月に熱海で開催された「逍遥忌記念祭」での特別公演でも取り上げていた戯曲です。構成も同じではありましたが、公演としてさらにクオリティが上がっている印象でした。

自由民権運動が盛んだった時期に、あえて「自由」という言葉をキーに使ったことで、世間の注目を惹きたかった狙いがあるのではないか、という井上先生の見解はとても興味深いものがありました。同時に、「権利自由、独立自治」という明治大学の建学の理念にも触れ、明治大学の歴史にもしっかり関連付けていらっしゃいました。

もう一つの作品、宇田川文海訳の『汝所好(すきずき)(お気に召すまま)』では、基本的に原作に忠実な翻訳の中に、一部原作とは違う部分が見られ、そこに宇田川文海の思想が見えてくる、という切り口で解説をしてくださいました。

同じセリフ部分の訳を他の訳と比べてみると、確かにニュアンスの違うところがいくつかあり、主に、女性観に関する部分であることに注目します。『お気に召すまま』では女性であるロザリンドが、男装をして自分の恋人に会い、その恋人の悩みに応えるというシーンがあります。そこで男装したロザリンドが“女”とはどういうものなのかを説くのですが、ここに、宇田川文海の女性観が垣間見られます。原作では「女性の賢さ」を主張しているのに対し、宇田川訳では「女性の才能が閉ざされている」ことを主張しているのです。

明治時代はまだまだ差別の強い時代であり、わざわざ作中で「女性の才能が閉ざされている」ことを訴えるところに、宇田川文海が如何に女性の人権問題に関心があったかが伺えます。図らずも、明治大学が舞台の一つだった、人気ドラマ・連続テレビ小説『虎と翼』でも、明治の民法において女性を「無能力者」としていたことが物語の重要なテーマとなっており、井上先生はそのトピックにも触れて、さらに明治大学との関連をお話しされていました。

MSPコーディネーター・文学部教授:井上優先生

今公演の大きなタイトル『沙翁之明治 明治之沙翁』ですが、「沙翁」とはシェイクスピアのこと。“明治”時代に訳されたシェイクスピア作品のリーディング、という意味に加えてもう一つ、MSPの学生たちが上演する、つまり“明治”大学によるシェイクスピア、という意味も含まれています。
作品理解のための興味深い知識と、明治大学の歴史や精神とを紐づけることで、大学関係者にも喜んでもらえる、とても秀逸な構成でした。井上先生の知識量はもちろん、センスや作劇的テクニックが存分に発揮された、素晴らしいステージです。

幕間には楽器隊のチーフ・西田有希さんによるピアノの演奏があったほか、最後には11月に上演される『お気に召すまま』の演出・大友彩優子さんの挨拶もあって、本公演の宣伝もしっかりできていました。

楽器隊チーフ・西田有希さん

ここでも前回の密着でお話をお聞きした、映像スチール部の堀口和聖さんが同行しており、次にいつあるかわからない貴重な機会なので、ぜひ映像に残したいのだと仰っていました。2月の熱海公演の際にも感じましたが、このような企画が恒例となり、今後もいろいろな場所で、リーディングと講演が合わさった上演ができたら素敵だと思います。

少々難しい印象のある、シェイクスピアや明治時代の文学にも、血の通った人間らしいバックボーンがしっかりとあり、それを知ることで、親しみやすい作品になるということがよくわかる公演でした。次に行われるときにも、ぜひまた参加したいと思います。

そして、いよいよ11月の本公演へのカウントダウンが始まります。お楽しみに!

会場には明治大学の公式キャラクター「めいじろう」もいました


\今年のMSP本公演はこちら!/
第21回明治大学シェイクスピアプロジェクト
『お気に召すまま』


期間:2024年11月8日(金)~10日(日)
会場:明治大学駿河台キャンパスアカデミーコモン
3階アカデミーホール
全公演無料
予約開始日:2024年10月12日(土)10:00~

\9月のラボ公演はオンデマンド配信中/
『番外編・お気に召すまま~ロザリンド・イン・ザ・リング!~』
配信開始日:2024年9月29日(日)~
MSP公式Youtubeチャンネルにて!

MSPの活動の様子はブログ、SNSでもチェック!
ブログ:https://ameblo.jp/msp-meiji/
公式Xアカウント:@m_shakespeare


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