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丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】⑮ 現場のプロ3名に聞く、森元隆樹×小西朝子×白川啓『面白い演劇や団体とどう出会う?』
みなさま、こんにちは!今年もあっという間に年の瀬がやってきました。この1年、舞台芸術のシーンでも色んなことがありましたね。ここから年末にかけては、1年で何本の演劇と出会ったのかの記録や、どんな作品や作家や劇団が印象深かったかの振り返りを行う方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。かくいう私も大掃除の折には、1年分のチラシやチケットをあらためて整理しつつそれぞれの作品や団体に思いを寄せております。
さてさて、そんな振り返りモード全開の時期ではありますが、2024年最終回を飾る今月号のテーマは締めくくりにも幕開けにもふさわしい、つまり年末年始にぴったりのこちら。『面白い演劇や団体との出会い』について語り、いや、語っていただきました。
そう、なんと二ヶ月連続の特別ゲスト回でございます!
今回は、まさに “作り手と観客との出会いの場”を創出する現場のプロフェッショナルである3名がご登場。注目の小劇場劇団をピックアップする「MITAKA “Next” Selection」(以下ネクストセレクション)をはじめとする企画運営に携わる三鷹市芸術文化センター演劇企画員・森元隆樹さん、ユーロライブにて、コントと演劇のボーダー、芸人と演劇人のクロスポイントを仕掛ける「テアトロコント」のキュレーター・小西朝子さん、ローチケとしてプレイガイド事業を担当する傍ら、「ローチケ演劇宣言!」「演劇最強論-ing」など、対象公演のバックアップにも携わるローソンエンタテインメントの白川啓さんにお話を伺いました。
今年印象的だった劇団や演劇、新たな団体や作品との出会い、チラシというツールへの思いなどたっぷり語っていただきました。現場のプロたちによる“ここだけの”特別鼎談を是非お楽しみいただけたらと思います!
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2024年、印象に残っている団体や作品は?
―年末ということで、まずは今年印象的だった団体や作品をそれぞれお聞かせいただけたら…。
森元 少し前からいい作品を生み出していて、いよいよ精度が上がってきたなと感じているのが、いいへんじ。中島梓織さんが書かれる脚本も役者さんの動かし方もぐんぐん技術が高まってきていて、今後が楽しみだなと思っています。あとは、ばぶれるりぐる。こまばアゴラ劇場で初めて拝見した時から、竹田モモコさんは書ける人だなと思っていたのですが、ここ最近でどんどん研ぎ澄まされてきているので注目しています。
白川 僕は2022年以来、東京にこにこちゃんに心を奪われているので、東京にこにこちゃんの公演はもちろんなのですが、初めて観た団体の作品で印象深かったのは、やしゃごの『アリはフリスクを食べない』です。ここ何年か、個人的には笑いたいモードで、演劇を観て笑えるかどうかが基準になっている節があったのですが、この作品はそういう作風では全くなかった。静かなドラマを楽しんで観られるモードではなかったのに、すごく心に響いたんですよね。今の自分でもこういった作品に惹かれる感覚があるんだな、という意外な気づきもあってすごくいい体験でした。
小西 今年10月にテアトロコントにも出てもらったのですが、喜劇結社バキュン!ズはすごく面白かったです。前々から噂は聞いていたのですが、関西の団体でなかなか観に行く機会がなく、5月に中之島春の文化祭でようやく拝見でき、すぐオファーをして10月に出てもらいました。あとはこちらも関西の劇団ですが、9月に北千住BUoYで拝見した劇団不労社『悪態Q』。抽象的な作品だったので面白さを言語化するのは難しいのですが、「次も観てみたいな」っていう初見でのワクワク感がありました。森元さんがおっしゃった、ばぶれるりぐるも面白いですし、関西の団体さんにも興味があります。
「一緒に苦労をしましょう」
公演や券売の伴走者としての思い
―ご自身の好みとは異なる作品や関東近郊外の団体が挙がって、みなさんのアンテナの広さ、深さを早くも感じています。お仕事でのブッキングにそういった所感はやはり反映されているのでしょうか?
森元 そこが難しいところで、注目や期待をしている団体でも、一本観て面白かったからお呼びする、みたいなことは実はほとんどないんですよ。初見が面白くても二連勝、三連勝するのが難しいこともありますし、逆も然りで、僕が観た一本がたまたま実験作で、少しうまくいかなかっただけで、他の作品は安定して面白い、ということもあり得るので。あと、星のホールの広さに脚本の強度や演劇における足腰が耐えうるものであるかを見極めないと、どうしても浮き足立っちゃって空間がスカスカしちゃうということも出てくるので、一本だけ観て決めるというのはなかなか起こらないんですよね。だから、どの劇団もなるべく複数公演観るようにしています。
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―せっかくなので、この流れでお聞きしたいのですが、そんな中で森元さんが一発で決めた団体やそのエピソードもお聞かせいただけますか?
森元 僕が一回の観劇で決めたのは、例えばイキウメ。サンモールスタジオという小さな劇場で拝見したのですが、脚本も演出も非常にレベルが高く「観たことのない、超越したものを作っている」と思いましたね。三鷹で手掛けた作品の中で印象的だったのは、やはりままごとの『わが星』ですかね。岸田國士戯曲賞をとったから再演したと思われることが多いのですが、実は初演の二日目には再演の企画書ができていて、初演の千穐楽後すぐに再演のお願いをしたんです。そのくらい面白いと感じましたし、三日目からは当日券を求める列ができていました。そういう印象深い劇団は他にもいくつかありますし、今後も増えていくといいなと思っています。三鷹としてはこれからも今後を期待される劇団を応援したいし、そうしないと、劇団という土壌が弱くなってしまうし、気づけば、日本の演劇が面白くなくなっているということが起こり得るかもしれない。だから、できるだけ長くネクストセレクションを続けていきたいなと思っています。
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三鷹市芸術文化センター星のホール
撮影:青木司
白川 森元さんはほとんど一回では決めないとのことですが、小西さんはどうですか?テアトロコントにお呼びする団体を決める時はどんな感じの流れなんでしょう?
小西 私は面白かったら一発で決めることが多いです。というのも、テアトロコントは2日間のショーケース方式ですし、「チャレンジの場」という趣が強いので、むしろ即時性を重んじていて、話題性や勢いに乗ってもう少し大きいところに出られる後押しとしてできたらいいなと思っているんですよね。上演時間も各30分ですし、すでに30分の作品を持っていたらそれをそのままやっていただくこともあります。一方、ネクストセレクションは単独公演ですし、公演期間も長いので、そのあたりは全然見るところが違ってきますよね。
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ユーロライブ
森元 オファーから上演に至るまでの期間の違いもありますよね。ネクストセレクションは今お声がけをしたら、上演は再来年なので、そこまでどのくらいの伸び代があるかを考える必要もあります。「一回呼んでみよう」というテアトロコントさんとは正反対のアプローチではあるのですが、個人的にはそういった機会もとても大事だと思っています。
―森元さんの仰るように、テアトロコントは今やシアターゴーアーの方々にとってもチェックの欠かせない企画になっていますが、小西さんが携わるようになるまでにはどんな経緯があったのでしょうか?
小西 ユーロライブが開館して今年で10年目になるのですが、当時の私は観客として通っていたんです。その頃はコントで一組の持ち時間が30分というコンセプトのみで走り出した感じで、お客さんも少なかったのですが、公共劇場ではない劇場主催のそういった企画が少ない中ですごく貴重な試みだと感動したんですよね。「こんなに面白い場をお客さんが少ないという理由でなくしちゃ絶対ダメだ」と思って、「やらせて下さい」と手紙を送ったのが最初のコンタクトでした。コントと演劇ってどこか別のものとされているけれど、本質は一緒だし、混ざり合う意味もあると感じて、お笑いと演劇から面白い団体をお呼びしていく形式になったという感じです。
森元 実際に、テアトロコントを通じて小西さんにご紹介していただいて、後にネクストセレクションにお呼びした劇団もありますよ。今年のTHE ROB CARLTONもそうでした。星のホールでちゃんとセットを作って3人の演者で成立させるってなかなか難しいことなのですが、きちんとお客様を笑いの渦に巻き込んでいて、素晴らしかったですね。
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三鷹市芸術文化センター星のホール
撮影:今西徹
白川 僕も小西さんにおすすめしてもらった作品は観にいくようにしていますし、東京にこにこちゃんもテアトロコントでお世話になりました。
―白川さんはブッキングとは少し異なるかもしれませんが、プレイガイドを通じて作品や団体を推すという点で尽力をされていると思うのですが、その際にはどういうことを重んじているのでしょうか?
白川 僕はお二人とは立場が違って、言ってしまうと、チケットを売るための手数料をいただくわけなので「商売という意識もゼロではない」という立場にどうしてもなるんですよ。
森元 そうですよね。プレイガイドですからね。
白川 だからこそ、「広く届く可能性のある公演をどうにか盛り上げたい」という気持ちで、できることをやり尽くしたいと思っています。近年関わっている東京にこにこちゃんがまさにそうなのですが、ハッピーエンドな物語の中に笑いがいっぱい詰まっていて、とても間口が広い団体だと思っているんですよね。そして、この人たちが「日本一チケットが売れない劇団」と謳っているのがまた面白いですし、「じゃあ、この人たちがチケットを一枚でも売れる努力をするなら一緒に歩んでみたい」と思って、一緒にやっているという感じです。
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撮影:明田川志保
森元 「今やこんなに取れないのに、“日本一チケットが売れない劇団”って言っていた頃があったんですよ」っていうインタビューが出るようになるのが楽しみですね。そうなったら、本当に白川さんの仕事冥利に尽きるなと。
白川 僕が関わったタイミングが良かったというのもあるのですが、近年少しずつ売れ行きも伸びている感じがあって、自分個人としてもプレイガイドとしてもまだまだできることがあるな、と思えています。この人たち、この作品とともに歩みたいかどうかが全てだなと思いますし、そういう人たちの公演では現場に行ってできる限りのことをやりたいので、客入れももぎりもやります。
―仕事における信念を感じるエピソードです。さまざまな公演に携わる中で、観客の方の反応やその広がりについてはどう感じていらっしゃいますか?
森元 SNS文化の強みを感じる一方で、主催者自ら宣伝をすると鼻白む方もいるのではないか、と考えることもあります。「全米が泣いた」と言われたら、「全米って涙腺弱いのかな」ってなるというか…(笑)。なので、そういうことも考えながら都度発信をしています。僕は広島出身で、広島のど真ん中に広島風お好み焼き屋を集めた「お好み村」という観光スポットがあるのですが、広島の人間はほぼ誰もそこには行かなくて、路地裏でおばあちゃんが一人でやっているお店とか、みんな自分の好きなお好み焼き屋を持っているんですよ。そこに対する信頼が絶対なのだ、というお店。そういった「自分だけのお気に入りを持っている」という感覚は演劇においてもあると思うんですよね。
―観客のクチコミの影響にも繋がるお話ですね。
森元 そんな中で三鷹にできることは、多少無理をしてでも「二週間公演しましょう」っていうことなんですよね。例えば、木曜日初日で日曜千穐楽の4日間の上演だと「面白いらしいよ」というクチコミが広がり始めた頃には千穐楽を迎えてしまう。だから、期間を長くして、評判になったときに観に来てもらえる人が増えるといいなという思いがあります。お声がけをする段階で、集客数を聞いたら150人って言われたこともあります。なのに、「(会場が大きくて、さらに駅からも遠い)三鷹で二週間やりましょう」って声をかけるわけなので、ある意味三鷹もどうかしているんですよ(笑)。それでも、その意味があると思うからやる。企画書を見てもらった瞬間から「一緒に苦労しましょう」という思いで取り組んでいます。まずはそれぞれの団体に「この味でダメだったら食べに来てもらえなくても仕方ない」と思える味の作品を、観客の方が「どれだけ遠くても、ここでしか観られないから観に行くんだ」と思うような作品を生み出してもらうこと。そこからは、なるべく評判が届いて、後半に集客が増えるようにと、ただ祈るだけなんですよね。
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THE ROB CARLTONのほか、かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』も上演された
小西 そういう意味ではテアトロコントは2日間なので、集客に苦戦することもありますね。ただ、お笑いと演劇というジャンルを融合させる構成によって、「双方にとって新規顧客が必ずいる場所」にはなっていると思いますし、そこから広がりを起こせる場なのではないかなと思います。「テアトロコントで評判が良かったから、次は本公演を観てみよう」ということにも繋がるかもしれないですし、組み合わせの力は大きいと感じます。劇団の本公演ってそんなに沢山チャンスがなかったりもするのですが、団体にとっても観客の方にとっても次に繋がるきっかけの場になったらいいなと思います。
森元 この場が次に繋がる、という視点は確かにありますよね。ポテンシャルがあって、足腰に力がついてきていても、急に舞台が大きくなったことでアジャストが難しく、いつもの力が出せないということも当然あるんですよ。でも、星のホールで一回作ると、他の中劇場で上演する時にも浮足立たなくなるはず。そういう意味でも「三鷹で一回頑張って作ってもらえたら、次にもプラスに繋がっていくんじゃないか」「ここでできれば、他でもきっとできるはず」と思ったりもしますね。
SNSやクチコミとどう手を取り、どう手放すのか
―私もいち観客として、公演内容だけでなく、場そのものが持つ意義や可能性を痛感しています。「観客を繋げる」といった意味ではプレイガイドの力も大きいと感じますが、白川さんがメディア運営に携わる上ではどんな思いがあるのでしょうか。
白川 僕たちはプレイガイドなので基本的に「チケット好評発売中」なんですよね。このあたりは森元さんのお話とも通じるのですが、売り手がいくら「面白いですよ」と言ったところで券売が伸びるわけではないのが現状で、やっぱり第三者の視点が必要になってくる。そんな思いもあり、様々なジャンルを強みとするライターさんや小劇場の演出家や役者の方にその月の気になる公演を紹介してもらう「今月の優先順位高めです!」という連載を発信しているんです。元を辿ると、僕自身が『シアターガイド』という演劇専門誌でやっていた「私の今月」っていうコーナーに影響を受けていて、「この人もあの人も書いていたし、観にいってみようかな」って思ったりしていたので「そういう広がりをWEBでも起こせたら」という思いで始めた企画でした。
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森元 観客の方がそういった連載やメディアを参考にするというのはありますよね。僕も「ぴあ」の「水先案内人」という連載コラムを書かせてもらっているのですが、どの劇団を取り上げるか選ぶ際にはCoRichの上演カレンダーなどをチェックしたりもしますし、知らなかった公演や団体が目に入ったらメモしたりもしています。
白川 「好評発売中」だけでは届かないからやっている企画ではあるのですが、だからと言って忖度はしたくないし、本当におすすめしたい作品だけを書いてもらいたい。だから、「今月の優先順位高めです!」ではローチケでは扱っていない公演も載せているんですよ。そこに信頼感が生まれたらいいなと思っていますし、「何かのきっかけになれたら」と思っています。
―書き手の方のバリエーションも含めて、「今月の優先順位高めです!」を参考にしているという声はよくお聞きしますし、私自身もうっかり見逃してしまう作品がないようにチェックをしています。
森元 今は観客の方も積極的に発信をされていますし、「この人が面白いと言うなら観てみようかな」という人をそれぞれの方が持っているような気がしますよね。その反応や広がりの影響も大きいと思います。一方で、主催側の人間としてはそういった声に振り回されず、自分たちが「面白い」と思う公演が届くのを最後まで信じて祈るのみなので、SNSやクチコミ、エゴサーチとは距離を置くようにもしている部分もあります。万が一僕個人がSNSを始めるとしたら、老後かな…。
白川・小西 あはははは!
小西 森元さんのお気持ち、すごくわかります。私の場合は、自分の中で面白い・面白くないが結構パキッと分かれているタイプなので、ブッキングの葛藤はそこまでないのですが、たとえ多くのお客さんを呼べていても、自分が「面白くない」と思ったらお声がけはしたくないと思っています。むしろ「こんなに集客に苦戦しているのにお客さんに歩み寄らなくていいのかな」と思うこともあるくらい。それでも、納得できないブッキングはしたくないんですよね。
森元 極端な話、チケットが即日完売する人気団体を呼べば、集客面ではそりゃ楽だろうけど、惚れ込んでいなければ、きっと疲れるだけなんですよね。もちろん、そんなことをしたことはないのでわからないですが、人気だけでお呼びすることはしたくないと思います。「お客さんが観たいものを出すのが興行主じゃないのか」という意見もあるかもしれないけれど、どこでも食べられる味だったらわざわざ三鷹までは来ないはずなので、そこを目指したい。なんだか食べ物にばかり例えていますが、三鷹でしか出せない味をお届けして、自分たちとしては美味しいと思うのですが、人それぞれ好みもありますし、味の評価は皆さんで決めてください、という気持ちで続けています。
白川 観客でもある自分にとって、森元さんと小西さんは僕からしてみたらレジェンドのような存在ですよ。僕はやはり立場が違うので、プレイガイドとして売れている劇団を推すということもありますが、通じる部分があるとするならば、本当に「面白い」「好きだ」と思っていないと、客入れやもぎりまではできないなとは思いますね。
森元 白川さんがそこまでやるというのもすごいことだと思います。
小西 本当にそうですよね。
白川 チケットを売ることってすごく難しくて、初動で売れ行きのいい作品もあるのですが、それでも一定数で止まってしまうんですよね。そうなった時に何が必要か、次はどんな切り口で露出をするかを考えないといけない。そんな風にも考えています。あと、プレイガイドは手数料や発券の手間の問題もありますので、演劇ジャーナリストの徳永京子さんと一緒にやっている「演劇最強論-ing」では、セレクトした小劇場公演のチケットを手数料も会員登録もなしで販売するという形をとったんです。ネクストセレクションもテアトロコントも「森元さんや小西さんが選んでいるのだから面白いだろう」っていうお客さんの信頼感があると思うのですが、目利きである徳永さんのセレクトを通じて、そういった信頼感を媒体の中で作ることも必要だなと思っています。
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森元 観客の方にそう思っていただく分には嬉しいのですが、興行元の姿勢としては非常に難しいところでもあるんですよね。少しでも「これはお客さんにウケるかも」なんて気持ちを抱くと、あざとさが滲み出て、お客様にも伝わってしまうかもしれず、常に謙虚な気持ちでと思っています。だからネクストセレクションは今年で26年目になるのですが、10年目、20年目でも周年を謳うことは一切していないんですよ。25年やったら、26年目が大事。そう思って続けている感じですね。ただ、白川さんが仰ったように「ネクストセレクションに選ばれているから観てみよう」と思ってくださる人がいてくださったらいいな、とはどこかで願っています。
風物詩であり、アーカイブであり、きっかけでもある「チラシ」
―おちらしさんにちなんで、宣伝美術周りのお話も少し伺いたいのですが、チラシやそれを用いた宣伝をする際に大切にしていることなどはありますか?
森元 ネクストセレクションに関しては、ここ10年以上チラシやポスターのデザインを変えていないんですよ。宣伝全般においても「天狗にならないように」と戒めながらやってはいるのですが、あのレイアウトを見たら「ネクストの季節だな」「今年はどこだろう?」と思ってくださる方がいてくださったらいいなと思って、あえて変えていないんです。だから、こだわりがあるとしたら「変えないこと」になるのかなと思います。秋といえばネクストセレクション、とか、月末の週末といえばテアトロコントとか、チラシを見てシーズンを感じてもらえたらいいですよね。
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小西 そうですね。あと、私は結構チラシそのものに思い入れがあって…。というのも、プロではないのですが、元々創像工房in front of.という大学サークルで宣伝美術を担当していたんですよ。その名残もあり、プロではないのですが、今でもたまに作ることがあるんです。最近だと、お笑い芸人のラブレターズさんの近年の単独や、解散してしまいましたがゾフィーさんの単独のチラシの大半は私が作っていて…。
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宣伝美術:小西朝子
―そうだったのですね!今まで手にしたチラシの中にも小西さんがデザインされたものがあるかもしれませんね。
小西 元々記録を残すことがすごく好きで、自分の観た作品のチラシもリストメモと一緒にファイリングして残しているんです。公演情報が一番きちんとまとまっているのはチラシだと思っているし、webだけだとどうしても情報が残らないので、アーカイブの意味でもきちんと紙で残したいという思いがあります。
白川 僕もチラシ文化で育ってきているから、とても参考にしますし、部数や折り込み先などは相談あったらアドバイスするようにしていますね。クチコミの話にも通じるのですが、複数の公演のチラシ束で頻繁に見かけるチラシがあったら、「これ観てみようかな」と気になることもあるんじゃないかなと思うので、そういう繋がりは大切にしたいと思っています。折り込み先との親和性や折り込みの頻度も宣伝における重要なポイントだと思います。
―それぞれの立場や歩みからのアプローチが感じられるお話の数々でした。最後に、みなさんが今思う演劇の未来への期待や展望は?
小西 初見でワクワクする感覚は大切にしたいと思っています。抽象的で主観的な言い方かもしれないのですが、自分の好きなことを愚直に突き詰めているものが一番面白いと思うので、作り手のみなさんには、そこを忘れずに好きなことをやってほしい。SNSでの発信が盛んな時代ですが、外からの声を気にしすぎず、好きなことを突き詰めて、作れる時に作りたい作品を作って欲しいと願っています。
白川 僕たちプレイガイドはフルオープンなので、「チケットを売ってほしい」という団体さんは気軽にご相談いただけたらと思います。券売に苦労することもあるかもしれないのですが、誰かしら観てくれている人、ハマる人は必ずいると思うので、諦めずに一緒に歩めたら…。せっかく売らせてもらえるならば、その作品や団体がより多くの人に知ってもらえるようにしたいと思っています。
森元 例えば、ロングセラーの漫画一つをとっても、1巻が面白かったら、すぐ2巻が読みたくなるし、映画にしろドラマにしろ、アクセスしやすい芸術は溢れていますよね。でも、僕はそういったカルチャーに演劇が負けてほしくないし、負けない力はあると思うんですよ。とりわけ小劇場はなかなかお金に直結しなくて、もどかしく思うこともあるかもしれないけど、どうか自分たちが納得して送り出せるいい作品を生み出し続けてほしいと思いますし、全てはそこから始まるのだと思います。そういう作品に出会えたら、観客の方も自分の一番仲のいい人に連絡すると思う。小劇場から世界的な大ヒット作品がなるべく沢山生まれたらいいなと本気で思っています。
現場のプロフェッショナル3名による“ここだけの”ロング鼎談はいかがでしたか?
これまでも数多くの作品や団体との出会いを届けて下さったみなさんに、それぞれの歩みや思いがじっくり伺えて、私としてもとっても嬉しい年の瀬となりました。
そして、そんなみなさんの現場である劇場にも、今年も大変お世話になりました。
一年の締めくくりと始まりに感謝を込めて、観劇納めがまだな方も観劇初めを心待ちにしている方も、どうかみなさんHave a nice theater!!!&Have a nice year!!!
よいお年を〜!
<ゲストプロフィール>
森元隆樹
早稲田大在学中に劇団を結成し、解散後の1994年より三鷹市スポーツと文化財団の前身の文化振興事業団に就職。小劇場の才能溢れる若手団体を紹介する「MITAKA ”Next” Selection」をはじめとした様々な公演の企画運営に携わる傍ら、読売演劇大賞選考委員も務める。
小西朝子
2015年より有限会社ユーロスペースに所属し、渋谷の「ユーロライブ」で開催されるコント公演『渋谷コントセンター』を担当。コント師と演劇人の競演によって、先見性を持つマッチングとバラエティに富んだ芸を堪能できる定期イベント『テアトロコント』のキュレーターを務める。
白川啓
2009年より株式会社ローソンエンタテインメントに入社後、様々な公演のチケット販売からプロモーション戦略の立案に携わる傍ら、「ローチケ演劇宣言!」「演劇最強論-ing」などのWEB運営も務める。「今月の優先順位高めです!」「『コントと演劇のボーダー』を考える」などの人気連載も発信。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』、『リンネル』、『Lala begin』などのファッション誌で主にカルチャーページを担当した後、出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動。近年は『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>の更新を機に劇評も執筆。主な寄稿媒体は各劇団HPをはじめ、『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』、演劇批評誌『紙背』など。また、小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、エッセイ『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)、『人に非ず優しい夫、いい夫婦ではない私たち』(note)などがある。2023年、2024年とCoRich舞台芸術!まつり審査員を務める。
X(Twitter):https://twitter.com/miikixnecomi
note:https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627
連載「丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇のお話」
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