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紙加工や印刷技術から味わう!おちらしさんアワード2022

舞台ファンや美術展ファン、そしてチラシファンの皆さまから、多くの投票をいただいた「おちらしさんアワード2022」。2月1日に無事、年間大賞が決定しました!何百枚、何千枚と配布された2022年のチラシより、舞台版は第9位、美術版は第3位までのチラシをご紹介しています。

今回は初の試みとして、紙や紙加工、印刷に関わる会社の皆さんにも、2022年の”推しチラシ”について教えていただきました!舞台公演や美術展のチラシデザインを、紙の素材や印刷加工の視点から、いつも目をキラキラさせて面白がってくださる、5社のスタッフさんです。

「紙」がなければ、「チラシ」が誕生することはありません。紙や紙加工、印刷に関わる会社の皆さんは、チラシづくりにおいて、「公演団体・展示主催者」と「デザイナー」をつなぐ、大切なチームメンバーです。

驚いたことに、選ばれた”推しチラシ”は全て、おちらしさんアワードでは上位にランクインをしていないチラシでした!!紙や印刷のプロは、一体どのような視点でチラシを味わっているのでしょう……??団体やデザイナーの皆さんからいただいたコメントとあわせて、ご紹介していきます!

紙加工や印刷技術から味わう!おちらしさんアワード2022

★舞台版

新国立劇場 2022/2023シーズン
「未来につなぐもの」シリーズ
『私の一ヶ月』 『夜明けの寄り鯨』

平和紙業株式会社(紙の会社):西谷浩太郎さん
紙屋である私が選んだチラシは『私の一ヶ月』になります。その理由は、ふと目に留まり、思わず手に取り、表面から裏面へとじっくり見てしまい、「この舞台を見てみたい!」を思ったからです。
チラシは他の紙媒体と比べても、タフさが求められるものだと思います。周りにはたくさんのライバルがひしめき合って、どのチラシも紙のサイズは基本的に210㎜×297㎜という小さな紙面の中で、最終的に手に取って(持って帰って)内容を読んでもらわなければならず、そのために視覚はもちろん触覚や聴覚、場合によっては嗅覚までを駆使して生存競争に挑むのです。(と私は勝手に想像しています。)
『私の一ヶ月』は、表面、裏面ともに見る角度によって絵柄や文字が浮かび上がるような印刷が施されていて、チラシを手に取るまでの人の視点の動きと連動したデザインになっていることに驚きました!液晶ディスプレイの中の映像に負けずとも劣らない紙にしかできないチラシ、最高です!!!

株式会社 東北紙業社(紙加工の会社):加藤清隆さん
東北紙業社の選ぶ今年の一推しチラシは、演劇「未来につなぐもの」シリーズ(『私の一ヶ月』 『夜明けの寄り鯨』)のチラシです。
年末に行われていた「おちらしさんアワードチラシ展」にお伺いして、
今年全てのチラシを拝見いたしまして、このチラシが一番加工もりもりで尚且つ、印刷の手法もとても凝ったチラシだと思い、抜き加工会社がえらぶチラシとして選ばせていただきました。
また、このチラシは以前出演させて頂いた、おちらしさんラジオでもご紹介したチラシになります。(良ければ「#41 おちらしさん10月号のチラシを話そう!【紙と印刷とラジオ × おちらしさんラジオ】」で、加工内容等の説明をしております。)
今後も、ずっと取っておきたくなるチラシがいっぱい出てくることを、楽しみにチラシを拝見します。

白いお花のイラストは、斜め横から見ると、綺麗に浮かび上がってきます。
赤い丸で囲っている箇所に、ポチッとした出っ張りがあります。
これは、「断裁」でなく「抜き加工」によってつくられた証なのです!
どうして抜き加工によって作られたチラシなのか……?
おちらしさんラジオ第41回の配信で詳しくご紹介しています。

「Manhattan96 Revue~白昼のグリーンジャーニー~」

株式会社サンコー(印刷会社):有薗悦克さん
印刷会社は、印刷物の色味にどうしても注目をしてしまいますが、そんな私たちの習性(職業病)を見透かされたようなチラシでした。
第一印象は茶色い紙に印刷をしているチラシです。写真の外枠に茶色い枠があったり、役者さんの顔写真が茶色く色を転ばせてあるため、その印象が強まります。でも、その割にはお肌の一部や本の木口がやけに白い。オフセット印刷で白を印刷すると、紙の茶色の影響でこんなに真っ白にはなりません。「何かおかしいぞ?」と思い、印刷用ルーペで確認したところ、白い紙に印刷されていることがわかりました。
茶色い紙のように見えるのに、なぜか写真は鮮明で明るい。印刷に詳しく無い方でも、そんな違和感から思わず手を止めてしまうチラシだと思います。

やけに白い「本」??
小さな「?」から、印刷のこだわりを発見!!

サンコーさんは、おちらしさんで届いたチラシから気になったものを紹介する「勝手におちらしさん」という企画を始められており、その企画内でも、このチラシについて紹介しています。

《宣伝美術を担当された藤尾勘太郎さんよりコメント》
こうして取り上げていただくことで、上演という役割を終え一度海にゆっくりと沈んでいた作品が海面から再び顔を出すような、作品が新たに呼吸し出すような、そんな心地がします。ありがたいことだと思います。
公演の座組全員で植物を巡る旅に出る、そんな作品でした。宣伝美術家として、そして俳優としても関わったこの公演で、作品の持つあたたかさや自由さ、ノスタルジックな憧れや、未知の世界への悦び、そんなワクワクが詰まったチラシをつくることができたこと、改めて、キャスト・スタッフの皆様に感謝致します。夢ちゃん、嬉しいね。みんな、嬉しいね。
改めまして、印刷会社サンコーさま、おちらしさんさま、チラシに再び光りを当てて下さりありがとうございました。
(いつかサンコーさまの会社に遊びに行きたいと思っております。)

★美術版

東京都写真美術館「野口里佳 不思議な力」展

有限会社 篠原紙工(製本会社):小原一哉さん
チラシの推しポイントは「余白を生かしたデザイン」です。チラシの顔がとても綺麗で、気づいた時には手に取っていました。
紙加工の点では、ズラし2つ折りのとてもシンプルな加工のチラシですが、不思議と1冊の本を開いているような感覚を覚えました。それは、心地よい静けさと日溜りのぬくもりを感じさせてくれる野口さんの写真の世界観を引き立てる余白を生かしたデザインが大きく影響していているのかなと思います。
印刷、紙加工、中身、デザインと全てのピースが上手くはまった瞬間、それに関わった人の思いが宿り、大切に手元に置いておきたくなるようなモノに変わるのだと感じた推しの1枚です。

右側にぺらっとめくる、2つ折りのチラシ
光のぬくもりにほっとします。
余白を生かしたデザイン、美しいです。

《東京都写真美術館 展覧会担当学芸員の方よりコメント》
写真家・野口里佳の個展チラシです。この展覧会のメイン・ビジュアルは、スプーンの先端になぜか金属の輪がくっついて落ちない不思議な様子。磁力や表面張力、光の屈折など日常にあふれていて目には見えないけどそこにあるものをテーマにした写真シリーズです。小さな現象に目を向けることで気が付かなかった新しい発見のある野口さんの写真・映像作品のように、須山悠里さんデザインのこのチラシは、部分的な二つ折りの変型A4チラシになっていて、表面、中面、裏面と見ていくにつれて、次々に新しい世界が開かれていくような素敵な工夫がされています。

東京都写真美術館「イメージ・メイキングを分解する」展

株式会社 加藤文明社/atelier gray(印刷会社):三河亮平さん
一見するとモノクロチラシに見えますが、見る角度によって鈍い光を放ちます。写真をよく見ると深い黒色の中に銀色が隠れています。印刷でひと手間をかけていることが分かりますか?
モノクロチラシはシックで大人びた良さがありますが、インパクトには欠けます。逆に銀色が全面に出ると目立ちますが、可読性に欠け情報を伝えるチラシの役割が薄れてしまいます。黒と銀のギャップによる演出が絶妙な隠し味となり、工夫を凝らしたデザインと印刷によって、多くのチラシの中から思わず手に取ってしまいました。
いかに手に取ってもらい、見て(読んで)もらえるかが、チラシの重要な役割です。奇抜な形状や、手触りの良い紙を使ったチラシもとても魅力的です。ですが、私たちが得意とする印刷で、選ばれるためにどの様なお手伝いができるか、そんな目線で選考させていただきました。
どんなモノでも「ひと手間」をかけて「工夫」をした「粋」なものって素敵ですよね。

「黒」が印象的なこちらのチラシ。
全部で6種類のチラシが配布されていました!
(提供:東京都写真美術館)

《東京都写真美術館 展覧会担当学芸員の方よりコメント》
本展では、作家が作品を制作する際の思考やプロセスを「分解」という言葉で表していました。チラシやポスターは、デザイナーがこのコンセプトをベースに、展覧会チラシを「分解する」というアイディアで制作してくれたものです。来館されたお客様の中には、チラシやポスターを見てお越しになった方も多かったようです。

紙選びや印刷・加工技術から、団体やデザイナーの皆さんがチラシづくりに込めた想いを知ると、その作品や展示への興味がますます湧いてきませんか?チラシから舞台公演や美術展に出逢うワクワクは、本当に楽しいです!!「おちらしさん」では、2023年も、素敵なチラシをたくさんご紹介していきます。


さいごに、”推しチラシ”を選んでくださった会社の皆さんについて、ご紹介します!紙選びや印刷のこと。紙加工や製本のこと。何でも気軽に相談できる、あたたかい方達です。

■平和紙業株式会社(紙の会社)
平和紙業株式会社は、風合い豊かで、想像力を刺激する紙「ファンシーペーパー」をつくり、届け、情報化が進む社会の中で、新たな価値の構築を目指す会社です。いつも人のそばにいる「紙」の可能性を追い求め、社会の多くの課題と向き合い、視覚、触覚などを通して「本当に伝えたいこと」を載せるコミュニケーションツールとして、これからもファンシーペーパーの価値を伝えていきます。
HP:https://www.heiwapaper.co.jp/

★「なるほどなペーパー」と紙谷 刷太郎(かみたに すりたろう)
「なるほどなペーパー」は作家やデザイナーとコラボすることで「紙ってこんなふうにも使えるんだー、なるほどー!」を目指した、今までありそうでなかった新しい場所です。その「なるほどなペーパー」を 案内するのが平和紙業の誰よりも紙と印刷加工を愛し、その魅力にとりつかれた紙谷 刷太郎(かみたに すりたろう)になります。
note:https://note.com/kamitani_suri/
Twitter:https://twitter.com/kamitani_suri

株式会社 東北紙業社(紙加工の会社)
弊社は主に紙の抜き加工を行う工場になります。(抜き加工とはジグソーパズルやお菓子の箱など紙の形を作る加工を想像してください。)
また、抜きの加工だけでは無く、普段からデザイナーなどの色々な業種の方から加工のご相談を受けたり、ご提案をしたりしております。普段のチラシと少し違うチラシを作りたい、こんなチラシを作りたい等の想いがありましたら、是非ご相談ください。その時に、
1) どの様なチラシを作りたいのか、ふわっとした案
2) 大体の数量
3) 納期
4) 大体の予算感
などがわかると色々な提案が出来ると思います。
HP:http://tohoku-shigyosya.co.jp/

■株式会社サンコー(印刷会社)
クリエイターの「作りたい!」に寄り添った印刷から、デザイン、ブランド作りのお手伝いまでおもいをカタチにする印刷会社です。印刷工場に併設したクリエイター専用シェアオフィス「co-lab墨田亀沢」も運営しています。また毎週水曜日は「紙と印刷とラジオ」をツイキャスで配信中。
HP:https://sanko1.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/sanko_sumida
「紙と印刷とラジオ」:https://twitcasting.tv/kamitoinsatsu

■有限会社 篠原紙工(製本会社)
1974年創業。製造部分だけではなく、デザインの段階からクライアントと一緒に本やプロダクトを作り上げていく製本会社。
本質をさぐり、チーム力とチャレンジ精神で、話題となる本やプロダクトを日々世の中に送り出している。
HP:http://www.s-shiko.co.jp/

■株式会社 加藤文明社/atelier gray(印刷会社)
私たち加藤文明社は創業1914年(大正3年)の印刷会社です。教科書、学習参考書を代表とする教育書、医学書などの専門書から、書店に並ぶ書籍まで幅広く印刷を承っています。昨年度は出版社を中心としたお客様250社以上から、約8,000件の制作実績をいただきました。
最近では印刷のお問い合わせをいただくお客様も、以前とは変わってきています。多くの本は出版社などの企業が作るものでしたが、個人レーベルでの出版事業、自費出版による個人作品集など、本を作る方の裾野が大きく広がっています。私たちも変化する市場のニーズに応えるべく、『atelier gray』を立ち上げました。
 atelier grayは、いつでも相談できてその場で製作できる印刷アトリエです。長年にわたり数多くの期待に応えてきた、紙、インキ、製版、印刷、製本のプロフェッショナルがいます。
みなさんが表現したいこと、伝えたいことを、チラシ、ポスター、冊子など様々な印刷物で、お手伝いさせていただきます。
 HP:https://www.bunmeisha.co.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/atelier_gray/
Twitter:https://twitter.com/atelier_gray

文・臼田菜南

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