丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】⑩「家庭と演劇の両立」について考えようーパショナリーアパショナーリア特別鼎談も!―
祝日がないことと雨が降ることでお馴染みの6月ですが、私は6月生まれなのでそう嫌いでもありません!誕生日はどこに行くか、それはもう毎年決まっていて、劇場と銭湯とお好み焼き屋さんです。お好み焼き以外はできたら一人で行けたらと思いつつ、そうもいかない。我が家には子が二人いるので、日々はもはや「そうもいかない」の連続。だけど、「そうもいかない」をどうにか「これならできるかも」に近づけ、「こうしていきたい」を描き続けること。それが私にとっての生活であり、演劇であったりもします。
今回は、そんな私の日々の主題でもある生活と演劇、その両立についてのお話です。
このテーマで語るとき、真っ先に名を挙げたいカンパニーがあります。【家庭と演劇の両立】を掲げ、俳優の町田マリーさんと中込佐知子さんが立ち上げたパショナリーアパショナーリア(通称パショパショ)。この連載内外でも度々ご紹介をしてきましたが、私が演劇について書くこと、そして、家庭と演劇の両立を目指すきっかけとなった団体こそがパショパショ、出会いは「高校生以下チケットと観劇時の託児の無料化」を目指した旗揚げ公演のクラウドファンディングでした。
そのあたりを詳しく綴った以下の記事もどうか併せて読んでいただけたら!
そんなパショパショは7/6(土)、7(日)、13(土)の3日間、中野富士見町のニュー・サンナイにて新作『おもちゃワーカーズ』を上演。
今回は稽古場にお邪魔して【家庭と演劇の両立】をテーマに活動を続けることや本作の見どころや挑戦についてお話を聞いてきたのでそのインタビューをお届けしたいと思います。
近年は他にも、観客のみならず俳優やスタッフの育児の壁をはじめ家庭におけるプライオリティについて多くの団体が考えたり発信するようになり、とても心強いと感じます。そんな取り組みについても併せてご紹介をできたら。少しでも多くの人がなるべく無理なく自身の演劇と生活を守れますよう祈りを込めて…。
パショナリーアパショナーリア
町田マリー×中込佐知子×高野ゆらこ特別鼎談
―新たなメンバー体制で【家庭と演劇の両立】をより持続可能に!―
―新作を前に新メンバーに高野ゆらこさんを迎え、3人体制へ。その経緯からお聞かせ下さい。
高野 過去作に何回か出ていたのですが、自分が出演しない時も稽古を見にいったり、台本の意見を聞かれたりと、外部のちょっとした相談役のような関わり方をさせてもらっていました。そんな経緯がありつつ、年明けにまちどん(町田マリー)から「ゆらこちゃんが入ってくれたら嬉しい」と連絡をもらって。もう、一にも二にもやるという思いでしたね。
町田 本格的に意識をしたのは、前作の5周年公演が終わった後でした。メンバーが増えることで、考える範囲や想像が膨らんだり、より広く意見を出し合えたらいいなと感じたんですよね。真っ先に「ゆらこちゃんしかいない!」と。そんな気持ちでした。
高野 私は、パショパショの活動は社会的に意味があることだと思っているんです。だからこそ、長く続いてほしい。そう思った時に「二人より三人の方が心強いかな」とか「続けていくのが難しく感じた時にももう一人いたらあと少し頑張ってみようと思ってもらえるかな」って。そういう気持ちが一番大きかった気がします。
中込 私は5周年で息切れみたいになってしまって、まさに「もう続けられないかも」って思っていたところだったんです。その矢先にゆらこちゃんが参加してくれて。本当にありがたかったです。
―パショパショが旗揚げ当初から掲げている【家庭と演劇の両立】というモットーも、活動の継続や時代の変化に呼応して、より拡がりが生まれているような気がします。
高野 家庭ってつまりは生活。私にとっての家庭は夫婦で、夫と過ごす時間もすごく大切に思っています。だから、稽古時間一つをとっても、「子どものいる家庭に合わせている」のではなく「自分の生活もそっちの方がいい」ってシンプルに思っているんですよね。夜は家に帰れた方がいいよね、夜ご飯は家で食べたいよね、っていう、とても当たり前のことをやっていると感じています。
町田 長らく演劇活動は、雰囲気次第で稽古が長引きそうだったり、やらなくてはいけないことを家に持ち帰ったり、みんなが無理をしている状態がデフォルトになってしまっていたと思うんです。
高野 そうだね。これまでがあまりに家庭や生活を蔑ろにしてきたよね。無理をすることや捧げることが良いとされていた部分もあったし、過去の自分もそう信じてしまっていたとも思います。最近はいろんな人が生活との両立について声をあげたり、取り組んだりしていて、すごくいいなって。
中込 早い時間から稽古したり、稽古時間をコンパクトに設定する団体も増えましたよね。パショパショを始めた頃は、まだまだ午後以降の稽古がスタンダードで「稽古時間を変える」ということでさえ大革命だったのを覚えています。
町田 とにかくパショパショでは「家庭や生活を犠牲にしない」「家庭と演劇を両立させるためには何より楽しくなければ」っていうことを掲げたかった。自分も楽しみたいし、参加してくれる人にも楽しんでいてほしい。演劇にそういう存在であってほしい。40代になり、25年以上もお芝居を続けていると、そういうことがすごく大事だなって思うようになったんですよね。演劇は経済が結びつきづらく、続けていくことが難しい。だからこそ持続可能な在り方を追求したい。そういう意味でも、メンバーが増えたことは本当に心強いです。
高野 何より2回参加して私自身もすごく楽しかったから。それもメンバーになった大きな理由の一つです。
町田 それは言われて一番嬉しい言葉かも!みんなが楽しい時間を過ごせているかチェックみたいなの、ついやっちゃうんですよ(笑)。台本を初めてみんなに見せる時もそう。尊敬し、信頼している俳優陣だからこそ反応が気になるんですよね。
『おもちゃワーカーズ』は職場コメディ?!
“子どもも楽しめる大人のための物語”を目指して
―俳優としてはもちろん、劇作家としてのマリーさんが紡ぐ物語に出会えることもパショパショ公演の楽しみの一つです。新作はどんな物語になりそうですか?
町田 今を生きるのに必死すぎて終わった公演はつい過去の出来事になってしまいがちなのですが、観に来て下さった方が会う度に「あれ、すごく面白かった」って言って下さって…。そういった声の一つひとつが新作の執筆や上演へと臨む原動力になっています。今回の新作は、日常的に行っている演劇とはまた別のお仕事、その職場で感じたことを物語にしたいと思ったことがきっかけでした。
中込 マリーちゃんの人生経験が笑いとともに反映されるところがパショパショの物語の持ち味なのですが、今回はこれまでにはない違った形や方向でその魅力が出ていく感じがあって、面白がりながら稽古しています。
高野 私も作家・町田マリーがすごく好きで、それもあってパショパショを続けてほしいと思っているんですよね。町田マリーの大河じゃないけど、自分や周囲に起こっていることを元に物語が広がっていくのがすごく面白い!
―パショパショの演劇は子どもと一緒に楽しめるように作られていますが、実はその物語は子ども向けではないですよね。小道具や美術の仕掛けや演出によって子どもの耳目を引きつけながら、いかに大人に向かって紡ぐか。そこが本当に新しく、毎回驚かされるところです。
町田 今回はまさにそこがより強く出ていると思います。今まで以上に些細なところで子どもの意識を離さないようにしながら、かつ大人のための物語にしていくこと。特に今回は物語の舞台が職場だし、その中でいかに子どもを楽しませられるかがすごく重要!
高野 今までは舞台上に子どもの存在がはっきりと出てきていたけど、今回はそういうことでもなく、大人のコミュニティのお話なんです。登場人物の関係性も家族や友達じゃなく、職場の人たちで、それぞれが抱えているものの切実さが見え隠れする。そこは今までの作品と大きく違うところですよね。
中込 パショパショとしても新境地の作品。マリーちゃんの観察眼がすごく光っているし、人と働く中で経験したやるせなさや苦しさも面白く表現されています。子どもも飽きないけど、ちゃんと大人に刺さる。今回はおもちゃ、とくに戦隊ヒーローのソフビが大活躍しそう!
高野 果たして、何体のソフビが登場するのか…!パショパショの演劇は必ず子どもが観るものだから、そのあたりはキャスト一丸となってあの手この手で工夫を凝らしているところです。
町田 セリフ劇に終始しないように気をつけたり、思わず体が前のめりに動いてしまう何かが起こるようにしたり、楽しそうな小道具がでてくるとかもすごく大事で…。そういうのは細かく沢山入れるようにしています。そのことによって、結局大人も楽しかったりするんですよね。子どもの観客がいることで、その想像力が演劇的に機能したり、演劇しかできないことが起きたり…。そういうことが相まってパショパショらしい作風に仕上がっているんじゃないかな?
旗揚げの打ち合わせ場所は水族館
あの日の気持ちを「社会」へと繋いで
―職場を舞台にした子どもも観られる演劇、新しいですね!稽古は延増静美さん、富岡晃一郎さんも含め、まさにキャスト全員のアイデア合戦でとても豊かだと感じました。
高野 実は、今回のキャストは第二回目『40才でもキラキラ!』と同じメンバーなんですよ。パショパショ演劇の勝手知ったる安心感というか(笑)。「もっと面白くしよう!」ってみんなで稽古できるのがすごく楽しいです。
町田 『40才でもキラキラ!』は私が初めて書いた台本で、その時もすごく助けられたのですが、今回も子どもと目線を合わせたアイデアを沢山出してくれています。昔から一緒に演劇をやってきた同世代の仲間が時を経て集まれていることも嬉しい。
町田 いつだったか、稽古中に嬉しくなってみんなで泣いたよね?ダンスシーンで、鏡を見て踊っていた時に「この私たち知ってるー!」ってフラッシュバックして…(笑)。
高野 あったね!「お互い歳取ったね、でも一緒にやれているね」って泣いたんだよね。まちどんやエンペラー(延増静美)は私にしたら、演劇人生イコールの付き合いなんです。同じ劇団を辞めてからはもう一緒にやることないかもと思っていたのに、人生って面白い!
中込 私はパショパショで初めて出会う人たちばかりだったけど、こんなに自発的に同じ方向を見つめてくれる人たちがいるんだってすごく嬉しかったんです。そういう人たちが集まると、こんなに稽古って楽しいんだ、豊かなんだって感じました。
町田 パショパショという活動をみんなと続けられていることは、私にとってすごく大きいと日々痛感します。中込さんとも子どもが生まれる前から出かけたりしていたし、妊娠してから演劇をどう続けていくか模索していた時は先輩のママ俳優として沢山相談も乗ってもらってきたけど、一緒に旗揚げしてくれて、なんだかんだでもう7年目。初心を忘れたくないって改めて思います。
中込 旗揚げの時の打ち合わせは水族館だったよね(笑)。
町田 懐かしい〜!子どもにガチャガチャさせたりしながら話しましたね。作品を書いていると、自分の子の成長がその都度色濃く反映されていると感じます。息子が高学年になった今、赤ちゃんが出てくる物語は描きづらかったりもするのですが、子が小さかった頃の大変さや悩みを忘れちゃいけないし、まさにその時の気持ちがパショパショの動機で源流なんですよね。子連れで観劇に行けないことが私自身すごく苦しくて、そのハードルの高さをどうにかしたくてパショパショを始めたこと。そこは一番大事だし、たとえ自分の子どもが大きくなっても貫きたいところです。
高野 今まさに妊娠中だったり、小さいお子さんの子育てに奮闘している人だったり、そういうお母さんやお父さんはいつでもこの社会にいるもんね。そういう意味でもパショパショの活動は意味があると強く思っています。
ニュー・サンナイという場所だから叶う
子どもも大人も嬉しい公演の形
―会場のニュー・サンナイもすごく素敵な場所ですよね。パショパショは毎回上演場所にもこだわってきましたが、今回の決め手は?
中込 元々キッズイベントをされていたりもあってすごく心強いし、ニュー・サンナイのみなさんには色んな面で協力的に支えていただいています。遊園地みたいな雰囲気づくりをイメージしていて、子どもが喜びそうなポップコーンマシーンやキッズドリンクも用意する予定です。お芝居の前後30分はお食事時間として飲食もできますし、大人はお酒も飲めますよ!
町田 ニュー・サンナイは俳優の山内圭哉さんがオーナーさんでいらっしゃるんですけど、DMからお借りしたい旨を連絡したら快諾してくださって…。今回の公演限定の特別メニューまで作ってくださるんです。しかも、子どものことをケアして、食べやすくて、汚しにくいものを考えてくださって…。だから、安心してお子さんとお越しいただけたら!
高野 ある程度の広さで、かつ子ども用の桟敷席を作れて、さらに家庭と演劇の経済的な圧迫もなるべく少なく公演ができる場所って本当にないに等しいんですよね。そんな中、今回は本当にピッタリな場所に出会えて。ドキドキワクワクと好奇心を掻き立てるような魅力のある空間。子どもはもちろん大人もきっと高まる気がします。
町田 下見で足を踏み入れた瞬間に、何よりも私たち3人が「わあー!」とすごく高揚したんです。ライブなどに使っているカラフルな照明やミラーボールがあって、そういうキラキラしたムードも今回の作品に合うと思いました。パショパショの演劇は楽しい気持ちになれる場所っていうのが、すごく重要だから。あと、子連れを想定した時に駅から近くて迷わず来られるのも有難い!
「賛同の気持ち」を還元できる「おきもチケット」
特典は、俳優たちの“家庭”の顔?!
―今回はチケットも一工夫ありますね。賛同者が参加できる「おきもチケット」も重要な取り組みだと感じました。
町田 これもカンパニーを持続可能なものにするために考えたことでした。パショパショは旗揚げから「高校生以下無料」もモットーにしているのですが、一方で何かしらの助成を得ているわけではないので、その負担のしわ寄せが結局運営に響いてしまう現状もあって…。そんな中で、参加型チケットがあれば続けていけるのではないかと思ったんです。それが「おきもチケット」。あと、高校に行っていない子もいることから、今回からは表記を高校生以下ではなく、17歳以下無料にして、18歳を特別料金に設定する形にしました。
中込 「家庭と演劇の両立」や「負担なく子どもたちが演劇を観られる環境づくり」など、そうしたパショパショの取り組みに同意してくれたり、試みを応援したいと思って下さる人にチケットを買ってもらえたら、という思いで、おきもチケットは1000円から参加できる形式にしました。
高野 通常料金にプラスする形式や寄付型など、他公演の様々なチケットを参考にしました。そんな中で私たちが一番言語化しやすく、気持ちをわかってもらうためのチケットはどんな形で、名前だろう?と考えて話し合って…。私たちの優先順位はやはり子ども無料の持続なので、そこを叶えられるよう色々模索しましたね。
町田 子ども500円とかもよく見かけるし、一瞬アリかなと思ったりもしたんです。でも、結局大人一人で行くよりも、子どもと一緒に行く方がプラスαの負担がかかることを思うと、私たちが初心で掲げていたこととは違うものになってしまう。演劇の敷居を下げる意味でも、やっぱり「無料」は譲れないんです。だからこそ、気持ちを少しずつ寄せてもらってみんなの力で続けられたら社会への取り組みとしてもよりいいなと思ったんです。
高野 チケット発売してすぐ購入して下さった人も数名いて、文字通り気持ちを届けてもらえてすごく嬉しかったです。観に来られない人も、おきもチケットに参加することはできるようにしているので、気になる方は是非ご検討いただけたらと思います。
―しかも、「おきもチケット」は特典もまた“見どころ満載”なのだとか!
町田 そう、かつてない特典内容はなんと!お家での私たちの映像です!ゆらこちゃんが「家に帰ってから俳優がどのように過ごしているかを映像で収めたらいいんじゃない?」ってアイデアを出してくれて…。
高野 演劇を作っている人の演劇を作ってない時の顔って面白そうだなって思ったんです。それも、舞台裏とか稽古場オフショットとかじゃなくて、稽古場のあのドアを出てからのこと。そこはリアルだし、一つのエンターテイメントとしてもいいなって。
中込 家庭と演劇を両立している様子を伝える意味も含めて、パショパショならではな特典でいいよね!ゆらこちゃんは企画部長でもあるんですよ。おきもチケットの命名者もゆらこちゃん。
町田 そうだね、新メンバーになってすぐになんて頼もしい活躍!ちなみに、私は昨日もお布団の中で犬たちが騒ぐ中、すっぴんで稽古初日が終わった心境を語る映像を撮りました(笑)。みんなはどう?
高野 私は、朝台本をプリントアウトしながらパックをしていたら、突然トイレの水が漏れてテンパってプリンターに八つ当たりし、その様子を収め、たかどうかは是非お楽しみに!
町田 私たちまで気になっちゃうね(笑)。そんな面白特典映像も、本編と合わせて是非お楽しみください。3日間、ニュー・サンナイでお待ちしています!
本連載のために素敵な稽古場写真の数々を撮影して下さったのは、俳優の小野寺ずるさん。お写真を見た時、1枚1枚に滲むずるさんの眼差しの温かさと可笑しみに胸がギュッとなりました。そんなずるさんも稽古の感想を綴って下さいましたのでご紹介させて下さい。俳優が見つめた俳優の魅力が端々から伝わる言葉たちです。
パショパショ公式Xには、他にも山内ケンジさん(城山羊の会)、高羽彩さん(タカハ劇団)、俳優の柿丸美智恵さん、プロデューサーの平体雄二さんなどからの応援コメントが続々寄せられています。皆さんそれぞれの視点から紡がれた個性あふれるコメントとともに、新作『おもちゃワーカーズ』、是非チェックしてみてくださいね!
まだまだ知ってほしい声がある
「生活と演劇の両立」に向けた新たな取り組み
① プラットフォームデザインlab
「生活と演劇の両立」について悩み、考え、そして、声をあげているのは、俳優や作家だけではありません。プラットフォームデザインlabは育児との両立の大変さやモヤモヤを共有することから始まった、スタッフさんによって組織されたチーム。メンバーは舞台美術家の中村友美さん、原田愛さん、舞台照明家の小林愛子さん、演出助手を務める松本ゆいさんの4名です。2016年から不定期で意見交換座談会を始め、そこで集まった多くの声に対する「場」を開くために2023年に設立。「本当に必要な支援を見つけ出す」を目標に、リサーチやオンラインやWSを通じた交流を企画されています。noteには皆さんの自己紹介記事もあるのですが、是非とも4本全て読んでいただきたい!なかなか見えづらい実情を綴って下さっている貴重な文章たちです。俳優や作家の家庭と演劇の両立がしやすくなっても、スタッフさんのそれらが置き去りになってしまっては、決していい創作現場、いい社会とは言えません。まだ見えていない“本当に必要な支援”を見つけるには、より多くの目が必要だと痛感します。
② エンタメシッターサービス「FLUFFY KET」
働いたり、リフレッシュをしたり、一人になって「母」から「私」に戻る時間が育児中の親には必要。でも、そんな時もやっぱり子どもの様子は気になるし、できたら託児中も楽しい時間を過ごしていてほしい。そう感じていた時期に見つけたのが、このサービス。きっかけはある舞台を機に惹かれていた俳優さんの投稿でした。お名前は伊藤梨沙子さん。モデルやタレントとしてはもちろん、私が焦がれたKERA・MAP『修道女たち』やナイロン100℃『百年の秘密』、劇団た組『誰にも知られず死ぬ朝』など数多くの舞台にも出演されてきました。そんな伊藤さんが一念発起で立ち上げ、代表取締役を務めているのがこの「FLUFFY KET」です。ご自身をはじめ、俳優、声優、ダンサー、シンガーなどのプロのエンタテイナーで保育スキルを持つ方がキャリアを活かす形でエンタメ×託児を実現。おうた遊びやごっこ遊び、読み聞かせや体操など、エンタメシッターさんの強みに合わせたメニューも魅力的だなと感じます。気になった方はぜひHPや伊藤さんのインタビューを覗いてみて下さいね!
③ 舞台芸術活動と育児の両立について考える会
最後に、本年度の会期はもう始まっているのですが、こんな取り組みがあることだけでもお伝えできたら!公益財団法人セゾン文化財団が主催するこの会は、フリーランスで舞台芸術活動に関わる芸術家、技術者、制作者などを対象にした全5回の講座(参加費無料、回に応じてオンラインと対面で開講)。第二回では、範宙遊泳プロデューサー・ロロ制作であり、ご自身も育児と演劇の両立を模索されている坂本ももさん、劇団メンバーの6名が育児と創作の併走を試みている中野成樹+フランケンズ主宰の中野成樹さんがカンパニー内での取り組み、成果や課題をお話されたそうです。育児中ではない方も参加ができること。こういった講座が当事者のみに終始せず、広く開かれていること。育児の問題は、育児当事者だけでは解決できないことばかりなので、そういった視点もとても必要なことだと思いました。今後も類似の取り組みがあるかもしれないので、気になる方は是非チェックを!
いかがでしたか?こういった声や取り組みの重なりによって、未来の舞台芸術業界が、ひいては社会が、今よりも豊かで生きやすい場所になることを私は本気で願っています。子育て10年、我が子が大きくなっても、いつもすぐそばにあの日の自分と同じ悩み、状況、気持ちの人がいることを忘れたくないと改めて思います。それでは、大人も子どもも現在も未来もどうかもっともっとHave a nice theater!!!
稽古場写真/小野寺ずる
連載「丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇のお話」
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丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』、『リンネル』、『Lala begin』などのファッション誌で主にカルチャーページを担当した後、出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動。近年は『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>の更新を機に劇評も執筆。主な寄稿媒体は各劇団HPをはじめ、『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』、演劇批評誌『紙背』など。また、小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、エッセイ『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2023年、2024年とCoRich舞台芸術!まつり審査員を務める。
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