「カイハツ」ってなんだ?!~演劇づくりの機関をめざして~|KAAT芸術監督・長塚圭史さんインタビュー
――「カイハツ−企画・人材カイハツ−」のことを、教えてください。
カイハツは、アーティストが試したいと思っているアイディアを、劇場のアトリエを使って、5日間、必要な人材と共に試すことができるという企画です。
「こういうことを試してみたい」と劇場に申請をして、認められたら、必要な俳優やスタッフとともに試す場が与えられる。そしてそのアイデアを練っている期間中、劇場側から参加費が支払われます。KAATの事業へとつながる可能性もありますが、基本的には、トライしたことが直接的な事業の実現にならなくてもかまいません。「アイディアを育てて、トライして、練ってみるという時間」を提供するということを大事にしているので、成果を見せるということも決まりではありません。プレッシャーを与えるものではなく、自由に発想を広げていただきたいと思っています。
アイディアがあるから、まずは始めてみる。「さあ、公演をしましょう」ではなくて、「入口を切り開いていこう」という時間です。
――長塚さんが、このプロジェクトを立ち上げようと思った経緯を教えてください。
私が2009年にイギリスへ留学した際、National Theatre Studioというワークショップを中心に行う機関に出入りさせていただき、そこで経験したことが基になっています。
そこには、カイハツと同じように5日間アイディアを試すことができる場があり、私は、井上ひさしさんの『父と暮せば』という作品を用いてワークショップをしたいと申請をしました。
ワークショップに向けて、Studioのスタッフは 私の企画に合う俳優を探してくれました。「この人はどう?」と俳優のプロフィール見せてくれたり、舞台監督も用意してくれました。イギリスの演劇事情を知らなかったので、とても助かりました。
このワークショップはとても豊かな時間で、私は、アーティストとして潤った状態になって終えることができました。そのトライアルが公演などにつながったわけではないのですが、またこういうことができるようにと、やる気が湧きました。
Studioには、前線で活躍しているアーティストもいれば、若手ディレクターもいたし、外国から来ている方やオペラの演出家もいて、その人たちがみな、National Theatre Studioでワークショップをしているということに誇りを持っていました。
私はそれまで、芝居というものは、自分たちだけで、民間の力で戦っていかなくてはならないものだと思っていましたが、そうではなかった。アートに対して、こんな風にお金を投資していることの豊かさを感じて、こういう機関がもっと日本になくてはならないと思いました。
――Studioの方が、俳優やスタッフを提案してくださったように、KAATでも、そのような紹介はされるのでしょうか?
はい。「こういう人が合っているのではないか?」「こういう人と一緒にやってみたら?」という提案をしていくことは、カイハツ事業の大事な役割だと考えています。
――芸術監督として、劇場側にとってのメリットは、どのようなものだと考えていらっしゃいますか?
いろいろありますが、例えば、KAAT公演のキャスティングの際に、カイハツに参加いただいた俳優をさまざまな資質を含めて提案できるようになることです。そのほか、劇場としてはアーティストのアイディアを見ることができるし、アーティストを知ることができるし、俳優との相性を見ることもできるし、プラスがいっぱいです。参加するアーティスト側だけではなく、劇場側も知識と経験を積むことが、カイハツで可能になってくると考えています。
――これまでカイハツに参加されたアーティストは、どのようにアイディアの種を育てていったのでしょうか。
みなさん、方法論がまったく違うので、さまざまだと思います。
田中麻衣子さんは海外の戯曲を持ってきて、それを音楽劇にしようというアイディアの種。元々は2人の女性だけのミュージカルで、1人1人が何役も演じ、音楽全部2人で演奏して歌うという、ものすごく高度な技術と能力を持った俳優が2人でやらないとできない作品を、どうしたら自分たちで上演 できるだろうかということを探っていました。翻訳の言葉は素晴らしいものもいっぱいあるけれど、同時に、「言葉」と「私」との距離感みたいなものもできてしまうため、それを埋めるために歌う俳優たち自身で歌詞を作るということを試したりしていました。
大澤遊さんは、非常に難解な海外の戯曲を「これ、日本語に翻訳して上演できるのかな?」ということを 探る企画でした。言語学者の人にレクチャーしていただく日を設けたり、一日中ディスカッションするだけの日があったり、どのようにしたら上演できるのかという可能性を参加者全員で探っていました。
大池容子さんは、現代の肉体が古典作品を読み解くにはどう取り組んだらよいのかということ。もうほんとうに、戯曲に体ごとぶつかるというようなことを、ずっと試行錯誤されていました。
桐山知也さんは、戯曲ではなく外国の児童 文学から、大人とこどものための芝居を作れないだろうかということ。
このあとカイハツに参加予定の目黒陽介さんは、現代サーカスやパントマイムのパフォーマーによる演劇的作品の可能性を探ろうとしています。
――これまでのカイハツにおいて、アイディアの種はどのような形で企画書として提出されていたのでしょうか?
それもまた、みなさん、いろいろな形で書かれています。
例えば、田中さんの場合は、海外の二人芝居をどうしたら日本で上演する音楽劇として形にできるのかということを企画書にされていました。1人が何役も演じる二人芝居を、2人以上の俳優の人数で立ち上げていくことと、このような音楽が必要で試してみたいということが書かれていました。
大池さんは、とある古典に対してどのようにアプローチしたいのか、理由とポイントがきちんと書いてありました。
私がStudioに『父と暮せば』を申請した際は、日本人特有の距離感や生活感覚をイギリス人に取り込んでいくということはできるのかということを書きました。畳の上で生活している私たちの距離感を、イギリスのテーブルと椅子のセットの感覚の中に取り入れてもらうということ。必要な道具も全部書き出しました。
私の場合は書きすぎたかもしれませんが、そこまであった方が、「それがやりたいのだな」ということが伝わるような気がします。
アイディアの面白さと題材、そして熱意。そのあたりが大事になってくるのかなと思います。
――芸術監督として、カイハツで目指していることを教えてください。
KAATという劇場に、なくてはならないものにすることを目指しています。
アーティスト側にも劇場側にもカイハツの成果を実感してもらって、劇場側が「こういうことが起きている」ということを表現して、応募がちゃんと継続的に来るようになる。お互いにとって幸福な事業に育ち、私の芸術監督の任期後にも残り続けてほしい。
カイハツは、アーティストたちの内側の筋肉を鍛えるようなものなので、成果が見えづらいという側面はあるのですが、そこで過ごした時間は、参加したアーティストと俳優の“内側”にきちんと残っていくと思うんです。アーティストのアイディアが潤って、さらには参加した俳優たちが自分たちの生活を切り詰めずに演劇に携わっている時間が確保できて、しかもそこで出会いが生まれるということは、必ず財産になる。
KAATに「カイハツ」があることが広く知られて、そこでアイディアを試そうと思ってくれる人たちが生まれてくるようなことになればと、願っています。
取材日:2024年12月12日
取材・文:成島秀和
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