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半年を超えるチラシ旅ー演劇チラシができるまで-【20歳の国「ホテル」】 | おちらしさんアワード2022
「↓」の数、なんだと思います……??
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これは、2022年5月に上演された、20歳の国「ホテル」公演のチラシ。
おちらしさん5月号でもチラシをお届けしました。
「↓(やじるし)」は、このチラシをつくるのに重ねられたラフデータの数【96枚】です。データにはなっていないアイディアのやり取りなども含めたら、100を超えているかもしれません……!
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ラフデータを上から下までずーーっと眺めていくと、色もフォントもイラストも、どんどん変化していきます。一体、どのようなやり取りを重ね、このチラシが誕生したのでしょうか……?
20歳の国の主宰である石崎竜史さんと、宣伝美術を担当された藤尾勘太郎さんに、チラシ製作の過程についてお話を伺いました。
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◆ 演劇のチラシ旅 -20歳の国「ホテル」-◆
1. チラシづくり、始まる瞬間
ーー公演をされることが決まった際、チラシをつくろうか迷われていたとのことでしたが、つくろうと踏み切ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
石崎さん : チラシが大好きなんです。インターネットよりも出会いに「偶然性」と「特別感」が強いように思うので。20歳の国の公演は4年ぶりだったので、良くも悪くも情報が流れていってしまうSNSの宣伝とは別に、チラシをつくろうと決めました。藤尾さんとは以前からの知り合いで、これまでの20歳の国の公演チラシも半分くらいデザインをお願いしています。
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・『保健体育B』(2016年4月)
・『文化祭大作戦』(2015年10月)
・『いつかエンドロールで』(2015年2月)
・『いつかエンドロールで(再演)』(2016年6月)
・「花園Z」(2015年5月)
2. 最初の打ち合わせ
ーー最初の打ち合わせはどのように始まりましたか?
石崎さん : チラシのイメージは、今までと違う感じが良いという話をして……。
藤尾さん : (ノートを取り出して)「レトロださいロマンチック」
石崎さん : そうそう、勘太郎の家にチラシファイルがあって、そのデザインを見ながら「これは近い、あれは遠い」と伝えてイメージのすり合わせをしました。
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石崎さん:これまではどの公演も青春ものを扱っていて、J-POP的な広報イメージを持っていました。ですが今回は久しぶりに公演を打つにあたり、大人っぽいものをつくりたいと思っていて……。シティポップが好きなんです。いろいろなCDのジャケットを見ていても、ロックやクラシックではなく、シティポップのイメージが、今回つくりたいものに近いと感じました。
藤尾さん:シティポップの何が近かった?
石崎さん:なんだろう?主張が強くない……??難しい質問だね。
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藤尾さん:チラシをつくるときも、こうやって進めます。「それってつまりどういうこと?」をずっと聞いていくんです。どうしてJ-POPではなく、シティポップがはまると思った?
石崎さん:最初は「今回はJ-POPをやらない」が強かったのかも。J-POPって、文字通りポピュラーのための音楽なので、多くの人に「ささる」必要がある。どちらかと言うと、太い線で分かりやすく整理されているイメージ。
今回はひとことで片づけられない感じのもの、雰囲気にいろいろなものが内包されている作品をつくりたかったんです。「このお話、さされ~!」というより「ささる人にささってくれればいいなぁ」という。
藤尾さん:(ノートにメモを始めて)チラシ打ち合わせみたいになってきた!(笑)
石崎さん:今後どういう劇団になるのかを見つけるための公演でもあったので、手さぐりです。話をしていくなかで、どういうものをつくりたいか分かっていきました。
藤尾さん:チラシ打ち合わせをする時、私はかなり聞きます。演劇で新作を上演するとき、打ち合わせのタイミングで作品が書きあがっていないことも多いので、がんがん聞くことで作家さんが自身の作品のことが分かる、という結果に繋がることもあります。
ーー最初の打ち合わせは、どのくらいの時間がかかったのでしょうか。
藤尾さん : 私の家で5〜6時間。他にもいろいろな話をしながらだったので、実際にこのチラシの内容について話したのは2〜3時間です。
石崎さん : 今回の企画は特殊で、短編3作品を劇場で上演した後に、それらを長編群像劇として再構成してオンライン配信する公演です。チラシにこめる要素も、いろんなことが初めてで……。かなり何も進まない打ち合わせでした。
3. 最初の一筆、作業が動き出す
ーー藤尾さんが、チラシデザインをする際、最初の一筆はどこを描かれるのでしょうか?
石崎さん : それ気になる!
藤尾さん : 今回だったら「ホテル」のロゴです。できるだけシンプルでキャッチーなのを目指していました。タイトルロゴだけで、どこまでいけるか知りたくて。
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ーー作業はどこでされていますか?
藤尾さん:全部自宅です。デスクトップでやるのが楽なんです。チラシデザインの為に工作をしながら作業することもあるので、自宅が効率良いですね。
ーーチラシの裏面も同時に進めているのですか?
石崎さん:裏面のデザインも早い段階で勘太郎が出してくれましたが、表面と裏面のデザインはセットで考えていたので、中盤は表面の打ち合わせメインで詰めていました。裏面の方が作業的には大変だから、早くやらなきゃという焦りはありましたね。
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4. コピーの変化ーーお互いに心地よい在り方
70枚を超えるチラシのラフデータを見せていただいたなかで特に気になったことが、コピーの変化についてです。「劇場公演と、生映画公演の2本立て。毎日を潤す演劇展」と書かれていましたが、「まいにちを照らす演劇集」「朱夏へと差しかかった20歳の国」などと変化しながら、最後には「NEW!短編3作品×映像長編」と、どのコピーも大きく変化しています。このやり取りの過程を伺いました。
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藤尾さん : 最後のコピーは、俺が勝手に入れた気がする!途中で「まいにちを照らす演劇集」にしていたのは、竜史が、明るさを届けたいという希望があったから。
石崎さん : 企画書に書いていたね。
藤尾さん : つくっているうちに、竜史自身、自分が何をしたいかが明確になっていって「俺が照らすなんておこがましいと思う」と言ってたな。
石崎さん : 言った言った!それはお前が決めることじゃないと。お客さんが「照らされてるなぁ」と思うことであって「照らしますよ」というのは想いに沿わないというので外れました。
藤尾さん:チラシを作っている時の竜史の判断の仕方は、作家の竜史の在り方に近い感じがします。僕は、20歳の国『保健体育B』に俳優として出演していました。いくつかのシーンが組み合わさった群像劇で、竜史は稽古を進めながら台本を書き直していたのですが、微修正などではなく、ワンシーンまるごとボツにして書き直したりすることも多々あったり。少し書き直すという人は多いけど、竜史は丸ごとボツにしていく。それは面白かった。
石崎さん : 確かにまるごとボツにしてる。お気に入りの台詞とかを残さずにね。
藤尾さん : いさぎいいよね(笑)あ、でも、本当にこのデザイン案の数はスタンダードじゃないからね!?(笑)
石崎さん:申し訳ない…!
藤尾さん : この数は滅多にないです。そこは、一撃で決められなかった僕の責任とも思っているし、劇団にとっても意思表示の仕方がとても大切な公演だったので、ベストな落とし所を探っていたら、この数になりました。まあ、僕は楽しいから良いのですが!(笑)
最近、友人に言われて気づいたことがあって、このデザイン案の数を平気で出せるって、「僕が俳優でもあるから」ではないかと言われてすごく腑に落ちて。俳優って稽古場で、アイデアを出してはボツになってってことにどこか慣れているので、ああなるほどなあと。
5. サブスクだって、入ります
石崎さん:プレイリストのタイミングがいちばん変わったね。
藤尾さん:あぁ~!参考になる楽曲のリストが竜史から送られてきたんです。その音楽を聞くためにはサブスクに入らなければいけませんでした(笑)。でも入って良かった!久しぶりにいろいろな音楽に出会い、ジャケットのビジュアルからも、チラシデザインのイメージに近いものを見つけました。
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ーー曲はどのように集めていたのですか?
石崎さん:サブスクのサイト内でまとめられている「今週のシティポップ」などのプレイリストから探しました。好きなもの手帳、のような感覚だったので、収集は、劇場と契約するよりも前、1年くらい前から形づくられていました。
藤尾さん:良いプレイリストでした。前奏を聞くだけで、つくっていたときのことを思い出すので、今は聴きたくなくなりました(笑)。
6. 誰が主役か、問いかける
ーー「ホテル」公演なのに、ホテルの絵が下のほうに描かれ、余白が多いことも、とても気になっています。
石崎さん : 何をしたいのか。お洒落なものをつくりたいのか、ホテルの話を書きたいのか。製作の過程でどんどん詰まっていって、ホテルではなくそこにいる”人”を主役にしたいと思いました。
藤尾さん : 人の気配とか生活の感じがほしいという話もあった気がして、家を増やしたりもしました。あくまでも街の中にあるホテル。でもこうするとなんか良さが減るね、となり……。
月のデザインも、特別な1日ではないように描きたかったので、呼び方が分からないような欠け方にしています。
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月の欠け方も、日常的です。
ーー月の近くにはヤシの木がかかっていますね。
藤尾さん : シンプルだけれど、どうホテル感を出すかを試みた時に、ヤシの木には不思議な便利さがありました(笑)。
石崎さん : ないほうが良いと話していたけれど、そのラフを見たら、やっぱりあったほうが良い!となったね(笑)。
藤尾さん : ヤシの木がなくなると、雑居ビルに見えるだけでなく月のリアリティーも減るんです。なんだか月が心許無く感じます。
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7. 「これだ!」ではなく「これだね」
ーー非常に多くのやり取りを重ねられているなかでデザインの最終決定をする瞬間は、大きな決断が必要かと思います。最後の決め手について、教えてください。
石崎さん : 最後に決めたときは「これだ!」という感覚はありませんでした。何回か前に「あ、たぶんこれはこの方向になる」という感覚になって、そこから後はもう、詰め将棋のようでした。
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藤尾さん : このあたりですね。そこから先はけっこう細かかったです(笑)!「雲の色をもう少しだけ明るくできない……?」と言われたり、「雲の数は2つだけでいいのかな……。増やしてみる?」と言われて4つにしてみたり!最後の過程では、ちょっとずつ変えてみる、という修正が多かったです。でも、最終的に雲を少し明るくして、それでとても良くなったよね。
石崎さん : 完成して手元に届いてすぐに、自分のデスクの前にチラシを飾りました(笑)最初は「いいチラシだなぁ!」とテンションを上げるためだったけど、徐々にお守りとしての効能の方が強くなってきて。公演の形式も、作品内容も、何もかも初めての試みで不安なこともあったけど、最初にできた「完成物」であるこのチラシを見ることで、今自分がどこに向かおうとしているのかを、確かめることができた気がします。
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チラシを背景に、チラシを語る。
8. チラシで、最初のお客さんとの出逢いをつくりたい
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チケットやレコードを見つめるように、大切に持っていたくなる「ホテル」のチラシ。公演をすることが決まった11月から、チラシが手元に届く5月まで、半年以上に及ぶ”チラシ旅”でした。
チラシ製作の過程は「#20歳の国アートワーク」として、20歳の国公式Twitterでも紹介されています。ツイートの数、なんと②③!!
「ホテル」チラシができるまで ②③㊗️
— 20歳の国 (@20nokuni) May 24, 2022
藤尾さん「完成です!!長い旅路でした。そして、公演完走おめでとうございます!続く長編作品『夜』も楽しみです!」
石崎「何度見ても愛おしい、最高のチラシ!勘太郎!ありがとう!」
🎫『夜』チケット予約
👉 https://t.co/HJqciSv0Kh#20歳の国アートワーク pic.twitter.com/vYeKmR5YW9
半年以上に及ぶチラシの旅。
最後に改めて、チラシへの想いをお聞きしました。
石崎さん : チラシは、これからもつくり続けようと思います。チラシを通してお客さんとの最初の出逢いをつくるのは、自分の感覚として、とても欲していることです。大学生のときに、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが作演をされた公演チラシを見て、かっこいいなぁと思ったんですよね。
藤尾さん:チラシはある程度、稽古の進み方とかに無意識レベルで影響を与えちゃうと思うんです。チラシを見てインスピレーション受けたり、モチベーションがあがることもある。集客に繋がる要素も考えるけれど、作品の質感など、根っこに何があるのかを知って、そこから自分が感じたものでデザインしていきます。それが良い方向に作品をひっぱることもあります。
チラシって、なくても良いけれど、あることで生まれるものもあると思うんです。作品の視覚的な主題歌をつくるイメージで、デザインにあたっています。
・・・・・
実際に「ホテル」公演を観劇したとき、舞台上が優しい空気に包まれていて、台詞が優しく心に響いたのです。公演にこめられた想いが、チラシに包まれ、観劇する人のところまで心地よく届きました。想いのこもるチラシづくりは、本当に素敵です。
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取材 / 臼田菜南・成島秀和
文 / 臼田菜南
写真 / 望月あゆ子
(ホテルのラフ画像・打ち合わせノート・チラシファイル画像は、藤尾勘太郎さんご提供)
20歳の国 公式WEB
石崎竜史さん プロフィール(有限会社マッシュ)
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