公演チラシ考察のススメ|新国立劇場 演劇シリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」
こんにちは。おちらしさんスタッフのしみちゃんです! いつもおちらしさん、おちらしさんWEBをご覧いただきありがとうございます。
まもなく新国立劇場のシリーズ「声 議論, 正論, 極論, 批判, 対話...の物語」のシリーズ1作目となる『アンチポデス』が開幕しますね。同シリーズは5月に2作目の『ロビー・ヒーロー』、6月には3作目の『貴婦人の来訪』が上演されるため、この3作品の公演チラシが様々な劇場や「おちらしさん」でも絶賛配布中です!
そんな公演チラシの制作過程に迫る特集記事、「『ロビー・ヒーロー』公演チラシができるまで ~印刷会社潜入レポート~」が新国立劇場より公開されました!
「何やら面白いデザインだな~!」とついチラシを見て、気に留められた方も多いのではないでしょうか?
今回のおちらしさんWEBではシリーズ「声」より、Vol.1『アンチポデス』、Vol.2『ロビー・ヒーロー』、Vol.3『貴婦人の来訪』のチラシデザインについて語るべく、座談会を行った様子をお届けします!
戯曲があるからこそできたデザイン
しみちゃん:お集まりいただきありがとうございます! 今日は新国立劇場のシリーズ「声」チラシ3作についておしゃべりしようと集まっていただきました! すでに社内ではデザインをよくを見られているかと思うのですが、今回のシリーズ「声」チラシの面白いポイントがありましたら、お話ししていただけますでしょうか?
臼田:まず表面を並べてみてもいいですか? なんだか感動します…!
伊藤:違いがあるけれど全部が共通しているところがこのデザインのすごいところですよね。3種類揃えたくなってしまう気持ちになります! 今後のチラシもシリーズで全部集めたくなりますね。
しみちゃん:並べると気になるのがチラシ下部分に線で描かれた吹き出しが繋がることでしょうか? チラシのデザイン全体が、シリーズのタイトル「声」そのものということなんですかね?
水口:チラシの左側に見える手は『アンチポデス』ならアニー・ベイカーさんというように、作品ごとに作家さんの手の写真を参考にしているそうです。だから3作とも手が違うし、お話を描いているということなんだと思います。
伊藤:描き途中なのもそういう意図なんですかね? 吹き出しで会話しているのも作品の中にある台詞なんでしょうか?
しみちゃん:先日デザインを担当されているコードデザインスタジオさんがそういったツイートをされていたと思います! 登場人物も戯曲とイラストで人数が一緒なんですよ。
伊藤:なるほど……ほんとに戯曲があるからこそできるデザインだ。舞台を観た後にもチラシを見て「ああ、あそこのシーンか」かと気づけるってことですね。細かいなぁ。
チラシなのに「演劇的」な時間経過
臼田:どれも吹き出しは一言なのに十分に場面が想像できます。「君、新人だよね?」「スポーツ好き?」「今は話したい気分じゃない」とか。
伊藤・水口・しみちゃん:本当だ(笑)
水口:この枠の中はイラストレーターの芦野公平さんが描いていらっしゃるそうです。『アンチポデス』、『ロビー・ヒーロー』は基本的に場面転換がなくて、『貴婦人の来訪』は外から納屋の中に話が移っていくんじゃないかなと想像してます。
しみちゃん:は~~コマで描かれているわけですね! チラシからそこまで分かるなんて、これまで経験したことがないと思います!
水口:時間の経過も少しずつ見えてますよね。この電車が進んでたりとか、ライトが消えてたりとか。
臼田:こっちもダンボールが減っていってますね。
水口:ちなみに書かれてる「NNTT」は"The New National Theatre, Tokyo"、つまり新国立劇場のことじゃないですか? 隠れミッキーみたいな(笑)
伊藤・しみちゃん:ほんとだ~!!
しみちゃん:絵を見てるだけで発見だらけですね。
伊藤:イラストのタッチや物語の展開が伝わってくるところは、マンガや絵本のように親しみやすい印象がありますよね。
しみちゃん:すごく分かります…!
伊藤:一方で、時間の経過、立たせ方は演劇チックですよね。
水口:さっきのダンボールが片付いていっている部分は特に演劇的じゃないですか?
伊藤:チラシの時点で想像力が掻き立てられるところに、とても演劇らしさが表れていると思います。
しみちゃん:定点カメラのような描かれ方なのも、客席で舞台を観ているのと同じ印象ですね。ステージっぽい。
舞台を観る前も、後も、チラシ考察ができる!
臼田:『ロビー・ヒーロー』と『貴婦人の来訪』では、どちらも黒猫が共通してました!
伊藤・水口・しみちゃん:ほんとだ~!!
伊藤:気づいてないだけで他にも共通点があるんですかね? 『貴婦人の来訪』の警察官らしき人は『ロビー・ヒーロー』っぽいかな? 『アンチポデス』のダンボールの水を運んでいるのは、『ロビー・ヒーロー』のトラックじゃないですか?
水口:ほんとだ、リンクしてますね! 探せる楽しさって今までにない感じですよね。新国立劇場のこれまでのシリーズだとメインビジュアルがドン!と見せられているなかで、細部までこだわられている面白さがありましたけど、今回は一目見るなり精巧な世界観に引き込まれてしまう感じがして……。
伊藤:シリーズ感がとてもありますよね。チラシのイラストから共通点が見えて、想像させられる感じはあまりなかったなあ、と。
伊藤:こんなにチラシから考察できることってないですよね。チラシ考察が舞台の楽しみ方や奥深さの一つとして、もっと知ってもらえるといいなと思います。
しみちゃん:気づけていなかったことにもったいない気分になってきました。
水口:万年筆のインクのこぼれ方の違いも、3作観たら分かるんですかね?
臼田:吹き出しの形の違いもいろいろな声の色が表れているというか、それぞれに違うんでしょうね。
伊藤:まさに”議論, 正論, 極論, 批判, 対話”ですね。チラシってこんなに喋れるんですね。
ますます劇場へ行きたくなる仕掛けは”裏面”にも
しみちゃん:次に裏面を見てもいいでしょうか? 角の部分が「声」で繋がるんですよね。いつも新国立劇場のチラシは裏面まで仕掛けがあって特徴的ですけれど、今回もまた今までにない工夫で面白いなぁと!
臼田:重ねたまま表面に戻しても、何かあるんですかね?
一同:あー!! 日付が出る!!!
伊藤:デザインもそうですけど、日程が4、5、6月と並ぶのもなんだか良いですよね。
水口:たしかに。3ヶ月連続で、綺麗に月ごとに変わるのもきっと最初から折り込み済みなんでしょうね。
しみちゃん:すっきりしていて良いですよね。先日水口さんに教えていただいたのですが、これ地のグレーの色が微妙に違うって気づいていましたか? これ本当にびっくりして。
伊藤:本当だ!! 絶妙に違いますね。
水口:おそらくそれぞれのメインカラー(水色、緑、オレンジ)に合わせて変えているんだと思うんですけど、これが発見できるのって楽しいですよね。同じグレーに見えて違うなんて。これこそおちらしさんで届いたものをゆっくり見たら、気づけるんじゃないでしょうか?
臼田:「声」のロゴデザインに、”(こえ)”とドット絵みたいな感じで入ってるのも可愛いですよね。
しみちゃん:これふりがなが入っているんですね! ただ「声」の文字をタイトルとして出されるよりずっと親しみやすい雰囲気というか。
伊藤:そのままのタイトルだと「翻訳物はあんまり得意じゃないし……」とか、難しそうだなと思ったままになりそうなのを、見事に砕いてチラシデザインがハードルを下げてくれている感じがありますよね。新たな新国ファン、演劇ファンを引っ張っていこうという気持ちも感じます。
水口:劇場に行きやすい雰囲気を作ってくれていますよね。
臼田:裏面に戻るんですが、縦書きのキャッチコピーが絶対に目に入ってしまうんですよ。普通キャッチコピーは表面にあることが多いのに、珍しいなぁと。表面から自由に想像させてもらえる分、あえてキャッチコピーなどで引っ張らないというか、裏面で補足してくれるのがいいですよね。
水口:表面は作品のイメージを前面に出して、裏面で読みやすく整った形で必要な情報を渡してくれる感じですね。
伊藤:『ロビー・ヒーロー』も警察の話かなと思いきや、あらすじを読むと「ジェンダー、上司と部下、人種」そして「正義」がテーマだそうですから。
臼田:えっ、そうなんですか!?
伊藤:想像する部分を委ねてくれていますよね。
しみちゃん:舞台と一緒だ!
伊藤:イラストから想像して気になった上であらすじとのギャップを感じたら、びっくりしてますます行きたくなると思います。「なんだろう?」と思っていたものから一気にピントが合う感じというか……。分かっていく過程が舞台を観ているときと一緒の感覚ですね。
水口:あらゆるチラシをこうして考えてみたくなりました!!
新国立劇場のホームページでは、『ロビー・ヒーロー』公演チラシの制作過程に迫る特集記事が公開されています。 ぜひチラシを見て、記事を読んで、作品を観て、演劇の面白さを新たに発見してみてください!
【追記】これまでの新国立劇場 演劇シリーズチラシを特集した記事を公開しました。こちらも併せてお楽しみください!!