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丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】⑥【新年特別号】私はこんな作品で「観劇納め&初め」しましたよレビュー!

みなさん、こんにちは。本連載も新たな年を迎えました。本年度も“ここでしか書けない演劇のお話”にお付き合いいただけますと幸いです。
年末年始には、1年の観劇を振り返るSNS投稿なども多く見かけられたのではないでしょうか?私もチケットやチラシを眺めたりしながら、1年の観劇に想いを馳せておりました。
みなさんはどんな作品で1年を締めくくりましたか?
また、どんなカンパニーの作品で新たな1年の観劇の幕を開けましたか?
今日はズバリ、そんな観劇納め&観劇初めのお話。2023年最後に観た演劇と2024年最初に観た演劇について私感を綴れたらと思います。

舞台は終演しましたが、配信公演があったり、次回作の戯曲公開が控えていたりと、作品やカンパニーに触れられるチャンスは先にもあります。また、舞台は終わっても、作家さん、俳優さん、スタッフさんには次回作があります。これから始まる演劇だけでなく、終わった演劇にもたくさんの未来があるので、振り返りはもちろん、今後の観劇のご参考にもお役立ていただけたらと思います!

2023年最後の1本は…

◎TeXi’s第三回公演『夢のナカのもくもく』
上演期間:2023/12/26〜2023/12/31
会場:BUoY 2F ギャラリー
【脚本・演出】テヅカアヤノ(TeXi’s)
【原案】『春琴抄』谷崎潤一郎
【出演】小又旭(アーバン野蛮人)、夏七美、土屋康平(喜劇のヒロイン)、中嶋千歩、野田恵梨香(人間の条件)、古川路(TeXi’s)
<スタッフ>
演出助手:八七すい 照明:緒方稔記(黒猿) 音響:櫻内憧海(お布団)、大嵜逸生(くによし組) 舞台監督:杉山小夜 映像:松尾祐樹(富山のはるか KPR /開幕ペナントレース) 制作:河野遥(ヌトミック) 宣伝美術:古川路(TeXi’s)

撮影:月館森

私が観劇納めに向かったのは北千住・BUoY。銭湯跡地が一部そのまま残された地下空間が独特の雰囲気を醸し出す、ユニークなアートセンターです。BUoYでは多くの気鋭の劇団が公演を行っており、昨年もここで多くの新しい演劇に出会いました。ですが!今回特筆しておきたいのが、会場の階数。BUoYに行ったことのある方はこう思うでしょう?
「2Fってあのカフェとギャラリーのあるスペース?」
そうなんです、BUoYで演劇を観ることはあっても大抵が地下、2Fで演劇を観るのは初めてのこと。一体どんな風に会場が使われるのか。ドキドキしながら、いつもは下る階段を昇っていくと、ギャラリーエリアがシームレスに繋がれていました。
「回遊型演劇ですので、手荷物をお預かりいたします」といった旨のアナウンスを受けて、さらなるドキドキが!回って遊ぶと書いて回遊。つまり観客は観劇中にあちこちと動き回ってもOKとのことなのです。
半ばアトラクションに並ぶような心持ちで開演を待っていると、公演の形式と観劇時の留意点について丁寧な説明がありました。どうやらお芝居は複数のエリアで行われる様子。その間、観客は衝突を避けるための一方通行を守りさえすれば、その都度みたいもの、人、居たい空間を選ぶことができるとのこと。なんとも新しい演劇の在り方に高揚とそして少しの緊張も。「選ぶ」という自由さは、ある側面から見ると主体性でもあるんですよね。この感覚はとても新鮮でした!

本作とカンパニーについても少しご紹介しますね。
2021年設立のTeXi’sは、演劇・ダンス・ファッションショーといった舞台制作や展示など、ジャンルレスな創作をする団体。メンバーはテヅカアヤノさん、澁谷千春さん、古川路さん。カンパニー名の由来は「TeX」がギリシャ語で技術・芸術を意味し、「てぃっしゅ」という読みには汚れを拭ったり水に流せることから生々しい現実を、芸術を通して昇華させていくという意味があるそうです。(会場ではチケット代わりにその名にちなんで、ポケット“ティッシュ”が配られていました!)『夢のナカのもくもく』は、そんなTeXi’sが昨年5月に「せんがわ劇場演劇コンクール」で上演した作品を新たに作り直したもの。題材にとったのは、盲目の琴三弦師匠春琴に仕えた弟子佐助の異常なまでの献身を描いた谷崎潤一郎の『春琴抄』です。

『春琴抄』と聞いて思い浮かぶのは、二人一組の男女の姿かもしれません。だけど、本作では登場人物の性別は定義されないことを前提に演劇が始まります。つまり性別を明言するのではなく、性別を明言しないことが明言されます。これは本作にとって、そして今の時代にとって非常に重要なアナウンスであったと感じました。
舞台とされるのはおそらく学校のような場所で、冒頭登場人物たちは赤いジャージを基調とした衣裳を着ています。体育の授業や給食の時間を思わせるシーンが点在し、その中で何組かの二人組が会話をしている様子が多く描かれます。登場人物たちはいくつかのスポットに分散していき、観客は気になるシーンを自由に追うことができます。

私がとても興味深く感じたのは、「観劇」という行為における通例や規範、ある種の拘束から解き放たれたその時に自分が想像以上に高揚し、そして同じくらい「どう見たらいいのか」という戸惑いや「大事なシーンを見落とさないか」という不安を覚えていたことでした。それは、「自由もまた不自由」ということでもあり、また、「不自由な中でのみ発揮される自由がある」ということでもあって、慣習が自身の感覚や感情にもたらす影響について考える再解釈の機会にもなりました。それでいて、「考え抜かれている!」と感嘆したのは、割と自由にあちこちと動き回っても、それぞれのスポットで同じシーンがリフレインされていることなどから大抵のシーンが見逃さないようにできていることでした。しかし、演じる人が変わることで会話や言葉にまた別の側面が浮かび上がる。この体感もまた新しいものでした。

撮影:月館森

見る/見ないという選択性や、見られるシーンと同時に見られないシーンが存在すること、また、俳優と観客の見る/見られる/見せる/見せられるという関係性が、『春琴抄』の物語にどこか通じていくような構造も本作の魅力の最たるところであったと感じます。盲目の春琴に仕える佐助の愛と献身にはどこか「視る/看る」というイメージも浮かびます。そうした原案との往来や目の前で起こる会話の応酬を重ねていく毎にやがて「他者を見つめる」といった視点や意思が自分の中に浮上してくるような感覚もとても面白かったです。いくつもの“二人組”、その会話を通して、「他者との対峙」について考えさせられる劇でもあり、時にそこに介入する第三者がいたり、全員が集まって集団となるシーンがあることにもまたコミュニケーションの複雑さや会話と対話の違いを感じさせられたりと、自ずと今の社会へと繋がっていくような体感も非常に興味深かったです。

撮影:月館森

「春琴抄」と調べると、SMのような姉弟愛、マゾヒズムの超越といった言葉が散見されます。官能の名手と呼ばれた谷崎の作家性も相まって、どこか男女の性愛の形に集約してしまっていた節が私にもありました。だけど、本作を通じて、どうもそれは安易であるかもしれないと感じました。人と人との関わりや交わりには、当事者にしかわからない愛やコミュニケーションの形というものがあって、それをカテゴライズすることは当事者以外の他者には難しい。丁寧に考え尽くされた観客への“手渡し方”に感動しつつ、同時に変容していく時間、空間、そして人間関係における“手放し方”にも驚きと発見を覚えるような観劇でした。

撮影:月館森

美術や衣装がまたPOPでキッチュで眺めているのも楽しい空間でした。北千住在住の友人に「面白い演劇やってるよ」と連絡をしたら、数日後に友人から興奮のLINEと写真が届いたのも嬉しい思い出!1年の終わりに全く新しい体験ができ、「そうだ、終わりは始まりの序章なのだなあ」などとしみじみ思ったり。
ちなみにTeXi’sの次回作『Oh so shake it!』は3月20日より北とぴあ カナリアホールにて開幕を予定。その戯曲は批評家・山﨑健太さんが編集長を務める演劇批評誌『紙背』の次号(2024年5月発売予定)にも掲載が予定されています。気になった方は是非併せてチェックしてみてくださいね(11月より発売中の号では私もコンプソンズ『愛について語るときは静かにしてくれ』の劇評をお寄せしました。戯曲と批評がたっぷり楽しめる掌サイズの一冊です。是非、バックナンバーもお楽しみを!)

2024年最初の1本は…

◎20歳の国『長い正月』
上演期間:2023/12/29〜2024/1/8
会場:こまばアゴラ劇場
【作・演出】石崎竜史
【出演】菊池夏野、Q本かよ、熊野晋也、櫻井成美、田尻祥子、埜本幸良(範宙遊泳)、藤木陽一(アナログスイッチ)、山川恭平(Peachboys)
<スタッフ>美術:坂本遼 音響:池田野歩 照明:松田桂一 舞台監督:久保田智也 宣伝美術:藤尾勘太郎 スチール:金子愛帆 マイム指導:細身慎之介(CAVA) 配信:ニュービデオシステム 制作協力:新居朋子 企画協力:佃直哉(かまどキッチン) 劇団員:古木将也、湯口光穂

撮影:金子愛帆

さて、続いては観劇初め。こちらの作品は本連載12月号でもチラシとともにご紹介したのですが、まず見ていただきたいのが上演期間。そう、ゆく年くる年をまたいでの上演。タイトルは『長い正月』。お正月期間にお正月の物語が観られること。しかも、20歳の国6年ぶりの劇場公演。こんな貴重な体験はそうないので「絶対観なくては!」と思っていました。しかし、問題はこれまたお正月ゆえに帰省とぶつかってしまっていたこと。かくいう私もお正月は子どもたちと長めに過ごすタイプなので、舞台での目撃を諦めて配信で観ようと泣く泣く決断を……するわけにはいかなかったんですね!どーうしてもアゴラで観たい。そんなこんな家族の協力の元、帰京を前倒しにして千秋楽の当日券に駆け込んだというわけです。子育て真っ只中の私は直前まで予定が確約できないことも多く、当日券にはお世話になりっぱなし。好評の噂はあちこちから聞いていたので、1時間前に並んで6番目。無事に入場することができました。こういう記録ってあんまり残らないんですよね。でも、私にとっては劇場までに辿り着く過程もまた重要なアーカイブなのです。

先に前置きをしておきますと、本作は今まさに舞台映像が絶賛配信中でございます!
配信チケット購入期限が【1/21(日)22:00】、視聴期限は【1/25(木)23:59】です。
一人でも多くの方に観ていただきたい作品なので、物語の内容については多くを語らず、重要なネタバレを避けた方法で私なりの振り返りをさせていただけたらと思います。いいや、それでも心配!だってミイ子おしゃべりやん!前情報の一切ない状態で観たいんだ!という方は一度この記事を閉じていただき、本編のリンクへ駆け込んでいただけたら。当然ですが、当日でも並ぶ必要はありません!(笑)。すぐに観られますので、ぜひ!そして、“長い正月”をお過ごしの後、帰路でこちらに再び立ち寄ってもらえたら嬉しいです。

「人生は短い。この正月は長い。」
どのくらい長いかというと100年。1923年の大晦日から2024年の元旦までに渡る歳月を100分間で定点観測する、ささやかながらも果てしのない家族大河劇なのです。
時は大正12年12月31日。東京は多摩村で神社の隣で酒屋を営む木村家では、妻のふく(菊池夏野)と夫の博(熊野晋也)、そして博の母であるトミ(Q本かよ)がお節やお蕎麦の準備をしたり、大晦日らしい忙しなくも温かな時間を過ごしています。あと1時間で年が明けるという頃合、お隣の神社は初詣が始まるこれからが年一番の繁忙期。その慌ただしさからほんの少しの間身を隠すように、博のお酒馴染みで神社の神職である克也(藤木陽一)が木村家を訪れます。さりげない会話から、その1年がどんな年であったか、誰がどんな悲しみを背負い、どんな喜びに手を取り合ったかがうかがえ、開演して数分ほどで私は木村家の人々の姿を夢中で追いかけていました。

撮影:金子愛帆

100分間で100年を描くということは、単純計算でいくと1年が1分ということになります。もちろん、劇中の年月はその進度ぴったり過ぎていくわけではないのですが、次の瞬間に1年が過ぎていたり、何年か時が経っていたりと、木村家を巡る時代は徐々に今へと近づいていきます。この体感はまさに演劇でしか叶えられないもの。行間にこそ意味があるようなシームレスな演出と俳優さんたちの繊細なお芝居が素晴らしく、1シチュエーションの美術にも関わらず、混乱することなくその経過を把握することができ、いつの間にか私も同じスピードでいくつもの年を飛び越えていました。

撮影:金子愛帆

この体感って、普段の日々や誰しもの人生においても心当たりのある感触かもしれません。たとえば、ついこの間撮ったと思っていた写真を「1年前の写真です」とスマートフォンが知らせるとき。少し前までよちよち歩きだった娘が自転車に乗って出かけてゆく後ろ姿を見送るとき。半月前に会った母の背中が突然ぐっと小さく見えたとき。そんな母の在りし日に顔に自分が似てきていると認識したとき…。私たちは時の流れのど真ん中に立ちながら、その風の速さにふと人生の短さを痛感したりします。手触りある時の中でさまざまな横顔を眺めながら、そんなことを感じたりもしました。

撮影:金子愛帆

長い歳月の中にはいくつもの新たな「出会い」があり、そして同じかそれ以上の「別れ」があります。そんな人生における忘れ難い瞬間、とりわけ“別れのとき”を伝える演出がまた素晴らしく、静かな風景と心の騒めきが滲む人々の瞳や佇まいに何度胸をふるわせたことでしょう。
そんな物語の狭間で私が思い出したのは、大好きな祖母のことでした。その最期を見送って幾年も経った今に至っても思い出すのは、失恋をして真っ白な服をマスカラ混じりの涙で汚した日に言われた「白い服は白いまま着なあかん」という言葉でした。それは遺言という類のものではなかったけれど、祖母を思い出すときはいつもその言葉が先立って私の中に落ちてきます。死という宿命によって、大切な人と繋いでいた手を離さなければいけなくなるとき、思い起こすのはいつだってさりげない出来事であったり、くだらない会話の一コマであったり、それでいて自分自身の生き方を煌々と縁取るような、そんな言葉や瞬間であったりします。演出の詳細は控えますが、そのような「一人の人が生きた軌跡」がギュッと詰まった言葉、セリフたちがこの演劇には満ちていました。

撮影:金子愛帆

物語に関することはこのくらいで留めておきますが、その代わりに素晴らしい俳優さんたちのご紹介をさせていただけたら…!素敵だなと思った俳優さんの名前ってやっぱり覚えて帰りたいものですよね。劇場だと、当日パンフレットなどで照合することができますが、配信公演ではそれが難しい。なので、ここではお顔と役柄と照らし合わせつつ、その魅力をお伝えできたらと思います。

撮影:金子愛帆

写真左から時計回りに熊野晋也さん、Q本かよさん、田尻祥子さん、山川恭平さん、藤木陽一さん、櫻井成美さん、埜本幸良さん。写真右奥にいらっしゃるのが菊池夏野さんです。

熊野さん、Q本さん、藤木さん、菊池さんの4名は何世代かに渡って描かれる物語の中で複数の役を演じられています。例えば、大正時代には父親役だったけれど、昭和時代にはその孫に当たる役を演じるといった具合に。どこか血縁を感じさせながら別の人を演じるという技術がみなさんとても堪能で、同じ人なはずなのに「おじいちゃんに似ているなあ」、「今の所作、ひいおばあちゃんの遺伝かな」なんて感触をつい覚えてしまうほど。年齢によって異なる佇まいや所作、眼差し、その場にいるときの温度感。そういった細やかなところに時の流れを痛感させられるお芝居に目を奪われました。

撮影:金子愛帆

戦争が忍び寄る混沌の時代を受けて変わりゆく父・博、息子・健太が人知れず抱いた葛藤。時代を横断しながら対照的な2役を見事好演されたのは、熊野晋也さん。博の険しい表情の中に潜む脆さには時代の厳しさを握らされるようでした。今後は、2月1日より開幕の演劇ごはん『隣のテーブルのふたり』、3月29日より開幕の青龍ノ宴『いほとせの御伽噺〜天離る鄙に立ちて~』に出演が予定されています。

100年の始まりである最年長者トミと一筋縄ではいかぬ恋に奔走した智恵。全く異なる雰囲気を抜群の説得力で演じたQ本かよさんは石川県能登半島出身の俳優さんです。江古田のガールズ、キ上の空論、果てとチークなど数々の劇団にも出演されていて、私もその都度印象的な姿に目を奪われてきました。俳優の傍ら、雑誌や広告でのコピーやデザイン、お家にまつわる文筆連載やラジオなど幅広く活躍されている多彩な俳優さんです。

藤木陽一さんはマチルダアパルトマンの前作『モニュメント』でのコミカルな存在感も記憶に新しいのですが、今回もまた快活と哀切の双方が光る役どころを見事に演じ分けられていました。シリアスもコミカルもどんとこい!といった頼もしさを感じる俳優さん。3月13日からは所属劇団であるアナログスイッチの『幸せを運ぶ男たち』が開幕予定。次はどんな役を演じられるのでしょう!

物語の始まりと終わり、時代の突端と裾野を丸く結ぶようなたおやかさで折々の風景を包み込んでいたのが菊池夏野さん。魂ごとふるえるような歌唱シーンでは、その情感がいつの間にか心の奥まで伝播して涙が止まらなかった。そんな菊池さんは新国立劇場演劇研究所の公演をはじめ、温泉ドラゴン『見上げる魚と目が合うか?』や『閃光ばなし』にも出演。ブログ「なつのっぱら」では、本作の稽古や公演の様子が写真とともに綴られていますので、ぜひ!

撮影:金子愛帆

対して、田尻さん、山川さん、櫻井さん、埜本さんの4名はおもに一つの役を以て流れる時代、重ねる歳を身体性をも駆使して体現する姿が印象的でした。無邪気な子どもが徐々に大人へ近づいていくこと、また少女の記憶を含みながら老いゆくということ。それぞれの生い立ちを背負いながらその時々における家での役割を以て存在する姿には、一人の人間が懸命に人生を生きていく喜びや苦悩が満ちていました。

登場人物の中で最も「孤独」を抱き、そして最も「一人でいること」を愛したのが田尻さん演じる寿美だったのではないでしょうか。時代の中で女性が社会においてどう見つめられてきたか。そんな接続をも感じる役どころを時に愛らしく、時に鋭利に演じられる姿が印象的でした。昨年は東京演劇道場 『ワーク・イン・プログレス/Dojo WIP』でのフレキシブルな活躍も記憶に残っています。今後の活躍が楽しみな俳優さんの一人です。

「家族」ではないところから、そして「血縁」というものを越えた立場として、木村家や自身の生い立ちを見つめ続けた春彦を演じたのは山川恭平さん。その居方によって家族の深淵を覗き込ませてくれるような存在で、観客の心の伴走者であったようにも思います。3月10日にはドリル饅頭『横浜国際レーシング場〜黄泉〜』、4月23日からは所属劇団Peachboysの最終公演『〜Peach BOOWYs LAST GIGS〜』に出演予定。

撮影:金子愛帆

木村家に嫁いだ妻・園子を演じた櫻井成美さんは座組み最年少の俳優さんですが、若き日のまっさらさはもちろん、老いた日も変わらぬ人間の愛らしさを瞳に宿らせながら人生を生きる姿に胸が熱くなりました。私が初めて櫻井さんを拝見したのは、ほりぶん『一度しか』。喜劇に発揮されたその魅力に思わず名前を調べた覚えがあります。出演映画『きまぐれ』は3 月 15 日からシモキタ - エキマエ - シネマ『K2』にて公開。こちらも楽しみ。

そんな園子の夫であり、木村家の待望の長男・勝一を演じたのが埜本幸良さん。範宙遊泳のメンバーであり、その公演をきっかけに私が観劇人生において何度も心打たれた俳優さんでもあります。家業を継承することの難しさや家を守ることの覚悟。そんな時代ならではの男性像を据えながらも、チャーミングで親しみやすい存在感でオープニングから幾度も居間の温度を上げてくれました。笑顔の奥にある涙、涙の端に滲む笑顔。人間の複雑さを繊細に紡ぐ表情がとても印象的でした。

撮影:金子愛帆

観劇から幾らか時が経った今もなお私はこの演劇の余韻が消えないまま過ごしていて、話そうと思ったらいくらでも溢れ落ちてきてしまうのですが、そのうち重要なネタバレを踏みかねないのでこの辺りにしておきたいと思います!(笑)
「大晦日」は1年の最後の日を指す言葉ですが、実は「晦日」というのは毎月あって、月の最終日を指す言葉なんですって。そう思うと、「一日(ついたち)」は何かが新しく始まる小さなお正月のようなものなのかも、なんて思ったりもします。そんな風にこれから先に続く“長い1日”を、振り返れば、1分のような速さで過ぎていく1年を、愛おしく大切に生きていきたいと思います。
それでは、今年もまた多くの素敵な演劇と出会えますように。私もみなさんもどうかHave a nice theater!!

【さいごに】
石川県能登半島で発生した地震によって元日から耐えがたい悲しみを抱えた人も多くいらっしゃいます。被災の現状は厳しく、悲しみや不安は今もなお続いています。自分のできる形で離れた場所で生きる誰かのことを思ったり、考えたり、何かをしたりしていきたい。そんな気持ちを強く握る1月です。
こちらのサイトには義援金・支援金の受付窓口がまとめられていて都度更新されるようです。
劇場における募金状況はまだ把握が追いついていませんが、新国立劇場には劇場内と情報センターに募金箱が設置されています。また、1月17日〜1月21日に上演される『初春歌舞伎公演』においては、中劇場・ホワイエで観客を対象とした募金も行われるとのことです。一人でも多くの方が、その存在がきちんとすくわれる社会であることを願って情報のご共有をさせていただきます。

連載「丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇のお話」
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丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』『リンネル』『Lala begin』などの雑誌で主にカルチャーページを担当。出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動、育児との両立を鑑みながら『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』などで執筆。近年は小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)などがある。2022年5月より1年間、『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>で劇評を更新。CoRich舞台芸術まつり!2023春審査員。

Twitter:https://twitter.com/miikixnecomi
note: https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627


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