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丘田ミイ子の【ここでしか書けない、演劇のお話】⑭ 特別ゲスト4名が登場!折田侑駿×坂本もも×半田桃子×髭野純『今年のチラシシーンを語る!』

みなさま、こんにちは。早速ですがもうこれは熱燗の季節、つまり冬です。「何を言う!11月のうちはまだ秋じゃないか!」といった異論を唱える強い勢力もこの国には存在しますが、さすがにこの連日の寒さは冬認定してよろしい!……などという季節のごあいさつ(クセ強め)で始めてきたこの連載も、今年は残すところあと2回となりました。
クリスマスにお正月、洋にも和にも世界が賑わう年末年始の到来ですが、舞台芸術の世界でもこの時期忘れてはならない大イベントがあるのをご存知ですか?
それはズバリ、年に一度のチラシの祭典「おちらしさんアワード2024」でございます!!!
その主催こそが、本連載の母体でもある『おちらしさんWEB』。いや、もっと言うと、日本中の演劇や映画や美術のチラシを一手に担い、多様なチラシ束へと仕上げるネビュラエンタープライズが主催する観客投票形式のアワードなのです。

今回は、そんな「おちらしさんアワード2024」の決戦投票に先駆けて特別企画をお届け!
折田侑駿さん(文筆家)、坂本ももさん(範宙遊泳プロデューサー/ロロ制作)、半田桃子さん(プロデューサー/制作/マネージャー)、髭野純さん(映画プロデューサー/配給)の4名をスペシャルゲストに迎え、今年のチラシシーンを振り返っていけたらと思います。しかも、なんと今回はネビュラエンタープライズで折り込みを行なった1年分のチラシの中から、みなさんの気になるチラシや思い入れのあるチラシを実際に掘り起こして選んでいただく、という濃厚&贅沢な企画。その道のプロとしてお仕事においてもそれぞれの形でチラシに携わっている、目利きの皆さまのセレクトと決め手をぜひお楽しみください!

左から、折田侑駿さん、髭野純さん、坂本ももさん、半田桃子さん

特別ゲスト4名が選ぶ、今年のお気に入りチラシをご紹介!

―お疲れ様でした!とまず言いたくなってしまうくらい、それはそれは膨大なチラシから一つ一つセレクトいただきました。まずは、みなさまの決め手を順番にお聞きできたらと思います。

折田侑駿さんのセレクト

・劇団不労社 presents FLOW series vol.3『悪態Q』(2024年8~9月/北千住 BUoYほか)
・『饗宴/SYMPOSION』(2024年7月/世田谷パブリックシアター)
・小池博史ブリッジプロジェクト-Odyssey&グロトフスキ研究所「N/KOSMOS」(2024年3月/東京芸術劇場 シアターイースト)
・東京都現代美術館「翻訳できない わたしの言葉」(2024年4~7月/東京都現代美術館)

折田 僕は今年観に行った作品から選んでみました。というのも、日頃からビジュアルを見た印象で「これは自分が好きそうかも!」とピンときた作品を観に行くことが結構多いんですよね。この4枚もまさにそうでした。舞台系は、どちらかというとフィジカルシアター的なものからセレクトしたという感じ。京都を拠点に活動する不労社の『悪態Q』はまさにこのチラシのメインビジュアルに惹かれて、HPに飛んであらすじなどの情報を得てそのまま観に行った作品でした。BUoYでの上演もすごく刺激的で心に残っています。
 
―他2枚はダンスや国際共同制作作品と、折田さんの幅広い観劇体験も伺えますね。
 
折田 『饗宴/SYMPOSION』のチラシはキャスト写真を前面に出すのではなく、地の柄にタイトルがどんと押し出されていることでかえって想像力が掻き立てられました。観劇後に見ると、一人一人のアーティストの顔や身体が蘇ってくるような…。タレントとしての固有性というよりも、その人たちのフィジカルな固有性が表れてくる作品だったので、その魅力を端的に表しているチラシだと感じました。『N/KOSMOS』は何をやるのかが全くわからない混沌としたデザインに惹かれました。でも、バランスが取れているからか、変にごちゃついた感じもしない。デザインの妙を感じる1枚だと思います。作品はやはりすごいカオスで面白かったです!
 
―演劇や映画に限らず、美術展にもよく足を運ばれている折田さんですが、そんな中から『翻訳できない わたしの言葉』を選んだ理由は?
 
折田 展示の内容全部を表現しているわけではないと思うのですが、見た後に眺めると、展示とチラシのそこはかとない繋がりを感じるんですよね。パッと見た時の言葉の打ち出し方に惹かれた1枚でした。ライターをやっているので、やはり「言葉」というものに否応なく惹かれるというか、デザイン面にテキストが大きく載っているチラシに目を奪われることが多いんですよ。演劇だと、範宙遊泳『心の声など聞こえるか』のチラシもそういった魅力に惹かれました。

坂本ももさんのセレクト

・映画美学校アクターズ・コース2023年度修了上演展『靴履く俳優』(2024年2~3月/space EDGE)
・y/n『ゲイ・モノローグ』(2024年12月/STスポット)
・果てとチーク 第八回本公演『害悪』(2024年11月/座・高円寺1)
・新国立劇場 2024/2025シーズン 演劇『ピローマン』(2024年10月/新国立劇場 小劇場)
・サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」/津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」(2024年3~7月/東京都現代美術館)

―範宙遊泳のお話も出たところで、続いて坂本さんにセレクトの決め手をお伺いできたらと思います。
 
坂本 私はチラシの印象のみで選んでみました。これから始まるものと、観ていないけど「いいデザインだな」と思ったものから5枚を選んだ感じです。『靴履く俳優』は折り込みで見かけた時から気になっていたチラシでした。出演者の名前のフォントが全部違っていて、それがすごくいいなと思って…。映画美学校による俳優フォーカスの企画なので、その趣旨を踏まえたデザインである点も素敵だなと思いました。
 
―坂本さんはチラシ裏面も念入りに見ていただいていましたが、そのあたりも決め手に?
 
坂本 そうなんです。表のデザインの魅力に加え、裏面で情報が読み取りやすいように工夫がされているものを選びました。y/n『ゲイ・モノローグ』は写真の使い方に惹かれた一枚で、裏面の情報も過不足なく載っていて…。過去公演の写真が小さく入っているのもいい。自分の関わる団体のチラシを作る時も公演写真を載せたいと思うんですけど、ここまで組み込むのって実はすごく難しいんですよね。チケット情報はシンプルにQRに飛ばして、その分他の情報を載せる。お手本のような裏面だなと感じました。キャストの橋本清さんは大学の同級生なのですが、この作品はまだ観たことがないので楽しみです!
 
―坂本さんのセレクトからは、フォント、写真、イラストなど、何を主材料にチラシをデザインするかの多様性も改めて感じました。
 
坂本 それで言うと、果てとチーク『害悪』はまさに絵の強さに惹かれた1枚でした。ビジュアルが解禁された時から気になっていたのですが、実物は紙のカットもユニークで、思わず持ち帰りました。タイトルと絵から「どんな作品なのかな?」という想像が駆り立てられるチラシ。新国立劇場の『ピローマン』は藤尾勘太郎さんによる宣伝美術。去年のKAATの『ジャズ大名』もそうだったのですが、「いいな」と思ったチラシが藤尾さんのデザインであることが結構多いんですよね。そんなことにも改めて気づきました。
 
―美術チラシの決め手は?
 
坂本 演劇のチラシに比べて、折りの工夫がされているものが多い印象を受けたのですが、その中でも一際変わったデザインのものに惹かれました。津田道子さんとサエボークさんの美術展のチラシは、ただ折ってあるのではなくて、日めくりのようにペラっと紙が一枚重ねられているんです。初めて見たデザインで、さらに2パターン作っているところもすごいなあと思いました。美術展のチラシはゴージャスなものも多く、見ていて楽しかったです。

半田桃子さんのセレクト

・京都国立近代美術館「開館60周年記念 小林正和とその時代―ファイバーアート、その向こうへ」(2024年1~3月/京都国立近代美術館)
・『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』(2024年4月/日本青年館ホール)
・テアトロコントspecial「寸劇の館」(2024年1月/ユーロライブ)
・『kikippa 笑福亭鶴瓶落語会2024』(2024年10~12月/浅草公会堂ほか)

―半田さんも美術チラシでは折りのデザインに工夫があるものを選んでくださっていましたね。
 
半田 坂本さんと同様に演劇チラシでは見ないデザインを楽しみながら、ジャケ買いのような心持ちで選びました。中でも、小林正和さんのファイバーアートのチラシは紙の折り方に応じて文字の色や配置も考え抜かれていて、立体的な設計に惹かれました。演劇だと、基本的にはA4チラシの表裏、贅沢をできてもA3二つ折りなどで考えることがほとんどなので、こういったサイズや折り方はとても新鮮。奥行きをもってチラシを考えている人のデザインに感銘を受けました。
 
―半田さんは本チラシだけでなく、仮チラシからも選んで下さっていましたね。仮チラシは演劇チラシの特徴の一つでもありますが、どのあたりに注目されたのでしょうか?
 
半田 『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の仮チラシは「仮」とは思えない衝撃の紙質とデザインでありながら、情報はすごく限られているんですよね。表に載っているのはタイトルとキャストの名前のみで作・演出の名前も載っていない。そのことによって、全貌を知りたい欲求を駆り立てられ、自ら情報を調べにいった作品。プロモーション設計としても素晴らしい1枚だと感じました。本チラシもタイトルに準じて、4バージョンあるカラーごとによって少しずつ花總まりさんが縮んでいくようにデザインが変えられていると聞いて、さらにびっくり!ここまで一貫して仮チラシから本チラシまでをこだわって作っていることに凄みを感じました。
 
―他にもコント公演や落語などバリエーション豊かなセレクトも特徴的でした。このあたりの決め手は?
 
半田 去年から不条理劇の魅力にハマって、ブルー&スカイさんの作品を積極的に観に行くようになったんです。中でも、テアトロコントspecial『寸劇の館』のチラシはA4ペラのものだけでなく、劇場では館の部分が観音開きになったデザインのチラシも配布されていて…。細やかな工夫がすごく素敵だし、テニスコートの小出圭佑さんによるイラストもインパクトがあって面白いなと思いました。『kikippa 笑福亭鶴瓶落語会2024』のチラシは一見して紙質の肌触りや絵画の情感に惹かれたのですが、よく見たら鶴瓶さんの落語会のものだったんです。それに気づいてから、鶴瓶さんが小さく描かれていることにも気づいて、感動して持ち帰ったチラシの一つでした。

髭野純さんのセレクト

・『きょんとちば vol.5-マイノリ60s-』(2024年10月/紀伊國屋ホール)
・「こまばアゴラ劇場サヨナラ公演」(2024年4~5月/こまばアゴラ劇場)
・贅沢貧乏『おわるのをまっている』(2024年12月/シアタートラム)
・『現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21』(2024年10月~2025年1月/東京都写真美術館)

―プロデューサーとして様々な映画に携わりながら、舞台にも多く足を運んでいる髭野さんも落語の公演を1枚選んでくださっていましたね。
 
髭野 『きょんとちば vol.5-マイノリ60s-』は、それこそチラシ束をきっかけに知って観に行った作品でした。落語と演劇が楽しめる公演だったので、落語をちゃんと観たことのない自分にとってもいい機会ではないかと思って…。価格が良心的なだけでなく、千葉雅子さん書き下ろしの落語など内容もすごくよかったんですよ。この観劇での4000円の価値がその後の観劇の満足度を決める基準になっているところがあるくらい(笑)。こういったタイプの公演は客層的にネットで情報を拾いにくい側面もあるので、チラシ束に感謝しています。折り込みという文化があってこそ出会えた公演でした。
 
―チラシ束が架け橋になった嬉しいエピソードです!他のチョイスの決め手は?
 
髭野 『きょんとちば vol.5-マイノリ60s-』も含めて、僕は基本的に思い出や思い入れがあるものから選びました。そんな中でも、今年5月のアゴラ劇場閉館は自分にとって大きな出来事で…。近くに住んでいることもあり、サヨナラ公演のチラシが街中に貼ってある風景も印象深く残っているんですよね。通る度に「もう終わっちゃうんだ」と寂しく感じつつ、4作品ともいずれも初見だったのですが、観に行けたことをとても嬉しく思っています。
 
―贅沢貧乏『おわるのをまっている』はこれから上演、『現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21』も展示期間中ですが、まだ見ぬ作品のチラシからはどんな印象を受けましたか?
 
髭野 山田由梨さんが大学の後輩ということもあり、贅沢貧乏の公演は以前からよく観劇していました。今回は5年ぶりの新作なので「どんな作品になるんだろう?」とすごく楽しみにしています。上演に先駆けて、公開稽古などの面白い取り組みをしている様子も印象的です。キャストのスチールではなくイラストをメインに据えたチラシからも想像力を掻き立てられましたし、あらすじを読んだ時にビジュアルとのリンクを感じるところも素敵だなと思って選びました。美術展はシンプルに開催期間中のものの中から行ってみたいものを選びました。『現在地のまなざし 日本の新進作家 vol.21』は東京都写真美術館へアレック・ソスの展示を見に行った際に、チラシを見つけました。その日は時間がなかったので、またどこかでタイミングを見て行けたらと思っています。

左から、折田侑駿さん、髭野純さん、坂本ももさん、半田桃子さん、丘田ミイ子

この1年を振り返りつつ選んでもらったチラシたち。その選択の背景にはみなさんのこれまでの経験に裏打ちされた多様な視点がありました。セレクト後、みなさんに今回の企画にご参加いただいた感想をお聞きしましたので、その様子も併せてお楽しみ下さい。今後チラシを見る視点も増えるかも?!

特別座談会―1年分のチラシを振り返ってみてー

髭野 チラシを通じて今年の観劇を改めて振り返る気持ちにもなり、とても楽しかったです!観た作品を思い返すだけでなく、「この団体の作品を観逃しちゃったから来年は観よう」とか、そういったリマインドの機会にもなった気がします。

丘田 そうですよね。私も観られなかった作品のチラシを結構残していて、何かにつけて見返したりしています。それで、「次こそは!」と心に誓うという…(笑)。坂本さんや半田さんはチラシの創作に関わることもあると思うのですが、いかがでしたか?

坂本 めちゃくちゃ勉強になりましたし、毎年やっていただきたいくらい興味深い時間でした!みなさんのセレクトから気づくこともありましたし、「こういうデザインの方法があるんだ」、「この仕掛け、真似したいな」と思うような新たな発見も多かったです。

半田 すごいわかります!みなさんのセレクトとその決め手をお聞きして、「作品の内容やコンセプトをしっかり考えた上でデザインされたチラシがこんなにたくさんあるんだな」と改めて思いましたし、選ばなかったチラシの中にも味のあるいいチラシがたくさんありました。4人の好みが結構顕著に表れたのも面白かったです!

髭野 そうですよね。個別でセレクトを見ている時はそこまで感じなかったのですが、こうして全員分のセレクトを並べると、色味や質感とかにも結構個性が出るんだなあ、と改めて思いました。
 
折田 「ジャケだけで選ぶならこれ!」というチラシそのものの強さも感じられましたし、内容も込みで振り返った時にそのデザインの魅力をより感じることもあって、宣伝美術の奥深さを感じました。
 
丘田 この膨大な量から4,5枚を決めるってすごく大変な作業なのだと痛感しつつ、みなさんがそれぞれ何を軸にセレクトするかを真剣に考えてくださっていて、その視点にも感動しました。今回は美術のチラシもあったので余計に…。

坂本 美術のチラシが演劇のチラシとは全く異なる発想で作られていることも痛感しました。予算が異なることが前提にあるとは思いつつ、普段は出会えないデザインの形にも出会えましたし、刺激的でした。
 
半田 そうですよね。立体的な造りのものが多くて、純粋に「このチラシを考えた人、すごい」と感動したりもしました。
 
丘田 折田さんは演劇のみならず映画、美術と多くの作品を見られている印象があるのですが、そのあたりを比べて何か感じるところはありましたか?
 
折田 映画だと、劇場公開が終わってもDVDや配信でアクセスができる機会があるじゃないですか。それに比べて美術展や演劇は上演や開催の期間が限られているし、とくに演劇は数日で終わってしまう作品も多いから、時間が経つうちに忘れたり、他の作品と内容が溶け合っちゃったりすることもあるんですよね。

髭野 チラシを手元に残すと思い出せることもありますね。
 
折田 だから、こうして改めてチラシを通じて振り返ることで、「ああ、この作品のここが好きだったな」と追体験する気持ちになったり、それを観た当時の自分もちょっと思い出したりもして、チラシをアーカイブしていくことってすごく豊かで大事なことだったんだなと思いました。
 
半田 普段は意識していなかったのですが、「チラシをきっかけに舞台を見にいくことって結構あるな」とも感じました。髭野さんが仰ってたみたいに、チラシで初めて情報を得ることもまだまだあるから、1枚に作品の魅力を込めることってすごく大事なことなんだなって。
 
丘田 坂本さん、半田さんはご自身が関わるカンパニーでチラシを作る時にはどんなことに重きを置いているのでしょうか?
 
半田 劇団公演の時はチラシを作る段階で台本がないことが多いので、台本執筆に先駆けて宣伝美術家さんと演出家でイメージを共有することが結構多いんですよね。その話し合いを経て、演出家がどんな作品にしたいかが見えてくることも結構あるので、大事なディスカッションの場だと思っています。

坂本 範宙遊泳は、作家の要望を受けつつ私が先行してデザイナーと方向性を決めていくことが多いですね。あがったデザインへのフィードバックをそれぞれの視点で戻す感じです。ロロは、デザイナーの佐々木俊さんが作品に合うイラストレーターを提案してくれたり、ある程度ディレクションを担っていただいているようなところがありますね。
 
半田 「こういうチラシにしたい」と絵が浮かんでいる演出家もいれば、「なんとなくこうは思っているけど、プロに任せたい」という演出家もいますし、いろんな作り方がありますよね。いずれにしても、チラシ作りは作品を作る上でも大事な時間だなと思います。
 
坂本 そうですね。こうして、全体を見渡した時もやっぱりこだわりが見えるチラシに目がいきますし、デザインだけでなく、紙質やサイズも含めて、作品の一部として活かされているチラシに惹かれる、というのはすごく感じました。

丘田 いろんなジャンルの作品が混ざり合い、多様なご意見が伺えて、演劇のライターとしてもすごく貴重な時間でした!坂本さんが仰ったように、年一企画でまた来年も開催できたら嬉しいですし、その際にはまたみなさんにご参加していただけたらとっても嬉しいです!

みなさんのお仕事チラシもご紹介!

お仕事としても様々な芸術作品に携わるみなさんがそれぞれの視点と決め手からセレクトをしてくださった、バリエーション豊かなチラシたち。観たもの、観られなかったもの、これから観られるかもしれないもの。今年の芸術シーンを彩った様々な作品に思いを馳せる素敵な時間でした。最後に、みなさんがそれぞれお仕事として携わったチラシとその思い出についてもご紹介させていただけたらと思います。

折田さんのお仕事チラシ

映画『あの娘は知らない』(2022年)
「撮影現場にも同行し、インタビューやレビューをはじめ、テキスト全般を担当しました。作品そのものも素晴らしいのですが、個人的に大好きな人々が集結した映画でもあり、思い入れの強い作品です。チラシ裏面には作品に寄せたコメントが掲載されています」

―上演に寄せられたコメント―
“井樫監督の作品にはしばしば傷ついた者たちが登場するのだが、一見、救いのない状況下に置かれているかに思えるこの人々を、彼女は「アジール(聖域・避難所)」へと誘導する。果たしてそこでは何が起こっているのだろうか──長編第三作となった『あの娘は知らない』における「アジール」は、〈夜の海〉である。”

坂本さんのお仕事チラシ

範宙遊泳『心の声など聞こえるか』(2024)
「たくさん手にするチラシの中でこの言葉に心を留めてくれる人を観客に想定して、パンチラインの台詞をそのままビジュアルに。夫婦の物語なのでいつもより少し高めの年齢層に届くように、紙チラシのみ錆色を光らせて、大人めの印象を意識しています。デザイナーの工藤北斗さんは文字組みがいつも素敵で、意思の強い言葉と心の揺らぎを線で重ねて、アジテーションになりすぎない絶妙なバランスに仕上げてくれました。初めて範宙を観に来てくれたママ友が額装してお家に飾ってくれていて、密かにちょっと泣いてしまった思い出のチラシです」

ロロ『ここは居心地がいいけど、もう行く』(2022)
「2015年から6年かけて10作品創作したいつ高シリーズの、スピンオフ的な位置付けの作品。あっち側にはキャラクターたちのかつてと少し未来が混在していて、いつ高シリーズを見届けてくれた観客の視点がこっち側という構図が、西村ツチカ(イラスト) × 佐々木俊(デザイン)おそるべし、でした…。11作品分のビジュアルはどれも奥行きがあり、空間や時間など様々な制限から比較的コンパクトに創作しなければならなかったいつ高シリーズをいろんな意味で広げてくれたと思います」

半田さんのお仕事チラシ

ゴジゲン『雲のふち』(上演中)
「11月20日より下北沢駅前劇場にて開幕した、ゴジゲン『雲のふち』のチラシです。イラストを松居の小説『またね家族』の表紙イラストを描いてくださった坂之上正久さんに、宣伝美術は本多伸二さんにお願いしました。劇中に出てくる女子高生をモチーフに、雲の数は出演者の数とリンクしていたりします」
 
『フクローじいさんとベル子ちゃん』(2025年)
「もう一つは来年の2月に上演される、目次立樹が作・演出を手掛ける『フクローじいさんとベル子ちゃん』の大阪公演チラシです。こちらのイラストは倉持智行さんにお願いしました。劇の内容に先行してチラシビジュアルを決めることが多いのですが、そのイラストのイメージが作品を先導してくれることも多々あります」

髭野さんのお仕事チラシ

映画『スミコ22』(2024)
「今年6月に公開したプロデュース作品です。デザインは東かほりさんにお願いをしました。ケーキを頬張る堀春菜さんの表情が印象的なビジュアルは、福岡佐和子監督のこだわりでチョイスされました。12月5日まで埼玉県・川口市の第8電影でも上映がされていますので、気になった方は是非!」
 
映画『走れない人の走り方』(2024)
「今年4月に公開した配給作品です。監督は台湾出身の蘇鈺淳(スー・ユチュン)さんで、話題作への出演が続く山本奈衣瑠さんの主演作でもあります。チラシのデザインは五味健太郎さん。映画制作を題材にした作品のため、機材などが写り込んだスチールを採用しました。上田映劇(長野県)と横川シネマ(広島県)でも12月公開予定です」

―ゲストプロフィール―

折田侑駿/1990年生まれ
文筆家
映画の専門媒体やパンフレットをはじめ、演劇、文学、マンガ、服飾、酒場など様々なカルチャーに関する批評やコラムを「Real Sound」や「QJ web」など各種メディアに寄稿。物語や表現に新たな眼差しを与えるレビューや俳優評を多数執筆するほか映画のアフタートークやweb番組「活弁シネマ倶楽部」にも出演。また、それぞれのカルチャーと密接な結びつきを持つ街/土地の魅力や変化を観察・考察した記事も執筆。「DOKUSOマガジン」にて、お酒と映画の関係を独自目線で語る「折田侑駿の映画とお酒の愉快なカンケイ」を連載中。

坂本もも/1988年生まれ
合同会社範宙遊泳代表・プロデューサー/ロロ制作
学生劇団から商業演劇まで幅広く制作助手や演出部などを経験したのち、2009年よりロロ、2011年より範宙遊泳に加入して、劇団運営と公演制作を務める。特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事。一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク(JPASN)理事。多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。2017年に出産し、育児と演劇の両立を模索中。

©関信行

半田桃子/1987年生まれ
プロデューサー・制作・マネージャー
慶應義塾大学中に松居大悟、目次立樹とともに劇団「ゴジゲン」を旗揚げ。大学卒業後は、システム会社の営業部のち、芸能プロダクションの舞台制作部で勤務。2020年に株式会社momocanを設立。クリエーター・俳優のマネージメントと舞台制作の二本柱で、風通しのよい環境での創作、さらに多岐に渡るジャンルの作品を幅広く世に送り出せる制作会社を目指す。

髭野純/1988年生まれ
映画プロデューサー
アニメ会社勤務を経て、インディペンデント映画の配給・宣伝業務に携わる。2020年に合同会社イハフィルムズを立ち上げ、代表を務める。プロデューサーとしてそれぞれの監督の魅力や持ち味に伴走。過去のプロデュース作品に『街の上で』(今泉力哉監督)、『春原さんのうた』(杉田協士監督)、『ほとぼりメルトサウンズ』(東かほり監督)、『夢半ば』(安楽涼監督)、『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(金子由里奈監督)などがある。

今年のチラシシーンにズームした特別企画、いかがでしたか?観劇の決め手は様々ですが、作品の名刺でもある一枚のチラシや、それらの魅力が詰まったチラシ束をきっかけに新たな舞台芸術と出会えることはとても意義深いことだと痛感しました。この企画を機に少しでもみなさんの観劇体験やその思い出がより豊かなものになると嬉しいです。それでは、今日もどこかの劇場で、チラシとの出会いとともにHave a nice theater!!!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
丘田ミイ子/2011年よりファッション誌にてライター活動をスタート。『Zipper』、『リンネル』、『Lala begin』などのファッション誌で主にカルチャーページを担当した後、出産を経た2014年より演劇の取材を本格始動。近年は『演劇最強論-ing』内レビュー連載<先月の一本>の更新を機に劇評も執筆。主な寄稿媒体は各劇団HPをはじめ、『SPICE』、『ローチケ演劇宣言!』、演劇批評誌『紙背』など。また、小説やエッセイの寄稿も行い、直近の掲載作に私小説『茶碗一杯の嘘』(『USO vol.2』収録)、エッセイ『母と雀』(文芸思潮第16回エッセイ賞優秀賞受賞作)、『人に非ず優しい夫、いい夫婦ではない私たち』(note)などがある。2023年、2024年とCoRich舞台芸術!まつり審査員を務める。

X(Twitter):https://twitter.com/miikixnecomi
note:https://note.com/miicookada_miiki/n/n22179937c627

連載「丘田ミイ子のここでしか書けない、演劇のお話」
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