MSP、ラボ公演『番外編・お気に召すまま~ロザリンド・イン・ザ・リング!~』!|明治大学シェイクスピアプロジェクト密着取材
ネビュラエンタープライズ・おちらしさんスタッフの福永です。
U25世代に向けて、舞台芸術に関する情報を発信する「ユニコ・プロジェクト(通称:ユニコ)」。
今年も「明治大学シェイクスピアプロジェクト」、通称MSPの活動を取材させていただいています。
▼前回の記事はこちら▼
今回はMSPの年間スケジュールの中でもすっかり恒例となった、「ラボ公演」についてレポートします。11月の本公演がキャパ1000人の大ホールで開催されるのに対して、ラボ公演はいわゆる小劇場での上演。それでも毎回工夫を凝らした、本公演とはまったく趣の違うステージを見ることが出来ます。今年の演目は『番外編・お気に召すまま~ロザリンド・イン・ザ・リング!~』。本公演の演目『お気に召すまま』の登場人物「ロザリンド」を主人公に、多分にアレンジをきかせたドタバタコメディ。上演時間は70分と短めですが、その内容はかなり盛りだくさんなものになっていました。
稽古場から見学させていただいたので、まずはその模様をレポートしたいと思います。
8月19日 稽古場@和泉キャンパス
この日は明治大学の和泉キャンパスにて、ラボ公演の稽古と各スタッフワークの活動を取材させてもらいました。スタッフさんたちはラボ公演・本公演どちらにも携わるので大忙しのところ、快く取材に応じてくださいました。
今年のラボ公演の演出は、4年生の内山就人さん。昨年の本公演『ハムレット』では、キャストとしてレアティーズを演じていた方です。この日の稽古のメインは、アクションシーンの振りつけでした。実は今回のラボ公演では、アクションがかなり重要な要素になっています。タイトルにある「リング」とは、プロレスの「リング」のこと。『お気に召すまま』のロザリンドは男装をして相手を欺く役なのですが、ラボ公演ではなんと男子プロレスラーに転身するのです……!
実際にアクションをされているプロの方を講師にお招きして、プロレスの試合に見せるための動きを細かくつけてもらっていました。まずは基本的な動きから入り、最終的には本番で行う立ち回りまでを丸1日かけて練習。ロザリンド役の髙星舞さんはもちろん、全キャストに少しずつアクション・殺陣のシーンがあるので、かっこよく“安全に”をテーマに、細かく、丁寧に指導をされていました。キャストは皆1・2年生なので、おそらく殺陣の経験もない人の方が多かったのでしょう。最初はとてもぎこちなく、おっかなびっくり参加している印象でしたが、少し時間をおいてから再度稽古場を見に行くと、コツを掴んできたようで、迫力のあるシーンが出来上がっていました。ここに衣装、照明が入れば、ますます魅力的なシーンになるだろうと想像できます。
また、この日は別の教室で、照明部の座学でのワークショップも行われていました。「上手・下手」「場当たり」「キュー」といった基本的な舞台用語の説明から始まり、「シュート」「あかりづくり」などの照明用語や、「フレネル」「パーライト」など灯体の種類とその性能、さらに仕込図記号に至るまで、本当に細かなレクチャーが行われました。照明は専門性の高い分野なので、やったことのない人にとってはまったくの未知の領域だと思われます。今回初めて照明部に入る人にとって、このようなワークショップはとてもありがたいだろうと感じながら見学していました。実際、私個人としてもとても勉強になりました。
さらに別フロアでは、衣裳部の皆さんが集まっていました。ちょうどこの日から本公演『お気に召すまま』の衣裳製作がスタートするようで、皆さんでその準備をしているところでした。新たに2台のミシンも購入したとのことで、ずらりとならんだミシンたちが、これから始まる怒涛の製作ラッシュを予感させるよう。すでに演出家との打ち合わせを終え、デザイン画は出来上がっています。デザインを担当している2年生の野々山未祐さんに、ちょっとだけそのデザインを見せてもらいました。野々山さんは昨年も衣裳部にいたそうで、「去年の『ハムレット』はズシンと重たい内容だったが、今回はコメディなので明るく楽しい衣裳にできそう」と嬉しそうでした。タブレットの中には、森の中で繰り広げられるストーリーに合いそうな、活発さもありながら、色彩豊かで可愛らしい衣裳デザインの数々が並んでいます。完成が楽しみです。
また、映像スチール部による衣裳部のパンフレット用の撮影も入っていて、映像スチール部のチーフ・堀口和聖さんにもお話を聞けました。いつもいろいろな場面で、記録用のスチールや動画の撮影しているチームであることは知っていましたが、カメラはすべて部員の自前とのこと。やはり元々何かしらの撮影をしていた経験がある人、カメラ好きの人が入ってくる傾向があるのだそうです。とはいえ動画の編集などは、誰でも出来ることではないので、その技術は先輩から後輩に継承していかなければならず、なかなか難しいのだと教えてくれました。
コロナ禍によって、特に学生演劇ではノウハウの継承が途絶えてしまったという話を聞いていましたが、こうやって具体的な事例を耳にすると、演劇界にとって、あの時間がどれだけ大きな影響を与えていたのか改めて考えさせられます。当たり前のように毎年、新入生がサークルに入ってきて、代々培ってきた方法で先輩から後輩に演劇のイロハを教えていくという文化が、学生演劇、ひいては演劇界の根底に強くあったこと、それがとても必要な営みであったことを改めて認識しました。まさにその渦中にいた4年生たちには、よくぞ今年まで続けてくれましたと、こちらからもお礼を言いたいくらいです。
9月5日 ラボ公演本番初日
ついにラボ公演の本番初日。開演の4時間前、お茶の水の明治大学アートスタジオでは、公演前のゲネプロに向けて着々と準備が進められていました。
14時半に集合があると聞いていたので、その少し前に到着すると、さっそくプロデューサーの阿部ひなたさんと監修の井上優先生にお出迎えいただき、ここまで順調に進んでいることを伺いました。ただし、この翌週に控えた福井公演『沙翁之明治 明治之沙翁』の準備もあるため(後日レポートします)、先生は大忙しでそちらの対応に奔走されていました。
14時半ぴったりに、キャスト・スタッフ全員が舞台に集合。この後15時から始まるゲネプロに向けて、舞台監督さんから最終確認がありました。続いて演出の内山さんからこの日の意気込みが語られ、さらに全員での気合い入れも行われました。
ゲネプロも本番さながらに、数名お客様を入れて行われるので、1・2年生は少し緊張しているように感じました。一方でさすがの上級生たちは頼もしく、このゲネでいろいろな確認をすればいいという落ち着ついた姿も見られます。
舞台は『ロザリンド・イン・ザ・リング!』のタイトル通り、リングを思わせる四角い形。昨年、一昨年と同じく、四方の客席がステージを囲むセンターステージです。
ゲネプロは制作部の予行演習にもなっているので、本番と同じように受付、場内係なども配置され、前説もしっかり行ってから、オンタイムでの開演となりました。関係者が10人弱観ているだけでしたが、それなりに緊張感は漂っており、やや重たい空気で芝居はスタート。後半になると徐々に緊張も解けてきたのか、スムーズなセリフ運びでテンポも上がってきたように感じましたが、やはりコメディなので、観客のリアクションが少ない中ではかなりやりづらかったと思います。目立ったトラブルもなく、ラストシーンまでたどり着きましたが、おそらくスタッフワークで上手くいっていなかったところもあった様子。本番までの数時間で修正が行われます。ゲネプロ後は一度、劇場を出て、開演を待つことにしました。
同日19時。いよいよ初日の本番がスタート。50席ほどの客席はほぼ満席で、観客はセンターステージに熱い視線を注いでいました。ゲネからの修正が利いたのか、あるいは観客が入ったことによるテンションアップのおかげか、ゲネよりもテンポや表情、アクションのキレ、すべてにおいて格段に良くなっていました。ここからさらにステージを重ねることで、どんどんと良い仕上がりになっていくことでしょう。この日一日だけでもメンバーの成長を目の当たりにできて、とても嬉しくなりました。
MSPの勢いは止まるところを知らず、この翌週には福井での特別公演、そして11月には本公演『お気に召すまま』が控えています。このあとも、生き生きと熱を持って芝居に打ち込む彼らの姿を、しっかりとレポートしていきたいです。
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