TATEMAEとHONNE
ウクライナにロシアが侵攻するかどうか、ウクライナ情勢が緊迫しているというニュースを連日見かける。悲しいことに、いつの時代にも争いはある。
今の暮らしからは考えられないが、100年以上前のこの時期に、日本とロシアは戦争を始めた。
凍らない港が欲しいロシアとその南下政策に危機感をもった日本。その戦地が中国の遼東半島にある旅順である。
旅順から北東40km程離れた都市、大連から6年前に来日した青年は、日本で24歳を迎えた。来日後、日本語学校で2年間、法政大学で4年間を過ごした。
そんな彼も今年の春から日本の企業で就職をする。
中国からきた兄弟。
彼の名前は、Ruihong。
呼び名は、ライコウである。韓国人の父親と中国人の母親の元に生まれて、中国/大連で育つ。
父親が日本人相手に貿易の仕事をしていたこともあり、小さい頃から家にはよく日本人が来ていたと言う。
その影響で日本に興味をもち、大学進学で日本に来ることにした。家族も息子の進学に合わせて、一緒に日本に移住することを決めた。
出会いは、私がよく通っていた高田馬場にある韓国料理屋。オーナーのヒョンの息子であり、店で働いていた。
取材できる外国人が誰かいないか聞いている時に、BAMの企画をヒョンに話したところ「それなら息子のライコウを取材したらどうだ」と紹介してもらった。BAMについては、以前の記事をご覧ください。
仲間がほしい。
腰を据えて、話を聞きたいと言うことでライコウの家にお邪魔することにした。家に入ると、リビングに飾ってあった額縁の絵が目に入った。
絵の右隅に、皮影と書いてあったが何なのか分からなかったので、ライコウに尋ねると、中国の伝統的な影絵だと言う。中国でも人気な西遊記をテーマにした影絵だ。
なぜ飾っているのか尋ねると、「日本人の友達が出来たらあげようと思って、中国のお土産を持ってきた」と言う。
しかし、来日から6年経った今も自分の部屋に飾っているということは、母国、中国を思い出す為に飾っているのかと聞いてみると「どんな困難があっても、乗り越えられる仲間がほしいという想いを込めて飾っている」と答えてくれた。
6年経った今も日本人の友達が出来ずにいるなんて、そんな寂しいことはないじゃないか。日本人の仲間がいるのかと言う質問に、彼は「それは難しい」と答え、続けざまに「日本人に距離感を感じる」と言った。
TATEMAEとHONNE
台湾や中国の友人から、「日本人は建前と本音が違うから本当はどう思っているのかよく分からない」ということをよく耳にする。イメージしにくいと思うが、直接表現ではなく、間接表現をするところだ。例を挙げると「本当は〜なのに、、」と腹の中で思いながら、やんわりと断ったりするあれとかだ。
下記の例が分かりやすい。
私たち日本人にとって当たり前になりすぎていて、気付いていないことが多いと思うが、他の国の人からしたら何を考えているか分からないように映っていることもあるみたいだ。
ライコウも同じく、直接的表現でない日本人に距離を感じてしまうと言う。
大学にいる日本人の学生たちと接して、それを感じ取ってしまい信用できずになかなか上手くいかなかったようだ。
彼が言うには「建前だけの希薄な人間関係を広げるよりも、最初から本音で話した方が早く本当の友達を見つけられる」と言う。本音は、実に効率的で生産性が高い。そんな日本人に彼は心を閉ざしているように見えた。
確かに私も本音で話した方が面倒な駆け引きとかがなくて、シンプルで好きだ。しかし、日本では建前と本音があるから摩擦が起きずに、社会で穏便に暮らせる。まさに和をもって尊しと成す文化だ。何よりも日本では行間を読むハイコンテクスト文化がベースになっている。
それを使い分けないと日本社会で生きづらいので、建前と本音を使うということもあるだろう。
日本社会で生きていく以上は、日本の建前と本音スタイルに合わせていくか、多くの人に会って、最初から本音で話せる友達を見つけていくしかない。
ライコウに日本人の友達ができて、本音で交流するうちに日本の建前と本音の文化の良さも知って、さらに日本文化の魅力に気付いていってほしい。
せっかく日本に興味をもって、来日したのに寂しい想いはしてほしくない。日本人と関わり、ライコウの世界が広がって、もっと日本を好きになってもらいたいと思う。
こういった考えの違いを知っていないと、外国人と日本人の間にあるギャップは埋まらずに、すれ違いが起きてしまう。日本人も外国人の考え方を知り、外国人も日本人の考え方を知る必要がある。ここは日本なんだからの一言で終わるのは、お互いにMOTTAINAI。
外国人の考え方を知ることで、日本人の考え方も知ることになるので、学ぶ必要があると思う。
こうした文化の違いによるすれ違いから学んで、相手の背景を考えることができる想像力をもった人が増えることが、日本をさらに良くしてくれるのではないか。
誰もが生きやすい社会に少しでも近づけるように。戦争が少しでも起きづらくなることを願っている。