なにゆえ生きる
冬、冷たく澄んだ空気が、胸の奥を満たす。
夜空の星がはっきりと見える。
景色に、幼子の頃を思い出す。
ストーブの灯油の匂い、隣家の晩飯の香り、
くしゃくしゃの毛で道路を見つめる犬。隣に腰掛ける老人。
コートや耳当て、マフラーをしている人々。
冬は、匂いだけでなく景色や生活そのものに冬特有のものが多い。
私はそれらにまつわる過去を思い出したり、他人の暮らしを想像したりしていた。
私にとって、冬を語るのに欠かせない街がある。
その街の名を、ポドールイといった。
約10年前、この街に訪れた。
就職活動を放棄した大学4年の夏の頃である。
私はWiiを起動して、ロマンシングサガ3を初めてプレイしていた。
ゲームを進めていくと、その街にたどり着いた。
「ここで暮らそう」
本気でそう思った。
正直、全体のストーリーははっきり覚えていない。
でも、ポドールイという町が美しくて、厳しくて、
とても自然で、生を実感できる街だったことははっきりと覚えている。
あれから、私の心の中心部に「ポドールイ」は在り続けている。
仕事、家族、友人、自分の周りにどんな出来事があろうと、
僕の帰る家は、アパートの一室ではなく、ポドールイなのだ。
僕は死ぬまでポドールイに住むと決めている。
美しさや正しさに夢も現実もない。
私にはこの街が合うから、ここで生きて死ぬのである。
さあ、そろそろ帰るとしよう。