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土を捲き重ねて来たる - 『真・三國無双 ORIGINS』

いわゆる『無双』シリーズについて、ナメてかかっていなかったといえば、嘘になる。

あいや、ハナッから御無礼御挨拶御免仕る。しかしこれが、俺の偽らざる感情だった。俺にとって無双シリーズは長きにわたって粗製濫造の代名詞のようなものだったのだ。

いくらなんでも多すぎる

いまは遠きPS2時代、処理落ちを引き起こしかねないほどの物量で描かれる兵士やエフェクトの多さは、それ自体がどこかおめでたかったものだ。敵がワラワラ出てきて、基本的に同じボタンを連打するだけで爽快に勝てる。山盛りの飯と唐揚げを眼の前にした体育会系中学生が感じるような、そういうジャンクでプリミティブな喜びが無双シリーズにはあった。

ω-Forceによるこのすさまじい物量攻めはゲーム内にとどまらず、無双シリーズそれ自体にも及んだ。毎年のように新作が出て、スピンオフもとどまるところを知らなかった。太古の昔には版権モノをとりあえず格ゲーにしようというけったいな時代があったわけだが、無双はある意味でそのお株を奪ったといえるかもしれない。

敵がたくさん出てきて、ボタン連打で派手に飛び散る。このフォーマットが完成されすぎていたのか、ガワを変えるだけで本当になんでも無双になった。ガンダムに、ワンピースに、北斗の拳、ベルセルク……俺の記憶が正しければ、なぜかトロイア戦争まで無双になっていた。いや嘘じゃない、『TROY無双』はマジで実在するゲームだ。

ただ、山盛りの飯と唐揚げをいつまでも喜べないように、無双に対する世間の熱も次第に冷めていった。ゲーム文化自体が成熟し、プレイヤーは増え、多様になった。さっきの『TROY無双』が出る頃には俺はすっかり無双シリーズから離れていたし、「無双っていえばボタン連打の単調でイージーなゲームっショ?」みたいなナメくさった食わず嫌いの態度が、自称ハードコアゲーマー(もちろん俺のことだ)の間で蔓延っていた。

だが、無双は捲土重来を果たした。名誉を挽回し、汚名を返上した。

2020年代も後半に入りつつある今、そうこの今になって、シリーズ最新作『真・三國無双 ORIGINS』はまさかまさかの大逆転を成し遂げたのだ。夢中になって魏ルートをクリアした今、俺は一度は返した手のひらをふたたび180°ひっくり返すことになった。このゲームのあまりの出来の良さ、気持ちよさ、思いきりのよさに打ちのめされ、度肝を抜かれてしまったからだ。

もはや認めざるをえない。今回の無双はマジで面白いと。

一騎当千

さっき述べたが、俺はだいぶ長い間無双シリーズから離れていた。ω-Forceのゲームを遊んだのは『ペルソナ5スクランブル』がおそらく最後で、正統の無双シリーズとなってはもうずいぶんご無沙汰だ。なので、シリーズ全体を概観してどうこう語れるほど詳しくない。長寿シリーズなので、こういう人はたぶん俺以外にも結構いる。

したがって、シリーズを通して『真・三國無双ORIGINS』はどこがどう良くなって……というような話を俺はできない。そういう詳しい解説がほしかったら、ぜひエクサさんのブログ記事を見てほしい。そして、早期アクセス付豪華版購入全ルートクリア&トロコン済みの強者が語るその熱量に、ちょっと引いて驚いてほしい。

とはいえ、注目すべきポイントは変わらない。エクサさんだろうが俺だろうがあなただろうが、無双ORIGINSを遊んだプレイヤーは誰であれ、まずはその異様なまでの物量的ド迫力に圧倒されることだろう。とにかく、数が多い。ケタ違いに多い。一騎当千の爽快感とは無双シリーズの代名詞でもあるが、本作ではそれがまったく比喩にならない。畑で採れるようなレベルでワラワラウジャウジャと兵士が集まり、整列し、総突撃し、そして……吹き飛んでいく!国策映画みたいな大軍勢が激突し、矢の雨が降り注ぐ!命が狂い咲き、死が舞い散っていく!

そんな戦場を颯爽と駆け抜け、一番槍をくれてやるヒロイズムったらない。

本作はオリジンズという名のとおり、無双シリーズが持つ魅力の原点オリジンに立ち帰ったのだと思う。つまり、プレイヤーを驚嘆させる「多さ」だ。そしてその多さを、プレイヤーが三国一の武勇と戦略でねじ伏せられること。名だたる武将たちにその無双ぶりを思いっきり褒めてもらえること。こうやって得られる、強烈なパワーファンタジーだ。

俺がこれまでいくつか遊んできた過去作でも「多さ」は常に挑戦されてきたのだと思うが、なんだか軸がブレているっぽいな、というのもたしかに感じるところだった。つまり、プレイアブルキャラがやたら多いとか、焼き直しのミッションがやたら多いとか、そういう多さだ。アクションゲームとしてみればこれはぶっちゃけノイズであり、別に面白くない。

いくぞてめえらハイアンドロー式突撃

この点について無双ORIGINSはいっさい妥協せず、ピュアな「多さ」を追求している。敵の数はとにかく多く、プレイヤーの手数もひたすら多く、褒め言葉もやたらめったら多く。これが今どき流行りのソウルライクならそうはいかなかったろうが、これはあくまでも無双だ。プレイヤーを強く感じさせるためならなんでも許される。なにしろ、あらゆる動作があらゆる動作でキャンセルできるくらいだ。いつでもコンボをキャンセルして、回避、ジャンプ、パリィ、武芸、無双乱舞その他諸々のアクションに繋げられる。フィニッシャーも投げから打撃から飛び道具までよりどりみどりだ。

無双でなければ許されない無法ぶりを、無双だからやる。そういう思いきりの良さが本作の隅々から感じられて清々しい。

だから、本作の戦闘中はこんなふうだ。強弱ボタンを絡めたコンボで雑兵を蹴散らしつつ、武将クラスの敵が白く光ればパリィして、赤く光れば発剄技でガードブレイク!ゲージが貯まれば武芸発動!敵武将の外功(SEKIROでいう体幹みたいなものだ)を削りきったら収撃に入り、周りの敵まとめて大ダメージ!ミクロの戦闘では、基本的にこの気持ちいいサイクルが高速で繰り返されると思っていい。ときおり挟まれる武将との一騎打ちも楽しく、このカロリー過多な戦場での味変要素としてうまく機能している。

「盾持ちはウザい」は真理だが壮観

ではマクロではどうか?守勢に入った敵が隙間なく盾を並べて、防衛陣を敷くこともある。中国映画でよく見るアレだ。そうしたらこちらは騎馬隊を突撃させて前線に穴を空けてやり、そこに突っ込んで無双乱舞!コンボと武芸で盾兵を蹴散らしつつ、頃合いになったら関羽にバトンタッチして激強武芸を好き放題連発し、絶・無双乱舞でフィニッシュ!

モノクロームに鈍化した時間のなか、カメラがグイッと広角に広がり、倒した敵が瞬時にカウントされていく。200…300…400…500…キュインキュインキュイン!飛んで飛んで1000人斬り!俺じゃなくて関羽、貴様こそ真の三國無双よ!えっまだ三国鼎立前!?次回作どうするんですか??

ボタンを連打する気持ちよさ、敵の動作に反応してカウンターする気持ちよさ、リソースをブン回す気持ちよさ。アクションゲームを形作る新旧様々な要素が渾然一体となって、プレイヤーの脳を快楽物質で焼いていく。単調になりそうな──そして実際単調になったことのある──無双の戦闘が、いまや途切れることのないド派手な攻防の応酬へと進化したのだ。長いあいだ無双シリーズと懇ろだったエクサさんが歓喜の涙を流して成仏したのも無理からんと思えるほどの、すさまじい成長ぶりだ。

個人的には、そこそこ見映えのするエリアルコンボができることに感動した。無双なのに。そう、無双なのに!

君子不器

「中華統一の歴史を影から支えてきた秘密の一族出身」という設定を持つオリキャラ主人公については、最初こそ煩わしく感じていた。おなじように思う人はきっと多いと思う。もっと筋骨隆々にできないのかとか、女主人公は選べないのかとか、見た目が若すぎるから渋めにしたいとか、女主人公は選べないのかとか、最初はそう思って当然だ。

が、クリアしてみると、このオリキャラ主人公が思っているよりずっとよくこの世界に馴染んでいたことに気づいて驚かされた。考えてみれば、三国志という大河ドラマをかぶりつきで見るうえで「歴史の影の立役者」ほどうってつけの設定もないだろう。

声色も見てくれもペルソナ5のようなこの細面のイケメンが一騎当千の強者で、勝ちを呼ぶ瑞鳥の名をとってあだ名は紫鸞しらんなんて、まあちょっとメアリー・スーが過ぎる。しかしだからこそ、コエテクはあえてここでアクセル全開で踏み込んだ。ギャルゲー/乙女ゲーで長年培った技術を総動員して、この名もなき男(デフォルトネームはなんと「無名」だ)に比類ない愛され体質を付与し、その武勇に勝るとも劣らない天下無双のモテ男に仕立て上げたのだ。

関羽は褒め言葉も強い

いや本当にモテる。ただひたすらにモテる。モテすぎちゃってごめんってくらいモテる。後の世には道教神になるあの関羽からも序盤からすさまじいアプローチをかけられるし、戦場で刃を交わした武将であろうと、街ですれ違ったら「俺はお前のこと買ってるんだぜ」なんて口説かれる。派手な奴らも地味な奴らも、彼らなりの仁徳や覇道を説き、人間臭い悩みを打ち明けてくれる。そして連戦続きの身体を癒やすべく宿屋に入れば……今度は書簡という名のラブレターがスパムメールみたいな勢いで送られまくっている!

捨てアドのメールボックスか?

ちなみに、庵にいけば怪しい策士(龐統)がいて各武将との好感度を教えてくれるのだけれど、どうやらこの好感度策士そのものにも好感度があって、攻略可能らしい。そういうのはファンディスクとかでやれ!!

……要するに、無双ORIGINSは三国一のモテ男になれるゲームなのだ。

東奔西走

エクサさんも書いていたが、もしキャラクリや性別変更ありだったら本作はうまくいかなかっただろう。単純に工数が爆増してしまうし、主人公の性別が変更できると色々とまずい人曹操も現れてしまう。CEROレーティングの安全のためにもストーリーテリングの一貫性のためにも、これはギリギリのラインを攻めた末の苦渋の決断だったのだろう。

ただ、主人公にここまでハッキリとしたバックグラウンドとモテ体質を付与するなら、もう少し喋ってくれてもいいだろうと思わんでもないし、時々挟まれる無味乾燥な二択回答もやめてほしい。いや、あの無口なミステリアスさがモテの秘訣?それができないからおまえらは駄目なんだ?それもそうかもな……

鳥海浩輔っぽいキャラを鳥海浩輔が演じている

……なんにせよ、ここには真理がある。「人にモテて悪い気がするやつはいない」という真理が。とりわけ、現実世界で鬱屈しているプレイヤー諸君(もちろん俺を含む)ならなおさらである。勝ちまくって、褒められまくって、モテまくる。こんなに嬉しいことが他にあるだろうか?

本作は戦局の趨勢を主人公の動きが決めることが多く、ただフラフラしているだけだといつのまにか大将首を取られて敗けることがちょいちょいある。すると、この褒めちぎりようにもゲームシステムに裏打ちされた理があるように思えてくる。なにしろ、北で俺が敵を食い止めている間に、南ではなんか影の薄い韓当とかいうおっさんが「おおい助けてくれえ」だの「このままだと負けちまうよお」だの泣き言を言ってきたりするのだ。仕方がないので馬を走らせて助けに向かうと、今度は東で孫堅が「まずいな」などと弱気を吐くのでまた助けに走る。忙しいったらありゃしない。

手紙もくれる韓当

時が経ち、仕える主君が変わっても、基本的にこれと同じことが続く。一見単調に思われるかもしれないが、えげつない物量を捌きまくったあとに「お前はいてほしいと思った時に颯爽と現れてくれるやつだな」などという殺し文句を天下の名将から言われてしまうと、どうにも強く出られない。おまえら俺がいないと全然ダメなんだからな〜もう〜という調子になってしまう。エースコンバットしかり、アーマードコアしかり、プレイヤーは褒められてナンボなのだ。

そしてなんと無双ORIGINSでは、董卓や袁紹といった悪役連中とすら交流を深められる。これまでの三国志ではたいてい露骨なコミックリリーフとかやられ役とかだったあいつらが、あいつらなりにスジを通して戦乱の世を生きようとしていたことが改めて描き直されるのだ。三国志をねじ曲げすぎず、なおかつ各キャラの見せ場をフェアに描くその手腕は、本作の特筆すべき点のひとつといえる。

張角も大きくリファインされた

会者定離

戦場でのベタ褒めと無数の交流イベントで絆は深まれど、時は待たない。すべてを等しく、エンディングへと運んでいく。歴史は流れ、時の権力者は倒れる。そうしてあるタイミングで、プレイヤーは仕える主君を選ばなくてはならなくなる。曹操か、孫堅か、劉備か。歴史を影から支えてきた者にとって、この決断はある種の宿命だ。

俺は曹操に仕えることを選び、なんやかんやで赤壁の戦いに至った。そして、さっき話した韓当という影の薄いおっさんを手にかけなければならなくなって初めて、俺は自分が思っているよりずっと深くこのゲームに没入していたことに気づいた。文をもらい、一緒に食事し、雑談に興じた記憶がフラッシュバックする。影も薄けりゃ毛も薄かったが、頭の回る気の良いおっさんだった。なのにああ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。

このように、本作では黄巾の乱からずっと続いた交友関係にすら、自分で終止符を打つことになる。呂布討伐をともに成し遂げた関羽兄貴も、ルートによっては自らの手で退けなければならない。それをこんなに辛いと思わせた時点で、無双ORIGINSは大成功を果たしているといえるだろう。しかも、これはあくまで分岐ありのゲームだ。クリアデータで時を遡れば、一度は袂を分かった連中と一緒に、ありえたはずの別の未来を歩むことだってできる。端的にいって、これはロマンだ。

……もちろん、そうすれば今度は別の朋友ポンヨウを敵に回すことになるのだが。

抜山蓋世

幾度となく繰り返すが、『真・三國無双 ORIGINS』は傑作だ。それも、山を抜き、世を蓋わんばかりの傑作だ。これまで無双シリーズをナメくさり距離を置いてきた不届き者の俺が手放しで褒めるのだから、客観的に見ても相当よくやっているのではないかと思う。

ようやっとる

盛るべきところは思いきりよく盛り、切るべきところはバッサリと切る。いくつもの英断のすえ、かつてプリレンダムービーで見るしかなかった理想の"無双"が、今ここに現実となった。とんでもなく迫力満点で、遊びやすさを保ちながらも適度にアクセントがあり、けっして退屈させない。そしてこれ以上はもうプレイヤーの認知能力が耐えられないというほどのボリュームを赤壁の戦いにドカーンともってきて、そこで潔く幕を引く。この語り口の鮮やかさといったら!

まさしく、捲土重来である。

……数年前、地球防衛軍が6になって帰ってきた。一昨年にはストリートファイターやアーマードコアも6になって息を吹き返し、昨年にはサイレントヒルやプリンス・オブ・ペルシャが蘇った。かつてゲーマーをときめかせ、しかし時の流れとともに翳っていったシリーズの数々が、最新の技術とノウハウによりふたたび花開きつつある。そして『真・三國無双 ORIGINS』もまた、中興の祖となりうる名作と相成った。

正直なところ、このルネサンスがいつまで続くかはわからない。かの暗黒時代が一歩先に大口を開けて待ち構えているかもしれない。だが、いまはただ、この太平の世を素直に楽しむことにしよう。


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