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雑記:プレイヤーをプレイヤー自身から守るために

ゲームを遊ぶという行為は、哀しい矛盾を抱えている。

すなわち、"プレイヤーは最適解を求める一方で、最適解はゲームを台無しにする"という矛盾だ。このテーマはある意味、ゲーマーとして避けては通れない。ゲーマーであれば誰でもこの矛盾にハマりこみ、楽しさを見失いかねないのだから。

たとえば、アクションゲームで敵を壁越しに攻撃できるバグった場所を見つけたとき。クリアだけを求めるなら、この場所に敵を誘い込んでひたすらチクチクするのが最適解となる。けれど、これが楽しいとはいえない。あるいは、推理ゲームで回答の選択肢を上から順に総当たりで選んでいくとき。いつかは答えにたどりつくが、これも当然、楽しいはずがない。

缶蹴りのようなアナログゲームでもそうだ。鬼と子がどちらも本気で勝ちを狙いだすと、お互いの安全地帯からほとんど動かない膠着状態が発生する。飽きた子供が勝手にコンビニに行くのも時間の問題だろう。

ゲームデザインという言葉は曖昧で乱雑だが、明確に期待されるものも存在する。そのひとつは"プレイヤーをプレイヤー自身から守る"ことだ。この言葉の初出はハッキリとしないが、『Civilization』シリーズの生みの親にして伝説的なゲームデザイナーのシド・マイヤーによる発言が有名だ。

プレイヤーをプレイヤー自身から守る。言い換えるとそれは、最適解を求めようとするプレイヤーの本能をあの手この手でだまくらかしたり、誘導したり、なだめすかしたりすることだ。上に掲載したGame Maker's Toolkit(GMTK)による動画を参照しつつ、プレイヤーを最適解から遠ざけるデザインについて考えてみよう。

ペナルティかインセンティブか

プレイヤーをプレイヤー自身から守る方法はいくつかある。

ひとつは、ペナルティを設けてプレイヤーを誘導すること。さっきの推理ゲームの例でいえば、回答できる回数に限りを設けて、それを超えるとゲームオーバーというのが最もわかりやすいやり方だろう。アクションゲームでいうなら、同じ攻撃を続けるとダメージが下がっていくというようなやり方が考えられる。

ゲームオーバーまでの時間制限をかけるのも古典的なペナルティだ。缶蹴りであれば門限、バスケットボールであればショットクロックがこれに当てはまる。強すぎる行為を禁止したりナーフしたりすることでゲームバランスを整えるというわけだ。

しかし、ペナルティやナーフは往々にしてやる気を削ぐ。

ステルスゲームがつまらなくなりがちなのは、しばしば"見つかったら即ゲームオーバー"という形でプレイヤーを罰してしまうからだ。『メトロイドドレッド』はまさにそのパターンで、E.M.M.I.という敵ロボットに見つかるとゲームオーバーが9割がた確定した。これはただつまらないだけでなく、タイトルに冠する恐怖ドレッドをひどく安っぽいものにしてしまっていた。恐怖とは死そのものではなく、死が迫ってくる過程にあるというのに。

ペナルティをもってプレイヤーを縛るというデザインは有効だが、大きなリスクが伴う。ステルスゲームの場合、敵に見つかってもそこから立て直してクリアできる余地を十分に残しておくべきだ。さもないと、それはいとも簡単にイライラ棒めいたクソゲーに成り下がってしまう。最適解がわかりきったクソゲーを避けた結果また別のクソゲーになるという皮肉は、あながち笑えない。

ペナルティで縛りつけるよりは、インセンティブを与えたほうがプレイヤーには喜ばれる。

たとえば、アクションゲームにコンボカウンターや評価システムを用意すると、プレイヤーは増えていく数字や上がっていく評価を求めて自然とコンボを伸ばそうとする。これなら、アウトレンジからのヒットアンドアウェイのようなダサくてつまらない──だが確実に負けない──プレイは間接的に抑止される。コンボ数に応じてダメージやスコアが上がるようなインセンティブがあれば、プレイヤーはなおさら派手に戦おうとするはずだ。

スタイリッシュさを可視化する

インセンティブで駆動する - 『FF16』

先日発売された『ファイナルファンタジー16』は美麗であるだけなく、インセンティブによるプレイの誘導がうまいゲームだった。

この作品には、HPとは別にウィルゲージというものが存在する。ウィルゲージを削りきられた敵は無防備なテイクダウン状態になり、一定時間殴り放題になる。これはFF16の戦闘における最大のインセンティブだ。ジャスト回避からのカウンター攻撃はウィルゲージを大きく削るので、プレイヤーはより早いテイクダウン≒インセンティブのためにあえて相手の間合いの中で立ち回るようになる。

また、テイクダウン中に攻撃し続けると与ダメージに最大1.5倍のプラス補正がかかる。テイクダウン状態が終わるとその間に与えたダメージの合計が画面にデカデカと表示されるので、プレイヤーはテイクダウン中に最大ダメージを与えられるコンボやスキルの構成を強く意識するようになるというわけだ。

ここで、各スキルは与ダメに優れたものとウィルゲージ削りに優れたものに分かれているというデザインが活きてくる。一度のテイクダウンで全スキルをブッぱなしてすさまじい火力を出すスキル構成と、より短いスパンで何度もテイクダウンして細かくダメージを取っていくスキル構成のどちらを選ぶかが、プレイヤーの嗜好に委ねられるからだ。派手好きな俺は前者を選んでいたが、後者には相手を封殺する楽しみがある。もちろんその両立を求めてやりこむことも可能だ。

このテイクダウンは『SEKIRO』における忍殺にも似ている──地道な攻撃を積み重ねて敵の体幹を削り、一撃必殺で解放するカタルシス。しかし、ウィルゲージと違って体幹は時間経過で回復してしまうため、プレイヤーは死の間合いで絶え間なく斬り結ぶことを余儀なくされる。それはとてつもなく濃厚なアクションゲーム体験を提供する一方で、敵の攻撃を読み切らないと勝てないというシビアさにも繋がっていた。FF16は幅広い客層にあわせて、ここのリスクリターンをマイルドにしているといっていい。

中には、フロムゲーを引き合いにしてFF16はイージーすぎるという人もいる。しかし、イージーだからつまらないというわけでもなければ難しければ面白いというわけでもないことには留意すべきだ。難易度は達成感には寄与するが、面白さには直結しない。ゲームの面白さとは達成感だけでなく、難易度や操作感や演出などをすべてひっくるめた遥かな高みにあるものだからだ。そして、プレイヤーがスタイリッシュに戦おうとするかぎり、FF16はそれに見合った面白さをもたらしてくれるアクションゲームだと俺は認識している。

ちなみに、『ゼノブレイド3』にはFF16のテイクダウンに似たシステムが"チェインアタック"として存在していたが、こちらは色々な理由が絡んでゾッとするほどつまらなかった。詳しくは過去の記事を読んでほしい。

ともあれ、プレイヤーは最適解を求めるあまりローリスクでつまらないプレイに陥りがちだ。それならば、ハイリスクなプレイこそが最適解であればいい。仮にそうでなくても、そう思わせることは重要だ。

死闘をデザインする - 『Bloodborne』

GMTKの動画でも紹介されている『Bloodborne』は、積極的なプレイへのインセンティブをとても明確にしたゲームだった。

あまりにも有名なので説明不要かもしれないが、『Bloodborne』はダークソウルシリーズの公式外伝スピンオフ的なゲームだ。敵の攻撃は苛烈で、一撃が重く、難易度は高い。特に序盤の難しさは悪名高く、ガスコイン神父の名前はそのまま"難しすぎる一面ボス"を意味するほどだ。この強敵を撃破することで得られるトロフィーの取得率は、発売から8年(⁉)経った今もなお50%を割っている。

難しすぎる一面ボス

被ダメージが大きい一方で、『Bloodborne』は回避行動──いわゆるヤーナムステップ──の無敵時間を非常に長くすることでバランスを取っている。敵の攻撃にあわせて前方にヤーナムステップすることで回避と接近を同時に行うのは反撃の起点になるだけでなく、スリリングな爽快感をも併せ持つ。強大な敵を相手にハイリスクハイリターンな戦いをしかけることが本作のセオリーであり、もっとも楽しい時間だ。

しかしながら、初見プレイヤーはどうしても被ダメの大きさにおびえて消極的にプレイしてしまうという問題がある。このゲームのボスはほとんどが巨大でおぞましい風貌をしているため、ただでさえプレイヤーの戦意は折られがちだ。実際、俺は難易度とビジュアルの二重の恐ろしさのせいでしばらくプレイを断念していたことがある。

しおれていくプレイヤーの戦意を高揚させるために用意されているのが"リゲイン"だ。

栄養ドリンクのことではない

リゲインとは、ダメージを負ってから一定時間のうちに反撃することで失ったHPを回復できるシステムだ。ディレクターの宮崎英高氏が"事後ガード"と呼ぶこのシステムのおかげで、『Bloodborne』ではソウルシリーズよりもアグレッシブな、肉を切らせて骨を断つ戦いが可能となった。回避のタイミングをミスして攻撃を食らってもそこで逃げに転じるのではなく、あえてそのまま反撃し続けることで文字通りリカバリーできるのだ。

そうしてリゲインを繰り返していくうちにプレイヤーには敵と戦う気構えができ、身体には回避のタイミングが馴染んでいく。もっともハイリスクなパリィを決めるとリゲイン可能体力をいっぺんに回復できるのも、プレイヤーの上達を促すいい仕組みだ。

ヤーナムステップとリゲインが両輪となってプレイヤーの血を滾らせ、かくして『Bloodborne』のテーマである"死闘感"をもたらす。これもまた、インセンティブでプレイヤーを衝き動かすゲームデザインといえるだろう。

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