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雑記:ローグライクは万能調味料か
承前
ローグライク。これは文字通り"Rogueのようなゲーム"を指すジャンルだが、そもそも『Rogue』はどうして生み出されたのか?ちょうどよく、つい先日ゲームジャーナリストのJini氏がローグライクについて深く論じていたので、無料部分だけでもぜひ読んでほしい。
Jini氏の記事でも書かれているように、『Rogue』が生まれたのはクリエイター自身がゲームを楽しめるようにするためだった。通常であれば、クリエイターはシナリオから敵の配置や罠の場所まですべて把握しているために、自分で作ったゲームを新鮮な気分で楽しむことはできない。しかしそれらをランダムにすることで、クリエイター自身も未知のゲームをプレイすることが可能になるというわけだ。
創り手すら楽しませられるローグライクは、プレイヤーをプレイヤー自身から守る≒最適解から遠ざけるという点においてもうってつけといえる。なにしろ、最適解そのものが毎回変わってしまうのだから。
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仮に最強の武器や戦法が決まっていたとしても、実際にそれを手に入れられるかは荒ぶる乱数の神の御心のまま。プレイヤーは運の暴虐に振り回されつつ、その時々の最善手を即興で作り上げていかなければならない。パーマデスという厳しさが、プレイヤーの意思決定に重い価値をもたらす。これこそがローグライクの醍醐味だ。
ゲームとは、一連の興味深い選択でできているものだ。
あるいはこう言い換えることもできる。ローグライクとは、最適解を求めるプレイヤーの本能にもっとも寄り添えるジャンルなのだと。実際、インディーゲーム界隈におけるローグライクの濫用っぷりを見ると、それは万能調味料じみて便利なゲームデザインのように見える。
最適解をシャッフルする - 『Slay the Spire』
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デッキ構築型ローグライクの原点にして頂点、『Slay the Spire』。これは、先に述べたローグライクの醍醐味を完璧に仕上げてみせたゲームだ。
このゲームではプレイを重ねても新しいカードがアンロックされるだけで、体力が永続的に上昇するような甘っちょろいアップグレードは存在しない。アンロックされたカードとて、単体ですべてを解決してくれたりしない。重要なのは、正しい意思決定とアドリブ力。そしてひとたびカード同士のシナジーがカチッとハマったとたん、デッキがものすごい勢いでブン回りはじめて敵を薙ぎ払うようになる。この快感といったら、人を狂わせ沼に引きずりこむには十分すぎるほどだ。
これがあまりに気持ち良すぎたせいか、『Slay the Spire』以降のローグライクは変質していった。意思決定が織りなす唯一無二の物語よりも、シナジーやハクスラの爽快さを重視する方向へと変わっていったように思える。
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そのトレンドは、『Vampire Survivors』でひとつの極致に達した。デメリットやリスクのある選択肢を削り、プレイヤーを喜ばせるインセンティブばかりを用意する。そうして雪だるま式に膨れ上がったバフでゲームがハチャメチャになるのを楽しむ、ひどくジャンキーなローグライクだ。このジャンルは現在、サバイバーズライクとして一世を風靡している。
臆病が最適解 - 『Returnal』
世は大ローグライク時代。巷にあふれるローグライクゲームの中には、あまり楽しめないものがあるのも事実だ。多くの場合、これはペナルティを厳しくしすぎていることに起因している。それに当てはまるのは、2022年の英国アカデミー賞ベストゲーム部門に選ばれたローグライクTPS『Returnal』だ。
アクションゲームとして見ると、『Returnal』の面白さは折り紙つきだ。無敵時間の長いダッシュを使って敵の弾幕をかわし、反撃を叩き込む。ゲームパッドでの操作に最適化するために照準はかなり大きく設定され、そこに敵が収まってさえいれば弾が当たるので、エイミングの精密さを気にせず立ち回りに集中できる。『DOOM』と『Enter the Gungeon』が悪魔合体したような血湧き肉躍るプレイがなめらかな60fpsで味わえる、稀有なシューターだ。
しかし、ローグライクとして見るとこのゲームはわりかしお粗末だ。
『Returnal』には"故障"というデバフが存在する。一部のアイテムや通貨は汚染されていて、取得すると主人公の着る宇宙服にランダムな故障が起きる。特定の条件下で武器ダメージを下げるようなものからダッシュのクールダウンが延びるといったものまでその内容は様々だが、たいてい致命的だ。
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ほとんどの場合、これらの故障はリスクに対してリターンが見合っていない。アクションゲームとしての操作性に影響を及ぼすものも多いため、見えている数字以上に不快感を生みやすい。そのため、本気でクリアを目指すなら故障をひたすら避けるチキンプレイが最適解となってしまうというわけだ。
ランダム性がもたらすリスクやペナルティが大きくなりすぎると、プレイヤーは当然ランダム性を抑えた安全策を取るようになる。そもそも、パーマデスの時点でプレイヤーにとっては重いリスクを背負い続けているようなものだ。『Returnal』ではソウルライクな高い難易度がのしかかるのだから、プレイヤーはますますリスクを避けるようになる。
できるかぎり安牌を取りたいというのは自然な心理──プレイヤーがヤンチャをするのはやり直しが利くときだけ──であるが、安牌こそが最適解となったとき、ローグライクは失敗する。プレイヤーを臆病にし、意思決定を試せなくなってしまうからだ。
ローグライクは万能調味料ではない
伝説的なプロゲーマーのウメハラはかつてこう言った。
ゲームに飽きたって言うんですけど、これ違うんですよ。ゲームに飽きたのではなく、成長しないことに飽きたんですよ。昨日と今日でやっていることが一緒。だからゲームがつまらないっていうことにしているんだけど、問題なのは成長していない自分。
これは格闘ゲームの上達に関する文脈だが、ゲーム全般にも同じことがいえる。最適解の発見は成長の余地をゼロにする瞬間だ。よほどの物好きでもなければ、そのゲームにはもう熱中できない。飽きてしまう。対戦ゲームならプレイヤーは互いに対策するのでそう簡単に最適解は見つからないが、シングルプレイのゲームではしばしば発生する問題だ。それをどう解決するかが、ゲームデザイナーの腕の見せどころといえる。
ローグライク……なかんずくそれが内包するランダム性は、プレイヤーをプレイヤー自身から守るうえでもっともシンプルで手軽な方法かもしれない。予算も人手も限られているインディーゲームでローグライクの存在感が大きいのは、その手軽さゆえだ。
しかしその一方で、リスクリターンのさじ加減を間違えるとそのランダム性がプレイヤーを萎縮させ、つまらないプレイへ走らせてしまう危険性もある。『Slay the Spire』がこれほど美しいバランスを持つゲームになったのは、壮絶な回数のテストプレイとフィードバックを繰り返したからだ。
ローグライクは、とりあえず入れておけばいい感じになる万能調味料ではない。プレイヤーをプレイヤー自身から守るお手軽な最適解などというものは、きっとどこにも存在しないのだろう。