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京都の夏はゲームでアツい - 『BitSummit』(1日目)

ゲーマー諸君、ゲームは好きか?答えは当然、イエスだろう。ゲームが好きでないならゲーマーではないのだから、これは愚問だと笑ってくれていい。

ではゲーマー諸君、『BitSummit』は知っているか?この答えはイエス、ノーのどちらでも構わない。だが、ゲーマーであるなら知っておいたほうがクオリティ・オブ・ゲーミング・ライフが向上するに違いない。

説明しよう。BitSummitとは、京都のみやこめっせで毎年7月に開催されるインディーゲームの見本市だ。BitSummitはなぜか祇園祭とおなじタイミングで行われるのだが、その熱量といったら、祇園祭に勝るとも劣らない。国内外からものすごい数のゲーム開発者が集まり、血と汗とピクセルの結晶をぶつけあっている。そこで出展されるゲームの質・量ともに、Summit頂上という言葉にふさわしい。

俺はこのインディーゲームの祭典を2日に渡って堪能し、無数のゲームを試遊させてもらった。その記録も兼ねて、面白かった作品を紹介していきたい。

Let's Go!!!!!! (Unwelcome School)

Anthem#9

今年の3月に吉祥寺で行われた新進気鋭のインディーゲームイベント『TOKYO INDIE GAMES SUMMIT』で遊んだときに一目惚れしたのが『Anthem#9』だ。今回BitSummitに来た目的の半分くらいはこのゲームにあるといっていいほどの、個人的大本命タイトルである。

『Anthem#9』は、ジャンルでいえば『Slay the Spire』のようなデッキ構築型ローグライトにあたる。ペルソナ5からの影響を強く感じるオシャレなUIが最初に目を惹くが、そのゲームシステムもシンプルかつ秀逸だ。

ユニークなのは、手札にランダムで配られる三色のジェムを組み合わせて攻撃などの各種スキルを発動する点、そして、ジェムの組み合わせがしりとりのように繋がる点だ。たとえば、"赤・赤"で発動するスキルと"赤・青"で発動するスキルがある場合、"赤・赤・青"とジェムを置くことで両方のスキルが発動でき、使うジェムを節約できる。うまくジェムを並べると想像よりずっと多くのスキルが発動し、ものすごい火力が出て気持ちいい。『Slay the Spire』の毒ビルドが好きなタイプにはたまらないタイプのゲームであり、俺は毒ビルドが大好きだ。

体験版ではシステムとビジュアルしか確かめられなかったので、ローグライトとしてどれほどのリプレイ性とビルド幅を持つようになるか、今から楽しみでしかたない。

Bomb Rush Cyberfunk

ボムラッシュサイバーファンク!!!!!!!!

語呂の良さのせいで毎回タイトルを叫んでしまう『Bomb Rush Cyberfunk』は、ドリキャスの傑作アクション『ジェットセットラジオ』の生まれ変わりのようなゲームだ。セガがJSRシリーズを一生塩漬けにするので、Team Reptileというスタジオがインディーゲームとしてそのソウルを甦らせた。ジェットセットラジオで最高にイカした音楽を手掛けた長沼英樹氏まで加わっているのだから、『Bomb Rush Cyberfunk』はもはや本歌取りといっていい。

トゥーン調のビジュアル、重力を華麗に無視したレールグラインド、街中を彩るグラフィティなど、本作の基本的なプレイ感覚は驚くほどにジェットセットラジオのままだ。しかし、昔よりずっと滑らかでスピード感がある。新しく追加された空中ダッシュのおかげで、プラットフォーマー足場渡りゲームとしての自由度や爽快感がさらに高まっているのだ。また、グラインドしていないときでもトリックコンボを継続できるため手を忙しくさせ続けられるのも、アクションゲーマーとしては嬉しいばかりだ。

本作の移動の楽しさは比類ないものだが、戦闘システムには少し不安が残った。試遊したかぎりでは、本作の戦闘はボタンを連打してザコを蹴散らすだけの単調なものであり、優れた移動システムとうまく連動できていないように思えたのだ。ロックオン機能がないので、空中の敵を見失ってしまったりするのもよろしくない。とはいえ戦闘が主軸のゲームではないので、さほど大きな問題ではなさそうだ。

ちなみに、BitSummitではSwitch版とSteamDeck版の両方でBomb Rush Cyberfunkを試遊したが、Switch版はフレームレートに少々難があった。SteamDeck版では60fpsでヌルヌル動く。本作の楽しさは高フレームレートでこそ輝くと思うので、ゲーミングPCがあるならSteam版をぜひオススメしたい。

幻日のヨハネ -BLAZE in the DEEPBLUE-

なんでラブライブで異世界ファンタジーをやろうと思ったんですか?

なんでラブライブでメトロイドヴァニアをやろうと思ったんですか?

……BitSummitに行っても、この疑問が解決されることは特になかった。しかし、2Dアクションの老舗インティ・クリエイツが作っているだけあって、『幻日のヨハネ』はしっかりと遊べるゲームのようだ。版権ゲーだからといって甘っちょろくするような腑抜けた態度はまったく感じられない。

ダンジョンを探索し、大斧を召喚する通常攻撃と、犬や他のアイドルを召喚する特殊攻撃で戦うのが本作の基本だ。アイドル召喚はメトロイドでいうところのスーパーミサイルやパワーボムにあたり、彼女らの能力で探索できる場所が増えていくらしい。

体験版ではアクションの手触りを確かめる程度のことしかできなかったが、『ロックマンゼロ』ほどではないにせよ、インティ・クリエイツらしいハードコアさが印象的だった。ボス戦はそれが顕著で、攻撃連打でなんとかなるようなものでは決してなかった。被ダメが割と重たいので、攻撃の予兆を見てジャンプ、攻撃範囲にあわせてしゃがみというように真面目にアクションと向き合わないとあっさりゲームオーバーしてしまうのだ。最近の2Dアクションゲームによくある無敵つきの回避行動も存在しないため、古き良き座標合わせが重要となる。

ラブライブにはほとんど思い入れはないが、このゲームはかなり"やる"。アクションゲーマーの直感とインティ・クリエイツへの信頼が、俺にそう囁いた。

BLAZBLUE ENTROPY EFFECT

なんで格ゲーでローグライト横スク作ろうと思ったんですか?

『幻日のヨハネ』のときと似たような疑問が渦巻き、やはり誰もそれに答えてはくれない。けれど、『BLAZBLUE ENTROPY EFFECT』(BBEE)はスピード感に溢れた楽しい2Dアクションゲームだった。

なんでハクメンがセンターなんだ

真面目にテキストを読んでいなかったのだが、どうやら箱型ドローンの主人公にブレイブルーのキャラが憑依し、顕現しているらしい。そして、顕現したキャラを使ってサイバーパンク世界を攻略していく。この謎めいた設定はキャラ変更に合理性を持たせるためなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない……ブレイブルーというシリーズはスマホゲーになってみたりADVになってみたりと昔からやりたい放題で、いつも理解の範疇外にある。

格ゲーが原作とはいえ、『BBEE』に格ゲー的な要素はほとんどない。昇龍拳コマンドに苦労するようなこともなく、同じボタンを連打するだけでカッコいいコンボを決めてくれる。クールタイムありの必殺技やアシストキャラも存在する。全体的な手触りとしては、『Dead Cells』の系譜にあるオーソドックスでモダンな高速2Dアクションだった。ステージクリアごとにランダムアップグレードを選んで強化していくあたりも、まったく奇をてらう様子がない。その異様な出自とは裏腹に、手堅くまとまった遊びやすいゲームになりそうだ。

ちなみに、試遊版ではなぜか原作主人公のラグナが選べなかった。主人公の割に活躍しないと格ゲー時代からもっぱらの評判だったが、さすがにそうはならんやろと笑ってしまう。

なっとるやろがい

SKY THE SCRAPER

『SKY THE SCRAPER』は楽しいお仕事ゲームと苦い現実をブレンドした、おそらく世界初の壁面清掃アクションゲームだ。

主人公のスカイは実家を飛び出して上京した若者で、時間はあるが金はない。稼がないことには家賃も払えない。家賃の支払期日を前にスカイが選んだのは、ロープ一本でビルの屋上からぶらさがって行う壁面清掃の仕事だった。

壁面清掃は出来高制で、60秒の間にどれだけ汚れを落とせるかが収入に直結する。そのため、リスクリターンの管理が重要となる。汚れを落とすには壁にふんばる必要があるが、汚れに集中しすぎてスタミナを切らすと地面へと真っ逆さまだ。また、遠くの汚れを落とすためにはロープをスイングして勢いをつけなくてはいけないが、あんまり加速しすぎるとビルの外に放り出されてしまう。

いずれにせよ、失敗した時点でその日のシフトは終了だ。治療代は給与天引きだし、ケガの治療で数日消費する。金は少しでも多く稼ぎたい一方で労災はなんとしても避けたい、このジレンマの悩ましさ!

スカイはフルタイム勤務ではないため、シフトやオフの日の過ごし方を選べる。オフの日のアクティビティ次第でステータスやアライメントが変化するらしく、試遊ではオフにゲームをしたことでかえって志が低くなっていまうようなこともあった。

この生活パートでは、洗濯カゴが適当に置かれた狭く薄暗い部屋でベッドに寝ころびながら、シルエットだけ描かれたスカイが予定を決める様子が映される。そこには、一人暮らし男性の気だるい自由が見え隠れする。ときには親からメッセージが届いて体調や将来について訊かれることもあり、他人事なのに妙に胸が苦しくなった。

壁面清掃をしているときの高揚感と、将来に向けたぼんやりとした不安のコントラスト。『VA-11 HALL-A』や『Papers, Please』を思い出させるような、労働と私生活のせめぎあい。それこそ、『SKY THE SCRAPER』をただ楽しいだけのアクションゲームに留まらせない、生々しい魅力だ。

Algolemeth

『Algolemeth』は、全自動で戦うゴーレムに行動ロジックを組んでダンジョンを攻略するRPGだ。"ガンガンいこうぜ"の時代から味方の行動を設定できるRPGはあったが、本作ではそれをさらに細かく、まるでプログラミングのように行う。

ゴーレムはデフォルトではランダムな敵に通常攻撃を行うことしかできないが、敵や宝箱からドロップする"モジュール"を画面右のボードに配置し、入出力I/Oでつなぐことで行動のロジックを変化させられる。試遊で体験できた範囲でいうと、メイジの行動に"味方の体力が半分を下回っているとき"の分岐を設定し、"体力が最も少ない味方"を対象に"回復魔法を発動"するようにできた。

このロジック設定は思わず唸ってしまうほど難しいが、そのぶん、想像どおりのアウトプットが得られたときの快感はすばらしいものだ。もっとモジュールを集めて、"ぼくのかんがえるさいきょうのAI"を作ってみたいと思わせてくれる。また、モジュールにはランダムでステータス上昇効果が付与されているので、"ステータスは高いが単純行動しかできないゴーレム"と、"ステータスはそこそこだが複雑な行動をこなすゴーレム"のどちらを取るか、といったゲーム的な取捨選択が楽しめそうだ。

個人的には、『Algolemeth』というタイトルも気に入っている。AlgorithmとGolemとEmethを組み合わせた造語。アルゴリズムという真理のまじないエメスをゴーレムにかけて戦う、このゲームのなんたるかが端的に示されたタイトルだ。

一日目、それから

BitSummitは17時に終わるので、それからは京都観光にくり出すことにした。四条の通りは宵山で大賑わいで、夕暮れの歩行者天国には人いきれがむんわりと立ち込めていた。コロナ禍で人の失せた京都を見たこともあるので、この活気を感じるだけで俺は嬉しくなってしまう。

八坂神社からまっすぐ歩き、四条大橋へ出る。殺人的な日差しがなくなったことで鴨川に這い出てきた等間隔カップルは、数が多すぎて等間隔どころか整列しそうになっていた。一緒に来た友人と川辺に座って、しばらく足を休める。昼に食べた新福菜館のラーメンが思っていたより胃に重くて、すぐに夕飯という気にはならなかった。もう若くないのよ、もう脂っ気はよしましょうよ、という話を繰り返していた。

うまいけど重いんだこれが

じっとしていても吹き出してくる汗をやっつけるべく、夕飯ではなく銭湯へ出かけることにした。いつもは四条大橋から鴨川沿いに南へ20分ほど歩いたところにある『サウナの梅湯』に行くのだけれど、祇園祭の人出のせいか客があふれかえっていたのでやむなくプランを変更。六条の細い路地にどすんと構える『白山湯』に行くことにした。

その道すがら、友人の痴話喧嘩の話を聞いた。明日別れ話をするのだ、と彼は少し気まずそうに言った。気まずくする必要などないのにと俺は思ったけれど、なぜそう思うのか自分でもよくわからなかった。その後のことは今も聞いていない。できることなら円満に終わっていてほしいのだけれど、そんなにこやかな別れ話はどこにもあるまい。

白山湯は決して広くはないものの、清潔で、混雑もしない穴場だった。シャンプーもボディソープもドライヤーも無料で使えるので、あまりの商売っ気のなさに思わず不安になってしまったほどだ。水風呂にはライオンの顔をかたどった像が設えられていて、このライオンがこんこんと水を吐き続けている。この水吐きライオンは京都にある別の銭湯でも見かけたのだが、昔の流行りかなにかなのだろうか。少し調べてみたら、京都どころか古代エジプトから続く由緒正しい意匠らしい……風呂に歴史ありだ。

風呂から上がって、京都駅に戻る。ライトアップされた京都タワーを見上げてから駅の地下街にある出汁茶漬けの店に入り、軽く夕飯を済ませた。改札で友人を見送る。彼の明日はきっと大変だろう。ニヤニヤしてゲームをするだけの自分が途端にお気楽なやつに思えてきた。

BitSummitはまだまだ遊び尽くせていない。京都の夜は魅力的だが、酷暑の中うろうろと歩いたりしたので思ったより疲労している。2日目に備えて、俺はさっさとホテルに帰ることにした。

2日目はこちら


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