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sister

窓から見えてた地球もずいぶん遠くなった。

あの日決行した。なんの変哲もないあの日だ。あたしたちはロケットに魔改造したキャンピングカーで国道を飛ばした。運転はあたし、助手席はアンタ。昨日の眠剤がまだ抜けきってなくて、ブラックのガムを出す。引っかかるたびに赤信号があたしを急かしてるみたいに感じる。暇を持て余したアンタは苦労して覚えたシェイクスピアのあの劇の長ゼリフをスラスラと暗唱する。あたしはゲラゲラ笑う。そんなもの覚えたって、舞台の上じゃなきゃなんの役にも立たない。それから宇宙へ飛び立ったあとは、ジブリ、外郎売り、コピペネタ、テンション上がって酔っ払ったDJプレイみたいに次々出てくる、あたしはそれらの全部に大爆笑した。女優がひとりで観客がひとり。なんの役にも立たないこと。おもしろすぎて涙が出た。笑いすぎて涙が出る友達なんてアンタしかいない。

あたしたちはバカなのだ。
バカみたいな相手とバカみたいな恋して、アンタの皮膚には傷が増えた。
何をやってもうまくいかない自分が大嫌いで、バカなあたしは頭が良くなる薬をバカな量飲んだ。

バカだから、どうしたいかはせめて自分で決めた。

ねえ、ウチらの病気は治らないって。
あばよ地球。たのしかった!
超わかる。涙があふれる。止まらない。わかるよ。本当にたのしかったよね。ウケる。たのしかったってかさ、苦しすぎて逆にたのしかったていうか。今までのこと、これまでのこと、涙になって体から逃げていってくれる。止まらない。止めるつもりもない。泣き顔ブスって罵倒し合うはずが、ふたりともえらい綺麗に泣いてたらしくて、言葉がなくて、笑えないや。窓の外に小さくなった地球。ただ涙があふれて止まらない。なんでこんなにさ。

でもこれがウチらの、答えなんだよ。

ロケットの燃料がもうすぐなくなる。忘れられない日になった。本当はこんな忘れられない日がもっともっと、うんとたくさんあればよかった、あたしもアンタも。
ずっと苦しかったよ。うん、今も苦しいかもね。
でも忘れられない日になったね。ありがと。本当に。めっちゃたのしかったよ。

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