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NC制作の景色 #2 「MAKING MAGAZINEのメイキング」【前編】
この夏、NEUTRAL COLORS(以下NC)はドキュメンタリームービーのような一冊の雑誌を編みあげた。名古屋の書店〈ON READING〉に併設するギャラリーにて、編集者・加藤とアートディレクター・加納が9日間滞在しながら232Pもの雑誌をリソグラフ機で刷って折って製本し、その制作過程をオープンに公開するという前人未踏な「展示」の中で。
もともとはWeb「BASIC by MOTION GALLERY」で配信していた記事(NC第4号の制作風景を追ったもの)を、紙版として印刷製本し、制作を支えてくれていたBASIC会員へのリターンとして配布予定だったこの雑誌。結果的に出来上がったモノクロの紙束から繰り広げられるのは、横浜、アムステルダム、ベルリン、製本所でのリアルな応酬、加納のアイデアの引き出し、魅力あふれる日本各地の書店主や岸田繁氏インタビューなどなど。もしかして本誌よりもある意味実用的と感じるかもしれない。もしあなたが本をつくってみたいと思っていたら、あるいは、単にリアルな話がお好きならば……。
集まって手作業で本をつくる
「場」をつくってみよう
「本当はこんな印刷とかにこだわらず、簡単につくるイメージだった」と加藤が話す通り、このようなメイキングマガジンなるものが完成するとは想像していなかったNCチーム。しかし、自らもデザインのためのリサーチに関する記事を寄稿した加納は、「オンラインで制作過程を追い、普段なら見せない裏話をWEBにアップして、紙の(本誌の)対になる見せ方をしたいと当初から考えていた」と明かす。
そのWEBでしか公開していなかった、本誌のB面のような制作秘話をまとめた雑誌をつくろうと思ったのはなぜか?その発端はNC4号「集まってつくるということ」に登場するデザイナー秋山伸氏。彼が本をつくるための「場所」をつくり、そこに集まった人たちと手作業で協業する姿勢そのものだった。
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「秋山さんはもともと建築出身ということもあってか、本ができていく過程とともに空間が変化し続ける展示はとても面白い試みでした」と加納。秋山さんとのトークイベントで京都にいた時、「第4号仕事特集の総集編」として展示してくださいとON READINGから連絡がきた。それならば、「秋山さんのような完成度は無理だけど、俺たちが考える滞在制作をやってみようか」とある意味思いつきで提案した加藤。
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すでに4号発刊イベントは各地であらゆる手法で行われ、やり切ってしまった感はあるけれど、滞在制作は最後の総まとめになるだろうし、このタイミングでMAKING MAGAZINEをつくった方がいいと結論に至る。仕事をテーマにした第4号、それをつくることがNCにとっての「仕事」。ならばその仕事のプロセスを公開する雑誌をつくることが、仕事特集のフィナーレになるというわけだ。こうしてNCは、型破りなイベント開催に向けて進んでいった。
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レム・コールハースのワークスタイルが
アイデアの根底に
黒い紙にリソグラフの白インクのみで刷られた紙の塊は、眼鏡をかけて明るいところで読まないと少々読みづらい……。この独特な存在感を放つデザインのアイデアは一体どこからきたのかと尋ねると、加納がアイデアの引き出しの一片を語ってくれた。
「建築家レム・コールハースがプロジェクトを進める際に、建築と同時にリサーチをまとめた本も出すんです。仕事と並行して、表に出ないサイド、つまりリサーチも同時に見せようとしていて、それに僕は興味を持っていて。コールハースのスタジオの名前がOMA、それに対してAMOがあり、表裏一体の活動をしていて、それがずっと念頭にあった」
さらに、NCはリソグラフ機に白インクを導入しようしていたタイミングだったと言うが、加藤曰く「加納くんの中で、黒い紙に白インクで刷ります!という感じで決定事項みたいになっていた。最初はもっとラフにつくるつもりだったのに、またもやフィジカルを求めてきた」。加藤が言う“フィジカル”とは、創刊号以来、手作業を駆使することに他ならない。その身体性がNCの特徴であるならば、サブコンテンツである MAKING MAGAZINEこそ原点に帰るべきだ。ここにもさまざまなアイデアの伏線を一つの形へ結実させる、加納の密かな構想があった。「話を聞いたときは“えっ?”って思ったけど、すぐにデザイナーの意図を理解した」
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「NC表紙を左右反転させて文字が全部逆になるアイデアや、上下反対にするみたいな仕掛けがほしいなと思って。いろいろ試している時に、Photoshopの画面で色調反転したらCMYKがRGBになって。完成した雑誌はCMYKですが、オンラインはRGB空間で行われたものなのでその並行関係を示せるかと思いました」
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モノクロの雑誌をオブジェに仕立てる
展示する予定のON READINGのギャラリーは白壁のまさにホワイト・キューブ空間だったので、本文含め全て真っ黒にしてしまうことで、雑誌そのものがオブジェのような異物感を醸し出す。その紙束を積み重ねてみれば、展示空間のなかで“映える”ーー「多分これはうまくいく」と、加納は確信を持った。
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刷り作業で使ったリソグラフの白インクドラム2本のうち、1本は横浜のNCから持ち込み、もう1本はあえて名古屋のリソグラフスタジオ 〈when press〉から借りた。「実用的に白インク2本併用した方がいいっていうのもあるのですがそれ以上に、地元のスタジオから借りたものと、自分らのインクが同じドラムに収まっているって光景自体も、協力してつくっている関係が面白いと思った」
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そう、この状況自体も、加納が意図したデザインの範疇だった。
前編はここまでにして、次回は実際の刷りや丁合、製本の風景を語ってもらおうと思う。
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Text: Rina Ishizuka
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